Weapons&Magic 〜彼はいずれ武器庫<アーセナル>と呼ばれる〜

ニートうさ@秘密結社らびっといあー

文字の大きさ
20 / 221
第一部 〜始まり〜

第十九話

しおりを挟む
あれから数時間が経った。

「アル入るぞ、起きてるか?」
フリードが部屋の外からアルージェの様子を見る。

「父さん・・・。ごめん、寝てた・・・」
アルージェはその声で目が覚める。


「あぁ、気にするな!それより、さっき村長が来てな、どうやらアイン達のために宴を開くらしい。なぜこんな時にとは思ったが、アインがこんな時こそみんなで一緒に騒ぎたいって言ってるらしい。俺達も参加しようと思うんだが、アルも一緒に行かないか?少しは外の空気を吸ったほうがいい」
フリードはアルージェの気を少しでも紛らわす為に提案する

「・・・わかった」
あまり乗り気ではなかったが、すこし寝たら大分冷静になった。
アイン達にお礼を言わないといけない思ったので、宴に参加することにした。

小高い丘の広場に行くと、すでに宴が始まっていた。

「今日は皆さん俺達が食料とか出すんで、肉いっぱい食べましょう!」
アインが村人達にシェリーび行方を捜索したついでに狩っていた動物の肉を振舞う。
酒も村長に頼んで、村に置いていたものをいくつか融通してもらったらしい。

「嬢ちゃんたちは恋人とかはいるんか!?」

「町の人はみんな美人な人ばっかりか!!」

村人達は酒が入り、見た目のいい冒険者のカレンとラーニャにも絡んでいた。

「私達が特別美人なだけ、町も村も変わんないわよ!」
カレンは誇らしげに答えている。

「私は神に全てを捧げているので、恋人はいませーん!」
ラーニャも楽しそうに答えていた。

アルージェはそれを見て少し悲しい気持ちになった。
「シェリーが死んだのに、みんなどうしてあんなに楽しそうにできるんだよ」
捨て台詞のように吐き捨て、宴の中心から一番離れた場所に移動する。

木を横に倒しただけの即席のベンチに座る。

「そういえば、バトルウルフに襲われて死にそうになった時のあの記憶はなんだろ?僕は生まれた時からこの村にいるはから、あんなにきれいなところ知らないはずだ。それにあんな武器のことが詳しく書かれた箱、僕は知らない」
記憶を引き上げるようにブツブツと呟き、色々と思い出していた。

「隣、いいかな?」
一人で座っているアルージェにアインが話しかけてきた。

「あっ、はい。どうぞ」
アルージェはアインも座れるように少し横にずれる。

「ありがとう、体はもう大丈夫かい?」
アインは腰を下ろしながら話を続ける

「ラーニャさんに治してもらったから大丈夫」
アインの方へ視線を移すことなく答える。

「そうか、それはよかったよ。ラーニャもアルージェのこと心配してたよ。まだ子供なのにあんなにケガして大丈夫かってね。でもアルージェが大丈夫っていうんなら大丈夫なんだろう」
アインは手に持っていた飲み物をグビグビと飲む。

「アルージェも飲むかい?」
アインは自分が飲んでいた容器をアルージェに差し出す。

「ううん、僕はまだお酒は飲んじゃダメなんだよ」
アルージェは首を横に振って断る。

「あはは、これはお酒じゃないよ。森で取ってきた果実を絞って作った果汁さ。実は僕もお酒は飲めないんだ」
アインは少し照れくさそうに笑う。

「飲んでみなよ」
アインは手に持った容器をアルージェに渡す。

あまり気分では無かったが飲まないと終わりそうになかったので、ゴクリと一口飲んでみる。

「おいしい」
この飲み物シェリーと一緒に飲みたかったそう思うと涙が溢れてくる。

「そうだろ?これはここら辺の森にしかできない果物から絞ったものだから、普段はあまり飲めないんだけどね。冒険者の中でもおいしいと有名なんだよ。貴族からも依頼されることがあるくらいだしね」

アルージェはチョビチョビと容器に入っていた飲み物を飲み干す。

「おぉ、全部飲んだね!おいしかっただろ?」
アインはアルージェが落ち込んでいるのは分かっていたが、それでも明るく振る舞う。

「アインさーん、こっちにも来てくださいよー!」
村の若い女性たちがアインを呼ぶ。

「いやー、参ったなぁ。今、行くよ!その飲み物のおかわりをあそこに置いてるからね。好きなだけ飲んでいいよ!んじゃ、僕は呼ばれてるから向こうにいくよ」
アインは女性達のほうに行こうとする。

