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私の叔父さん2
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「椛音、訓練期間はいつ終わるんだ?」
「たしか、三週間後くらいかな。そうアリリオが言ってた」
叔父さんに訊ねられ、私はそんなふうに答える。
私の勇者としての『訓練』の成果は上々で、半年程度かかると思われていた工程は二ヶ月いかないくらいで終わってしまった。
……『訓練』を早々に終わらせたら、叔父さんと離れ離れになるのが早くなっちゃう! って途中で気づいたけれど、その時には後の祭りだったんだよね。
「訓練が終ったら、すぐに旅に出るのか?」
叔父さんはそう言うと、眉尻をうんと下げる。私の心配をしてくれているのだろう。
「そうみたいだねぇ」
「……そうか。怪我をしないように気をつけるんだぞ」
寂しそうな目をしながら、叔父さんは私の頭をがしがしと少し乱暴に撫でる。
動物の子を撫でるみたいな撫で方だなぁと思いつつも、私は抵抗せずに撫でられるままでいた。
「私、痛いの嫌いだしね。絶対に怪我しないようにする」
言いながら笑ってみせれば、叔父さんも口角を上げた。誰かが見たら、どっちもちょっと寂しそうな笑い顔だと思うんだろうな。
アリリオの転移魔法でいつでも会えるけど、寂しいものは寂しい。
……転移魔法が使えないダンジョンに入ったら、長く会えない可能性だってあるし。
「旅に出る前夜、私の好きなご飯をいっぱい作ってほしいな」
「そんなの、いくらでも作ってやるよ」
「やったぁ!」
おねだりしてみると、叔父さんは気前よく了承してくれる。
叔父さんのご飯、楽しみだなぁ。醤油や味噌がないので『和風』が難しいのがちょっと残念だけど。
でも、思うんだよね。魔王を倒す冒険の旅で、私が見つけてくればいいんじゃないかって!
内緒で探して、叔父さんをびっくりさせるんだ。
「叔父さん。夢が叶ってよかったね」
「ああ、そうだな。椛音のおかげで当面の資金も問題ないし、助かった」
「ふふ。いっぱい、お店にご飯を食べに行くね」
「おう、毎日来い。旅が嫌になったら逃げ込んでもいいぞ」
「そんなことはしないよ。アリリオが泣いちゃうもん」
「たしかになぁ。泣いちゃいそうだ」
泣いちゃうアリリオを想像して、私たちはくすくす笑う。
ひとしきり笑ったあと……私たちの間には沈黙が訪れた。
「叔父さん。今まで育ててくれてありがとう」
ふと、そんな言葉が口から零れた。
私の言葉を聞いた叔父さんは、目を丸くする。その目はみるみるうちに、涙で潤んでいく。
叔父さんは泣くのを私に見られたくないのか目元を手のひらで覆った。
「そういう不意打ちはよくないぞ、椛音」
「でも、本音だし」
「俺の姪はいい子に育ったなぁ」
「でしょ」
私が身を離すと、叔父さんは腰を押さえて「いてて」と小さく呟きながら身を起こす。そして、うんと伸びをしてから長椅子に座った。
私も叔父さんの隣に、ちょこんと腰を下ろす。
叔父さんは自身の顎を指先でちょっと掻いてから、こちらに視線を向けた。
「椛音。俺の料理の効果のことは、アリリオ殿下から聞いているか?」
「うん、もちろん。すごい効果があるだってね。叔父さんのご飯を食べると、なんか元気になるなぁとは思ってたけど」
正直なところ、叔父さんのご飯が美味しいからかなーと思ってたんだよね。
だからアリリオに叔父さんのご飯の効果を聞いた時には驚いた。
「旅の間、お前がいつでも元気でいられるように弁当を作ってやるな。……この世界ではなにもできないと思っていたから、お前の助けになることがあって嬉しいよ」
叔父さんはそう言うと、にこりと笑う。
「叔父さんが居てくれるだけで嬉しいよ。この世界に一人だったら、私挫けてたかもしれない」
「……椛音」
「ありがとう、叔父さん」
──母が死んだ時に、私を見捨てないでいてくれて。
──私のことを、大事に育ててくれて。
──彼女に振られちゃうくらいに、私の成長を大事にしてくれて。
──この異世界でも、一緒にいてくれて。
──ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ありがとう。
その『ありがとう』には、無意識にいろいろな気持ちが篭っていたのだと思う。
