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転生王子は婚約者と出会う
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「ティアラ・セイヤーズと申します」
その令嬢は鈴のなるような透明感のある声でそう言うと、美しいカーテシーを披露した。
腰まで伸びた艶めく黒髪、新緑のように澄んだ色の緑の瞳。気の強い印象を与えるけれど、極めて整ったその顔立ち。年は俺よりも二つ下だと聞いているが彼女からは年齢以上の理知の輝きを感じられた。
そして彼女が俺を見る目は、他の女性のようにギラギラとはしていない。
それだけで、好感度が高い。
いや、正直に言おう。……もう、かなり好きだ。いや、完全に好きだ。
ちょろいと言われるかもしれないが、俺は前世も今世も童貞なのだ。
こんなに可愛い女の子を婚約者だと言われて紹介されたら、即座に惚れても仕方ないだろう! ああ、俺の嫁……なんていい響きなんだ。
「シオン・チェスタトンだ。君のような愛らしい令嬢が婚約者だなんて嬉しいな」
俺は長い王子生活で学んだ猫を被り、ティアラ嬢に挨拶をした。彼女には『氷の王子』だなんて思われたくないので、精一杯の笑顔を浮かべる。
するとティアラ嬢は少し視線を泳がせた後に……苦虫を噛み潰したような表情になった。
……なぜだ。
出だしの挨拶は完璧だったと思うんだが。なにが原因で君はそんな顔をするんだ。
まさか顔が好みじゃないとか? それは変えられるものではないので困るな。
「お優しい言葉ありがとうございます」
ティアラ嬢は渋い表情を引っ込めると、にこりと笑って礼を返した。
他人行儀のものに見えるけれど、彼女が笑ってくれてホッとする。
先ほどの反応は緊張をしていたのかもしれないな。
「王族しか入れない庭を案内しよう。女性が気に入るような花もたくさん咲いているから、楽しんでくれるといいのだけれど」
そう言いながら手を差し出すとティアラ嬢は少し戸惑った様子を見せた後に、俺の手に小さな手を乗せた。
すごい。前世、今世両方合わせて、はじめて女の子と手を繋いだ。女の子の手はこんなにも柔らかいんだな。そして、とても小さい。
そう思いながら浮かれた気分で彼女の手を引くと――
「……ずいぶんと、慣れてらっしゃるのですね」
ティアラ嬢の唇から氷のような声が漏れた。
「え……」
びくりと肩を震わせながら彼女を見ると、じっとりとした上目遣いで……なぜか睨まれている。
ティアラ嬢は睨んでいても可愛いな。上目遣いというのはまた素晴らしい。俺と彼女はかなりの身長差があるから可愛い彼女のつむじも見える。
――いや、そうじゃない。どうしてそんな不機嫌に!?
女の子の機嫌なんてどうやって取っていいのかわからなんだが!
「慣れてなどいないよ。君のような愛らしいご令嬢を連れて行くのは、人生ではじめてだ」
中二病時代に培った演技がかった仕草で言って軽くウインクもしてしまう。
恥ずかしいが、俺もどうしていいのかわからないんだよ!
「――ッ」
ティアラ嬢の白い頬が赤に染まった。そして慌てて顔を伏せてしまう。
どうしたのだろう、また機嫌を損ねてしまったのか!?
