悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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令嬢13歳・執事と学園祭デートがしたかった!

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 仮装喫茶のシフトは3交代制になっている。
 わたくしはお昼過ぎには交代が出来て、自由の身……の予定なのだ。
 午後からはノエル様は騎士祭が出るので応援に行きたいし、マリア様の『薬草研究会』の発表も見に行きたい……と考えると、マクシミリアンと学園祭デートが出来るのはせいぜい1時間というところだろう。
 時間を有益に使わないと……!!
 というか今日はマクシミリアンとあまり話が出来ていないのだ……。
 ずっと忙しそうだし……ずっとご令嬢に話しかけられてるし。
 わたくしが休憩になったら、マクシミリアンも他家の使用人の方と交代して貰おう。
 そ……そしてデートに誘うんだ!!
 ちなみにノエル様とマリア様は、騎士祭と『薬草研究会』の発表会の準備で一足早く交代している。

「ビアンカ! 来たよ!」

 その時、執事のハウンドを連れたミルカ王女が手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。
 わざわざ来て下さったんだ……!

「わ、可愛い! ウサギだ!! よく似合ってるね。それってどうなってるの?」

 ミルカ王女に訊ねられたので獣人化薬の事を話すと、彼女は目を輝かせた。

「私も飲みたい。ビアンカとお揃いがしたいわ!」

 そう乞われてわたくしに断る理由なんてない……女友達とお揃いなんて嬉しいし!
 ポケットに入れていた獣人化薬の小瓶を取り出すと、ミルカ王女に手渡した。
 彼女は小瓶を受け取ると躊躇なくそれを一口飲んだ。
 しばらくして……ミルカ王女の頭から生えて来たのは……まぁるいお耳……??

「ひゃあぁあ!!」

 珍しく焦った声を出すミルカ王女が顔を赤くしてスカートの後ろを押さえている。
 スカートの後ろが大きな尻尾のせいで上にずり上がりそうになっているのだ。
 このままではミルカ王女の……スカートの中が見えてしまう……!

「ミ……ミルカ!!」

 ハウンドが慌ててミルカ王女のスカートが上がらないように押さえようと背後に回り尻尾ごと押さえようとする。
 すると布越しに尻尾を触られたミルカ王女はびくりと身を震わせて顔を赤らめた。

「ハウンド、さ……触っちゃだめ!! 尻尾にも感覚が通ってるみたい……!!」

 ミルカ王女の言葉にハウンドは顔も真っ赤にする。

「でもどうしたらいいんスかこれ……!」

 オロオロとするミルカ王女とハウンドに、ユウ君が一枚の大きな布を持って来た。
 そしてふぁさっとミルカ王女の腰にかけてぎゅっと縛った。

「あ……ありがとうサイトーサン……!!」
「どう致しまして。ビーちゃん、ジョアンナさんが予備の獣人用の穴開きスカート持ってないかな? あの人ならビアンカ嬢が汚した時の予備を用意してそうな気がするんだけど……」

 確かにジョアンナは、抜け目なくそういうものを用意していそうだ。

「た……確かに! だけどあの子どこに居るのかしら……!」
「使用人サロンだと思うんで、呼んで来るっス!」

 ハウンドが顔を赤くしたままバタバタと走って行く。
 珍しく本気照れのミルカ王女を見て驚いたのだろう。わたくしもちょっとびっくりしたわ。
 しばらくして、学園祭の準備疲れで使用人サロンで寝こけていたらしいジョアンナが寝ぼけ眼でわたくしとお揃いの青いスカートを持って来た。

「丸いお耳に大きな尻尾……これって栗鼠ですかねぇ。穴をもっと大きく広げないといけませんね」

 言いながらジョアンナはソーイングセットを取り出し、尻尾穴を広げてからまつり縫いをしスカートをミルカ王女に手渡した。うちのメイドは、手際がいい。

「ありがとうジョアンナ! 下着丸出しで歩くハメになるかと思ったわ」

 ミルカ王女は先程の赤面はどこへやらで明るい表情で言う。
 するとその言葉にハウンドはこれ以上赤くならないんじゃというくらい赤い顔をして、ミルカ王女を軽く何度か小突いた。

