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悪役令嬢はヒロインに負けたくない
悪役令嬢はヒロインに負けたくない・6
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マクシミリアンに抱えられ注目を浴びながら学園の廊下を進むのはとても恥ずかしく、わたくしは真っ赤になった顔を手で覆い隠すようにして指の間から彼をちらりと見た。
すると視線に気づいたマクシミリアンは優しく微笑み、おでこに唇を落としてきて。
「ひゃっ!!」
令嬢らしからぬ悲鳴を上げてわたくしは涙目になってしまったのだった。
「お嬢様、可愛いお声ですね」
そう言って愛おしげな目をわたくしに向けるマクシミリアンのせいで、心臓の鼓動が激しくなるのを止められない。
……ダメ、ダメ。好きになっちゃ。マクシミリアンは世界の強制力に操られているだけ。
せ……世界の強制力め……!! 絶対に負けないんだから!!
☆★☆
そう、決意をして更に一カ月。季節は移り変わって七月。
お前などには屈しないみたいなのは、屈するフラグなのよね。
それをわたくしはまざまざと思い知らされた。
世界の強制力に操られて毎日わたくしにベタベタするマクシミリアンに、わたくしはまんまと恋をしてしまったわけである。
うう……チョロい、チョロいのはわかってるの。だけど前世の推しに毎日甘くベタベタされて好きにならないわけがないじゃない。
「……どうしようかなぁ」
「何が?」
「何がだ?」
食堂でため息をつきながらランチを食べていると向い合せでランチを突いていたノエル様とフィリップ王子が、問い返してくる。
ちなみにヒロイン、シュミナ嬢もわたくしの横で美味しそうにランチに舌鼓を打っている。
……どうしてこうなった。
わたくしはフィリップ王子が教室にやってきたあの日以来、彼に懐かれてしまったのだ。
そうなるとフィリップ王子の親友であるノエル様も寄ってくるし、ノエル様と仲がいいシュミナ嬢も寄ってくる。
そうしてわたくしにとっては望まざる珍妙な組み合わせで、ランチを取る事が最近は多い。
世界が悪役令嬢はメインキャラ達と絡めと言っているのか。
……強制力って、思っていたよりもすごいわね。
「俺との婚約の事で悩んでいるとか……」
「それは父様経由で先日お断りしましたわよね?」
フィリップ王子の言葉にわたくしは間髪を入れずにツッコミを入れた。
そう……彼は懐くだけではなく近頃はわたくしに婚約を迫ってくるのだ。
わたくしのにべもない態度にフィリップ王子がしゅんとしているけれど、気にしていてはキリがない。
「ビアンカ様! 悩みがあるのなら、私でよければいつでも聞きますから!」
「……ありがとう、シュミナ嬢」
うるうるお目目でシュミナ嬢がそう言ってくれるけれど、貴女にだけは相談できないのよ。
いい子なんだけど、ヒロインだからなぁ……。
当て馬がヒロインに恋愛相談なんてそれこそ少女漫画でありがちなダシにされる展開しか見えないわ。
その時皆の飲み物をトレイに乗せたマクシミリアンがこちらへ向かって来るのが見えた。
「お嬢様、紅茶をどうぞ。シュミナは、オレンジジュースでよかったな? 王子とノエル様は水でしたよね?」
「ありがとう! マクシミリアンさん!」
「マクシミリアン、俺は珈琲って言ったよね!?」
「……俺も水なんて頼んでないぞ」
マクシミリアン、フィリップ王子とノエル様に平然と別の物を渡すのは止めなさい。
彼らとマクシミリアンはどうにもそりが合わないのよね……。
マクシミリアンとシュミナ嬢は、マクシミリアンが彼女を『シュミナ』と呼ぶくらいに親しくなった。
シュミナ嬢は可愛いし、人懐っこいし、身分が近いし、なんといってもヒロインだものね。マクシミリアンも気を許して当然だ。
