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第三章 追いかけてくる過去との対峙
23:楽園の守護者たち
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視点:三人称
エルダ村の広場は戦場へと変貌し、空気は一変した。
勇者パーティーの前に立ちはだかったのは、アルトやルナ、ギドといった少数の特異な存在だけではない。鍬や鎌を、そして古びた剣や槍を手にした、エルダ村の住人たちもであった。
その数、三十人以上。
彼らは、決して屈強な兵士ではない。皺の刻まれた老人や、土にまみれた農夫たちだ。しかし、その瞳には、自らの故郷を、家族を、そして希望を与えてくれたひとりの青年を守るという、鋼のような決意が宿っていた。
「……笑わせる。老いぼれの集団が、この勇者アレクに楯突くか」
アレクは、目の前の光景を侮蔑の笑みで吐き捨てる。彼には自信があった。聖女セラフィナの力で増幅された力は、もはや王国騎士団長にさえ匹敵する。こんな年寄りどもなど、一振りで薙ぎ払える、と。
しかし、その傲慢な考えが、致命的な誤りであったことを、彼はすぐに思い知らされることになる。
「……者ども、陣形を組め! 『亀甲の陣』じゃ!」
元王国騎士団第三騎士隊隊長、ギデオン・アークライトの檄が飛ぶ。
その号令一下、村人たちの動きが、まるでひとつの生き物のように変化した。
屈強な若者たちが、ギドがこの日のために打っておいたミスリル銀の分厚い大盾を構えて、アレクの前に三重の壁を作る。その隙間から、老人たちが長い槍を突き出し、牽制する。それは、かつて彼らが騎士団で叩き込まれた、鉄壁の防御陣形だった。
「小賢しい真似を! 吹き飛べ!」
アレクは、聖剣『ソルブレイカー』を横薙ぎに振るった。禍々しい光を放つ斬撃が、盾の壁に襲いかかる。
並の盾ならば、数枚まとめて両断されるであろう、凄まじい一撃。
しかし、ミスリル銀とオリハルコンを混ぜ込んで作られたギド謹製の盾は違う。甲高い金属音を立てながらも、その衝撃を驚くほど巧みに受け流した。
盾を構えた若者たちは、衝撃で数歩後退するが、倒れない。彼らの足は大地をしっかりと踏みしめ、決してその場を譲らなかった。
そして、アレクが体勢を立て直す一瞬の隙。
「今じゃァッ!」
盾の壁の背後から、ギドが獣のような雄叫びと共に飛び出した。戦斧『アースブレイカー』が、アレクのがら空きになった胴体に、凄まじい勢いで叩き込まれる。
「ぐっ…!?」
アレクは咄嗟に聖剣でガードする。
だが完全には防ぎきれず、その身体は大きく吹き飛ばされた。
守りに徹した盾役の村人たちが完璧な壁となり、アレクの強大な攻撃をいなす。
生まれた隙を、ギドや攻撃役の村人が確実に突く。
それは個の力ではなく、組織としての力で強大な敵を打ち破る攻撃法。
老獪で、そしてあまりに美しい連携プレーだった。
もう一方で。
ダインとルナの戦いにも、変化が訪れていた。
「オラオラオラ! どうしたエルフのお嬢ちゃん! 逃げ回ってばかりじゃ、俺は捕まえられねえぜ!」
ダインはその圧倒的なスピードとパワーで、ルナを追い詰めていた。しかし彼の攻撃は、ルナが操る風の精霊や、地面から生える植物の蔓に阻まれ、あと一歩のところで届かない。
その焦りが、彼の視野を狭めていた。
「――そこまでだ、若いの」
ダインの背後から、静かだが、鋭い声がした。
振り返る間もなく、三本の剣がダインを襲う。
彼の死角から、寸分違わぬタイミングで剣が突き出された。
