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おまけ セスタ副団長の受難
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ああ、胃が痛い。
常備薬の胃薬をそっと渡して背中を摩ってくれるグリムは、むさ苦しい騎士団でも数少ない癒しだ。
「何故――あんな状態に。」
「副団長……」
新しく入った補佐官が、哀れみの目を向けてくる。だが彼とて、これからの書類の束を思えば、げんなりする思いだろう。
ただでさえ書類に溢れ返った騎士団で、統括の混乱も収まらない内に毎度“やらかしてくる”二人のトップに、自然と目線が向く。
途端、横並びの団長二人は、ぱっと横を向いて目を逸らした。
「いや、それはだな……。」
「ごろつきの殲滅に行ったら……なあ?」
「少し脅したら別拠点が割れた訳で……なあ?」
「逃げられる前に、早く対処した方が……な?」
――な?ではない。
「だから何故、小規模な殲滅に向かったのに、それを片付けている間に中規模な組織を引きずりだして、あまつさえ建物を崩壊させるんですか……!しかも二人で!!」
通常は慎重に尋問を重ね、計画立てて国王にも申請を通した上で行うべきことだ。
それを、少し散歩に行ってこよう、程度の感覚で行われたら、堪ったものではない。
「建物はちょっとな……相手からやばい魔道具の気配を感じたからでだな……」
鬼と称される男が、ごにょごにょと言い訳じみた声を出す。
彼が言うなら、それなりの代物だったのだろう――予定のない殲滅優先にも、建前上は理解が得られるかもしれない。
「周りに影響しないように崩したぞ。」
堂々とした体で言い切った獅子と称される男の脇腹を、鬼が肘で押した。
上司相手でも頬がひくつく。
「……そうですか。いつから私達は解体業者になったんでしょうね。」
確かに、建物は真上からすとんと落ちたように瓦礫が積み重なっていた。
周りへの影響も、被害もない。
建物の持ち主も別件で追っている商人の関係だった。結果、丸く収まりそうなのはいい。
だが、それによって発生する始末書や報告書の厚みは、まるで変わる。
加えて膨大な瓦礫の中に埋もれた証拠品や重要人物――ざっと考えただけでも、頭痛がした。
「二人での行動を制限してもいいんですよ。」
思わず漏れた脅しのような言葉に、二人が焦ったような顔をした。
正直、副団長である自分にそんな権限はないが、それでも聞き入れようとする二人は柔軟性に長けた、非常にいい長と言えた。――“気分が乗って、ついうっかり”壊滅に力を入れなければ。
「こいつと一緒じゃないと面白くない。」
「こいつと一緒に動く方が面白い。」
お互いに指をさして、同じような事を言う。
団長だというのに、妙に少年くさい言葉だ。呆れ半分、ため息が出た。
重なった声に、無言で目線を合わせた二人は、間違いなく似たもの同士だ。
それを見て、はあああ、とこれ見よがしに深いため息をつくと、両団長がまたそっと目線を横に向けた。
「……まあ、いいでしょう。」
いつもの台詞にカイルとルシオンの身体がぴくりと反応する。
「――ただし。次は、それぞれ別日に一日書類仕事をしていただきます。」
「「げ。」」
二人のしかめ面を愉快に思う。
「言い訳は聞きませんからね。」
笑いが漏れないように書類に視線を落とした。
常備薬の胃薬は減る一方だ。
そろそろ、この両団長へ薬代を請求してもいいかもしれない。
――それでも。
この立場を譲る気は、今のところない。
この日常は、向き合う価値があって、それでいて刺激的だ。
魅力的な団長が二人も揃っているというのは、非常に厄介なことだ。
だから――今日も、明日も。
自分はこの騒々しい騎士団の一員でいるだけだった。
きっと、全ての団員がそうであるように。
常備薬の胃薬をそっと渡して背中を摩ってくれるグリムは、むさ苦しい騎士団でも数少ない癒しだ。
「何故――あんな状態に。」
「副団長……」
新しく入った補佐官が、哀れみの目を向けてくる。だが彼とて、これからの書類の束を思えば、げんなりする思いだろう。
ただでさえ書類に溢れ返った騎士団で、統括の混乱も収まらない内に毎度“やらかしてくる”二人のトップに、自然と目線が向く。
途端、横並びの団長二人は、ぱっと横を向いて目を逸らした。
「いや、それはだな……。」
「ごろつきの殲滅に行ったら……なあ?」
「少し脅したら別拠点が割れた訳で……なあ?」
「逃げられる前に、早く対処した方が……な?」
――な?ではない。
「だから何故、小規模な殲滅に向かったのに、それを片付けている間に中規模な組織を引きずりだして、あまつさえ建物を崩壊させるんですか……!しかも二人で!!」
通常は慎重に尋問を重ね、計画立てて国王にも申請を通した上で行うべきことだ。
それを、少し散歩に行ってこよう、程度の感覚で行われたら、堪ったものではない。
「建物はちょっとな……相手からやばい魔道具の気配を感じたからでだな……」
鬼と称される男が、ごにょごにょと言い訳じみた声を出す。
彼が言うなら、それなりの代物だったのだろう――予定のない殲滅優先にも、建前上は理解が得られるかもしれない。
「周りに影響しないように崩したぞ。」
堂々とした体で言い切った獅子と称される男の脇腹を、鬼が肘で押した。
上司相手でも頬がひくつく。
「……そうですか。いつから私達は解体業者になったんでしょうね。」
確かに、建物は真上からすとんと落ちたように瓦礫が積み重なっていた。
周りへの影響も、被害もない。
建物の持ち主も別件で追っている商人の関係だった。結果、丸く収まりそうなのはいい。
だが、それによって発生する始末書や報告書の厚みは、まるで変わる。
加えて膨大な瓦礫の中に埋もれた証拠品や重要人物――ざっと考えただけでも、頭痛がした。
「二人での行動を制限してもいいんですよ。」
思わず漏れた脅しのような言葉に、二人が焦ったような顔をした。
正直、副団長である自分にそんな権限はないが、それでも聞き入れようとする二人は柔軟性に長けた、非常にいい長と言えた。――“気分が乗って、ついうっかり”壊滅に力を入れなければ。
「こいつと一緒じゃないと面白くない。」
「こいつと一緒に動く方が面白い。」
お互いに指をさして、同じような事を言う。
団長だというのに、妙に少年くさい言葉だ。呆れ半分、ため息が出た。
重なった声に、無言で目線を合わせた二人は、間違いなく似たもの同士だ。
それを見て、はあああ、とこれ見よがしに深いため息をつくと、両団長がまたそっと目線を横に向けた。
「……まあ、いいでしょう。」
いつもの台詞にカイルとルシオンの身体がぴくりと反応する。
「――ただし。次は、それぞれ別日に一日書類仕事をしていただきます。」
「「げ。」」
二人のしかめ面を愉快に思う。
「言い訳は聞きませんからね。」
笑いが漏れないように書類に視線を落とした。
常備薬の胃薬は減る一方だ。
そろそろ、この両団長へ薬代を請求してもいいかもしれない。
――それでも。
この立場を譲る気は、今のところない。
この日常は、向き合う価値があって、それでいて刺激的だ。
魅力的な団長が二人も揃っているというのは、非常に厄介なことだ。
だから――今日も、明日も。
自分はこの騒々しい騎士団の一員でいるだけだった。
きっと、全ての団員がそうであるように。
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