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第二章 エルダ村、楽園創造への道
16:閑話 楽園の湯けむり騒動
エルダ村に誕生した温泉「エルフの癒し湯」。僕が創造した以上に、この温泉は村人たちの生活に溶け込み、彼らの日常に欠かせない潤いとなっていた。昼間は女性たちの井戸端会議ならぬ「湯端会議」の場となり、夜は仕事終わりの男性たちが一日の疲れを癒す社交場となる。
しかし、この素晴らしい施設を創造した張本人である僕は、なぜかまだ一度もその湯を心から満喫できずにいた。
理由は単純明快。
僕の家の、ふたりの同居人のせいである。
「アルト、いつまでお仕事しているのですか? 今日こそ一緒にお風呂に入りましょう!」
「そうニャ! アル兄、いっつもお仕事ばっかり! ミミたちと遊んでくれないと、爪で引っ掻いちゃうニャ!」
僕が作業小屋で新しいゴーレムの設計図を引いていると、ルナとミミが両側から僕の腕にまとわりついてきた。ルナは頬をぷくりと膨らませながら「怒ってます」とアピールし、ミミは猫の尻尾をぱたぱたと揺らしながら僕に抗議の視線を向けている。ふたりとも、手には可愛らしい刺繍が入った湯浴み用のタオルをしっかりと握っていた。
「い、いや、僕はまだ仕事が残ってるから……」
「嘘です! ギデオン村長から聞きました。今日のアルトのお仕事はもう全部終わっていると!」
「そうニャ! ミミの鼻はごまかせないニャ! アル兄、なんだかソワソワしてる匂いがする!」
うぐっ……!
ふたりの的確な指摘に、僕は言葉に詰まらせる。
確かに、今日の仕事はもうほとんど終わっていた。僕が作業小屋に籠っていたのは、単に彼女たちからの「お誘い」を避けるための方便に過ぎなかった。
無理もないだろう? いくら彼女たちが家族同然の存在だとはいえ、僕はまだうら若き(?)十八歳の青年だ。ルナのような絶世の美少女エルフと、ミミのような愛くるしい猫獣人の少女と、一緒にお風呂に入るなどという、そんな刺激的なイベントに耐えられるほどの精神力は持ち合わせていない。
そもそも、この世界の風習として、家族や親しい友人同士での混浴はそれほど珍しいことではないらしい。特に、この村のように開放的なコミュニティでは尚更だ。村の子供たちなどは、男女関係なく、毎日一緒にお風呂で大はしゃぎしている。
しかし、僕の感覚は、そうした大らかな文化にまだ追いついていなかった。
僕は孤児院出身ということもあって、あまり入浴の習慣を得ることなく成長してしまった。勇者パーティーの一員になってからも、遠出やダンジョンへ潜るばかりの生活をしていた。そのせいもあって、温泉というものに興味を持ったというのもあったんだけど。
「アルト、何をそんなに恥ずかしがることがあるのですか? 私たちは家族でしょう? あなたの背中を、私が流して差し上げますから」
「そうニャ! ミミが、アル兄の髪の毛、ふかふかにしてあげるニャ!」
ルナが、上目遣いに僕の顔を覗き込む。その翡翠の瞳は、悪戯っぽくキラキラと輝いていた。
ミミも、僕の膝の上にぴょんと飛び乗ると、猫のように喉をゴロゴロと鳴らしながら、僕の胸にすり寄ってきた。
甘え上手なふたりの、完璧なコンビネーション攻撃。
僕のちっぽけな抵抗など、あってないようなものだった。
「わ、分かった! 分かったから! 入る! 入るから、ふたりとも少し離れてくれ!」
僕が白旗を揚げると、ふたりは「やったー!」「やったニャ!」と、子供のようにはしゃぐ。その勢いのまま、僕の手を引いて作業小屋から連れ出した。
その背後で、工房の窓から僕たちの様子を眺めていたギドさんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているのが見えた。あの頑固ドワーフめ、後で覚えてろよ……!