「なっ!?」
ダインは驚異的な反射神経でそれを避ける。
だが頬を、腕を、浅く切り裂かれる。
思いもよらぬ傷を受け、ダインは怒りに満ちた目を相手に向けた。
そこに立っていたのは、ギデオンと同じく、古びた剣を構えた三人の老人。
意外な相手に目を見張る。それと同時に、改めて怒りが大きくなる。
老いさらばえた輩に、自分は傷を負わされたのだということに。
ダインはプライドまで傷つけられた感覚を覚える。
だが、そんな内心など、老人たちは分からない。
そんな傲慢な想いなど意に介さない。
「ゆくぞ」
鼓舞するような声を出すや否や。
老人たちはさらなる追撃に出た。
「くそっ、舐めやがって!」
ダインは怒りと苛立ちに任せ、大剣を横薙ぎに振るった。
まとめて吹き飛ばばしてやるとばかりの大振りなそれ。
だがそんな単純な攻撃は、相手にかすりもしない。
老人三人の、先頭を走る一人が間合いを見切り、足を止めて停止する。それだけで、大剣が彼の目の前を素通りしていく。
それと共に、他の老人二人が左右へと散会した。
ダインが振り抜いた大剣が流れた方向へ、向かったのが一人。
彼は自ら剣をそれに合わせに行き、さらに大きくダインの大剣をはじく
「ぬぉっ!」
振るわれた大剣が、さらに大きく遠くへいなされる。
ダインの身体がその慣性に乗り、体勢を大きく崩させた。
その逆、ダインが大剣を振るった起点側へと向かった一人。
大剣をいなされ体勢が崩れた隙。それを逃すことなく。
老人は小さく、素早く、ダインを仕留めるべく剣を振るう。
「くそがっ!」
だが、ダインもその腕ひとつで成り上がってみせた剣士。力任せに剣を戻してみせ、間一髪、静かに命を狩ろうとした剣戟を受け止めた。
その威力を受けながら脱力し、ダインは強引に後方へと飛んだ。
なりふり構わず地面を転げ、老人たちから距離を取る。
三人掛かりとはいえ、たった一合の剣の交わし合い。それだけで、彼らが確実に命を狙いに来ているのが分かった。
ダインは、肝を冷やす。
「ちっ。舐めやがって」
彼らの動きには、若者のような爆発力はない。
しかし、その剣筋と連携は無駄がなく、まるで流れる水のように滑らかだった。
「蔓の檻 (ヴァイン・ケージ) !」
そんな老人たちの猛攻を後押しすべく、ルナが精霊魔法を駆使する
詠唱と共に、老人たちの足元から無数の蔓が伸び、彼らをダインの攻撃から守るように、即席の防御壁を作り出した。
「くそっ、くそが、くそがぁっ!」
戦いの構図は、逆転した。
ルナは防御とサポートに徹し、元騎士の老人たちが的確な剣技を振るう。ヒットアンドアウェイに徹した攻撃が、ダインの体力を着実に削っていく。
ルナの精霊魔法は、老人たちの疲労を癒し、彼らの動きを風の力で加速さえさせた。ダインはひとりで、魔法と剣技を巧みに組み合わせる四人の敵を相手にしているのと同じだった。
「この年寄りども、動きが読めねえ……!」
思うようにいかない戦況に、ダインは苛立ちながら悪態を吐く。
止まない攻撃をしのぎ続けるごとに、彼は神経を疲弊させていった。
勇者パーティーの戦力を分散させ、それぞれに対応する戦術が取られた戦況。
その中で最も劇的に変化したのは、後方で魔法を放っていたリリアの戦線だった。彼女は、アルトの防御を突破できず、苛立ちを募らせていた。
「どうして!? どうして、私の魔法が当たらないのよ! あなたなんて、ただの役立たずの錬金術師のくせに!」
「……君の魔法は、単調なんだ、リリア」
アルトは、彼女の放つ火球を、大気の壁で防ぎながら静かに告げた。
