【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

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番外編

月と獣の舞踏会1(マクシミリアン視点)

ビアンカを衆目に晒したくない。その気持ちは彼女と想いが通じ合う前から変わっていない。
ビアンカは、美しすぎるのだ。雪のように白い肌、薔薇色の頬、毛先まで美しく輝く銀糸の髪。その瞳は銀色の睫毛に縁取られ、青い瞳は光の差し方によって色を僅かに変えながら美しく煌めく。
整った顔立ちは巨匠達が掘り出す女神の彫刻さながら……いや、それ以上に整っている。
細い手足はすんなりと伸び、彼女は気にしているがささやかな胸はいつまで経っても少女のような清廉さを感じさせた。
その容色は子供二人を産んだ今となっても変わらない。それどころか大人の色香が醸し出され更に美しくなっている。

――――こんな美しい生き物を、下衆共の視線の前に晒すなんて狂気の沙汰だ。

「ねぇ、マクシミリアン。このドレスでいいかしら?」

美しく可愛らしい妻は私の気持ちを露知らず楽しそうに微笑みながら、クリノリンで膨らんだ青いドレスの裾を掴んでくるり、と一回転した。
今日の彼女は銀糸の髪のサイドをゆるいスパニエルカールに巻いている。『縦ロールなんて悪役って感じね』なんて鏡の前で呟いていたが……何故悪役なのだろう。流行りの髪型だしとてもよく似合っているのに。
街で見る女性のようにきつくカールを巻いている訳ではないので、むしろ上品な印象だ。

「似合っています、ビアンカ。……誰にも見せたくない」

言葉を待ってわくわくとこちらを見つめる妻を、そっと抱き寄せて耳元でそう囁く。
すると彼女は『もう』と小さく呟いて私を上目遣いで見上げた。

「今夜の舞踏会には、貴方が誘ってくれたのよ?」
「……陛下に言われて、仕方なく、です。本当ならずっとこの屋敷に閉じ込めて誰にも見せたくないんです。美しくて愛おしい私だけの貴女を誰かに見せるなんて……考えただけで発狂してしまいそうだ」

そう言って強く抱くとビアンカは顔を真っ赤にして私の胸にその美しい顔を埋めた。
……このままベッドに連れ込んでしまいたい。そして長年閨を共にし知り尽くした、彼女が感じる場所を丹念に刺激し、愛らしい表情や声を堪能したい。私だけが知る彼女の痴態を目にし独占欲が満たされるのを感じたい。

「……今夜は体調不良ということで……」
「何を言っているのマクシミリアン! 大事な王家主催の舞踏会でしょう!?」

ビアンカを抱き上げてベッドに運ぼうとすると、彼女は必死で叫んで私を止める。仕方がない。本当に仕方がないが……行かねばなるまい。
早く息子に跡を継がせてビアンカと隠居暮らしがしたい。近頃は毎日そんな事ばかり考えてしまう。
そう言うとビアンカには『嫌よ!マクシミリアンと二人だと夜の生活が増えて体が持たないもの!』と言われてしまうが……。

「絶対に私の側から離れないで下さいね。他の男とは目を合わせないように。微笑みかけるなんてもっての外です」
「わかっているわ、マクシミリアン」

……本当にわかっているのだろうか。ビアンカはニコニコとしながら私の言う事に頷き返す。その様子はとても可愛い。本当に可愛らしい。私は何年経ってもこの妻に、恋をしている。

「貴方とダンスが踊れるなんて楽しみよ。人前で踊るのは久しぶりだし、失敗しないか心配だけれど……」
「完璧にフォローしますから。貴女に恥はかかせません」

ビアンカはダンスが得意な方ではない。リズムに乗って体を動かすのがどうにも苦手らしいのだ。
その不器用だけれど一生懸命に踊る様子も健気で可愛らしいのだが……。
心配そうな妻の額に唇を落とすと彼女は安心したようにふにゃりと表情を緩めた。


付いて行くと駄々をこねる子供達を説き伏せビアンカと共に馬車に乗り込み王宮へ向かう。
私達が乗り込んだ子爵家の家紋が付いた馬車はその家格に似合わないくらいに大きく立派だ。
ビアンカも私も質素な生活で十分なのだが、普段の功績を云々と言ってなんだかんだと陛下が色々な物を下賜して下さるのだ……この馬車もその一つだ。
他国からふらりと渡って来た私だ。他の国にまた渡るのを引き留める意図もあるのだろう。
ビアンカがこの国を気に入っているので今のところ他の国に移住する気は無いのだが。

「王宮に行くのは久しぶりだわ。楽しみね、マクシミリアン」
「……私は仕事で毎日のように登城しておりますので、それ程楽しみでは」
「もう、意地悪ね!」

私の言葉にビアンカは頬を膨らませる。
彼女を王宮に連れて行ったのはこの国に来たばかりの頃。陛下にぜひ妻もと言われ薔薇園での茶会に行って以来だ。何年ぶりかの登城にビアンカは心を躍らせとても楽しそうだ。
……こんな彼女を見ていると籠の鳥のような窮屈な生活をさせている事に罪悪感を覚えてしまう。
ビアンカの望むままもっと自由にさせてやるくらい、私が度量がある男だったらよかったのに。
そんな事を考えはしても実際は自分の欲望に忠実に、彼女を縛って閉じ込めてしまう。
……彼女はこんな私を、嫌になってしまわないだろうか。

「マクシミリアン、どうして不安そうなの?」

ビアンカが湖面の色の瞳で見つめながら、心配そうな顔で私の頬を撫でた。

「……なんでもありません。ビアンカ」

頬を撫でる彼女の手に自分の手を重ね、ぎゅっと握ると柔らかで温かな感触が手の中に収まった。

「わたくし、マクシミリアンといて……幸せよ」

私が不安そうにしていると、ビアンカはいつもそう言って微笑んでくれる。その言葉と笑顔にもう何度救われたかわからない。
ビアンカに微笑み返し、その唇に唇を重ねようとした時……。
馬車がその車体を揺らしながら止まり、御者が王宮に着いた事を告げた。
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