◇ ◇ ◇
こうして、僕は半ば無理やりルナとミミに連れ出され。夕暮れ時の「エルフの癒し湯」にお邪魔することになった。
「はぁ……。やっぱり、ここのお風呂は最高ですね!」
「ふかふかのお湯ニャー!」
湯船に浸かった瞬間、ルナとミミは幸せそうな声を上げた。
夕日に照らされた湯けむりが、幻想的な雰囲気を醸し出している。エメラルドグリーンのお湯は、肌に心地よく、身体の芯からじんわりと温めてくれる。
素晴らしいロケーションだ。素晴らしいお湯だ。
……もし、僕がひとりで入っていれば、の話だが。
僕の目の前では、ルナとミミが、きゃっきゃうふふと、お湯をかけ合ってはしゃいでいる。湯浴み着代わりの簡素な布をまとっているとはいえ、水に濡れたその姿は普段よりもずっと……その、なんというか、目のやり場に困るものがあった。
ルナの、透き通るような白い肌と、しなやかな身体のライン。
ミミの、子猫のように健康的で、無防備な姿。
僕は煩悩を振り払うかのように、ぶんぶんと頭を振る。そしてそっと湯船の隅で膝を抱えながら座り、できるだけ彼女たちから視線を逸らした。
そんな僕の態度が、面白くなかったのだろう。
ルナが、悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕の隣にぬるりと移動してきた。
「アルト、どうしてそんなに隅っこにいるのですか? もっとこちらへ来てください」
「い、いや、僕はここで……」
「遠慮なさらずに」
ルナはそう言うと、僕の背後に回り込む。
そして、その柔らかな身体を僕の背中にぴたりと密着させた。
「ひゃっ!?」
僕は思わず、カエルのような情けない声を上げてしまった。
背中に感じる、信じられないほど柔らかく、温かい感触。
耳元で聞こえる、ルナの甘い吐息。
僕の心臓は、今にも破裂しそうなほど激しく鼓動を始めた。
「アルトの背中、意外とたくましいのですね。毎日、私たちのために頑張ってくれている証拠ですわ」
ルナは、僕の背中を優しく撫でながら囁いた。
待って、耳がこそばゆい。
「さあ、力を抜いて。私が、日頃の疲れを癒やして差し上げます」
彼女は石鹸を泡立てた布で、僕の背中をゆっくりと、そして丁寧に洗い始めた。
その指先が触れるたびに、僕の背中に電気が走る。
これは、拷問か何かだろうか。
身体の疲れは癒やされていくが、代わりに僕の精神が別の意味で限界を迎えようとしている。
「ずるいニャ、ルナ姉! ミミもアル兄の背中、洗う!」
僕の身体を洗う攻防戦(?)に、ミミも参戦してきた。彼女は、僕の隣にぴたりとくっつくと、小さな手で一生懸命、僕の腕を洗い始める。
「アル兄の腕、ゴツゴツしてるニャー。ギド爺みたいだニャ」
「だ、誰がドワーフみたいだ!」
僕は、美少女と愛らしい獣人少女にまとわりつかれ、文字通り、身動きが取れない状態になってしまった。
湯けむりの向こうで、湯治に来ていたギデオン村長たちが、僕たちの様子を、実に温かい、孫の恋路を見守るような目で見ている。それがまた羞恥心に拍車をかける。
やがて、彼女たちによる身体洗いタイムが終わる。
これでようやく解放されるかと思いきや。
「次は、髪ですね」
「ミミがやるニャ!」
今度は、僕の髪がふたりの標的となった。
ルナのしなやかな指が、僕の髪を優しく梳き。
ミミの小さな手が、わしゃわしゃと泡を立てる。
ふたりの共同作業は、とても心地よかった。
でもそれと同時に、僕の頭上と耳元で繰り広げられる彼女たちの楽しそうな会話が、僕の理性を少しずつ削り取っていく。
「アルトの髪、思ったより柔らかいのですね」
「うん! ふわふわしてて、気持ちいいニャ!」
「あら、ミミちゃん。そこはもっと、指の腹で優しく洗わないと」
「こうかニャ? ……あ、アル兄の耳、ちょっとだけ尖ってるニャ!」