今はわたくしに毎日ベタベタなマクシミリアンだけど、いずれはシュミナ嬢のところに行くのだろう。
そんな未来を想像すると胸が痛くなって、口に入れた白身魚はなんだか味がしなくて砂を噛んでいるような心地になってくる。
いっそゲームのビアンカ・シュラットのように『わたくしの犬に触らないで!』なんて叫べたらいいのに……なんて思ってしまうのは悪役令嬢化がもう始まっているせいだろうか。
やだなぁ、マクシミリアンにボコボコにされて娼館に送られちゃうのは。
ちらりとマクシミリアンを見るとシュミナ嬢と楽しそうに話しているのが目に入って、心に酷い痛みを覚えた。
……もう、見てられないわ。
「食欲がないので、申し訳ありませんが……わたくしこれで失礼しますわ」
そう言って席を立つと皆様が心配そうに視線を向けてくる。
その視線に後ろめたさを感じながら皆様に笑顔を向けて出口へ足を向けると、後ろからマクシミリアンが追いかけてくる気配がした。
「お嬢様、ご気分が優れないのでしたら寮へ戻りましょう」
わたくしに追いついたマクシミリアンが心配そうにそう声をかけてくる。
そんな優しい言葉をかけられたら泣いてしまいそうだから止めて。
醜く歪んでいるであろう顔を見られたくなくて彼を無視して早足で歩いていると、背後から腰を抱きこまれ捕まえられてしまった。
マクシミリアンの香りを感じると胸がざわめいて、体同士が接している部分が熱い。
でもそのような気持ちを掻き立てられるのは、不埒なわたくしだけなのだ。
そんな事を考えていたら、堪えていた涙がついに溢れてしまう。
「離して、マクシミリアン」
「……嫌です。お嬢様が辛そうなのを看過するわけには参りません」
そう言って彼は、軽々とわたくしを抱き上げる。そしてわたくしが泣いているのに気づくと驚いた顔をした。
「お嬢様……!」
「見ないで、マクシミリアン」
ああ、嫌だ。この世界で醜いのは、きっと悪役令嬢のわたくしだけだ。
そんなわたくしを見られたくなくて……マクシミリアンの胸に顔を寄せて隠すと、彼に優しく頭を撫でられた。
すると視線に気づいたマクシミリアンは優しく微笑み、おでこに唇を落としてきて。
「ひゃっ!!」
令嬢らしからぬ悲鳴を上げてわたくしは涙目になってしまったのだった。
「お嬢様、可愛いお声ですね」
そう言って愛おしげな目をわたくしに向けるマクシミリアンのせいで、心臓の鼓動が激しくなるのを止められない。
……ダメ、ダメ。好きになっちゃ。マクシミリアンは世界の強制力に操られているだけ。
せ……世界の強制力め……!! 絶対に負けないんだから!!
☆★☆
そう、決意をして更に一カ月。季節は移り変わって七月。
お前などには屈しないみたいなのは、屈するフラグなのよね。
それをわたくしはまざまざと思い知らされた。
世界の強制力に操られて毎日わたくしにベタベタするマクシミリアンに、わたくしはまんまと恋をしてしまったわけである。
うう……チョロい、チョロいのはわかってるの。だけど前世の推しに毎日甘くベタベタされて好きにならないわけがないじゃない。
「……どうしようかなぁ」
「何が?」
「何がだ?」
食堂でため息をつきながらランチを食べていると向い合せでランチを突いていたノエル様とフィリップ王子が、問い返してくる。
ちなみにヒロイン、シュミナ嬢もわたくしの横で美味しそうにランチに舌鼓を打っている。
……どうしてこうなった。
わたくしはフィリップ王子が教室にやってきたあの日以来、彼に懐かれてしまったのだ。
そうなるとフィリップ王子の親友であるノエル様も寄ってくるし、ノエル様と仲がいいシュミナ嬢も寄ってくる。
そうしてわたくしにとっては望まざる珍妙な組み合わせで、ランチを取る事が最近は多い。
世界が悪役令嬢はメインキャラ達と絡めと言っているのか。
