公爵令嬢は優し過ぎる!

neo

文字の大きさ
12 / 30
第一章:二人の出会い

episode-13

しおりを挟む
俺は小さい頃から教会で孤児として暮らし、親の顔など知らずに育った。普通の子供ならそれだけでも充分ひねくれる要因となるが、俺は黒髪黒眼の容姿からいじめられひねくれるどころではなくなったため、とうとう教会からも追い出されることになった。今思えば口減らしも兼ねていたのだろう。身一つで放たれた俺は有り余る自分の魔力を制御出来ないため魔法も使えなかった。空腹感と喉の乾きが日に日に増していき、追い出されてから何日が経っただろう。俺はもう立てなくなっていた。ドサりと大木の幹へ体を横たえ、朦朧とする意識の中俺は自分がもうすぐ死ぬということを悟った。

「しにたくない、。」

次から溢れ出る涙と、カラカラの声が出した訴えはだれにも届くはずはない。そう思っていた。ガサガサと草をかき分ける音が身近に聞こえ、俺の体に緊張が走る。俺はきっと獣に食べられる運命なのだ。そう思った時、男の声が上から降ってきた。

「おい!大丈夫か。」

声を出す暇もなくガタイのいい戦士のような男が俺を担ぎ上げ、馬車へ乗せた。
フカフカの馬車の椅子はとても心地よく、男がなん度も呼びかけていたが俺は意識を失った。

「…。」

目を開けると運動をしたあとの倦怠感のようなものが俺をおそう。最初に見た景色は天井で、その天井は教会のものでもなく、ただ知らない場所なことが分かった。

「あ、目を覚まされたんですね!今旦那様を読んできます!」

隣に人が居たらしく、背の低い男がそう言って部屋を去っていく。暫くすると見覚えのあるガタイのいい男が入ってきた。

「おお!目を覚ましたみたいだな、いやぁ~良かったよ。」

「…。」

「なんだ?言葉、喋れないのか。」

「…のどが、渇いた。」

相変わらずガサガサな声をふりしぼって言うと男は納得したようにメイドへ水を持ってこさせた。

「どうだ、少しは良くなったか。」

不躾に覗いてくる男な距離感には戸惑ったが、嫌ではなかった。

「あ、りがとう。」

一様お礼は言わないといけない。

「いいんだいいんだ、ゆっくりしてくれ。そう言えばお前はどこから来たんだ。夜の森にまさか子供がいるなんてな、俺は思いもしなかったよ。」

「きょうかい、おいだされたんだ。」

「まさか、あの森の近くの教会か?そうか、、じゃあ親はいないんだな。」

「うん」

すると何やら考えていた男が次に言った言葉に俺は驚いた。

「お前、今日からうちの子になれ!俺は妻もいないし子供もいない、周りの人間から後継ぎを作る為に結婚を急がされている身だ。だが俺は家庭を作るより弟子を作りたいと思っていたんだ。お前を俺の養子とすれば主に俺が一石二鳥、おまえもたらふく飯が食える。ここの飯は絶品だぞ?」

ゴクリ、
話が長すぎて大体のことは聞いていなかったが、男の方も都合がいいみたいだった。

「分かった。」

それからというもの、ジークとなのったあの男は戦士ではなくガタイのいい魔導師だった。俺はスパルタなジークの元、一生懸命魔法を使いこなせるよう努力し続けた。そんな日々もあっという間にすぎ、俺が十五歳になったある日。

「エデルギウス様!旦那様がっ!!」

俺の部屋に飛び込んで入ってきたメイドの知らせを受け、俺は急いで玄関へ向かった。そこで見た光景はおそらく一生忘れることはないだろう。

「ジーク、、どうしたんだよ!」

玄関で血だらけになって倒れているジークとそれを囲む魔導師の仲間。事情を聞くと、災害級のキメラが出て相打ちになったらしかった。

「師長!!」

「ジーク、、」

俺は魔導師をかき分け、ジークの元へ行った。

「おい、ジーク。」

「あぁ、エデルギウスか、、。すまない、しくっちまった。」

「っ馬鹿か。」

悔しかった。ジークをこんなふうにしたキメラが憎くてたまらない。

「ハハッ、俺はもう長くない。だからお前にこの家を、俺の地位を譲る。」

「何言ってんだよ!まだ俺は子供だ、、」

「十五はもう大人だ、、お前は俺より才能がある。きっと仲間を上手く束ねてくれるだろうな。」

「やめろよ、」

「ああ、それとエデルギウス。お前にひとつ言ってないことがある。」

「…」

「お前は、俺という最高に良い保護者に拾われた。俺はその時からずっとお前を家族として接してきたつもりだ。当のお前には分かりにくかったかもしれないがな。だがお前にはまだ出会えていない人がいる。」

「…」

「愛する人だ。お前はその人に会うまで暗い道を歩き続けるかもしれない。だがいつかその人に出会った時は、自分を正直に出すんだ。分かったな?」

「…っそんなの、意味わかんねぇよ!」

「ごめん、、な。」

最後まで笑う男だった。相変わらず長々と喋る男だった。

「…父さん。」

その晩、俺は泣いた。泣いて泣いて泣き尽くして、もう涙は出なかった。

暖かな温もりが俺を包む。心地のいい風と共に目を覚ますと目の前に彼女がいた。

「あら、起きた?随分と寝ていたのよ、仕事は大丈夫なの?」

可愛らしく首を傾げる彼女が愛おしく。俺はジークの言葉を思い出した。

「貴女は、、」

「?」

「俺の愛する人だ。」












しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→

AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」 ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。 お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。 しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。 そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。 お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

転生令嬢はやんちゃする

ナギ
恋愛
【完結しました!】 猫を助けてぐしゃっといって。 そして私はどこぞのファンタジー世界の令嬢でした。 木登り落下事件から蘇えった前世の記憶。 でも私は私、まいぺぇす。 2017年5月18日 完結しました。 わぁいながい! お付き合いいただきありがとうございました! でもまだちょっとばかり、与太話でおまけを書くと思います。 いえ、やっぱりちょっとじゃないかもしれない。 【感謝】 感想ありがとうございます! 楽しんでいただけてたんだなぁとほっこり。 完結後に頂いた感想は、全部ネタバリ有りにさせていただいてます。 与太話、中身なくて、楽しい。 最近息子ちゃんをいじってます。 息子ちゃん編は、まとめてちゃんと書くことにしました。 が、大まかな、美味しいとこどりの流れはこちらにひとまず。 ひとくぎりがつくまでは。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

処理中です...