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令嬢13歳・令嬢たちの後夜祭・後
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「マクシミリアン!」
ミルカ王女と手を繋いでマクシミリアンのところへと走り寄る。すると彼は両手を広げてニコニコしながら待っていた。……これは抱きつけってことよね。
……抱きつきたいけど。公共の場なのよ! うう……でも抱きつきたい……!
そうやってわたくしがまごまごしていると、彼が一歩前へ進み出てふわりと優しく抱きしめてくる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
そして甘い蕩けるような笑みを浮かべた。
マクシミリアン、ここは公共の場!! でも今日はあまり彼と過ごせなかった分、この体温を手放し難くもあって困る。
どうしていいのかわからずに、わたくしは結局彼に抱きしめられたままになってしまった。
「……マクシミリアン、人前よ」
「いいんです、見せつけるためなんですから。私が貴女にご執心であることを皆様に知って頂きませんと」
そう言いながら彼は少し屈んで頬に優しく口付ける。ひゃあ……マクシミリアンが甘い……!
「マクシミリアンさん、ずるいなぁ」
ユウ君が唇を尖らせながらジト目で言う。そんなユウ君にマクシミリアンはにやりと意地の悪い笑顔を見せた。
「出会った順番が悪かったですね、サイトーサン伯爵。貴方が先に出会っていたらお嬢様のお心は貴方のものだったかもしれません」
「……厳密に言うとこっちの方が先なんだけど。ま、仕方ないよね。ビーちゃんの気持ちが君にあるんだから。……ビーちゃんの幸せが一番大事」
ユウ君の言葉にどう反応していいのかわからなくて、じっと見つめると彼はふわりと優しい笑みを浮かべた。
高校の時から変わらない笑顔になんだか胸がぎゅっとしてしまう。
「……サイトーサン伯爵がそんなだから。本気を出されたら負けそうな気がしてしまうんですよ」
マクシミリアンは悔しそうな顔をしながらわたくしを抱く力を強くした。人前なのに密着度がすごいですよマクシミリアン!!
……横から刺さるベルリナ様の視線がものすごく痛いです……。
わたくし、マクシミリアン以外との将来なんてもう考えられないのだから、安心して欲しいんだけどなぁ。マクシミリアンは心配性だ。
「サイトーサンと婚姻してもビアンカはパラディスコに来てくれるし、私はそれでも別にいいんだけどねぇ」
ミルカ王女がふわふわとした笑みを浮かべながら冗談めかした口調で言うと、マクシミリアンはわたくしを抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「ダメです、お嬢様はあげません!」
「マ……マクシミリアン! 踊りましょう!! 貴方と踊るのを楽しみにしてたのよ!」
このままだと人前で何をされるかわからない。
わたくしが慌てて言うと、マクシミリアンはとても嬉しそうな華やいだ笑みを浮かべた。あー可愛いなぁ、もう!
彼に手を引かれて歩みを進めると周囲からのなにかを測るような視線がこちらへと向く。それと、マクシミリアンへの明らかな女性たちからの恋慕の視線が。
マクシミリアンは格好いいから仕方ないんだけど! 特に今日は正装もしてるし!……これにも慣れないといけないんだろうなぁ。
「では、踊ってくださいませ。ビアンカ嬢」
彼はそう言うとわたくしの手の甲に恭しく唇を押し当てて微笑んだ。
「……喜んで、セルバンデス卿」
わたくしも微笑み返して、マクシミリアンの体にそっと身を預けた。
ゆっくりとした曲調の楽団の演奏に合わせてわたくしたちは寄り添いあいながら踊った。
どうしよう、これが感無量と言うやつかしら。マクシミリアンと公の場で堂々と踊れるようになるなんて少し前までは思わなかったもの。
夢みたいで、なんだかふわふわとした気持ちになってしまう。夢だったらやだなぁ、そんなの号泣するわ。
「……まるで夢みたいですね」
マクシミリアンも同じことを考えていたようで綺麗な唇から小さな呟きが漏れた。
「夢じゃ……ないのよね!」
「ええ、夢じゃありません」
マクシミリアンと寄り添ってくるくると回るのが楽しくて、この時間が終わってしまうのが寂しいだなんて思ってしまう。
ふと隣を見ると、ミルカ王女とハウンドも楽しそうに踊っていた。この二人は美男美女だから絵になるなぁ……くそぅ、ハウンドのくせに!
遠くに見えるのはマリア様と先生だ。年の差カップル、のはずなのだけどマリア様の所作に落ち着きがあるせいか違和感なくお似合いだ。
ノエル様はあのお怪我で踊るのは無理だろうから、会場のどこかでゾフィー様と寄り添っているのだろう。その様子を想像すると、わたくしも微笑ましい気持ちになってしまう。
元いた方を見るとベルリナ様が戻って来たらしいフィリップ王子の手を引っ張ってダンスフロアに出ようとしていた。が……頑張れ! 頑張れベルリナ様!
近くには酔っているのか明らかに調子っぱずれなダンスを踊っているジョアンナに、楽しそうに付き合っているユウ君の姿も見える。ジョアンナ……あんなに食べていたのによく踊れるなぁ。
皆の楽しそうな姿を見ていると自然に顔がほころんでしまう。
……エイデン様とシュミナ嬢も、この人混みの中で踊っているんだろうか。
それぞれが幸せな夜を過ごせていたらいいなぁ……。
そんなことを思いながらわたくしはマクシミリアンの胸に顔を埋めた。
「二曲目も、続けて踊ってしまいましょうか」
悪戯っぽく言うマクシミリアンに、わたくしは一も二もなく頷いた。
ミルカ王女と手を繋いでマクシミリアンのところへと走り寄る。すると彼は両手を広げてニコニコしながら待っていた。……これは抱きつけってことよね。
……抱きつきたいけど。公共の場なのよ! うう……でも抱きつきたい……!