「あ、あの」
アルージェが声をかけて引き留める。

「ん?どうしたんだい?」
アインはアルージェに声を掛けられ、振り返る。

「バトルウルフの群れから助けてくれてありがとうございました。僕、アインさん達みたいに強くなりたいです。僕を連れていってください」
アルージェは真剣な目でアインの目を見つめる。

「あはは、いやこっちも参ったなぁ」
アインは頭をポリポリと掻き、アルージェの真剣な目を見て本気だと察する。


「冒険者なんて明日には死んでるかもしれない職業だよ?」
アインもアルージェの目を見て真剣に話し始める。

「命の保証はされない。何かあっても自己責任。腕を失おうと足を失おうとギルドからは何も補填はされない。そんな厳しい世界さ。アルージェのお父さんはこの村で畑を持っていて、きっと死んでしまってもアルージェに引き継がれるはずさ。それに君の代になればもっとこの村が開拓されて、さらに大きな畑を貰ってるかもしれない。今以上に安定して暮らせる可能性まである。それを捨ててまで冒険者になるのはおすすめしないな」

だがアインはこれくらいでアルージェが引いてくれるとは思っていない。
そもそもこれくらいで心変わりするなら、初めから言わないだろうとわかっている。

「僕アインさん達に付いて行きたいです」
アルージェはそれでもアインについていく、意思を見せる。

「まぁ、そうだよね。はぁ、アルージェ。冒険者になるためにはそもそも十歳にならないといけない。だからもしも君が十歳になってもまだ冒険者になりたいと思うなら、近くに"フォルスタ”っていう町がある。そこの冒険者ギルドで冒険者登録するといいよ。そこで僕達の名前を言ってくれればいつかは会えるだろうさ。その時は一緒に冒険しようよ」
アインはアルージェに握手を求める。

「わかりました・・・」
納得はしていないが、ルールがあるなら仕方ないと思いアインと握手をする。

「んじゃ、僕は呼ばれてるから行くね」
アインは「またね」とアルージェから離れていく。

これからもっと修行頑張ろう。
もっと強くなろうとアルージェは決意する。

「ねぇ、ちょっといい?」

「うわっ!」
アルージェは不意に声をかけられて驚き、飲み物の容器を落とす。

「あぁ、ごめんごめん。驚かす気はなかったのよ」
アルージェが容器を拾いながら声のする方へ視線を向けると、カレンとラーニャが立っていた。


「僕に何か用?」
アルージェは二人から声を掛けられるとも思っていなかったので恐る恐る尋ねる。

「アルージェだよね?君なんで魔法は使わないの?」
カレンはなぜかそんなことを聞いてくる。

「僕魔法は使えないよ。使い方がわからないし、村で魔法を使ってる人いないし」

「ふーん、そうなんだ。てっきり使えるもんだと思ってた」

カレンはアルージェの足から頭までをじっくりと観察する。

「まぁ、魔法使えるなら、そんな馬鹿みたいに常に魔力出しっぱなしにはしてないか」
カレンはよくわからないことをぼそぼそと呟く。

「ねぇ、アルージェは魔法使いたい?もし、魔法に興味があるなら、王都にあるルミアス魔法学校に行くといいわ。そこでこれを門番に渡して」
カレンはと杖につけていた何かのキーホルダーのようなものをアルージェに渡した。

「王都なんていけるかわからないけど、いつか行ってみるね」
アルージェは素直にキーホルダーのようなものを受け取った。

「そうね、君ならいつでも大歓迎。来れるなら早いほうがいいけど、まぁもういつ来ても変わらないかな。んじゃ、私はそれだけだから」
カレンは村人達と飲んでいた席に戻っていった。

「アルージェ君、傷は大丈夫?」
カレンが去った後はラーニャが声をかけた。

「は、はい。あの時はありがとうございました!」
アルージェは傷を治してくれた綺麗なラーニャに緊張していた。

「元気が戻ってよかった。魔物に襲われた子は心に傷を抱えてしまうことが多くて心配してたの」
ラーニャはホッと胸を撫でおろす。

「アルージェ君はまだまだ子供だから、周りの人にいっぱい頼っていいからね。そうやって子供は大きくなっていくのだから」
アルージェを優しく抱きしめる、

「あ、ありがとうございます」
母以外にこのように抱きしめられたことのないアルージェは頬を赤くする。

「それじゃあ私もあっちに戻るね」
ラーニャはアルージェから離れて、手を振ってからカレンのところに向かう。

ラーニャの言う通りアルージェが心に傷を抱えることはなかった。
だが、この日からアルージェが笑顔になる頻度が目に見えて減った。

--------------------Weapons&Magic第一部「始まり」完--------------------
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...