……強制力って、思っていたよりもすごいわね。
「俺との婚約の事で悩んでいるとか……」
「それは父様経由で先日お断りしましたわよね?」
フィリップ王子の言葉にわたくしは間髪を入れずにツッコミを入れた。
そう……彼は懐くだけではなく近頃はわたくしに婚約を迫ってくるのだ。
わたくしのにべもない態度にフィリップ王子がしゅんとしているけれど、気にしていてはキリがない。
「ビアンカ様! 悩みがあるのなら、私でよければいつでも聞きますから!」
「……ありがとう、シュミナ嬢」
うるうるお目目でシュミナ嬢がそう言ってくれるけれど、貴女にだけは相談できないのよ。
いい子なんだけど、ヒロインだからなぁ……。
当て馬がヒロインに恋愛相談なんてそれこそ少女漫画でありがちなダシにされる展開しか見えないわ。
その時皆の飲み物をトレイに乗せたマクシミリアンがこちらへ向かって来るのが見えた。
「お嬢様、紅茶をどうぞ。シュミナは、オレンジジュースでよかったな? 王子とノエル様は水でしたよね?」
「ありがとう! マクシミリアンさん!」
「マクシミリアン、俺は珈琲って言ったよね!?」
「……俺も水なんて頼んでないぞ」
マクシミリアン、フィリップ王子とノエル様に平然と別の物を渡すのは止めなさい。
彼らとマクシミリアンはどうにもそりが合わないのよね……。
マクシミリアンとシュミナ嬢は、マクシミリアンが彼女を『シュミナ』と呼ぶくらいに親しくなった。
シュミナ嬢は可愛いし、人懐っこいし、身分が近いし、なんといってもヒロインだものね。マクシミリアンも気を許して当然だ。
今はわたくしに毎日ベタベタなマクシミリアンだけど、いずれはシュミナ嬢のところに行くのだろう。
そんな未来を想像すると胸が痛くなって、口に入れた白身魚はなんだか味がしなくて砂を噛んでいるような心地になってくる。
いっそゲームのビアンカ・シュラットのように『わたくしの犬に触らないで!』なんて叫べたらいいのに……なんて思ってしまうのは悪役令嬢化がもう始まっているせいだろうか。
やだなぁ、マクシミリアンにボコボコにされて娼館に送られちゃうのは。
ちらりとマクシミリアンを見るとシュミナ嬢と楽しそうに話しているのが目に入って、心に酷い痛みを覚えた。
……もう、見てられないわ。
「食欲がないので、申し訳ありませんが……わたくしこれで失礼しますわ」
そう言って席を立つと皆様が心配そうに視線を向けてくる。
その視線に後ろめたさを感じながら皆様に笑顔を向けて出口へ足を向けると、後ろからマクシミリアンが追いかけてくる気配がした。
「お嬢様、ご気分が優れないのでしたら寮へ戻りましょう」
わたくしに追いついたマクシミリアンが心配そうにそう声をかけてくる。
そんな優しい言葉をかけられたら泣いてしまいそうだから止めて。
醜く歪んでいるであろう顔を見られたくなくて彼を無視して早足で歩いていると、背後から腰を抱きこまれ捕まえられてしまった。
マクシミリアンの香りを感じると胸がざわめいて、体同士が接している部分が熱い。
でもそのような気持ちを掻き立てられるのは、不埒なわたくしだけなのだ。
そんな事を考えていたら、堪えていた涙がついに溢れてしまう。
「離して、マクシミリアン」
「……嫌です。お嬢様が辛そうなのを看過するわけには参りません」
そう言って彼は、軽々とわたくしを抱き上げる。そしてわたくしが泣いているのに気づくと驚いた顔をした。
「お嬢様……!」
「見ないで、マクシミリアン」
ああ、嫌だ。この世界で醜いのは、きっと悪役令嬢のわたくしだけだ。
そんなわたくしを見られたくなくて……マクシミリアンの胸に顔を寄せて隠すと、彼に優しく頭を撫でられた。
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