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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしと王子の襲来
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その日、先触れも無くフィリップ王子が屋敷に現れた。
急いでこちらに王子の到着を知らせに来た執事(マクシミリアンでは無く邸の管理を総括している老執事、ミハエルだ)を追い抜く勢いで彼は、ずかずかとこちらに近づいて来た。
今日もとてつもない美形だなぁ…とそのご尊顔を見ながら思ってしまう。
彼が訪ねて来た理由は……婚約関係の事だろう。
マクシミリアンとジョアンナがわたくしの前に立とうとしたのを、さっと手で抑える。
「何故婚約者じゃなく、婚約者候補なのだ!」
怒っている…と言うよりも何かを訴えるような必死な面差しで開口一番王子が言った。
「御機嫌よう殿下。取り合えず…落ち着いて下さいませ?」
ジョアンナに椅子をもう一脚用意して貰い、王子にそちらに着席して貰う。
フィリップ王子が椅子に座った瞬間にマクシミリアンが流麗な仕草で紅茶を殿下の前にそっと置いた。
「さぁどうぞ。マクシミリアンの淹れる紅茶はとても美味しいの」
おっとりと余裕を見せながら微笑むと、王子は黙って上目遣いでわたくしの事を伺いながら紅茶に口を付けた。
はー上目遣いのイケショタ可愛い。
「…本当に、美味いな」
「ふふ、自慢のわたくしの執事ですの」
マクシミリアンの腕を取りながらわたくしが言うと、
「まだ執事見習いです、お嬢様」
とマクシミリアンがわたくしの頭を撫でながら満更でも無さそうに答えた。ああ、ちょっと得意そうな推しも可愛いわね。
「その従僕は?」
不機嫌を丸出しにした口調で王子が訊ねる。
あら、何かご機嫌に障ったかしら?
「セルバンデス男爵家の三男、マクシミリアン・セルバンデスにございます。お見知りおきを、殿下」
とマクシミリアンが臣下の礼を取る。
ふん、と鼻を鳴らして殿下がマクシミリアンから目を反らした。
マクシミリアンの事はお気に召さなかったようね。
「婚約の件ですけれど…」
わたくしは砂糖を紅茶に入れ、緩くかき混ぜながら言葉を紡いだ。
「わたくしも殿下も、まだ7歳ですのよ。まだまだ色々な出来事や出会いがあるでしょう。もしも殿下に好きな人が出来て、わたくしがその恋の邪魔になってしまったらなんて思うと…」
ヒロインとか、ヒロインとか。
「そんな事があったらわたくし耐えられませんわ。なので15歳まで、待って欲しいのです」
「……15になれば、必ず婚約してくれるのか?」
王子がむくれた表情で念押しして来る。
あらあら。今日は感情を剥き出しにして普通のショタみたいね。
先日の大人の仮面を被った賢い王子様、の印象が霧散していて、今日の方が好感が持てる。
「はい、何事もございませんでしたら」
王子の心変わりとか、畑仕事を許してくれる貴族からのプロポーズとか、南国への駆け落ちとか、南国への国外追放とか、ゲームの強制力による何かとか。
そんな『何事』かが起こらなければ、わたくしは王妃になるしかない。
王妃はなりたくないので、15まで何事も無かったとしても辞退したい訳なのだが、流石に不敬なのでそれは言えない。
王妃になってもいいかな?と思えるくらいこの王子様の事が好きになれれば別なのかもしれないけれど。
今の所『イケショタだな~世界的モデルになれるね』と言う程度の感情しか彼には抱いていない。
「……本当だぞ?」
フィリップ王子のわたくしを見る目が、捨てられた子犬のようで少し動揺してしまう。
濃い金色の瞳が、不安を表すかのように揺れている。
「お嬢様が殿下の事を好きになったら、婚約を早めて下さい~なんて言う可能性もございますよねぇ」
コトリ、とテーブルにマカロンを置きながらジョアンナがとんでもない事を言った。
どうして、どうして煽るような事を言うの貴女!?