これは誠意を持って謝罪をするしかないな。
「ティアラ嬢。俺はなにか、気に障ることをしただろうか?」
彼女の前に跪き、小さな手を両手でそっと握る。
そしてしっかりと見つめると――ティアラ嬢の顔はさらに真っ赤になった。
「な……」
ティアラ嬢の唇がわなわなと動く。
「な?」
彼女がなにを言おうとしているのか一言一句聞き漏らすまいと、俺はさらにしっかりと彼女の手を握り新緑の瞳を見つめた。
「なんなんですのよぉおお!」
――次の瞬間。彼女の口から漏れ出たのは、淑女らしからぬ絶叫だった。
その令嬢は鈴のなるような透明感のある声でそう言うと、美しいカーテシーを披露した。
腰まで伸びた艶めく黒髪、新緑のように澄んだ色の緑の瞳。気の強い印象を与えるけれど、極めて整ったその顔立ち。年は俺よりも二つ下だと聞いているが彼女からは年齢以上の理知の輝きを感じられた。
そして彼女が俺を見る目は、他の女性のようにギラギラとはしていない。
それだけで、好感度が高い。
いや、正直に言おう。……もう、かなり好きだ。いや、完全に好きだ。
ちょろいと言われるかもしれないが、俺は前世も今世も童貞なのだ。
こんなに可愛い女の子を婚約者だと言われて紹介されたら、即座に惚れても仕方ないだろう! ああ、俺の嫁……なんていい響きなんだ。
「シオン・チェスタトンだ。君のような愛らしい令嬢が婚約者だなんて嬉しいな」
俺は長い王子生活で学んだ猫を被り、ティアラ嬢に挨拶をした。彼女には『氷の王子』だなんて思われたくないので、精一杯の笑顔を浮かべる。
するとティアラ嬢は少し視線を泳がせた後に……苦虫を噛み潰したような表情になった。
……なぜだ。
出だしの挨拶は完璧だったと思うんだが。なにが原因で君はそんな顔をするんだ。
まさか顔が好みじゃないとか? それは変えられるものではないので困るな。
「お優しい言葉ありがとうございます」
ティアラ嬢は渋い表情を引っ込めると、にこりと笑って礼を返した。
他人行儀のものに見えるけれど、彼女が笑ってくれてホッとする。
先ほどの反応は緊張をしていたのかもしれないな。
「王族しか入れない庭を案内しよう。女性が気に入るような花もたくさん咲いているから、楽しんでくれるといいのだけれど」
そう言いながら手を差し出すとティアラ嬢は少し戸惑った様子を見せた後に、俺の手に小さな手を乗せた。
すごい。前世、今世両方合わせて、はじめて女の子と手を繋いだ。女の子の手はこんなにも柔らかいんだな。そして、とても小さい。
そう思いながら浮かれた気分で彼女の手を引くと――
「……ずいぶんと、慣れてらっしゃるのですね」
ティアラ嬢の唇から氷のような声が漏れた。
「え……」
びくりと肩を震わせながら彼女を見ると、じっとりとした上目遣いで……なぜか睨まれている。
ティアラ嬢は睨んでいても可愛いな。上目遣いというのはまた素晴らしい。俺と彼女はかなりの身長差があるから可愛い彼女のつむじも見える。
――いや、そうじゃない。どうしてそんな不機嫌に!?
女の子の機嫌なんてどうやって取っていいのかわからなんだが!
「慣れてなどいないよ。君のような愛らしいご令嬢を連れて行くのは、人生ではじめてだ」
中二病時代に培った演技がかった仕草で言って軽くウインクもしてしまう。
恥ずかしいが、俺もどうしていいのかわからないんだよ!
「――ッ」
ティアラ嬢の白い頬が赤に染まった。そして慌てて顔を伏せてしまう。
どうしたのだろう、また機嫌を損ねてしまったのか!?
これは誠意を持って謝罪をするしかないな。
「ティアラ嬢。俺はなにか、気に障ることをしただろうか?」
彼女の前に跪き、小さな手を両手でそっと握る。
そしてしっかりと見つめると――ティアラ嬢の顔はさらに真っ赤になった。
「な……」
ティアラ嬢の唇がわなわなと動く。
「な?」
彼女がなにを言おうとしているのか一言一句聞き漏らすまいと、俺はさらにしっかりと彼女の手を握り新緑の瞳を見つめた。
「なんなんですのよぉおお!」
――次の瞬間。彼女の口から漏れ出たのは、淑女らしからぬ絶叫だった。
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