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令嬢13歳・令嬢たちの後夜祭・中
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後夜祭の会場である庭園に行くとそこはすっかり生徒たちや職員で賑わっていた。
普段見られない他校の制服の方々も大勢いらっしゃって、皆様楽しそうに交流をされているようだ。
わたくしも他校の方々とお話してみたかったなぁ。ミーニャ王子とはずっと一緒にいたけれど、彼とは交流というよりも気ままな猫を側に置いている感じだったし。
喫茶店では他校の生徒の方々を沢山見ることはできたけれど、ずっと盛り付けをしていたので交流というよりも観察だったし。
今夜は無礼講のようなものなので皆様リラックスした様子でテーブルのものを摘みながら過ごされていて、わたくしもいつもはあまり食べられないパーティーの料理が堪能できるんだなと少しワクワクしてしまう。
フィリップ王子は後夜祭開幕の挨拶をと教師たちに嫌々引っ張っていかれてしまった。
……なんだかんだで、王太子というのは大変そうである。
ジョアンナとヒナキさんは……えっ、ちょっと。食べ放題みたいな勢いで料理を食べてるのだけど。
どれだけ飢えてたの……と考えてジョアンナもヒナキさんも昨日は学園祭の準備で大忙し、今日は今日で休んでいたところを起こされたりでちゃんとご飯を食べられていなかったのかもしれないと思い至った。ごめんなさいね、ジョアンナ。
「お嬢様、なにか食べたい物があれば取ってきますよ?」
横に立ったマクシミリアンがにこりと微笑みながらそう言ってくれるけど……。
「今の正装した貴方をこき使っていたら、素敵な男性を顎で使う酷い女と思われるかもしれないわ」
騎士祭の場で公に『侯爵』としての立場を表したマクシミリアンのことは、噂好きの人々を通じて学園の人々には広まっているだろう。
そんな彼を今までのように従僕として使うのはいかがなものかと悩んでしまう。
ミルカ王女とハウンドのようによいバランスで接することができたらいいんだろうけど……。
「私はどんな立場でも貴女だけの従僕なので……一生好きに使ってください、お嬢様」
彼はそっと手を取り指を絡めた後に甲にキスをする。
「もう……マクシミリアンはわたくしに甘すぎるの!」
わたくしが頬を染めて顔を伏せながらそう言うとマクシミリアンはうっとりとした笑顔を浮かべた。
「お二人の関係自体が、甘すぎなんスよ」
呆れたように横目でわたくしたちを見ながらハウンドが言う。……口調がいつの間にか普段通りに戻ってるわね。うん、猫を被ってるのは正直落ち着かなかったからこっちがいいわ。
ミルカ王女はその横でもぐもぐと素手で骨付き肉を頬張っている。……大胆ね。
ベルリナ様はその様子をドン引きの様子で眺めたり、わたくしたちに呆れたような目線を向けたりしていた。
……原因の一つのわたくしが言うことではないのだけど、常識人って大変だなぁ。
「ハウンドもミルカ様と仲良くすればいいじゃないの」
わたくしはそう言ってハウンドを半眼で睨みつけた。
「……俺はマクシミリアンとビアンカ嬢みたいに破廉恥じゃないんス。純情なんス」
人を破廉恥みたいに言わないで欲しい。破廉恥なのは主にマクシミリアンよ。
「ハウンド、純情じゃなくてお前のはヘタれと言うんだ」
マクシミリアンはわたくしの腰を後ろから抱き込み、頬に口づけた。
ちょっと! マクシミリアンは人前ってことを忘れすぎじゃないかしら!?
「にゃにー? ハウンド私とイチャイチャしたいのぉ?」
ミルカ王女がごくり、と骨付き肉を飲み下しながら反応する。
ハウンドの顔はその台詞に見ているこちらが驚くくらいに真っ赤になった。
「ミルカ、はしたないのはダメ! マクシミリアンやビアンカ嬢の悪影響はよくないッス!」
「……別にいいのに、イチャイチャしても」
「あああ、ミルカが汚染されてるッス!!」
……ハウンドは、わたくしたちをなんだと思ってるんだろう。
そんなにヘタれてるとミルカ王女を誰かに取られてしまうわよ。
「イチャイチャ、かぁ……」
ベルリナ様がぽつりと呟いて頬を染める。想像のお相手はフィリップ王子なのだろう。健気だよなぁ……うん。
そのフィリップ王子は明らかに不機嫌な様子で教師に壇上へと上げられている。
「ビーちゃん、そろそろ始まるね」
声をかけられ振り返るとユウ君が立っていた。彼は黒のタキシードを着て、長く美しい黒髪をさらりと背中に垂らしている。
う……うわぁ! なんというか、退廃的美形感がありますね……! これが高校の時の同級生だと思うと不思議な気持ちになってしまう。
「ふふ。マクシミリアンさんの次でいいから踊ってね」
「ええ、ユウ君。ぜひ踊って!」
わたくしが頷くと後ろから抱きついているマクシミリアンの腕がぎゅうっと締まった。
苦しい。だけどマクシミリアン、皆交代で踊るんだから仕方ないでしょう……!?