「君はただ、大威力で、派手な魔法を撃つことしか考えていない。魔力の流れが、あまりに読みやすいんだ」
アルトは、彼女の魔法の着弾点を正確に予測し、最小限の魔力で、ピンポイントの防御壁を生成していた。その効率的な防御は、彼の【物質創造】の力が新たなステージへと進化し始めていることを示していた。
「黙りなさい! 私の魔法が単調ですって!? じゃあ、これならどう!?」
リリアはプライドを傷つけられ、逆上した。これまでの単発魔法ではなく、複数の魔法を同時に発動させる、高位の魔術を行使しようとした。
しかし、それが彼女の敗因となった。
「――今だ、撃て」
アルトの背後。距離を置いた家々の屋根の上から、数人の老人たちが一斉に杖を構える。彼らもまた、かつて宮廷魔術師団に所属していた、引退後の魔法使いたちだった。壁役となったゴーレムに守られながら、それぞれに魔法を放つ。
彼らが用いた魔法は、リリアのような派手なものではない。
敵の詠唱を妨害する「沈黙の呪い」。
魔力の循環を鈍らせる「魔力妨害」。
そして、幻覚を見せて集中力を削ぐ「幻惑魔法」。
地味だが、熟練の魔法使いならではの、極めて厄介な補助魔法の数々。敵の力の素地をひたすら削り取る魔法が、リリアに降り注いだ。
「きゃっ!? 何なのこれ……! 頭が……詠唱が……!」
多方向からの見えない攻撃に、リリアはパニックに陥った。防御に集中しようにも、どの魔法から対処すればいいのか判断ができない。
彼女は今まで、アレクという絶対的な前衛に守られ、ただ攻撃することしか考えてこなかった。それは初めて経験する、本当の意味での「魔法戦」だった。
そして、アルトはその隙を見逃さなかった。
「行け、ゴレム!」
アルトの命令を受け、待機していた一体のゴーレムが動き出す、大地を揺るがしてリリアに迫る。
魔法への対処で手一杯だった彼女に、物理的な脅威を避ける術はなかった。
「ひっ! いやぁぁぁっ!」
ゴーレムの巨大な手が、リリアの身体を優しく、しかし決して逃れられない力で捕縛した。彼女は、あっけなく無力化された。
戦いの趨勢は、決した。
リリアが捕縛された。
気がつけばダインも、熟練の剣士たちの波状攻撃の前に膝をついている。
残るは、勇者アレクただひとり。
彼は、盾の壁とギドの猛攻の前に、既に満身創痍だった。
「……なぜだ。なぜ、この俺が、ただの年寄りどもに……!」
アレクは肩で息をしながら、信じられないというように吼える。
彼のプライドは、粉々に打ち砕かれようとしていた。
「終わりだ、勇者殿」
村人たちはゆっくりと、しかし確実に、アレクを取り囲んでいく。彼はもう、攻撃も防御もままならないような状況に追いやられていた。
その光景を、聖女セラフィナは後方で見ていた。慈愛に満ちた笑みの仮面の下で、わずかに眉をひそめる。
彼女の計算とは、いささか異なる展開だった。勇者パーティーは、例え苦戦はしても、この村を蹂躙できるはずだった。その程度の地力は持っていると、彼女もアレクたち三人を評価していた。
だが、計算外のことがあった。この村の「老人」たちが、これほどの戦闘能力を秘めていたとは、想像だにしていなかったのだ。
「……少し、遊びすぎましたか」
セラフィナは小さくため息をつくと、ゆっくりと前へ進み出ようとした。
自らが直接手を下し、この茶番を終わらせるために。
しかし。
「行かせはせんよ」
セラフィナの前に、新たに老人三人が、静かに立ちはだかった。
村長のギデオン。そして彼の長年の盟友である、剣士と魔法使いだった。
-つづく-
次回、第24話。「偽りの聖女」。
彼女は何者なのか。そして、その目的は?
