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3巻
3-1
第一話 執拗に現れる来訪者
いきなりの話になるけど、私――アンは異世界に転生した転生者だ。
それもただの転生じゃなく、今流行りのいわゆる幼女転生。
会社帰りに異世界転生ものの小説を買って、少し寝てから読もうと仮眠をとったら――目覚めた時には異世界で六歳くらいの幼女の姿になっていた!
さらに、私は捨て子だったらしく、フェンリルのシキに拾われて育ててもらっていたみたい。
要するに、私は異世界版狼少女みたいな境遇で育ったのだ。
そんな私は異世界転生特典なのか、不思議な力をいろいろと持っていた。
その中の一つ、イメージしたものを何でも作れる【創作魔法】というスキルでたくさんの調味料を作ってきた。
そして、そんな調味料を使って屋台を出したところ、魅惑のソースを使う屋台だと有名になってしまったのだ。
私はその力を活かして人を癒す料理を作り、ポイズンモスという魔物の毒に侵されたエルランドやシニティーの冒険者、そしてエリーザ伯爵やケミス伯爵の体力を回復させてきた。
その途中でシータ様という貴族のお友達ができたり、港町ミルドにお店を構えるドーナさんのお店を手伝ったりした。
そんな日々を過ごしていく中で、未知の食材を使って料理の腕を高めていきたい、ゆくゆくはお店を持ちたいという気持ちが強くなっていった。
そして、私はそうした気持ちから、ミルドの街の屋台フェスティバルという屋台飯のお祭りに挑戦することに。
だけどそのお祭りは、私の伯父を名乗るフリードリッヒ公爵という貴族が現れたり、突然ミリオンクラーケンというタコの魔物に会場が襲われたりと、波乱続き。
無事お祭りを終えた時にはほっと胸を撫でおろしたね。
それにしても、実は私が代々王国を守ってきた公爵家の娘――アナスタシアで、その上私の一族は聖獣を使役することができるのだと公爵に言われた時は非常に驚いた。
でも、私には公爵家にいたという記憶はない。
私はフェンリルのシキに拾われて育てられ、エルドさんと出会って屋台や旅をしているただの冒険者のアンだ。
だから、私のことをアナスタシアと呼んで、公爵家の娘として連れ戻そうとするフリードリッヒ公爵のことなんか知らない。
それで私は、屋台フェスティバルの最終審査という公の場で、公爵のもとへ戻らないと宣言した。
ずっと私のことを探していたらしいけど、これでもう追ってくることはないだろう。
そんなふうに、少しだけすっきりとした屋台フェスティバルの翌日。
「アナスタシア。街を出る準備はできたか?」
「……できてませんし、する予定もないんですけど」
私たちの宿にフリードリッヒ公爵がやってきた。
てっきり、外に出ていたエルドさんが戻ってきたのかと思い、簡単に扉を開けてしまったのが間違いだった。
だけど、港町の宿部屋の扉を開けたら公爵が立っているなんて、誰も思わないだろう。
私はそんなことを考えながら、ちらっとフリードリッヒ公爵の両隣にいる人物に目を向ける。
公爵の両隣には、使用人のような男女が一人ずつ連れられていた。
みんな高そうな服を着ており、港町の宿にいるような客層じゃない。
……なんかちょっと圧を感じるんだけど。
「ん? フリードリッヒ公爵⁉ なんでここに?」
その時、部屋の外からエルドさんの声が聞こえてきた。
私が顔を外に出すと、眉根を寄せているエルドさんがいた。
ちょうど戻ってきたみたいだ。
フリードリッヒ公爵はエルドさんにすっと片手を上げる。
「アナスタシアを連れ戻しにきただけだ。すぐに出ていくので、気遣いは無用」
「エルドさん。フリードリッヒ公爵はもうお帰りになるようですよ」
「何を言っている? アナスタシア。君も一緒に来るんだぞ」
フリードリッヒ公爵は私が変なことを言ったかのように首を傾げた。
私はそんなフリードリッヒ公爵の態度に、少し刺々しい口調になってしまう。
「行きませんよ。昨日、ちゃんとお断りしましたよね?」
「ああ。だから、こうして今日また迎えにきた」
フリードリッヒ公爵は当然のことのようにそんな言葉を口にした。
公爵は私のことを長年探していたのだという。
エルドさんも執念深い男だって言ってたけど、まさかここまでだとは思わなかった。
私はため息を漏らしてから、目を細めてフリードリッヒ公爵を見る。
「なんで私たちが泊まっている宿が分かったんですか?」
「フェンリルのような大型の獣が泊まれる宿など限られているからな。大型の使い魔の目撃情報をもとにそういった宿をしらみつぶしに探したまでだ」
「な、なるほど」
ミルドは決して小さな街ではない。
シキの情報をもとに私たちを探そうとしても、それなりに時間がかかるはずだ。
それをあの祭りのあとから、今日までの時間でやってのけるとは。
そこまで考えて、引っ掛かりを覚えた。
……この人、なんでこんなに私に執着しているんだろ?
