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悪役令嬢はヒロインに負けたくない
悪役令嬢はヒロインに負けたくない・8※
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「お嬢様……。えっと、じゃあ先ほど使用人寮にいたのは……」
「はい……マクシミリアンに夜這いをしようとしてました」
わたくしは、何を白状させられているのだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「……お嬢様の思考回路がわからない」
マクシミリアンが珍しく苦悩する表情でため息をつき頭を抱えている。
それもそうよね。主人が自分をやり逃げしようとしてました、なんて訳がわからないわよね。
「だって……マクシミリアンがシュミナ嬢とデートなんてするから」
わたくしがぽつり、と呟くとマクシミリアンは勢いよくこちらに顔を向けた。
「……えっと、もしかして。嫉妬ですか」
「そうよ、嫉妬よ。シュミナ嬢に貴方を取られるのが嫌だったの。でもわたくしが頑張っても貴方はシュミナ嬢のものになってしまうから。それならせめて……シュミナ嬢より前に体だけでも……って」
だけど夜這いは失敗し、家出用の荷物は見咎められ、計画は失敗に終わってしまった。
……家出だけでも、後日なんとか頑張れないかしら。
わたくしは死んだ魚の目になって遠い目をした。
こんな妙な失恋をしたままマクシミリアンの側に居たくないし、悪役令嬢化していく自分をマクシミリアンに見られたくないし。
「それは……お嬢様は、私の事を」
「ええ。好きよ、マクシミリアン。好きになってしまったの」
誤魔化しても仕方がないもの。そう思って真っすぐに彼の目を見て告げると、マクシミリアンの黒曜石の瞳が大きく見開かれる。
「――ッ!!」
そして唐突に後頭部に手を回され、唇を重ねられた。ちょっ……マクシミリアン!?
何度も何度も荒々しく口付けられて、歯で軽く唇を噛まれ、舌を深く差し込まれて口内を満遍なく舐められる。
マクシミリアン、これ、初心者用のキスじゃない!
獣のように荒い息をしながら必死にキスの嵐に耐えマクシミリアンの服をきゅうっと握るとその手を取られ指を絡められた。
寝ているところだったのだろうラフな服装の彼の手はいつもの白い手袋をしていなくて、褐色の彼の手と白い自分の手が絡み合うのを涙が滲んでぼんやりとした視界が捉える。
彼の舌に自分の舌でぎこちなく応える事を覚えた頃に唇をようやく離されて、もうどちらのものかなんてわからない口の端から零れた唾液を紅い舌で舐め取られ、もう1度軽く口付けられた。
そして奇麗な顔にうっとりとした表情を浮かべた彼が頬を染めて幸せそうに見つめてくるから、どうしていいのかわからなくて目を逸らすと頬に優しく口付けられて蕩けそうになる。
「お嬢様。私も……お嬢様を愛しております」
「マクシミリアン……!」
囁かれた言葉に心が浮き立ったけれど、『強制力』という単語が思い浮かんで一気に沈んだ。
愛してるって言われたのは嬉しいけれど、それは強制力がマクシミリアンに言わせている言葉なんだわ……。
「……マクシミリアンは絶対、シュミナ嬢を好きになるわ」
わたくしが涙目でそう言うと、マクシミリアンの顔が酷く傷ついたように歪んだ。
「お嬢様は、そんなに私の気持ちが信じられないのですか?」
「だって……わたくしは貴方に好かれる存在じゃないの」
彼女がヒロインなんだもの! とは言えなくて口を噤む。
悪役令嬢が攻略対象に好かれる、なんて出目はこの世界には存在しない。
その事をマクシミリアンに伝えられないのがもどかしい。
「……ビアンカ」
ひやり、と首筋に切れ味のよい刃物を当てられたような冷たい声音で名前を呼ばれて体が震えた。
「私の想いを、たっぷり貴女の体に刻み……そんな事はもう言えないようにして差し上げます」
「ひっ……!」
マクシミリアンの怜悧な顔に、狂気を孕んだ美しい笑みが刻まれる。
怖い、怖い。素敵な微笑みを見ているはずなのに、体の震えが止まらない。
「やだぁ……」
「嫌? どうしてですか。私に、捧げるつもりだったのでしょう? 隅々まで味わって食べてあげますね、ビアンカ」
そう宣言するとマクシミリアンはわたくしの体を抱きあげて、寝台の方に向かう。
どうしよう。マクシミリアンに食べられてしまう。
先ほどまでは自発的に食べられる気満々だったのだけれど!