「ミルカ、下品っス。ダメっス、そんな事言うの」
「だってほんとの事じゃない! ちょっと着替えてくるね」
「あっ、だったら更衣室を……!」

 仮装喫茶なので、うちのクラスはもう1部屋教室を借りて女子更衣室にしているのだ。
 男子には、教室で着替えて貰っている……同じ場所で着替える訳にはいかないものね。
 どちらの教室にも使用人達が待機し着替えを手伝う手筈になっており、至れり尽くせりだなぁ……と思ってしまう。
 着替えを済ませたミルカ王女は大きな栗鼠の尻尾を青いスカートからふりふりと飛び出させて戻って来た。
 か……可愛い!!! これはもふもふしたい!!

「……ミルカ様。もふもふしても?」
「ダメ! くすぐったいの!!」

 ……訊ねてみると、即座に拒絶された。
 先程ハウンドに触られたのが余程くすぐったかったのだろう。残念だわ……。
 そうこうしているうちに……わたくしの休憩時間がやってきた。
 うう……マクシミリアン、また令嬢達に囲まれてる……。でも、声をかけなきゃ。

「マ……マクシミリアン」

 わたくしが声をかけると彼を囲んでいた令嬢の群れがわたくしはモーセかな? と思う勢いでさっと割れた。
 ……睨みつけられたりも嫌だけど……この反応も相変わらず怖がられているのかと思うとなんだか寂しい。

「お嬢様。交代のお時間ですよね。少し学内を見て回りますか? 私も引き継ぎをして参りますね」

 マクシミリアンの言葉にわたくしはコクコクと頷いた。
 や……やった! マクシミリアンと学園祭デートだ!!

「奇遇だなビアンカ。俺も交代なんだ。一緒に見て回っても?」

 フィリップ王子が輝かんばかりの笑顔でこちらへ歩み寄って来る……。
 ううう……なんですとぉ……。
 いや、でも当然そうですよね。同じシフトで……別のクラスなのになぜか……働いてらっしゃったんですものね。

「――フィリップ様、馬に蹴られて死ぬわよ?」

 ユウ君から貰ったケーキをもぐもぐと食べながらミルカ王女がじっとりとした目でフィリップ王子を見る。
 そうだそうだ! ミルカ王女頑張って!!

「可愛いビアンカとゆっくり過ごす機会は滅多にないからな。その機会が得られるなら蹴られて死んでもいい。……ビアンカはいつもすぐに逃げてしまうからな」

 そう……わたくしは、なるべくフィリップ王子と二人っきりにならないように日々逃げ回っている。
 だってフィリップ王子、すごい勢いで口説いてくるんだもの……!!
 きらきらとした素敵な人に口説かれて逃げ回る羽目になるなんて、前世では考えもしなかった。

「えっと……その。フィリップ様、今日はご予定は無いのですか?」
「……ビアンカと共に居るのが俺の予定だ。どこへ行く?」

 眩しい笑顔で言われ、どうしていいのか分からない。
 失礼にならないようにお断りするにはどうすればいいのかしら。
 マ……マクシミリアンとデートがしたいんですって言えるものなら言いたいのだけど……!!
 マクシミリアンの方を救いを求めるように見ると、彼は小さく頷いた。

「フィリップ王子。お嬢様はお疲れなので……しばらくお一人にして差し上げては?」
「どうせお前が一緒に居るのに何が一人だ、マクシミリアン」
「……私はお嬢様の影のようなものなので」

 2人の間に、険悪は空気が流れる……。辛い、この空気は本当に辛い。

「フィリップ様……」

 わたくしは、意を決してフィリップ王子に声をかけた。
 学生時代からの憧れである学園祭デートなのだ。是非、体験したいの。
 来年、再来年もあると言われてしまえばそうなのだけど……!!
 どう切り出そうか悩むわたくしを、フィリップ王子は悪戯っぽい表情で微笑みながら見つめてくる。