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応援のほど、よろしくお願いします。
エルダ村の広場は戦場へと変貌し、空気は一変した。
勇者パーティーの前に立ちはだかったのは、アルトやルナ、ギドといった少数の特異な存在だけではない。鍬や鎌を、そして古びた剣や槍を手にした、エルダ村の住人たちもであった。
その数、三十人以上。
彼らは、決して屈強な兵士ではない。皺の刻まれた老人や、土にまみれた農夫たちだ。しかし、その瞳には、自らの故郷を、家族を、そして希望を与えてくれたひとりの青年を守るという、鋼のような決意が宿っていた。
「……笑わせる。老いぼれの集団が、この勇者アレクに楯突くか」
アレクは、目の前の光景を侮蔑の笑みで吐き捨てる。彼には自信があった。聖女セラフィナの力で増幅された力は、もはや王国騎士団長にさえ匹敵する。こんな年寄りどもなど、一振りで薙ぎ払える、と。
しかし、その傲慢な考えが、致命的な誤りであったことを、彼はすぐに思い知らされることになる。
「……者ども、陣形を組め! 『亀甲の陣』じゃ!」
元王国騎士団第三騎士隊隊長、ギデオン・アークライトの檄が飛ぶ。
その号令一下、村人たちの動きが、まるでひとつの生き物のように変化した。
屈強な若者たちが、ギドがこの日のために打っておいたミスリル銀の分厚い大盾を構えて、アレクの前に三重の壁を作る。その隙間から、老人たちが長い槍を突き出し、牽制する。それは、かつて彼らが騎士団で叩き込まれた、鉄壁の防御陣形だった。
「小賢しい真似を! 吹き飛べ!」
アレクは、聖剣『ソルブレイカー』を横薙ぎに振るった。禍々しい光を放つ斬撃が、盾の壁に襲いかかる。
並の盾ならば、数枚まとめて両断されるであろう、凄まじい一撃。
しかし、ミスリル銀とオリハルコンを混ぜ込んで作られたギド謹製の盾は違う。甲高い金属音を立てながらも、その衝撃を驚くほど巧みに受け流した。
盾を構えた若者たちは、衝撃で数歩後退するが、倒れない。彼らの足は大地をしっかりと踏みしめ、決してその場を譲らなかった。
そして、アレクが体勢を立て直す一瞬の隙。
「今じゃァッ!」
盾の壁の背後から、ギドが獣のような雄叫びと共に飛び出した。戦斧『アースブレイカー』が、アレクのがら空きになった胴体に、凄まじい勢いで叩き込まれる。
「ぐっ…!?」
アレクは咄嗟に聖剣でガードする。
だが完全には防ぎきれず、その身体は大きく吹き飛ばされた。
守りに徹した盾役の村人たちが完璧な壁となり、アレクの強大な攻撃をいなす。
生まれた隙を、ギドや攻撃役の村人が確実に突く。
それは個の力ではなく、組織としての力で強大な敵を打ち破る攻撃法。
老獪で、そしてあまりに美しい連携プレーだった。
もう一方で。
ダインとルナの戦いにも、変化が訪れていた。
「オラオラオラ! どうしたエルフのお嬢ちゃん! 逃げ回ってばかりじゃ、俺は捕まえられねえぜ!」
ダインはその圧倒的なスピードとパワーで、ルナを追い詰めていた。しかし彼の攻撃は、ルナが操る風の精霊や、地面から生える植物の蔓に阻まれ、あと一歩のところで届かない。
その焦りが、彼の視野を狭めていた。
「――そこまでだ、若いの」
ダインの背後から、静かだが、鋭い声がした。
振り返る間もなく、三本の剣がダインを襲う。
彼の死角から、寸分違わぬタイミングで剣が突き出された。
「なっ!?」
ダインは驚異的な反射神経でそれを避ける。
だが頬を、腕を、浅く切り裂かれる。
思いもよらぬ傷を受け、ダインは怒りに満ちた目を相手に向けた。