いくら私の伯父だからと言って、普通ここまでするだろうか?
数年間も私を探し続けて、帰ることを拒否してもめげずに連れ戻そうとしてくる。
一目会って安否を確認したいくらいなら分かるけど、ここまでする気持ちが分からない。
これだけのことをするメリットが、フリードリッヒ公爵にはあるのだろうか?
もしかして……何か裏があるのかな?
私が疑いの目をフリードリッヒ公爵に向けていると、エルドさんがフリードリッヒ公爵との距離を詰めた。
「フリードリッヒ公爵。アンが戻りたくないと言っている以上、俺もアンを送り出すことはできませんよ」
エルドさんはそう言うと、腰に下げている剣の柄に軽く手を置いてフリードリッヒ公爵を睨む。
「え、エルドさん⁉」
私はエルドさんの言動に目を見開く。
同時に、フリードリッヒ公爵の隣にいた男性が、公爵を守るようにしてバッと両手を広げた。
しかし、男性はS級冒険者であるエルドさんを前にして、顔を引きつらせてしまっている。
「あ、あなた、フリードリッヒ公爵に何をするおつもりですか?」
「何もしませんよ。このまま帰ってくれればね」
エルドさんが意味ありげな笑みを向けると、男性は体をこわばらせてしまう。
え、エルドさん。公爵相手にそこまでして平気なの?
私がおっかなびっくりフリードリッヒ公爵を見ると、公爵はエルドさんに軽く片手を上げた。
「分かった。今日は一旦帰ることにしよう」
すると、フリードリッヒ公爵の前に立っていた男性が驚いて振り向いた。
「ふ、フリードリッヒ公爵? よいのですか?」
「ああ。我々がアポも取らずに突然来たんだ。エルド、失礼を詫びさせてくれ」
フリードリッヒ公爵が顔色を変えずにそう言うと、エルドさんは剣の柄から手を離した。
「いえ、帰っていただけるのなら、こちらとしては問題ありません」
それから、フリードリッヒ公爵は私を見て口を開く。
「また明日、改めてお邪魔させてもらう。アナスタシア、この街を出る準備をしておくように」
「何度も言わせないでください。私は帰りません。また明日来ても同じ答えしか返せませんよ」
「明日断られたら、また明後日来る。それだけだ」
フリードリッヒ公爵は淡々とそう言って、お連れの人たちと共に私たちの部屋をあとにした。
とても冗談を言っている感じではなかった。本当にまた明日も来るのだろう。
私はまったく話を聞かないフリードリッヒ公爵のうしろ姿を見ながら、大きくため息を吐く。
「まさか、あれだけきっぱり断っても諦めてなかったとはな。噂以上の執念だ」
エルドさんは頬を掻いて呆れた顔をしていた。
私はそんなエルドさんに頭を下げる。
「エルドさん。助けてくれて、ありがとうございます。エルドさんが来なかったら、多分、あの人もっと粘ってたと思いますから」
「気にしないでくれ。むしろ、もっと早く助けにこられたらよかったな」
エルドさんはそう言って、私の頭を撫でてくれた。
それから、何かに気づいたような声を漏らして続ける。
「そういえば、シキはどうしたんだ? あいつがいたら、フリードリッヒ公爵を宿になんて入れなそうなものだけど」
「シキですか? 夜に少し出てくるって言ってから、まだ戻ってきてないですね」
昨日の夜、屋台フェスティバルが終わったあと、シキはミリオンクラーケンの死体をしばらく観察していた。
そのあと、気になることがあるからと言って、どこかに行ってしまったのだ。
そして、もう昼すぎだというのにまだ戻ってきていない。
シキ、どこに行ったんだろ?
