【完結】獅子は鬼を喰らうか

香澄京耶

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ep6 地下組織の脅威(1)

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 陰鬱とした思考は、敵の拠点に辿り着いた瞬間に掻き消えた。
 
 カビの臭いが染みついた冷たい床に、第二騎士団の団員達が転がっていたからだ。
 その内の一人が呻いて、咄嗟に抱え上げる。
 
「おい、大丈夫か。何があった。」
 軽く頬を叩けば、怯えた瞳とかち合った。まだ年若い少年だ。
 
「ぼくは嫌だったのに」
 
 気持ちが咄嗟に出たのだろう。混乱している証拠だった。
 
「大丈夫だ、俺はお前を責めはしない。俺は第三騎士団団長のカイルだ。お前の名前は?」
「だいさん…」
 少年は、ふっと視線を落とした。
「グリムです……カイル団長。」
 返答と共にグリムの視線が定まって、少し安堵する。
 
「よく言えたな、グリム。俺はお前を罰さないと誓おう。何があったか、言えるな?」
 グリムは静かに頷いて、今までの経緯を話し始めた。
 
「上の人たちは、ずっと第一と張り合っていて……。
 僕たち下の者は止めたんですが、聞いてもらえなくて。
 今日は……やり返す“好機”なんだって……」
 
 ――いわく。
 共同戦線などと大掛かりな事を行うのに、第一と第二ではなく、第三が選ばれた事が腹ただしい。
 第一にも、かねてよりこちらの方が上だと分からせてやる必要があった。
 どうせ簡単な内容だ。第二でこなして全ての者の鼻を明かしてやろう。調査はある程度済んでいるようだ。今日単独で制圧して思い知らせてやればいい。

 予想はしていたが、思わず頭痛を覚えるには十分な内容だった。
 
「お前達がここで倒れているという事は、上手くいかなかったんだな?」
「はい……途中までは上手くいっていたんですが――誘い込まれて。魔封じの魔道具が発動して、僕達は……」
 思い出したように震えるグリムの頭に手を置いた。
 
「分かった。グリム、お前はよく頑張った。じきに援軍が来る。それまで、この中にいろ。」
 
 簡潔に言葉を区切って言えば、グリムは安堵したように頷いた。
 強固な結界を張って、倒れている人間も纏めてその中に放り込む。全員の生死を確認している余裕はないので、ポーションも併せて放り込んだ。
 ポーションは貴重だが今は魔力を温存したいので出し惜しみはできなかった。
 
「辛いとは思うが、どうにか耐えてくれ。俺は奥に向かう。」
 
 アンダーグランドの人間は容赦がない。
 死んでもいない人間をここに放置する理由が分からなかった。思うに、まだ第二は全滅していない。早急に助けが必要だ。

 湿気を帯びた空気に、油や血の混じった不快な臭いが鼻をついた。
 気配を消しながら慎重に喧騒を辿れば、すぐに目的地にはたどり着いた。
 ずらりと並んだ相手に、息も絶え絶えの第二騎士団団長と、団員達。その様子から、すでに命は灯火のようである事は明白だった。
 
 敵に――そして第二の無謀さにも腹が立つ。
 高い位置から注意深く観察すれば、魔封じの魔道具を見つける事はできた。――分かってはいたが、位置が悪い。
 敵の只中に飛び込むような危険行為である事は分かっていたが、破壊しないと話にならない。
 
 深く息を吸って、吐く。
 無謀だが失敗は許されない。覚悟を決める。
 
 敵陣の渦中へ、迷いなく踏み込んで、初めに魔道具を破壊した。
 幸いにも敵は突然現れたカイルの存在についていけず、容易く破壊を許した。
 
「第二!後でたっぷり話を聞かせてもらうが――まず、殲滅優先だ!」
 
 どこか呆然とした第二の連中に視線も向けずに伝える。
 残りのポーションが入ったポーチを投げつける。割れたような音は聞こえなかったから、無事受け取ったのだろう。
 ポーションを使えないのは痛手だが、敵の数を考えれば、どうせ悠長に使う余裕など与えて貰えそうになかった。
 
「まず回復しろ!その後に援護魔法を!」
 
 言葉が届いてすぐに、回復より先に防御魔法を送って来た人間に一瞬目をやる。
 たしか、副団長だったはずだ。へたり込んでいる第二団長よりも、よほど優秀なようだ。
 
 正直、第二の人間がある程度回復したとして、現状に勝機はない。他勢に無勢すぎる。
 目の前の敵の密度だけでも十分に暴力的だというのに、まだ他にも潜んでいる可能性が高い。
 それでも、この機会を逃せばまた雲隠れされてしまうだろう。
 
 だからこそ、時間を使って綿密に打ち合わせを行なったのだ。それだけに、怒りは収まらない。
 身体強化魔法を纏い、剣に魔力をのせる。
 相手の力量は大したことはなく、容易く屠れる。――だが、とにかく数が多い。
 
 横からの斬撃に咄嗟に身を捩って剣で受ける。筋を少し痛めたような感覚が走った。
 まずい、と思いつつ周囲に目をやれば、通路の影から二十──いや、それ以上の気配が蠢いている。
 
 状況は絶望的だ。
 
 だが――たまらなく血が沸き立つ。


「……てめぇら。楽に死ねると思うな。」

 
 つまるところ、こんな仕事をやっている奴らは総じて戦闘狂だ。自分も例に漏れない。
 
 送られてくる支援魔法や回復魔法で何とか凌ぎ切る。
 回復した者達が、なんとか攻撃魔法も当てられているようだった。
 
 気がつけば、足元は何十という死体で埋まっていた。むせ返るような血の匂いが身体に染み付くようだ。
 剣が鈍くなっている事を感じて、第二の連中に放り投げた。代わりの剣は足元に転がっていたものから調達する。
 
 斬って、斬って、ただひたすらに斬る。
 正直勝算などない。数を減らしている実感だけが、唯一の救いだった。
 
 だからこそ、ただがむしゃらに斬り続けるしかなかった。
 
 一太刀も無駄にはできない緊張感は、予想外の存在によって唐突に途切れた。
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