(この会場のどこかに……きっとシュミナ嬢もいるのよね)
エイデン様といる時の苦しそうな彼女の顔が脳裏に浮かぶ。学園祭が終わったらまた様子を見に行こう。
――そして助けられることがあるなら。ヴィゴでも、ビアンカでも力になりたい。
そうこうしているうちにフィリップ王子の挨拶が終わり。
楽団がダンスの為の曲を奏で始めた。
「ビアンカ、踊って下さいませ?」
ミルカ王女が小さなその手でわたくしの手を取ってにこりと微笑む。
「ええ! ミルカ様、ぜひ踊って下さいませ!」
わたくしもそれに笑顔で答えた。ミルカ王女の男性パート、楽しみだわ!
彼女は運動神経がいいからダンスも得意そうだ。
「お嬢様。私のファーストダンスはお嬢様のものですので、お待ちしておりますね」
マクシミリアンが悪戯っぽく笑いながら耳に囁き腰に回していた離す。
「ええ! この後で!」
マクシミリアンに手を振り、妖精のように愛らしいミルカ王女に手を引かれてダンスフロアに足を踏み出す。
ミルカ王女も学園祭の時の格好のままなので、わたくしたちはウサギと栗鼠でダンスを踊る。
それはなんだかおとぎの国の物語のワンシーンのようで胸が躍った。
ミルカ王女のリードは想像していた通りとても上手で、わたくしたちは時折声を小さく立てて笑い合いながらくるくると踊った。
ウサギの耳が揺れ、栗鼠の尻尾が跳ねる。
その様子をなんだか周囲の人々も微笑ましげな目で見つめていた。
――夢のような時間は、あっという間に終わってしまう。
「ふふ、ヴィゴとも踊りたかったわ」
ダンスの終わりにミルカ王女がわたくしの手に軽くキスをしながら言った。
「今度、踊りましょう? わたくしのお部屋で」
わたくしもミルカ王女の手にキスを返してそうお返事をする。
「楽しみにしてるわ、ビアンカ!」
ぐりぐりとミルカ王女に額を押しつけられ、わたくしも額を押しつけ返してまた二人で笑って。
そうしてわたくしたちは手を繋ぎ、マクシミリアンたちの待つところへ小走りで戻ったのだった。
普段見られない他校の制服の方々も大勢いらっしゃって、皆様楽しそうに交流をされているようだ。
わたくしも他校の方々とお話してみたかったなぁ。ミーニャ王子とはずっと一緒にいたけれど、彼とは交流というよりも気ままな猫を側に置いている感じだったし。
喫茶店では他校の生徒の方々を沢山見ることはできたけれど、ずっと盛り付けをしていたので交流というよりも観察だったし。
今夜は無礼講のようなものなので皆様リラックスした様子でテーブルのものを摘みながら過ごされていて、わたくしもいつもはあまり食べられないパーティーの料理が堪能できるんだなと少しワクワクしてしまう。
フィリップ王子は後夜祭開幕の挨拶をと教師たちに嫌々引っ張っていかれてしまった。
……なんだかんだで、王太子というのは大変そうである。
ジョアンナとヒナキさんは……えっ、ちょっと。食べ放題みたいな勢いで料理を食べてるのだけど。
どれだけ飢えてたの……と考えてジョアンナもヒナキさんも昨日は学園祭の準備で大忙し、今日は今日で休んでいたところを起こされたりでちゃんとご飯を食べられていなかったのかもしれないと思い至った。ごめんなさいね、ジョアンナ。
「お嬢様、なにか食べたい物があれば取ってきますよ?」
横に立ったマクシミリアンがにこりと微笑みながらそう言ってくれるけど……。
「今の正装した貴方をこき使っていたら、素敵な男性を顎で使う酷い女と思われるかもしれないわ」
騎士祭の場で公に『侯爵』としての立場を表したマクシミリアンのことは、噂好きの人々を通じて学園の人々には広まっているだろう。
そんな彼を今までのように従僕として使うのはいかがなものかと悩んでしまう。
ミルカ王女とハウンドのようによいバランスで接することができたらいいんだろうけど……。
「私はどんな立場でも貴女だけの従僕なので……一生好きに使ってください、お嬢様」
彼はそっと手を取り指を絡めた後に甲にキスをする。
「もう……マクシミリアンはわたくしに甘すぎるの!」
わたくしが頬を染めて顔を伏せながらそう言うとマクシミリアンはうっとりとした笑顔を浮かべた。
「お二人の関係自体が、甘すぎなんスよ」
呆れたように横目でわたくしたちを見ながらハウンドが言う。……口調がいつの間にか普段通りに戻ってるわね。うん、猫を被ってるのは正直落ち着かなかったからこっちがいいわ。
ミルカ王女はその横でもぐもぐと素手で骨付き肉を頬張っている。……大胆ね。
ベルリナ様はその様子をドン引きの様子で眺めたり、わたくしたちに呆れたような目線を向けたりしていた。
……原因の一つのわたくしが言うことではないのだけど、常識人って大変だなぁ。
「ハウンドもミルカ様と仲良くすればいいじゃないの」
わたくしはそう言ってハウンドを半眼で睨みつけた。
「……俺はマクシミリアンとビアンカ嬢みたいに破廉恥じゃないんス。純情なんス」
人を破廉恥みたいに言わないで欲しい。破廉恥なのは主にマクシミリアンよ。
「ハウンド、純情じゃなくてお前のはヘタれと言うんだ」
マクシミリアンはわたくしの腰を後ろから抱き込み、頬に口づけた。
ちょっと! マクシミリアンは人前ってことを忘れすぎじゃないかしら!?