「しかしあの感じだと、また明日もフリードリッヒ公爵は来るよな。シキが帰ってきたら宿を変えてみるか?」
エルドさんは腕を組んで眉根を寄せていた。
「多分、宿を変えても同じな気がします。あの人、昨日の今日で私たちの宿の場所を見つけたみたいですし」
「そうだよなぁ。それこそ、誰かに俺たちを付けさせてでもいたら、簡単に居場所はばれちゃうよな」
「そうですね。そのくらいなら普通にやってきそうです」
私はエルドさんにつられるように眉根を寄せて、ため息を吐く。
それから、さっきまでフリードリッヒ公爵がいた方をじっと見て口を開く。
「エルドさん。あの人はなんで私に執着するんですかね?」
エルドさんは不思議そうに首を傾げた。
「そりゃあ、アンが姪だからじゃないのか?」
「それにしては、少し必死すぎる気がします。公爵の仕事だってあるはずなのに、あんなに私に固執するのは異常ですよ」
「……そう言われれば、そんな気がしないでもないか」
エルドさんは私の言葉を聞いて、また考え込んでいた。
本当に私に執着して何になるんだろ?
しかし、どれだけ考えてもフリードリッヒ公爵の思いは分からず、打つ手のない私たちはそのまま次の日を迎えるのだった。
そして翌日、さらに次の日と、毎日のようにフリードリッヒ公爵はやってきて、私を連れ戻そうとしてきた。
そのたびにエルドさんと戻ってきたシキと一緒に断っているのだが、フリードリッヒ公爵はまったく折れる様子がなかった。
そして、フリードリッヒ公爵からの誘いを断り続けていたある日。
公爵が来る時間に、宿の周りにいつもと違う魔力がたくさん近づいてくるのが分かった。
フェンリルとして生きてきた私は、意識してさえいればそんなことまで感じ取れるのだ。
魔力に反応したのだろう、シキがすっくと立ち上がった。
「アン。気づいているか?」
「うん。十人くらいはいるかな」
私が頷くと、シキは部屋の扉の方に歩いていく。
すると、そんなシキの動きに気づいたエルドさんが首を傾げた。
「なんだ? どうしたんだ、シキ」
「あの男の部下と思われるやつらが大勢でやってきたようだ。あの男、痺れを切らしてアンを強引に連れ帰ろうとしているのだろうな」
エルドさんはシキの言葉を聞いて、難しそうな顔をした。
「……まずいな。そうきたか」
「何を恐れることがある? 俺一人で簡単に捻り潰せる数だが」
シキはエルドさんの反応を見て、首を傾げる。
確かに、この数ならシキだけでも十分に追い払うことができるはず。
そんなに焦るほどじゃないと思うけど……。
「あっ、そういうことですか」
そこまで考えて、私たちが反撃できないことに気づく。
「アンは気づいたみたいだな。いいか、シキ。俺たちが攻撃すれば、その瞬間に首が飛ぶ可能性があるってことだ。相手は公爵家だからな」
エルドさんはそう言ってため息を漏らした。
そう。フリードリッヒ公爵は貴族。それも公爵の位を持つ上位の存在だ。
以前、エルドさんが剣の柄に手を置いた時にもヒヤッとしたが、多分あれがギリギリのライン。もし実際に戦いでもしたら、私たちはすぐさまお尋ね者になってしまうことだろう。
だから、公爵が無理やり私を連れ戻そうとしてきたら、そもそも私たちに抗う術はないのだ。
公爵もそれを分かっていて、強硬手段に出たのだろう。
十人くらいのお連れを率いてきているのは、最低限の保険といったところか。
そこまで理解したのだろう、シキがエルドさんをギロッと睨んだ。
「それならば、どうするというのだ? アンをこのまま差し出せとでも言うのか?」
「いいや。そんなことするわけがないだろ。アンが嫌がる相手にアンを渡すなんてことは、死んでもしない」
エルドさんはそう言うと、部屋の鍵を閉めて、近くにあった机などの家具を扉の前に置いていった。
突然のエルドさんの行動に首を傾げる。
