悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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多分脱・我儘令嬢をしたわたくしは魔法の実技を頑張る

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青空の下、わたくしとマクシミリアンは緑の大地に布を広げた上で、ジョアンナが作ってくれたお弁当を頬張っていた。
鳥が甲高い鳴き声をあげてどこかへ飛んで行く。
あれは、前世では見なかった鳥ね。なんて言う名前なのかしら?
そんな事を考えながら、唐揚げを飲み下した。あの鳥のお肉じゃないわよね?

わたくしとマクシミリアンは、別にピクニックに来ている訳では無い。
魔法の座学の授業がだいぶ進んだので、実技の授業をする事になったのだ。
前世では空想の産物であった魔法を使えるなんて本当にドキドキする。
実技には広い土地が必要なので、わたくしとマクシミリアンは王都から少し離れた小高い丘に2人で来ている訳である。
魔力の行使には慣れないうちは体力をかなり使うそうなので、お弁当を広げまずは腹ごしらえをしているのだ。
実技の授業の度にマクシミリアンとこうしてのんびり過ごせるなんて、ちょっと役得ね。
ここに来るのも馬に2人乗りだったし。

マクシミリアンは細い体なのに意外とよく食べる。
そして、肉ばかり食べる。あっ、また唐揚げ取った。

「マクシミリアン、野菜も食べなくてはダメよ。栄養が偏りますわ」

6個目の唐揚げを食べようとしていたマクシミリアンに言うとちょっと渋い顔をする。

「わたくし、自分の執事が好き嫌いするのなんて、イヤよ」
「……わかりました」

わたくしがそう重ねて言うと渋々ブロッコリーを口にした。もそもそ、と明らかに無理やり食べている気配がする。
微笑ましい。ゲーム内では実は野菜嫌いだなんて知れなかったけど、こうして側に居るから知れる事があるんだなぁ。
邸では無く解放的な外だからか、いつもよりも精神的な距離感が近い気がする。
対等な関係同士のように自然に並んで過ごせるのが、なんだかとても嬉しかった。

「さて、そろそろ始めますか」

ぐっと水筒のお茶で人参のグラッセを飲み下し、少し渋い顔をした後にマクシミリアンが言った。

「はい、先生!頑張ります!」

そう言って手を上げてにっこり笑うと、マクシミリアンも釣られたように笑った。



「お嬢様が3属性の魔法を使える素養を持っている、と言う事は以前お話したかと思いますが…」

そう、わたくしは火・水・土の3属性の魔法が使えるらしい。
普通でしたら1~2種類しか使えないんですよ、とマクシミリアンが褒めてくれた。
へへへ、ちょっと嬉しい!

「お嬢様は、どの魔法からお勉強したいですか?」
「んーと。畑に魔法で水を撒いてみたいから!水でっ」
「分かりました、ではこちらを…」

何枚かの紙を紐を通して纏めた、テキストを渡してくれる。
これってもしかして…。

「マクシミリアンの、手作り?」
「ええ。分かり辛い事があったら訊いてくださいね」
「すごい!ありがとう!」

わたくしの世話や、父様の執務のお手伝いで忙しいだろうに。
マクシミリアンの心尽くしに温かい気持ちになる。
テキストを開くと、体内の魔力の流れを感知するには、魔力の流れを呪文に乗せる、魔力の放出について…など項目ごとに綺麗に内容が整理してある。
そして簡単な術式の、いくつかの魔法が記載してあった。

「えっと確か…」

座学で覚えた事を思い返す。
魔法に必要なのはイメージする力、それと体内の魔力をコントロールし上手くに呪文に流し込む事。
どちらが足りなくても魔法は真価を発揮しない。

「じゃあこの…ウォーターシャワーの魔法を使ってみたいわ」

この魔法は文字通り、散布機のように水を撒く魔法だ。
元栓を引っ張らずにどこでもお水をシャワーのように散布出来るなんて、スローライフには必須な呪文じゃない?
しかもこのお水はちゃんと飲めるのだ!
習得したらまずは邸の畑に撒こう!

「ふふ、じゃあそれにしましょう。今日は初日なので、体内の魔力の流れを操作するお手伝いを致しますね」

そう言ってマクシミリアンがわたくしの背後に立ち、背中に手を当てる。
すると体の中を、暖かい何かが巡っているのをしっかりと感じ取れた。これが魔力の流れ…。

「私の魔力をお嬢様の体に流して、魔力の流れを感じ取りやすくしてるんです。手を前に出して、指先にこの流れを集めるイメージをして下さい。失敗して覚えればいいのですし、上手くいかなくてもいいので落ち着いて」

耳元でマクシミリアンの声がする。これは…集中し辛い…!けど頑張らないと!
ぎゅっと目を瞑る。指先に体を巡っている流れが集まるように、意識を研ぎ澄ませ、流れを手繰って集めて、送り込む。指の先に、流れが行き渡るのを感じた。

「水よ、煌めき降り注げ」

目を開けて、集まった流れを外に放出する事を意識しながら、詠唱する。

「ウォーターシャワー!」

すると指先がぱぁっと光って、無数の水の粒が舞い、弾け、シャワーのように降り注いだ。

「マクシミリアン!出来た!出来たわ!」

降り注ぐ水の中をくるくる回る。細かな水が肌に当たって心地良い。

「素晴らしいです、お嬢様!最初からこんなに無駄の少ないコントロールが出来るなんて…」

マクシミリアンがニコニコしながら褒めてくれた。
表情を見る限り、お世辞では無いらしい。なんだか照れてしまってへでで、と変な笑い声が漏れた。

この日は、他にも土を下から押し上げるザ・グラウンドの魔法を練習した。
この魔法を極めたら鍬でわざわざ耕さなくても、魔法で土地を耕せるに違いない。
つまり耕運機代わりね。
幼女の体力は少ない。楽が出来る所は楽をしたいのだ。

「お嬢様は、使いたい状況を想定し、イメージを持っているから習得が早いのですね」

わたくしの話を聞きいてマクシミリアンがそう言った。
全部スローライフに繋がるイメージだけど、いいのかな。




ビアンカは。
散布機と耕運機を!手に入れた!
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