「あの……! わたくし一人で回ろうかと……」
「ビアンカ。まさか憐れな俺の誘いを……断ったりはしないよな?」
「ぐっ……!!」

 断ろうと発した言葉はフィリップ王子の言葉にばっさりと切り落とされた。
 周囲の方々もなんだか興味津々で見ているし……もう、どうすれば……!!
 思わず涙目になったわたくしの頭を、ぽふり、とフィリップ王子が撫でた。

「……すまん。可愛くてつい、虐めすぎた」

 頭をそのままぐりぐりと撫でられる。……昔から、フィリップ王子は撫で撫でが下手である。
 そう思いながらも撫でられていると子供の頃を思い出して少し懐かしい気持ちになった。

「俺はビアンカと一緒にいられれば、それでいい。良ければミルカ王女やゾフィーも誘って皆で回らないか?……それも、嫌か?」

 フィリップ王子は少し悲しそうな顔をしながら、そう訊ねてくる。

「いえ……嫌じゃ、ありません」

 わたくしは……そう答えた。
 フィリップ王子が嫌いで逃げ回っている訳じゃないのだ……『婚約』というのが問題なだけで。
 ――マクシミリアンとの学園祭デートはふいになってしまうけど、フィリップ王子も妥協してくれたのだ。
 来年、再来年に期待しよう。それに……後夜祭もあるし。
 そう、後夜祭をマクシミリアンと過ごす。それを目標にしよう!!
 わたくしはそう決意を固め、拳を握った。

「ビアンカ・シュラット! 今日も貴女の醜態を見に来てあげたわ!!」

 聞き覚えのある声が響き、小さな影が目の前に躍り出て、わたくしの目の前でふふん、と胸を張った。
 ……わたくしと同じくフィリップ王子の婚約者候補のベルリナ様だ。
 学園祭で忙しいのか今日は取り巻きさん達がおらず一人のようだ。
 近頃彼女の襲来は近頃週2~3ペースに落ち着いており……すっかり日々の生活の一部となっている。
 ベルリナ様はふぁさっと金の縦ロールをかき上げてこちらを見て……。
 ようやくフィリップ王子の存在に気付いたようだった。

「フィ……フィリップ王子!!!」

 ベルリナ様は青い顔になり、慌ててフィリップ王子にカーテシーをした。

「久しいな、ベルリナ嬢」

 フィリップ王子が金色の豪奢な髪を揺らし金色の目を細めながら余所行き顔で微笑むと、ベルリナ嬢はぽっと頬を染めた。
 王子の微笑に当てられ周囲のご令嬢……ご令息達の一部も……頬を染めたり、くらりとふらついたりしている。
 相変わらず美貌の威力がすごい。あそこで床に転がっているのはゾフィー様ね……後で助け起こしに行こう。

 ――そうだ。この機会にベルリナ嬢とフィリップ王子に交流を深めて貰うのはどうかしら……!!

「べ……ベルリナ様! 今から皆様と校内を回るのですけど……一緒にいかがですか!?」
「ビアンカ、貴女何を言っているの!? 私と貴女は仲良しでは……」
「……フィリップ王子も、一緒です」

 わたくしが小声でそう言うとベルリナ様は目を大きく見開いて……。

「し……仕方ないわね。貴女がそれだけ頼むなら、仕方なくついて行ってあげるわ!」

 と言って小さな胸を張った。

 結局学園祭は、フィリップ王子、ベルリナ様、ミルカ王女、ゾフィー様、ハウンド、そしてわたくしとマクシミリアン……と大所帯で回る事になった。
 うん、友達とわいわいしながら学園祭を巡るのも、青春感があってこちらはこちらでテンションが上がるのだけど……。

「……マクシミリアンと、デートもしたかったわ……」

 思わず、未練がましくマクシミリアンにしか聞こえないようにそう呟いてしまう。
 するとマクシミリアンが少し嬉しそうに笑って……。

「……お嬢様。デートならいくらでもして差し上げますよ? 明日は、お休みでしたよね。行きたいところ……考えておいて下さいね」

 ――――と囁いてくれたから。
 わたくしは現金にも、元気になってしまった。
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