「エルドさん。何をしているんですか?」
「バリケードを作ってるんだ。シキ、そこにあるベッドを入り口の前に移動してくれ」
エルドさんはそう言うと、シキと力を合わせて重そうな家具を部屋の入り口に移動させていった。
一通り家具の移動を終えると、エルドさんは窓を開け放って、私たちの方を振り向いた。
「よっし、逃げるぞ、アン。シキ」
「……え?」
私は淡々と言われた言葉を聞いて、間の抜けた声を漏らす。
シキはエルドさんの言葉を鼻で笑った。
「逃げるだと? フェンリルの俺が人間ごときに尻尾を巻けと?」
「仕方がないだろ。これがアンを守る一番の方法だ。シキがフリードリッヒ公爵に手を出せば、契約しているアンが処罰されるかもしれないんだからな」
「ぐっ」
シキは何か言い返そうとして、言葉を飲み込んだ。
そのまま静かになったのを見て、エルドさんは眉尻を下げて笑う。
「それに、俺もアンを無理やり連れていかれそうになったら、我慢できるか分からないからな。戦略的撤退ってやつだ」
「……そういうことなら、仕方あるまい」
シキはそう言って、体を伏せて私とエルドさんを見る。
「アン、エルド。俺の背中に乗れ」
「うん、分かった。ありがとうね、シキ」
私がそう言ってシキに跨ると、その後ろにエルドさんが跨った。
それと同時に、コンコンと扉がノックされた。
「アナスタシア。私だ、開けてくれないか?」
シキは扉の方をちらっと振り向いてから、すっくと体を起こして窓の方へと歩いていく。
「一気に街の外まで駆けていく。振り落とされんように、しっかりと掴まっていろ」
そう言うと、窓枠に足をかけて窓から飛び降りた。
そして、地面に着地するなり凄まじい速度で加速していく。
こうして、私たちは思いもしなかった形でミルドの街を出たのだった。
それからシキは、そのまま猛スピードで駆けていき、街がすっかり遠くなったところで私たちを下ろした。
「ふむ。ここまで来れば問題あるまい」
私とエルドさんはシキの背中から降りて、街の方角を見て目を細める。
「やっぱり、シキは速いね。もう街のかげも見えないよ」
「すごいな……ここまで一気に移動したぞ」
私たちがそんなふうに驚いていると、シキは満足げに尻尾を振っていた。
どうやら、シキも褒められるとそれなりに嬉しいらしい。
そんなことを考えていると、エルドさんがちらりと私の方を見た。
「さて、これからどうしようか。エルランドに戻るか?」
「いえ、多分エルランドの街に戻っても、そっちまであの人が追ってくるだけのような気がします」
「確かに、あれだけの執念と行動力があれば、すぐに見つかりそうだよな」
エルドさんはそう言って渋い顔をした。
このままエルランドに戻れば、数日はフリードリッヒ公爵のことを忘れて過ごせるかもしれない。
それでも、いつかは結局バレて、また追われることになる。
そうならないためにはどうすればいいか。
「あの人の目的を知っておきたいですね。それが分かれば、もしかしたら対処できるかもしれません」
なぜフリードリッヒ公爵は私にあれほど執着するのか。
その理由を知ることができれば、解決するためのヒントが得られるかもしれない。
シキとエルドさんは眉根を寄せてから口を開く。
「ふむ。聖獣の力を使って、何かをしようとしているのかもしれんな。人間の考えそうなことだ」
「聖獣の力なんてのは、どこの国も欲しがる戦力だ。それをコントロールできる力が目の前に転がっていたら、何をしてでも手にしたいとは思うかもしれない。特に、それを国から期待されているとなれば余計にな」
私は二人の言葉に頷いて、腕を組んで考える。
「聖獣、家柄、血筋……なるほど。確かに、その線が強そうですね」
私を連れ戻したら、私の力を使って何かをしようとしているってことなのかな。
それなら、絶対にフリードリッヒ公爵のもとに行ったらダメってことだよね?