マクシミリアンは寝台にわたくしを横たえると、自分も寝台に上がり白いシャツの釦を片手で器用に外しながらもう片手で頬を撫でた。
シャツから覗く彼の素肌が、鎖骨が。凄まじい色気を放っていて無意識にごくりと喉が鳴ってしまう。
彼がシャツを脱ぎ去ると細身だと思っていた彼の体には意外にしっかりとした筋肉が付いていて、奇麗に薄く割れた腹筋や腰のくびれがまるで彫刻のようだなと見惚れてしまった。
マクシミリアンはわたくしのナイトドレスの釦に手をかけするすると外していく。
元々抱かれるつもりだったのだ、今日のナイトドレスは前の釦を外せばすぐに脱げるものを着ている。
そして……。
「お嬢様……」
ナイトドレスの前を開いたマクシミリアンが、驚いたような顔をした。
ドレスを開いたところから現れたのは、白い素肌と小さな胸、そしてその桃色の頂き……。
そう、ナイトドレスの下にわたくしは何も着ていないのだ。
痴女と言うなかれ、かなり必死だったのよ。
下着を脱いでいる間に逃げられたりしたらどうしようとか、色々考えた結果ナイトドレス一枚が要領がいいと思ったのだ。
「痴女ですか、お嬢様は。いや、痴女でしたね。わざわざ使用人寮まで夜這いにいらっしゃったのですものね」
マクシミリアンにきっぱり『痴女』と言われてわたくしは涙目になった。
「だって……マクシミリアンに、抱かれたくて」
暴かれたナイトドレスの前をかき合わせ、薄い胸を隠す。
改めて指摘されると恥ずかしくて死にたくなる。もういやだ、恥ずかしい、消えてしまいたい。
「貴方なんて、嫌いだわ……」
頬を膨らませながらそう言うと、マクシミリアンの顔が近づいてきて……。
強く、首筋を噛まれた。
「いたいっ……!」
見えないけれど歯型、歯形が付いたんじゃないかしら!!
「痛いわ! 何をするの!!」
「他の男もいる使用人寮にこんな格好で来るわ、人をやり捨てた上での家出を企んでいるわ、やっと想いが通じたと思えばシュミナを私が好きになるだの言い出すわ、挙句の果てには嫌いだのと……。お嬢様は私を翻弄するのが本当にお上手ですね」
にっこりと美しく微笑むマクシミリアンのお顔は、笑顔なのにまるで悪鬼のようだった。
「はい……マクシミリアンに夜這いをしようとしてました」
わたくしは、何を白状させられているのだろう。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「……お嬢様の思考回路がわからない」
マクシミリアンが珍しく苦悩する表情でため息をつき頭を抱えている。
それもそうよね。主人が自分をやり逃げしようとしてました、なんて訳がわからないわよね。
「だって……マクシミリアンがシュミナ嬢とデートなんてするから」
わたくしがぽつり、と呟くとマクシミリアンは勢いよくこちらに顔を向けた。
「……えっと、もしかして。嫉妬ですか」
「そうよ、嫉妬よ。シュミナ嬢に貴方を取られるのが嫌だったの。でもわたくしが頑張っても貴方はシュミナ嬢のものになってしまうから。それならせめて……シュミナ嬢より前に体だけでも……って」
だけど夜這いは失敗し、家出用の荷物は見咎められ、計画は失敗に終わってしまった。
……家出だけでも、後日なんとか頑張れないかしら。
わたくしは死んだ魚の目になって遠い目をした。
こんな妙な失恋をしたままマクシミリアンの側に居たくないし、悪役令嬢化していく自分をマクシミリアンに見られたくないし。
「それは……お嬢様は、私の事を」
「ええ。好きよ、マクシミリアン。好きになってしまったの」
誤魔化しても仕方がないもの。そう思って真っすぐに彼の目を見て告げると、マクシミリアンの黒曜石の瞳が大きく見開かれる。
「――ッ!!」
そして唐突に後頭部に手を回され、唇を重ねられた。ちょっ……マクシミリアン!?
何度も何度も荒々しく口付けられて、歯で軽く唇を噛まれ、舌を深く差し込まれて口内を満遍なく舐められる。
マクシミリアン、これ、初心者用のキスじゃない!