「本当ですわ。もしかしたら、アルトのご先祖様には、エルフの血が少しだけ混じっているのかもしれませんね」
そんな、くすぐったい会話を聞かされながら、僕はされるがままになっていた。
もう、どうにでもなれ。
僕は、完全に思考を放棄し、目の前の快楽……いや、状況に身を委ねることにした。
ようやく全身を洗い終え、僕たちは再び露天風呂の湯船に浸かる。肩までたっぷりと身を沈めて、身体を包み込むようなお湯の感触に、思わず声が漏れてしまう。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように、静かで穏やかな時間が流れる。
空には、満天の星が瞬き始めていた。
「……きれい」
「うん、きれいだニャ」
ルナが、うっとりとした声で呟いた。
ミミも、僕の腕に寄りかかりながら、小さな声で同意する。
僕たちの間には、言葉はなかった。
ただ、同じ湯に浸かり、同じ星空を見上げる。
それだけで、心が通じ合っているような、不思議な一体感があった。
ああ、こういうのも、悪くないな。
僕は、ようやく心から、そう思えるようになっていた。
追放されたあの日、僕はひとりだった。
この世界に、僕の居場所など何処にもないのだと、絶望していた。
でも、今は違う。
僕の隣には、僕が心から信頼し、慕ってくれる、かけがえのない家族がいる。
この温かいお湯のように、僕の心をじんわりと癒やしてくれる大切な存在が。
「アルト」
不意に、ルナが僕の名前を呼んだ。
「ん?」
「……ありがとうございます」
「え?」
「この村に、こんなに素敵な場所を作ってくれて。そして……私を、この村に連れてきてくれて」
彼女は、星空を見上げたまま、そう言った。
その声は、少しだけ震えているように聞こえた。
「私は、50年間、ずっとひとりでした。でも、今は違います。アルトがいて、ミミちゃんがいて、村の皆さんがいる。私には、新しい家族ができました。……毎日が、本当に幸せです」
その言葉に、僕の胸は、きゅっと締め付けられた。
僕の方こそ、ありがとうと言いたい。
君たちがいてくれるから、僕は、僕でいられるのだと。
「……わたしも! ミミも、今、すっごく幸せだニャ!」
ミミが、僕の腕の中で、元気よく宣言した。
「アルト兄とルナ姉がいて、毎日美味しいご飯が食べられて、夜はふかふかのお布団で眠れる! ここは、天国だニャ!」
ふたりの真っ直ぐな言葉に、胸がいっぱいになっていく、
僕は照れ隠しで、彼女たちの頭を、わしゃわしゃと撫でた。
「……僕もだよ。君たちがいてくれて、本当によかった」
僕たちはしばらくの間、そうして寄り添いながら、星空を眺めていた。
それは、僕の人生で最も温かく、そして、最も幸せな時間だったかもしれない。
温泉から上がった後、僕たちは湯小屋の前の縁側で「聖水フルーツ・オレ」を飲んで涼んでいた。僕が、聖水と村で採れた果物を錬金術でミックスして作った、特製の飲み物だ。村のみんなにも大人気で、温泉から上がった後の定番となっている。
「はぁ……おいしい……」
「甘くて、身体に染み渡るニャ!」
満足そうなふたりを見て、僕も自然と笑みがこぼれる。
今日の湯けむり騒動は、僕の精神にとっては試練以外の何物でもなかった。でも結果的には、僕たちの絆を、また少しだけ深めてくれたような気がした。
この穏やかで、幸せな日常。
絶対に、僕が守り抜いてみせる。
僕は、夜空に輝く一番星に、そう固く誓った。
「さて、と」
僕は、空になった瓶を置くと、立ち上がる。
「明日も、やることがたくさんある。そろそろ、僕たちの『楽園』を、次のステージに進める時だ」
僕の言葉に、ルナとミミは顔を見合わせると、力強く頷いた。
僕たちの楽園創造は、まだ始まったばかりだ。
どんな困難が待ち受けていようとも、負けたりしない。