でも、フリードリッヒ公爵が聖獣であるシキに反応したのって、ほんの数回だった気がする。
それこそ、私を何回も訪ねてきた時、フリードリッヒ公爵の目にはシキが映っていなかったような。
……だめだ。答えを出すには情報が足りなすぎる。
私は頭を抱えて唸ってから、大きく頷く。
「とりあえず、情報を集めたいです。私の両親と出生に何かヒントがあるかもしれないので、そこを少し調べてみたいな、と」
私には両親に関する記憶がない。
もしも、私の両親のことを深く知る人に会って話を聞くことができたら、フリードリッヒ公爵が考えていることも、少しは分かるかもしれない。
それに、何も知らない両親のことを知る、いい機会かもしれない。
私はそう考えて、エルドさんとシキに真剣なまなざしを送る。
「二人とも、私に協力してくれますか?」
すると、二人はすぐに頷いてくれた。
「もちろんだ。喜んで協力するぜ」
「ああ。アンが知りたいというのなら、いくらでも力を貸そう」
私は二人にお礼を言って、これから向かう先を話し合う。
こうして、本当の自分を知るための調査を始めることになったのだった。
第二話 新たな聖獣との出会い
「はぁ、はぁっ、うんしょっ」
僕――ペガサスのペスは、数年かけて掘り進めた穴を辿って、ようやく地上に頭を出すことができた。
それから、すっかりやせ細ってしまった胴体をその穴に通して、体全体を地上に出す。
「やったぁ、ようやく出れた。ふぅ」
そんなひとり言を漏らして、数年ぶりの地上の景色を眺める。
朝焼けの景色を見て感動していると、僕があけた穴の中から男たちの声が聞こえてきた。
「おい、あいつがいなくなってるぞ!」
「嘘だろっ! 取り逃がしたってなったら、俺たちもただじゃ済まないぞ!」
「探せ探せっ! どうせ弱ってんだから、すぐに見つかるだろ!」
僕はそんな男たちの声を聞いて、慌てて走り出す。
「やばい、早く逃げないと……って、うわっ!」
しかし、走り出してすぐに足を絡ませて転んでしまった。
噓でしょ。数年閉じ込められていただけで、こんなに力が弱っちゃうの?
僕は自分の力が想像よりも弱くなっていたことに気づき、困惑してしまった。
いや、それだけじゃないかもしれない。
僕を捕まえる時に使っていた罠も特殊なものだったし、あの男たちは聖獣の力を制御する術を持ってるのかもしれない。
そんな男たちがいるところに数年間閉じ込められていたら、力が弱るのも当然か。
それでも、男たちの声が増えていくのが分かったので、すぐに立ち上がって走り出す。
「そうだっ。アナスタシアを探さないと」
僕は走りながら集中し、あの人によく似た、アナスタシアの魔力を探す。
すると、遠くの方にあの人に似た魔力を感じた。
数年前に何とか捕捉した魔力は、ここ数年の間で驚くくらい大きなものになっていた。
多分、普通の人間の数倍以上の魔力だと思う。
「すごいっ、こんなに大きくなってるなんて! でも、なんだか魔力の波長がフェンリルとかに近いような気がするんだけど」
アナスタシアの魔力が普通の人間とは違うように感じて、首を傾げてしまう。
それでも、彼女の魔力を感じることができて、僕は喜びを隠せずにいた。
「よかった。まだちゃんと生きてくれていたんだ」
そんな言葉を漏らしながら、アナスタシアの魔力を辿って走っていく。
今、迎えにいくからね!
そう胸に誓って、弱くなった脚にぐぐっと力を入れて加速する。
気合が入ったおかげか、そのまましばらく走り続けることができた。
そして、僕を捕らえていた領主の領地から逃げだし、隣の領地の街が近づいてきた時だった。
さらに加速しようとして踏ん張ったタイミングで、足がずるっと滑ってしまった。
そして、僕はそのまま岩山から転げ落ちてしまう。
「え、うそっ! いたっ!」
体を打ち付けながら、ゴロゴロと岩山を落ちていく。
慌てて背中の翼を羽ばたかせる。だけど、しばらく使っていないせいか筋力が弱まっていて、上手く飛ぶことができない。
それでも、無理やり翼を羽ばたかせて、少しでも落下の速度を抑えようとする。
少しだけ体が浮いたと思ったんだけど、体勢を整えることはできず、結局そのまま岩山を転げ落ちていく。
数十メートルほど転がってから、勾配が緩やかになったところでなんとか止まることができた。
僕は体を傷だらけにしながらも、ぐぐっと何とか立ち上がる。
「行かないと。アナスタシアのところにっ」
そして、足を引きずりながらアナスタシアのもとへと急ぐのだった。
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