しかも何の予備動作も無く王子との会話に切り込んで来た!あなたすごい度胸ね!?
わたくしが唖然として見るとジョアンナはニヤニヤとしている。
マクシミリアンが凄い反応速度でジョアンナを睨む。
マクシミリアン、お顔が怖いわ。
「メイド、良い事を言うな!名はなんと言う」
「ジョアンナと申します殿下。王室への納品もしております、ストラタス商会の娘にございます。いつもご贔屓にして頂き誠にありがとうございます。このマカロンもうちの商会のものなのですよ」
にっこりといい笑顔でジョアンナが言った。
ああ…実家の事を推したかったのね。なんて、なんて計算高い子なの。
「そうか、そうか。これからも贔屓にするよう母に進言しよう」
にこにこと機嫌を持ち直したフィリップ王子が、マカロンを頬張りながら、うんうんと何度も頷く。
「ビアンカに好きになって貰えるよう、俺は努力しないとな」
そう言って王子が席を立ち、わたくしの前に跪く。
そしてわたくしの手を取って、ゆっくりと長く手に口付けたのだった。
しっとりとした王子の唇が手から離れる。
目が合うと、妖しげで色香のある笑顔を彼は浮かべた。
「覚悟しておけ」
そう言って王子は立ち上がり、動揺しているわたくしの額に更にキスをした。
う…うわぁーそれは流石に照れる…!
真っ赤になったわたくしを見て、王子はとても満足そうに微笑んだ。
「う…へぇ…」
と、勢いに飲まれて変な返事をしながら思わず頷いてしまう。
すごい視線で王子を睨んでいるマクシミリアンに、王子がふんと鼻を鳴らすのが見えた。
この2人は本当に反りが合わないらしい…。
王子はどうしてここまでわたくしとの婚約に拘るのか…。
わ…わたくしの事好きだとか?いやまさか…だって好感を抱かれるような事してないわよ?
王子がお帰りになった後。
マクシミリアンにおデコをすごい勢いで拭かれた。
い…痛い、痛いよマクシミリアン…!
この日から、1週間に1度のペースで王子が邸を訪れるようになり、わたくしはジョアンナの事を少し恨んだ。
急いでこちらに王子の到着を知らせに来た執事(マクシミリアンでは無く邸の管理を総括している老執事、ミハエルだ)を追い抜く勢いで彼は、ずかずかとこちらに近づいて来た。
今日もとてつもない美形だなぁ…とそのご尊顔を見ながら思ってしまう。
彼が訪ねて来た理由は……婚約関係の事だろう。
マクシミリアンとジョアンナがわたくしの前に立とうとしたのを、さっと手で抑える。
「何故婚約者じゃなく、婚約者候補なのだ!」
怒っている…と言うよりも何かを訴えるような必死な面差しで開口一番王子が言った。
「御機嫌よう殿下。取り合えず…落ち着いて下さいませ?」
ジョアンナに椅子をもう一脚用意して貰い、王子にそちらに着席して貰う。
フィリップ王子が椅子に座った瞬間にマクシミリアンが流麗な仕草で紅茶を殿下の前にそっと置いた。
「さぁどうぞ。マクシミリアンの淹れる紅茶はとても美味しいの」
おっとりと余裕を見せながら微笑むと、王子は黙って上目遣いでわたくしの事を伺いながら紅茶に口を付けた。
はー上目遣いのイケショタ可愛い。
「…本当に、美味いな」
「ふふ、自慢のわたくしの執事ですの」
マクシミリアンの腕を取りながらわたくしが言うと、
「まだ執事見習いです、お嬢様」
とマクシミリアンがわたくしの頭を撫でながら満更でも無さそうに答えた。ああ、ちょっと得意そうな推しも可愛いわね。
「その従僕は?」
不機嫌を丸出しにした口調で王子が訊ねる。
あら、何かご機嫌に障ったかしら?
