悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
203 / 222

令嬢13歳・令嬢たちの後夜祭・後

しおりを挟む
「マクシミリアン!」

 ミルカ王女と手を繋いでマクシミリアンのところへと走り寄る。すると彼は両手を広げてニコニコしながら待っていた。……これは抱きつけってことよね。
 ……抱きつきたいけど。公共の場なのよ! うう……でも抱きつきたい……!
 そうやってわたくしがまごまごしていると、彼が一歩前へ進み出てふわりと優しく抱きしめてくる。

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 そして甘い蕩けるような笑みを浮かべた。
 マクシミリアン、ここは公共の場!! でも今日はあまり彼と過ごせなかった分、この体温を手放し難くもあって困る。
 どうしていいのかわからずに、わたくしは結局彼に抱きしめられたままになってしまった。

「……マクシミリアン、人前よ」
「いいんです、見せつけるためなんですから。私が貴女にご執心であることを皆様に知って頂きませんと」

 そう言いながら彼は少し屈んで頬に優しく口付ける。ひゃあ……マクシミリアンが甘い……!

「マクシミリアンさん、ずるいなぁ」

 ユウ君が唇を尖らせながらジト目で言う。そんなユウ君にマクシミリアンはにやりと意地の悪い笑顔を見せた。

「出会った順番が悪かったですね、サイトーサン伯爵。貴方が先に出会っていたらお嬢様のお心は貴方のものだったかもしれません」
「……厳密に言うとこっちの方が先なんだけど。ま、仕方ないよね。ビーちゃんの気持ちが君にあるんだから。……ビーちゃんの幸せが一番大事」

 ユウ君の言葉にどう反応していいのかわからなくて、じっと見つめると彼はふわりと優しい笑みを浮かべた。
 高校の時から変わらない笑顔になんだか胸がぎゅっとしてしまう。

「……サイトーサン伯爵がそんなだから。本気を出されたら負けそうな気がしてしまうんですよ」

 マクシミリアンは悔しそうな顔をしながらわたくしを抱く力を強くした。人前なのに密着度がすごいですよマクシミリアン!!
 ……横から刺さるベルリナ様の視線がものすごく痛いです……。
 わたくし、マクシミリアン以外との将来なんてもう考えられないのだから、安心して欲しいんだけどなぁ。マクシミリアンは心配性だ。

「サイトーサンと婚姻してもビアンカはパラディスコに来てくれるし、私はそれでも別にいいんだけどねぇ」

 ミルカ王女がふわふわとした笑みを浮かべながら冗談めかした口調で言うと、マクシミリアンはわたくしを抱きしめる腕にさらに力を込めた。

「ダメです、お嬢様はあげません!」
「マ……マクシミリアン! 踊りましょう!! 貴方と踊るのを楽しみにしてたのよ!」

 このままだと人前で何をされるかわからない。
 わたくしが慌てて言うと、マクシミリアンはとても嬉しそうな華やいだ笑みを浮かべた。あー可愛いなぁ、もう!
 彼に手を引かれて歩みを進めると周囲からのなにかを測るような視線がこちらへと向く。それと、マクシミリアンへの明らかな女性たちからの恋慕の視線が。
 マクシミリアンは格好いいから仕方ないんだけど! 特に今日は正装もしてるし!……これにも慣れないといけないんだろうなぁ。

「では、踊ってくださいませ。ビアンカ嬢」

 彼はそう言うとわたくしの手の甲に恭しく唇を押し当てて微笑んだ。

「……喜んで、セルバンデス卿」

 わたくしも微笑み返して、マクシミリアンの体にそっと身を預けた。
 ゆっくりとした曲調の楽団の演奏に合わせてわたくしたちは寄り添いあいながら踊った。
 どうしよう、これが感無量と言うやつかしら。マクシミリアンと公の場で堂々と踊れるようになるなんて少し前までは思わなかったもの。
 夢みたいで、なんだかふわふわとした気持ちになってしまう。夢だったらやだなぁ、そんなの号泣するわ。

「……まるで夢みたいですね」

 マクシミリアンも同じことを考えていたようで綺麗な唇から小さな呟きが漏れた。

「夢じゃ……ないのよね!」
「ええ、夢じゃありません」

 マクシミリアンと寄り添ってくるくると回るのが楽しくて、この時間が終わってしまうのが寂しいだなんて思ってしまう。
 ふと隣を見ると、ミルカ王女とハウンドも楽しそうに踊っていた。この二人は美男美女だから絵になるなぁ……くそぅ、ハウンドのくせに!
 遠くに見えるのはマリア様と先生だ。年の差カップル、のはずなのだけどマリア様の所作に落ち着きがあるせいか違和感なくお似合いだ。
 ノエル様はあのお怪我で踊るのは無理だろうから、会場のどこかでゾフィー様と寄り添っているのだろう。その様子を想像すると、わたくしも微笑ましい気持ちになってしまう。
 元いた方を見るとベルリナ様が戻って来たらしいフィリップ王子の手を引っ張ってダンスフロアに出ようとしていた。が……頑張れ! 頑張れベルリナ様!
 近くには酔っているのか明らかに調子っぱずれなダンスを踊っているジョアンナに、楽しそうに付き合っているユウ君の姿も見える。ジョアンナ……あんなに食べていたのによく踊れるなぁ。
 皆の楽しそうな姿を見ていると自然に顔がほころんでしまう。
 ……エイデン様とシュミナ嬢も、この人混みの中で踊っているんだろうか。

 それぞれが幸せな夜を過ごせていたらいいなぁ……。

 そんなことを思いながらわたくしはマクシミリアンの胸に顔を埋めた。

「二曲目も、続けて踊ってしまいましょうか」

 悪戯っぽく言うマクシミリアンに、わたくしは一も二もなく頷いた。
しおりを挟む
感想 204

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...