そうやってわたくしがまごまごしていると、彼が一歩前へ進み出てふわりと優しく抱きしめてくる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
そして甘い蕩けるような笑みを浮かべた。
マクシミリアン、ここは公共の場!! でも今日はあまり彼と過ごせなかった分、この体温を手放し難くもあって困る。
どうしていいのかわからずに、わたくしは結局彼に抱きしめられたままになってしまった。
「……マクシミリアン、人前よ」
「いいんです、見せつけるためなんですから。私が貴女にご執心であることを皆様に知って頂きませんと」
そう言いながら彼は少し屈んで頬に優しく口付ける。ひゃあ……マクシミリアンが甘い……!
「マクシミリアンさん、ずるいなぁ」
ユウ君が唇を尖らせながらジト目で言う。そんなユウ君にマクシミリアンはにやりと意地の悪い笑顔を見せた。
「出会った順番が悪かったですね、サイトーサン伯爵。貴方が先に出会っていたらお嬢様のお心は貴方のものだったかもしれません」
「……厳密に言うとこっちの方が先なんだけど。ま、仕方ないよね。ビーちゃんの気持ちが君にあるんだから。……ビーちゃんの幸せが一番大事」
ユウ君の言葉にどう反応していいのかわからなくて、じっと見つめると彼はふわりと優しい笑みを浮かべた。
高校の時から変わらない笑顔になんだか胸がぎゅっとしてしまう。
「……サイトーサン伯爵がそんなだから。本気を出されたら負けそうな気がしてしまうんですよ」
マクシミリアンは悔しそうな顔をしながらわたくしを抱く力を強くした。人前なのに密着度がすごいですよマクシミリアン!!
……横から刺さるベルリナ様の視線がものすごく痛いです……。
わたくし、マクシミリアン以外との将来なんてもう考えられないのだから、安心して欲しいんだけどなぁ。マクシミリアンは心配性だ。
「サイトーサンと婚姻してもビアンカはパラディスコに来てくれるし、私はそれでも別にいいんだけどねぇ」
ミルカ王女がふわふわとした笑みを浮かべながら冗談めかした口調で言うと、マクシミリアンはわたくしを抱きしめる腕にさらに力を込めた。
「ダメです、お嬢様はあげません!」
「マ……マクシミリアン! 踊りましょう!! 貴方と踊るのを楽しみにしてたのよ!」
このままだと人前で何をされるかわからない。
わたくしが慌てて言うと、マクシミリアンはとても嬉しそうな華やいだ笑みを浮かべた。あー可愛いなぁ、もう!
彼に手を引かれて歩みを進めると周囲からのなにかを測るような視線がこちらへと向く。それと、マクシミリアンへの明らかな女性たちからの恋慕の視線が。
マクシミリアンは格好いいから仕方ないんだけど! 特に今日は正装もしてるし!……これにも慣れないといけないんだろうなぁ。
「では、踊ってくださいませ。ビアンカ嬢」
彼はそう言うとわたくしの手の甲に恭しく唇を押し当てて微笑んだ。
「……喜んで、セルバンデス卿」
わたくしも微笑み返して、マクシミリアンの体にそっと身を預けた。
ゆっくりとした曲調の楽団の演奏に合わせてわたくしたちは寄り添いあいながら踊った。
どうしよう、これが感無量と言うやつかしら。マクシミリアンと公の場で堂々と踊れるようになるなんて少し前までは思わなかったもの。
夢みたいで、なんだかふわふわとした気持ちになってしまう。夢だったらやだなぁ、そんなの号泣するわ。
「……まるで夢みたいですね」
マクシミリアンも同じことを考えていたようで綺麗な唇から小さな呟きが漏れた。
「夢じゃ……ないのよね!」
「ええ、夢じゃありません」
マクシミリアンと寄り添ってくるくると回るのが楽しくて、この時間が終わってしまうのが寂しいだなんて思ってしまう。
ふと隣を見ると、ミルカ王女とハウンドも楽しそうに踊っていた。この二人は美男美女だから絵になるなぁ……くそぅ、ハウンドのくせに!
遠くに見えるのはマリア様と先生だ。年の差カップル、のはずなのだけどマリア様の所作に落ち着きがあるせいか違和感なくお似合いだ。
ノエル様はあのお怪我で踊るのは無理だろうから、会場のどこかでゾフィー様と寄り添っているのだろう。その様子を想像すると、わたくしも微笑ましい気持ちになってしまう。
元いた方を見るとベルリナ様が戻って来たらしいフィリップ王子の手を引っ張ってダンスフロアに出ようとしていた。が……頑張れ! 頑張れベルリナ様!
近くには酔っているのか明らかに調子っぱずれなダンスを踊っているジョアンナに、楽しそうに付き合っているユウ君の姿も見える。ジョアンナ……あんなに食べていたのによく踊れるなぁ。
皆の楽しそうな姿を見ていると自然に顔がほころんでしまう。
……エイデン様とシュミナ嬢も、この人混みの中で踊っているんだろうか。
それぞれが幸せな夜を過ごせていたらいいなぁ……。
そんなことを思いながらわたくしはマクシミリアンの胸に顔を埋めた。
「二曲目も、続けて踊ってしまいましょうか」
悪戯っぽく言うマクシミリアンに、わたくしは一も二もなく頷いた。
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