この仲間たちと一緒なら、きっと乗り越えていける。
僕は、ふたりと共に、温かい我が家へと続く、月明かりの道を歩き始めた。
その足取りは、いつになく軽く、そして力強かった。
-つづく-
次回、第17話。「ざまぁのはじまり」。
一方その頃、アルトを追放した勇者パーティーはというと。
ブックマークや「いいね」での評価、感想などいただけると励みになります。
応援のほど、よろしくお願いします。
しかし、この素晴らしい施設を創造した張本人である僕は、なぜかまだ一度もその湯を心から満喫できずにいた。
理由は単純明快。
僕の家の、ふたりの同居人のせいである。
「アルト、いつまでお仕事しているのですか? 今日こそ一緒にお風呂に入りましょう!」
「そうニャ! アル兄、いっつもお仕事ばっかり! ミミたちと遊んでくれないと、爪で引っ掻いちゃうニャ!」
僕が作業小屋で新しいゴーレムの設計図を引いていると、ルナとミミが両側から僕の腕にまとわりついてきた。ルナは頬をぷくりと膨らませながら「怒ってます」とアピールし、ミミは猫の尻尾をぱたぱたと揺らしながら僕に抗議の視線を向けている。ふたりとも、手には可愛らしい刺繍が入った湯浴み用のタオルをしっかりと握っていた。
「い、いや、僕はまだ仕事が残ってるから……」
「嘘です! ギデオン村長から聞きました。今日のアルトのお仕事はもう全部終わっていると!」
「そうニャ! ミミの鼻はごまかせないニャ! アル兄、なんだかソワソワしてる匂いがする!」
うぐっ……!
ふたりの的確な指摘に、僕は言葉に詰まらせる。
確かに、今日の仕事はもうほとんど終わっていた。僕が作業小屋に籠っていたのは、単に彼女たちからの「お誘い」を避けるための方便に過ぎなかった。
無理もないだろう? いくら彼女たちが家族同然の存在だとはいえ、僕はまだうら若き(?)十八歳の青年だ。ルナのような絶世の美少女エルフと、ミミのような愛くるしい猫獣人の少女と、一緒にお風呂に入るなどという、そんな刺激的なイベントに耐えられるほどの精神力は持ち合わせていない。
そもそも、この世界の風習として、家族や親しい友人同士での混浴はそれほど珍しいことではないらしい。特に、この村のように開放的なコミュニティでは尚更だ。村の子供たちなどは、男女関係なく、毎日一緒にお風呂で大はしゃぎしている。
しかし、僕の感覚は、そうした大らかな文化にまだ追いついていなかった。
僕は孤児院出身ということもあって、あまり入浴の習慣を得ることなく成長してしまった。勇者パーティーの一員になってからも、遠出やダンジョンへ潜るばかりの生活をしていた。そのせいもあって、温泉というものに興味を持ったというのもあったんだけど。
「アルト、何をそんなに恥ずかしがることがあるのですか? 私たちは家族でしょう? あなたの背中を、私が流して差し上げますから」
「そうニャ! ミミが、アル兄の髪の毛、ふかふかにしてあげるニャ!」
ルナが、上目遣いに僕の顔を覗き込む。その翡翠の瞳は、悪戯っぽくキラキラと輝いていた。
ミミも、僕の膝の上にぴょんと飛び乗ると、猫のように喉をゴロゴロと鳴らしながら、僕の胸にすり寄ってきた。
甘え上手なふたりの、完璧なコンビネーション攻撃。
僕のちっぽけな抵抗など、あってないようなものだった。
「わ、分かった! 分かったから! 入る! 入るから、ふたりとも少し離れてくれ!」
僕が白旗を揚げると、ふたりは「やったー!」「やったニャ!」と、子供のようにはしゃぐ。その勢いのまま、僕の手を引いて作業小屋から連れ出した。
その背後で、工房の窓から僕たちの様子を眺めていたギドさんが、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているのが見えた。あの頑固ドワーフめ、後で覚えてろよ……!