そこに立っていたのは、ギデオンと同じく、古びた剣を構えた三人の老人。
意外な相手に目を見張る。それと同時に、改めて怒りが大きくなる。
老いさらばえた輩に、自分は傷を負わされたのだということに。
ダインはプライドまで傷つけられた感覚を覚える。
だが、そんな内心など、老人たちは分からない。
そんな傲慢な想いなど意に介さない。
「ゆくぞ」
鼓舞するような声を出すや否や。
老人たちはさらなる追撃に出た。
「くそっ、舐めやがって!」
ダインは怒りと苛立ちに任せ、大剣を横薙ぎに振るった。
まとめて吹き飛ばばしてやるとばかりの大振りなそれ。
だがそんな単純な攻撃は、相手にかすりもしない。
老人三人の、先頭を走る一人が間合いを見切り、足を止めて停止する。それだけで、大剣が彼の目の前を素通りしていく。
それと共に、他の老人二人が左右へと散会した。
ダインが振り抜いた大剣が流れた方向へ、向かったのが一人。
彼は自ら剣をそれに合わせに行き、さらに大きくダインの大剣をはじく
「ぬぉっ!」
振るわれた大剣が、さらに大きく遠くへいなされる。
ダインの身体がその慣性に乗り、体勢を大きく崩させた。
その逆、ダインが大剣を振るった起点側へと向かった一人。
大剣をいなされ体勢が崩れた隙。それを逃すことなく。
老人は小さく、素早く、ダインを仕留めるべく剣を振るう。
「くそがっ!」
だが、ダインもその腕ひとつで成り上がってみせた剣士。力任せに剣を戻してみせ、間一髪、静かに命を狩ろうとした剣戟を受け止めた。
その威力を受けながら脱力し、ダインは強引に後方へと飛んだ。
なりふり構わず地面を転げ、老人たちから距離を取る。
三人掛かりとはいえ、たった一合の剣の交わし合い。それだけで、彼らが確実に命を狙いに来ているのが分かった。
ダインは、肝を冷やす。
「ちっ。舐めやがって」
彼らの動きには、若者のような爆発力はない。
しかし、その剣筋と連携は無駄がなく、まるで流れる水のように滑らかだった。
「蔓の檻 (ヴァイン・ケージ) !」
そんな老人たちの猛攻を後押しすべく、ルナが精霊魔法を駆使する
詠唱と共に、老人たちの足元から無数の蔓が伸び、彼らをダインの攻撃から守るように、即席の防御壁を作り出した。
「くそっ、くそが、くそがぁっ!」
戦いの構図は、逆転した。
ルナは防御とサポートに徹し、元騎士の老人たちが的確な剣技を振るう。ヒットアンドアウェイに徹した攻撃が、ダインの体力を着実に削っていく。
ルナの精霊魔法は、老人たちの疲労を癒し、彼らの動きを風の力で加速さえさせた。ダインはひとりで、魔法と剣技を巧みに組み合わせる四人の敵を相手にしているのと同じだった。
「この年寄りども、動きが読めねえ……!」
思うようにいかない戦況に、ダインは苛立ちながら悪態を吐く。
止まない攻撃をしのぎ続けるごとに、彼は神経を疲弊させていった。
勇者パーティーの戦力を分散させ、それぞれに対応する戦術が取られた戦況。
その中で最も劇的に変化したのは、後方で魔法を放っていたリリアの戦線だった。彼女は、アルトの防御を突破できず、苛立ちを募らせていた。
「どうして!? どうして、私の魔法が当たらないのよ! あなたなんて、ただの役立たずの錬金術師のくせに!」
「……君の魔法は、単調なんだ、リリア」
アルトは、彼女の放つ火球を、大気の壁で防ぎながら静かに告げた。
「君はただ、大威力で、派手な魔法を撃つことしか考えていない。魔力の流れが、あまりに読みやすいんだ」
