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ep10 獅子との安息(2)
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そんな思いは、翌朝の頭痛と共に思い出された。
完全な二日酔いだ。しかも、しっかり記憶が残っているのが、なお悪い。
鍛錬に影響しそうなので回復魔法をかけるが、無論、精神的なものは癒やされない。
思わず枕に頬を埋めて、どう扱っていいか分からない感情を処理しようと試みて――やめた。とても無理だ。
諦めて起き上がると、そこはルシオンに連れ込まれた部屋だった。
テーブルに置かれたままの杯を見て、また記憶が蘇る。
すでにルシオンの姿はない。地下組織の残党の処理に追われているのだろう。
第二の暴走で、組織の実力ある者達を一網打尽に出来なかった分、後処理が面倒になっているに違いなかった。
そこに参加出来ていない事に罪悪感と、苛立ちを覚えるが、現状を解決しない事には、騎士団の邪魔にしかならないこの身が呪わしい。
自室に戻ろうと部屋を出れば、給仕係の赤髪の少女と鉢合わせた。なぜだか若干気まずい。
少女はいつものように、にこりと笑った。
「おはようございます!今日は少し遅いですね。また、鍛錬ですか?」
「ああ、おはよう。今日は鍛錬の前にスープをもらえるか?――実は昨日少し、飲みすぎてな。胃に何か入れたい。」
「シオンさんでもそうなるなんて、お酒ってやっぱり怖いですね。いつも飲まないからかな。」
茶化すようにくすくす笑う少女は、普段酔っ払いの相手ばかりしているせいか、こういうことには慣れているのだろう。
お部屋にお持ちしますね、と言って歩き出したが、ふいに思い出したように足を止めた。
「あ、そういえば!昨日泊まってた“イルさん”から、伝言がありました。」
言われた名前に、寝起きの感情が戻ってくる。
思わず息が止まった――意地の悪いそれは、わざとに違いない。
もし意趣返しでなければ、それはそれで余計に悪い。
「『いい名だな』って。イルさんからと言えば伝わるからって。そう言われてました。」
「……そうか――ありがとう。」
感情を押し込めて簡単に礼を言えば、幸い、少女に動揺は伝わらなかったようだった。
「いいえ!スープ、すぐお持ちしますね。」
ぱたぱたと足早に去った彼女を見つめ、自室に戻ってしゃがみ込んだ。
くそ、と声が漏れる。
――卑怯だ。
昨夜のそれを忘れさせてくれない、仕掛けのような言葉遊びに心臓がうるさい。
次にどのような顔で会えばいいのかと思っていた自分が、ひどく馬鹿らしくなった。
言葉ひとつで、その感情を軽く超えてくる男が憎らしい。それなのに、嫌悪すら湧かない自分に気づいて、余計に心が騒いだ。
「鍛錬だ。」
自分に言い聞かせるように独りごちる。
器用な術など持ち合わせていない。
逃げ場のない胸のざわつきを、剣の重さで押し返す事しか思いつかなかった。
精神は、健全な肉体と正しい鍛錬から。普段団員へ言い聞かせているそれを、自身に言い聞かせる日がくるなど思ってもみなかった。
運ばれたスープを飲み干して、足早に裏庭に繰り出した。
いつもより足取りに勢いがあったからか、赤毛の少女が視界の端で目を丸くしているのが映った。
それに声をかける余裕もない。
それでも、朝露の残る裏庭でいつものように剣を振るえば、雑念は剣の音と一緒に消えていった。
完全な二日酔いだ。しかも、しっかり記憶が残っているのが、なお悪い。
鍛錬に影響しそうなので回復魔法をかけるが、無論、精神的なものは癒やされない。
思わず枕に頬を埋めて、どう扱っていいか分からない感情を処理しようと試みて――やめた。とても無理だ。
諦めて起き上がると、そこはルシオンに連れ込まれた部屋だった。
テーブルに置かれたままの杯を見て、また記憶が蘇る。
すでにルシオンの姿はない。地下組織の残党の処理に追われているのだろう。
第二の暴走で、組織の実力ある者達を一網打尽に出来なかった分、後処理が面倒になっているに違いなかった。
そこに参加出来ていない事に罪悪感と、苛立ちを覚えるが、現状を解決しない事には、騎士団の邪魔にしかならないこの身が呪わしい。
自室に戻ろうと部屋を出れば、給仕係の赤髪の少女と鉢合わせた。なぜだか若干気まずい。
少女はいつものように、にこりと笑った。
「おはようございます!今日は少し遅いですね。また、鍛錬ですか?」
「ああ、おはよう。今日は鍛錬の前にスープをもらえるか?――実は昨日少し、飲みすぎてな。胃に何か入れたい。」
「シオンさんでもそうなるなんて、お酒ってやっぱり怖いですね。いつも飲まないからかな。」
茶化すようにくすくす笑う少女は、普段酔っ払いの相手ばかりしているせいか、こういうことには慣れているのだろう。
お部屋にお持ちしますね、と言って歩き出したが、ふいに思い出したように足を止めた。
「あ、そういえば!昨日泊まってた“イルさん”から、伝言がありました。」
言われた名前に、寝起きの感情が戻ってくる。
思わず息が止まった――意地の悪いそれは、わざとに違いない。
もし意趣返しでなければ、それはそれで余計に悪い。
「『いい名だな』って。イルさんからと言えば伝わるからって。そう言われてました。」
「……そうか――ありがとう。」
感情を押し込めて簡単に礼を言えば、幸い、少女に動揺は伝わらなかったようだった。
「いいえ!スープ、すぐお持ちしますね。」
ぱたぱたと足早に去った彼女を見つめ、自室に戻ってしゃがみ込んだ。
くそ、と声が漏れる。
――卑怯だ。
昨夜のそれを忘れさせてくれない、仕掛けのような言葉遊びに心臓がうるさい。
次にどのような顔で会えばいいのかと思っていた自分が、ひどく馬鹿らしくなった。
言葉ひとつで、その感情を軽く超えてくる男が憎らしい。それなのに、嫌悪すら湧かない自分に気づいて、余計に心が騒いだ。
「鍛錬だ。」
自分に言い聞かせるように独りごちる。
器用な術など持ち合わせていない。
逃げ場のない胸のざわつきを、剣の重さで押し返す事しか思いつかなかった。
精神は、健全な肉体と正しい鍛錬から。普段団員へ言い聞かせているそれを、自身に言い聞かせる日がくるなど思ってもみなかった。
運ばれたスープを飲み干して、足早に裏庭に繰り出した。
いつもより足取りに勢いがあったからか、赤毛の少女が視界の端で目を丸くしているのが映った。
それに声をかける余裕もない。
それでも、朝露の残る裏庭でいつものように剣を振るえば、雑念は剣の音と一緒に消えていった。
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