獣のように荒い息をしながら必死にキスの嵐に耐えマクシミリアンの服をきゅうっと握るとその手を取られ指を絡められた。
寝ているところだったのだろうラフな服装の彼の手はいつもの白い手袋をしていなくて、褐色の彼の手と白い自分の手が絡み合うのを涙が滲んでぼんやりとした視界が捉える。
彼の舌に自分の舌でぎこちなく応える事を覚えた頃に唇をようやく離されて、もうどちらのものかなんてわからない口の端から零れた唾液を紅い舌で舐め取られ、もう1度軽く口付けられた。
そして奇麗な顔にうっとりとした表情を浮かべた彼が頬を染めて幸せそうに見つめてくるから、どうしていいのかわからなくて目を逸らすと頬に優しく口付けられて蕩けそうになる。
「お嬢様。私も……お嬢様を愛しております」
「マクシミリアン……!」
囁かれた言葉に心が浮き立ったけれど、『強制力』という単語が思い浮かんで一気に沈んだ。
愛してるって言われたのは嬉しいけれど、それは強制力がマクシミリアンに言わせている言葉なんだわ……。
「……マクシミリアンは絶対、シュミナ嬢を好きになるわ」
わたくしが涙目でそう言うと、マクシミリアンの顔が酷く傷ついたように歪んだ。
「お嬢様は、そんなに私の気持ちが信じられないのですか?」
「だって……わたくしは貴方に好かれる存在じゃないの」
彼女がヒロインなんだもの! とは言えなくて口を噤む。
悪役令嬢が攻略対象に好かれる、なんて出目はこの世界には存在しない。
その事をマクシミリアンに伝えられないのがもどかしい。
「……ビアンカ」
ひやり、と首筋に切れ味のよい刃物を当てられたような冷たい声音で名前を呼ばれて体が震えた。
「私の想いを、たっぷり貴女の体に刻み……そんな事はもう言えないようにして差し上げます」
「ひっ……!」
マクシミリアンの怜悧な顔に、狂気を孕んだ美しい笑みが刻まれる。
怖い、怖い。素敵な微笑みを見ているはずなのに、体の震えが止まらない。
「やだぁ……」
「嫌? どうしてですか。私に、捧げるつもりだったのでしょう? 隅々まで味わって食べてあげますね、ビアンカ」
そう宣言するとマクシミリアンはわたくしの体を抱きあげて、寝台の方に向かう。
どうしよう。マクシミリアンに食べられてしまう。
先ほどまでは自発的に食べられる気満々だったのだけれど!
マクシミリアンは寝台にわたくしを横たえると、自分も寝台に上がり白いシャツの釦を片手で器用に外しながらもう片手で頬を撫でた。
シャツから覗く彼の素肌が、鎖骨が。凄まじい色気を放っていて無意識にごくりと喉が鳴ってしまう。
彼がシャツを脱ぎ去ると細身だと思っていた彼の体には意外にしっかりとした筋肉が付いていて、奇麗に薄く割れた腹筋や腰のくびれがまるで彫刻のようだなと見惚れてしまった。
マクシミリアンはわたくしのナイトドレスの釦に手をかけするすると外していく。
元々抱かれるつもりだったのだ、今日のナイトドレスは前の釦を外せばすぐに脱げるものを着ている。
そして……。
「お嬢様……」
ナイトドレスの前を開いたマクシミリアンが、驚いたような顔をした。
ドレスを開いたところから現れたのは、白い素肌と小さな胸、そしてその桃色の頂き……。
そう、ナイトドレスの下にわたくしは何も着ていないのだ。
痴女と言うなかれ、かなり必死だったのよ。
下着を脱いでいる間に逃げられたりしたらどうしようとか、色々考えた結果ナイトドレス一枚が要領がいいと思ったのだ。
「痴女ですか、お嬢様は。いや、痴女でしたね。わざわざ使用人寮まで夜這いにいらっしゃったのですものね」
マクシミリアンにきっぱり『痴女』と言われてわたくしは涙目になった。
「だって……マクシミリアンに、抱かれたくて」
暴かれたナイトドレスの前をかき合わせ、薄い胸を隠す。
改めて指摘されると恥ずかしくて死にたくなる。もういやだ、恥ずかしい、消えてしまいたい。
「貴方なんて、嫌いだわ……」
頬を膨らませながらそう言うと、マクシミリアンの顔が近づいてきて……。
強く、首筋を噛まれた。
「いたいっ……!」
見えないけれど歯型、歯形が付いたんじゃないかしら!!
「痛いわ! 何をするの!!」
「他の男もいる使用人寮にこんな格好で来るわ、人をやり捨てた上での家出を企んでいるわ、やっと想いが通じたと思えばシュミナを私が好きになるだの言い出すわ、挙句の果てには嫌いだのと……。お嬢様は私を翻弄するのが本当にお上手ですね」
にっこりと美しく微笑むマクシミリアンのお顔は、笑顔なのにまるで悪鬼のようだった。
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