アルトは、彼女の魔法の着弾点を正確に予測し、最小限の魔力で、ピンポイントの防御壁を生成していた。その効率的な防御は、彼の【物質創造】の力が新たなステージへと進化し始めていることを示していた。
「黙りなさい! 私の魔法が単調ですって!? じゃあ、これならどう!?」
リリアはプライドを傷つけられ、逆上した。これまでの単発魔法ではなく、複数の魔法を同時に発動させる、高位の魔術を行使しようとした。
しかし、それが彼女の敗因となった。
「――今だ、撃て」
アルトの背後。距離を置いた家々の屋根の上から、数人の老人たちが一斉に杖を構える。彼らもまた、かつて宮廷魔術師団に所属していた、引退後の魔法使いたちだった。壁役となったゴーレムに守られながら、それぞれに魔法を放つ。
彼らが用いた魔法は、リリアのような派手なものではない。
敵の詠唱を妨害する「沈黙の呪い」。
魔力の循環を鈍らせる「魔力妨害」。
そして、幻覚を見せて集中力を削ぐ「幻惑魔法」。
地味だが、熟練の魔法使いならではの、極めて厄介な補助魔法の数々。敵の力の素地をひたすら削り取る魔法が、リリアに降り注いだ。
「きゃっ!? 何なのこれ……! 頭が……詠唱が……!」
多方向からの見えない攻撃に、リリアはパニックに陥った。防御に集中しようにも、どの魔法から対処すればいいのか判断ができない。
彼女は今まで、アレクという絶対的な前衛に守られ、ただ攻撃することしか考えてこなかった。それは初めて経験する、本当の意味での「魔法戦」だった。
そして、アルトはその隙を見逃さなかった。
「行け、ゴレム!」
アルトの命令を受け、待機していた一体のゴーレムが動き出す、大地を揺るがしてリリアに迫る。
魔法への対処で手一杯だった彼女に、物理的な脅威を避ける術はなかった。
「ひっ! いやぁぁぁっ!」
ゴーレムの巨大な手が、リリアの身体を優しく、しかし決して逃れられない力で捕縛した。彼女は、あっけなく無力化された。
戦いの趨勢は、決した。
リリアが捕縛された。
気がつけばダインも、熟練の剣士たちの波状攻撃の前に膝をついている。
残るは、勇者アレクただひとり。
彼は、盾の壁とギドの猛攻の前に、既に満身創痍だった。
「……なぜだ。なぜ、この俺が、ただの年寄りどもに……!」
アレクは肩で息をしながら、信じられないというように吼える。
彼のプライドは、粉々に打ち砕かれようとしていた。
「終わりだ、勇者殿」
村人たちはゆっくりと、しかし確実に、アレクを取り囲んでいく。彼はもう、攻撃も防御もままならないような状況に追いやられていた。
その光景を、聖女セラフィナは後方で見ていた。慈愛に満ちた笑みの仮面の下で、わずかに眉をひそめる。
彼女の計算とは、いささか異なる展開だった。勇者パーティーは、例え苦戦はしても、この村を蹂躙できるはずだった。その程度の地力は持っていると、彼女もアレクたち三人を評価していた。
だが、計算外のことがあった。この村の「老人」たちが、これほどの戦闘能力を秘めていたとは、想像だにしていなかったのだ。
「……少し、遊びすぎましたか」
セラフィナは小さくため息をつくと、ゆっくりと前へ進み出ようとした。
自らが直接手を下し、この茶番を終わらせるために。
しかし。
「行かせはせんよ」
セラフィナの前に、新たに老人三人が、静かに立ちはだかった。
村長のギデオン。そして彼の長年の盟友である、剣士と魔法使いだった。
-つづく-
次回、第24話。「偽りの聖女」。
彼女は何者なのか。そして、その目的は?
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