◇ ◇ ◇
こうして、僕は半ば無理やりルナとミミに連れ出され。夕暮れ時の「エルフの癒し湯」にお邪魔することになった。
「はぁ……。やっぱり、ここのお風呂は最高ですね!」
「ふかふかのお湯ニャー!」
湯船に浸かった瞬間、ルナとミミは幸せそうな声を上げた。
夕日に照らされた湯けむりが、幻想的な雰囲気を醸し出している。エメラルドグリーンのお湯は、肌に心地よく、身体の芯からじんわりと温めてくれる。
素晴らしいロケーションだ。素晴らしいお湯だ。
……もし、僕がひとりで入っていれば、の話だが。
僕の目の前では、ルナとミミが、きゃっきゃうふふと、お湯をかけ合ってはしゃいでいる。湯浴み着代わりの簡素な布をまとっているとはいえ、水に濡れたその姿は普段よりもずっと……その、なんというか、目のやり場に困るものがあった。
ルナの、透き通るような白い肌と、しなやかな身体のライン。
ミミの、子猫のように健康的で、無防備な姿。
僕は煩悩を振り払うかのように、ぶんぶんと頭を振る。そしてそっと湯船の隅で膝を抱えながら座り、できるだけ彼女たちから視線を逸らした。
そんな僕の態度が、面白くなかったのだろう。
ルナが、悪戯っぽい笑みを浮かべて、僕の隣にぬるりと移動してきた。
「アルト、どうしてそんなに隅っこにいるのですか? もっとこちらへ来てください」
「い、いや、僕はここで……」
「遠慮なさらずに」
ルナはそう言うと、僕の背後に回り込む。
そして、その柔らかな身体を僕の背中にぴたりと密着させた。
「ひゃっ!?」
僕は思わず、カエルのような情けない声を上げてしまった。
背中に感じる、信じられないほど柔らかく、温かい感触。
耳元で聞こえる、ルナの甘い吐息。
僕の心臓は、今にも破裂しそうなほど激しく鼓動を始めた。
「アルトの背中、意外とたくましいのですね。毎日、私たちのために頑張ってくれている証拠ですわ」
ルナは、僕の背中を優しく撫でながら囁いた。
待って、耳がこそばゆい。
「さあ、力を抜いて。私が、日頃の疲れを癒やして差し上げます」
彼女は石鹸を泡立てた布で、僕の背中をゆっくりと、そして丁寧に洗い始めた。
その指先が触れるたびに、僕の背中に電気が走る。
これは、拷問か何かだろうか。
身体の疲れは癒やされていくが、代わりに僕の精神が別の意味で限界を迎えようとしている。
「ずるいニャ、ルナ姉! ミミもアル兄の背中、洗う!」
僕の身体を洗う攻防戦(?)に、ミミも参戦してきた。彼女は、僕の隣にぴたりとくっつくと、小さな手で一生懸命、僕の腕を洗い始める。
「アル兄の腕、ゴツゴツしてるニャー。ギド爺みたいだニャ」
「だ、誰がドワーフみたいだ!」
僕は、美少女と愛らしい獣人少女にまとわりつかれ、文字通り、身動きが取れない状態になってしまった。
湯けむりの向こうで、湯治に来ていたギデオン村長たちが、僕たちの様子を、実に温かい、孫の恋路を見守るような目で見ている。それがまた羞恥心に拍車をかける。
やがて、彼女たちによる身体洗いタイムが終わる。
これでようやく解放されるかと思いきや。
「次は、髪ですね」
「ミミがやるニャ!」
今度は、僕の髪がふたりの標的となった。
ルナのしなやかな指が、僕の髪を優しく梳き。
ミミの小さな手が、わしゃわしゃと泡を立てる。
ふたりの共同作業は、とても心地よかった。
でもそれと同時に、僕の頭上と耳元で繰り広げられる彼女たちの楽しそうな会話が、僕の理性を少しずつ削り取っていく。
「アルトの髪、思ったより柔らかいのですね」
「うん! ふわふわしてて、気持ちいいニャ!」
「あら、ミミちゃん。そこはもっと、指の腹で優しく洗わないと」
「こうかニャ? ……あ、アル兄の耳、ちょっとだけ尖ってるニャ!」
「本当ですわ。もしかしたら、アルトのご先祖様には、エルフの血が少しだけ混じっているのかもしれませんね」
そんな、くすぐったい会話を聞かされながら、僕はされるがままになっていた。
もう、どうにでもなれ。
僕は、完全に思考を放棄し、目の前の快楽……いや、状況に身を委ねることにした。
ようやく全身を洗い終え、僕たちは再び露天風呂の湯船に浸かる。肩までたっぷりと身を沈めて、身体を包み込むようなお湯の感触に、思わず声が漏れてしまう。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように、静かで穏やかな時間が流れる。
空には、満天の星が瞬き始めていた。
「……きれい」