「セルバンデス男爵家の三男、マクシミリアン・セルバンデスにございます。お見知りおきを、殿下」
とマクシミリアンが臣下の礼を取る。
ふん、と鼻を鳴らして殿下がマクシミリアンから目を反らした。
マクシミリアンの事はお気に召さなかったようね。
「婚約の件ですけれど…」
わたくしは砂糖を紅茶に入れ、緩くかき混ぜながら言葉を紡いだ。
「わたくしも殿下も、まだ7歳ですのよ。まだまだ色々な出来事や出会いがあるでしょう。もしも殿下に好きな人が出来て、わたくしがその恋の邪魔になってしまったらなんて思うと…」
ヒロインとか、ヒロインとか。
「そんな事があったらわたくし耐えられませんわ。なので15歳まで、待って欲しいのです」
「……15になれば、必ず婚約してくれるのか?」
王子がむくれた表情で念押しして来る。
あらあら。今日は感情を剥き出しにして普通のショタみたいね。
先日の大人の仮面を被った賢い王子様、の印象が霧散していて、今日の方が好感が持てる。
「はい、何事もございませんでしたら」
王子の心変わりとか、畑仕事を許してくれる貴族からのプロポーズとか、南国への駆け落ちとか、南国への国外追放とか、ゲームの強制力による何かとか。
そんな『何事』かが起こらなければ、わたくしは王妃になるしかない。
王妃はなりたくないので、15まで何事も無かったとしても辞退したい訳なのだが、流石に不敬なのでそれは言えない。
王妃になってもいいかな?と思えるくらいこの王子様の事が好きになれれば別なのかもしれないけれど。
今の所『イケショタだな~世界的モデルになれるね』と言う程度の感情しか彼には抱いていない。
「……本当だぞ?」
フィリップ王子のわたくしを見る目が、捨てられた子犬のようで少し動揺してしまう。
濃い金色の瞳が、不安を表すかのように揺れている。
「お嬢様が殿下の事を好きになったら、婚約を早めて下さい~なんて言う可能性もございますよねぇ」
コトリ、とテーブルにマカロンを置きながらジョアンナがとんでもない事を言った。
どうして、どうして煽るような事を言うの貴女!?
しかも何の予備動作も無く王子との会話に切り込んで来た!あなたすごい度胸ね!?
わたくしが唖然として見るとジョアンナはニヤニヤとしている。
マクシミリアンが凄い反応速度でジョアンナを睨む。
マクシミリアン、お顔が怖いわ。
「メイド、良い事を言うな!名はなんと言う」
「ジョアンナと申します殿下。王室への納品もしております、ストラタス商会の娘にございます。いつもご贔屓にして頂き誠にありがとうございます。このマカロンもうちの商会のものなのですよ」
にっこりといい笑顔でジョアンナが言った。
ああ…実家の事を推したかったのね。なんて、なんて計算高い子なの。
「そうか、そうか。これからも贔屓にするよう母に進言しよう」
にこにこと機嫌を持ち直したフィリップ王子が、マカロンを頬張りながら、うんうんと何度も頷く。
「ビアンカに好きになって貰えるよう、俺は努力しないとな」
そう言って王子が席を立ち、わたくしの前に跪く。
そしてわたくしの手を取って、ゆっくりと長く手に口付けたのだった。
しっとりとした王子の唇が手から離れる。
目が合うと、妖しげで色香のある笑顔を彼は浮かべた。
「覚悟しておけ」
そう言って王子は立ち上がり、動揺しているわたくしの額に更にキスをした。
う…うわぁーそれは流石に照れる…!
真っ赤になったわたくしを見て、王子はとても満足そうに微笑んだ。
「う…へぇ…」
と、勢いに飲まれて変な返事をしながら思わず頷いてしまう。
すごい視線で王子を睨んでいるマクシミリアンに、王子がふんと鼻を鳴らすのが見えた。
この2人は本当に反りが合わないらしい…。
王子はどうしてここまでわたくしとの婚約に拘るのか…。
わ…わたくしの事好きだとか?いやまさか…だって好感を抱かれるような事してないわよ?
王子がお帰りになった後。
マクシミリアンにおデコをすごい勢いで拭かれた。
い…痛い、痛いよマクシミリアン…!
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