【完結】百尺の社の番人(Ancient Evil's Modern Rise)

ゆきむらちひろ

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序章

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 都市開発が進められている、とある郊外の街。そこには、空を削り取るようにして、一棟のビルが建っている。
 名を「蒼天タワー」。最新鋭の超高層オフィスビルは、眼下に広がる古い商店街や、身を寄せ合うように連なる低層住宅をミニチュアのように見下ろし、その存在を誇示していた。陽光を無遠慮に照り返すハーフミラーのガラス壁は、この古びた街に突き立てられた、あまりに新しく、あまりに場違いな楔そのもの。人間の技術の粋を凝らした、まさに百尺竿頭に一歩進まんとした建築物と言える。それと同時に、他を顧みない傲慢さの粋とも見て取れた。
 そんなビルの頂である屋上部分、地上百五十メートルの天辺は、空虚な風が吹き抜けるだけのコンクリートの広場だ。ヘリポートの白線、規則正しく並ぶ冷却塔、空を掴もうとする無数のアンテナ類。すべてが計算され尽くした無機質な空間。その一角に、このビルの合理性とはまったく相容れないものが、まるで忘れ去られたかのように鎮座していた。

 古びた、小さな社。

 大人の背丈ほどの高さしかない、簡素な木造の社である。かつてこの土地にあったものを、ただビルの屋上に移設しただけ。その姿は、周囲の最新鋭の設備の中で異様なほどの違和感を放っていた。
 風雨に晒された屋根は緑青を吹き、かつては朱塗りだったであろう柱は色褪せて、ささくれた木肌を無防備に晒している。固く閉ざされた扉の前には小さな賽銭箱が置かれ、そこが人の信仰を集めた場所であったことを辛うじて物語る。
 空調室外機が吐き出す熱風が、社の周りだけを避けるように渦を巻く。その周囲のコンクリートは、なぜかそこだけが水を打ったかのように、じっとりと黒ずんで見えた。

 不意に、吹き荒れていた風が止む。
 世界から音が消えたかのような静寂の中、みしり、と乾いた木が軋む音が響いた。
 音の源は、明らかに社だった。
 だが、固く閉ざされた扉は微動だにしていない。
 建材の収縮音か、あるいは風の悪戯か。
 再び風が吹き始め、すべてがかき消される。

 やがて陽が傾き、街が夕闇に沈み始めると、社の落とす影は奇妙な輪郭を帯びていく。
 それは、光源の位置や物の形から計算される単純な影ではなかった。
 まるでコンクリートの表面から滲み出し、自らの意思で広がっていくような、深い、深い闇。
 地の底に開いた穴が、そのまま地上に転写されたかのような、濃密な黒。

 天と地の境を歪められたこの場所で、何かが静かに呼吸を始めている。
 蒼天タワーは、まだそのことに気づかない街の灯りを、ただ冷ややかに見下ろしていた。
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