「にゃにー? ハウンド私とイチャイチャしたいのぉ?」
ミルカ王女がごくり、と骨付き肉を飲み下しながら反応する。
ハウンドの顔はその台詞に見ているこちらが驚くくらいに真っ赤になった。
「ミルカ、はしたないのはダメ! マクシミリアンやビアンカ嬢の悪影響はよくないッス!」
「……別にいいのに、イチャイチャしても」
「あああ、ミルカが汚染されてるッス!!」
……ハウンドは、わたくしたちをなんだと思ってるんだろう。
そんなにヘタれてるとミルカ王女を誰かに取られてしまうわよ。
「イチャイチャ、かぁ……」
ベルリナ様がぽつりと呟いて頬を染める。想像のお相手はフィリップ王子なのだろう。健気だよなぁ……うん。
そのフィリップ王子は明らかに不機嫌な様子で教師に壇上へと上げられている。
「ビーちゃん、そろそろ始まるね」
声をかけられ振り返るとユウ君が立っていた。彼は黒のタキシードを着て、長く美しい黒髪をさらりと背中に垂らしている。
う……うわぁ! なんというか、退廃的美形感がありますね……! これが高校の時の同級生だと思うと不思議な気持ちになってしまう。
「ふふ。マクシミリアンさんの次でいいから踊ってね」
「ええ、ユウ君。ぜひ踊って!」
わたくしが頷くと後ろから抱きついているマクシミリアンの腕がぎゅうっと締まった。
苦しい。だけどマクシミリアン、皆交代で踊るんだから仕方ないでしょう……!?
(この会場のどこかに……きっとシュミナ嬢もいるのよね)
エイデン様といる時の苦しそうな彼女の顔が脳裏に浮かぶ。学園祭が終わったらまた様子を見に行こう。
――そして助けられることがあるなら。ヴィゴでも、ビアンカでも力になりたい。
そうこうしているうちにフィリップ王子の挨拶が終わり。
楽団がダンスの為の曲を奏で始めた。
「ビアンカ、踊って下さいませ?」
ミルカ王女が小さなその手でわたくしの手を取ってにこりと微笑む。
「ええ! ミルカ様、ぜひ踊って下さいませ!」
わたくしもそれに笑顔で答えた。ミルカ王女の男性パート、楽しみだわ!
彼女は運動神経がいいからダンスも得意そうだ。
「お嬢様。私のファーストダンスはお嬢様のものですので、お待ちしておりますね」
マクシミリアンが悪戯っぽく笑いながら耳に囁き腰に回していた離す。
「ええ! この後で!」
マクシミリアンに手を振り、妖精のように愛らしいミルカ王女に手を引かれてダンスフロアに足を踏み出す。
ミルカ王女も学園祭の時の格好のままなので、わたくしたちはウサギと栗鼠でダンスを踊る。
それはなんだかおとぎの国の物語のワンシーンのようで胸が躍った。
ミルカ王女のリードは想像していた通りとても上手で、わたくしたちは時折声を小さく立てて笑い合いながらくるくると踊った。
ウサギの耳が揺れ、栗鼠の尻尾が跳ねる。
その様子をなんだか周囲の人々も微笑ましげな目で見つめていた。
――夢のような時間は、あっという間に終わってしまう。
「ふふ、ヴィゴとも踊りたかったわ」
ダンスの終わりにミルカ王女がわたくしの手に軽くキスをしながら言った。
「今度、踊りましょう? わたくしのお部屋で」
わたくしもミルカ王女の手にキスを返してそうお返事をする。
「楽しみにしてるわ、ビアンカ!」
ぐりぐりとミルカ王女に額を押しつけられ、わたくしも額を押しつけ返してまた二人で笑って。
そうしてわたくしたちは手を繋ぎ、マクシミリアンたちの待つところへ小走りで戻ったのだった。
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