それを聞いた叔父さんは、またうるりと瞳を潤ませた。
「たしか、三週間後くらいかな。そうアリリオが言ってた」
叔父さんに訊ねられ、私はそんなふうに答える。
私の勇者としての『訓練』の成果は上々で、半年程度かかると思われていた工程は二ヶ月いかないくらいで終わってしまった。
……『訓練』を早々に終わらせたら、叔父さんと離れ離れになるのが早くなっちゃう! って途中で気づいたけれど、その時には後の祭りだったんだよね。
「訓練が終ったら、すぐに旅に出るのか?」
叔父さんはそう言うと、眉尻をうんと下げる。私の心配をしてくれているのだろう。
「そうみたいだねぇ」
「……そうか。怪我をしないように気をつけるんだぞ」
寂しそうな目をしながら、叔父さんは私の頭をがしがしと少し乱暴に撫でる。
動物の子を撫でるみたいな撫で方だなぁと思いつつも、私は抵抗せずに撫でられるままでいた。
「私、痛いの嫌いだしね。絶対に怪我しないようにする」
言いながら笑ってみせれば、叔父さんも口角を上げた。誰かが見たら、どっちもちょっと寂しそうな笑い顔だと思うんだろうな。
アリリオの転移魔法でいつでも会えるけど、寂しいものは寂しい。
……転移魔法が使えないダンジョンに入ったら、長く会えない可能性だってあるし。
「旅に出る前夜、私の好きなご飯をいっぱい作ってほしいな」
「そんなの、いくらでも作ってやるよ」
「やったぁ!」
おねだりしてみると、叔父さんは気前よく了承してくれる。
叔父さんのご飯、楽しみだなぁ。醤油や味噌がないので『和風』が難しいのがちょっと残念だけど。
でも、思うんだよね。魔王を倒す冒険の旅で、私が見つけてくればいいんじゃないかって!
内緒で探して、叔父さんをびっくりさせるんだ。
「叔父さん。夢が叶ってよかったね」
「ああ、そうだな。椛音のおかげで当面の資金も問題ないし、助かった」
「ふふ。いっぱい、お店にご飯を食べに行くね」
「おう、毎日来い。旅が嫌になったら逃げ込んでもいいぞ」
「そんなことはしないよ。アリリオが泣いちゃうもん」
「たしかになぁ。泣いちゃいそうだ」
泣いちゃうアリリオを想像して、私たちはくすくす笑う。
ひとしきり笑ったあと……私たちの間には沈黙が訪れた。
「叔父さん。今まで育ててくれてありがとう」
ふと、そんな言葉が口から零れた。
私の言葉を聞いた叔父さんは、目を丸くする。その目はみるみるうちに、涙で潤んでいく。
叔父さんは泣くのを私に見られたくないのか目元を手のひらで覆った。
「そういう不意打ちはよくないぞ、椛音」
「でも、本音だし」
「俺の姪はいい子に育ったなぁ」
「でしょ」
私が身を離すと、叔父さんは腰を押さえて「いてて」と小さく呟きながら身を起こす。そして、うんと伸びをしてから長椅子に座った。
私も叔父さんの隣に、ちょこんと腰を下ろす。
叔父さんは自身の顎を指先でちょっと掻いてから、こちらに視線を向けた。
「椛音。俺の料理の効果のことは、アリリオ殿下から聞いているか?」
「うん、もちろん。すごい効果があるだってね。叔父さんのご飯を食べると、なんか元気になるなぁとは思ってたけど」
正直なところ、叔父さんのご飯が美味しいからかなーと思ってたんだよね。
だからアリリオに叔父さんのご飯の効果を聞いた時には驚いた。
「旅の間、お前がいつでも元気でいられるように弁当を作ってやるな。……この世界ではなにもできないと思っていたから、お前の助けになることがあって嬉しいよ」
叔父さんはそう言うと、にこりと笑う。
「叔父さんが居てくれるだけで嬉しいよ。この世界に一人だったら、私挫けてたかもしれない」
「……椛音」
「ありがとう、叔父さん」
──母が死んだ時に、私を見捨てないでいてくれて。
──私のことを、大事に育ててくれて。
──彼女に振られちゃうくらいに、私の成長を大事にしてくれて。
──この異世界でも、一緒にいてくれて。
──ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、ありがとう。
その『ありがとう』には、無意識にいろいろな気持ちが篭っていたのだと思う。
それを聞いた叔父さんは、またうるりと瞳を潤ませた。
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