「うん、きれいだニャ」
ルナが、うっとりとした声で呟いた。
ミミも、僕の腕に寄りかかりながら、小さな声で同意する。
僕たちの間には、言葉はなかった。
ただ、同じ湯に浸かり、同じ星空を見上げる。
それだけで、心が通じ合っているような、不思議な一体感があった。
ああ、こういうのも、悪くないな。
僕は、ようやく心から、そう思えるようになっていた。
追放されたあの日、僕はひとりだった。
この世界に、僕の居場所など何処にもないのだと、絶望していた。
でも、今は違う。
僕の隣には、僕が心から信頼し、慕ってくれる、かけがえのない家族がいる。
この温かいお湯のように、僕の心をじんわりと癒やしてくれる大切な存在が。
「アルト」
不意に、ルナが僕の名前を呼んだ。
「ん?」
「……ありがとうございます」
「え?」
「この村に、こんなに素敵な場所を作ってくれて。そして……私を、この村に連れてきてくれて」
彼女は、星空を見上げたまま、そう言った。
その声は、少しだけ震えているように聞こえた。
「私は、50年間、ずっとひとりでした。でも、今は違います。アルトがいて、ミミちゃんがいて、村の皆さんがいる。私には、新しい家族ができました。……毎日が、本当に幸せです」
その言葉に、僕の胸は、きゅっと締め付けられた。
僕の方こそ、ありがとうと言いたい。
君たちがいてくれるから、僕は、僕でいられるのだと。
「……わたしも! ミミも、今、すっごく幸せだニャ!」
ミミが、僕の腕の中で、元気よく宣言した。
「アルト兄とルナ姉がいて、毎日美味しいご飯が食べられて、夜はふかふかのお布団で眠れる! ここは、天国だニャ!」
ふたりの真っ直ぐな言葉に、胸がいっぱいになっていく、
僕は照れ隠しで、彼女たちの頭を、わしゃわしゃと撫でた。
「……僕もだよ。君たちがいてくれて、本当によかった」
僕たちはしばらくの間、そうして寄り添いながら、星空を眺めていた。
それは、僕の人生で最も温かく、そして、最も幸せな時間だったかもしれない。
温泉から上がった後、僕たちは湯小屋の前の縁側で「聖水フルーツ・オレ」を飲んで涼んでいた。僕が、聖水と村で採れた果物を錬金術でミックスして作った、特製の飲み物だ。村のみんなにも大人気で、温泉から上がった後の定番となっている。
「はぁ……おいしい……」
「甘くて、身体に染み渡るニャ!」
満足そうなふたりを見て、僕も自然と笑みがこぼれる。
今日の湯けむり騒動は、僕の精神にとっては試練以外の何物でもなかった。でも結果的には、僕たちの絆を、また少しだけ深めてくれたような気がした。
この穏やかで、幸せな日常。
絶対に、僕が守り抜いてみせる。
僕は、夜空に輝く一番星に、そう固く誓った。
「さて、と」
僕は、空になった瓶を置くと、立ち上がる。
「明日も、やることがたくさんある。そろそろ、僕たちの『楽園』を、次のステージに進める時だ」
僕の言葉に、ルナとミミは顔を見合わせると、力強く頷いた。
僕たちの楽園創造は、まだ始まったばかりだ。
どんな困難が待ち受けていようとも、負けたりしない。
この仲間たちと一緒なら、きっと乗り越えていける。
僕は、ふたりと共に、温かい我が家へと続く、月明かりの道を歩き始めた。
その足取りは、いつになく軽く、そして力強かった。
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そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
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神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
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「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
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それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
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