29 / 71
番外編
月と獣の舞踏会3(マクシミリアン視点)
アルフォンス様はパートナーを連れずに舞踏会に参加されるそうだ。
この年齢までなぜか独身を貫いているアルフォンス様は、この舞踏会の注目の的となるだろう。
彼はリーベッヘ王国で権勢を誇るシュラット侯爵家の次期当主であり、その有能な仕事ぶりは父親に匹敵するとの世間からの評価を受けている。性格は極めて温厚で聡明。そして群を抜いた美貌を持つ。
これ程までに完璧な男がまだ誰とも婚姻を結んでいないのは奇跡に等しい。
今回の舞踏会で娘をけしかける親は数多だろう……いや、ご令嬢自身が親にけしかけられなくても猛然と狩りに行きそうだな。
「ふふ。両手に花ね」
アルフォンス様と私に手を取られ真ん中で笑うビアンカはとても楽しそうだ。
湖面の色の瞳をアルフォンス様に向け可憐にビアンカが笑うと、彼も愛おしいという気持ちが溢れんばかりの慈愛に満ちた微笑みを浮かべてビアンカを見つめる。
その光景は似合いの恋人同士のようで、胸の奥がチリチリと焦げつくのを感じた。
「天使のエスコートができるなんて光栄だね」
優しく囁きながらビアンカの額にアルフォンス様がキスをする情景は一枚の絵画のように美しく、私は思わず見惚れてしまった。
……アルフォンス様とビアンカが実の兄妹で、本当によかった。
彼が養子だ従兄だといったビアンカと婚姻できる関係であったならば、私は彼に何をしていたか分からない。
周囲の視線も艶麗な姿の二人に容赦なく突き刺さっている。
ビアンカ一人でも人目を引きすぎる美しさなのに、同じように美しいアルフォンス様までセットになってしまったらどうやってもビアンカを隠しようがないな……。
「ビアンカ。私の事も忘れないでくださいね?」
妻があまりにアルフォンス様と楽しそうに過ごすので気を引きたくてそう言うと、彼女は木漏れ日のような優しい笑みを浮かべた。
「大事な旦那様の事を、忘れるわけないでしょう?」
ビアンカはそう言いながら私の手を強く握る。
その手の優しいぬくもりがとても愛おしかった。
人波の一部になり、私達は会場へと向かった。
(昔のビアンカを覚えている者に出会わなければいいな。男爵令嬢の殺害未遂、なんて事件はもう風化しているだろうしビアンカの顔を覚えている者も9年経った今数少ないだろうが……。シュラット侯爵家のご令嬢が国外追放になったこと自体は今でもあちらの社交界では語り草かもしれない。今更、被害者の元恋人と加害者が婚姻していることを知られ面白おかしく吹聴されても困る)
――フィリップ王子とノエル・ダウストリアにはビアンカとの婚姻を知られているが、ああ見えて誰彼に噂を振りまく連中ではないので大丈夫だろう。
…………そんなことをしていたら、殺してやる。
妻を横目で見ると彼女は楽しそうに笑ったかと思うと、時折私の言いつけのことを思い出しハッとして渋い顔をしてみたりしている。
その様子がとても可愛らしくて、私の口元は思わず緩んでしまう。
ビアンカの笑顔を、曇らせるようなことはあってはならない……私は改めて自分自身にそう誓った。
「寂しいけれど僕はこの辺りで別行動をさせてもらうよ。明日、屋敷に寄っても?」
「ええ、もちろんです。ローラも喜びます」
アルフォンス様はビアンカの手を離し、名残惜しそうにその頬をなでると人混みにすっと紛れていった。
シュラット侯爵家のご令息といつまでも行動を共にしているとビアンカの素性を勘付かれる可能性が高くなってしまう。彼はそう思い離れて行ったのだろう。
「……ごめんなさいね、マクシミリアン。わたくしの昔の行いのせいで貴方やお兄様に気遣いをさせてしまっているわ」
私とアルフォンス様のやり取りを見て、ビアンカが悲しそうに目を伏せた。
違う、ビアンカ。自らのエゴで君が罪を犯すように仕向けた私が悪いんだ。
私がそんなことをしなければビアンカは今頃、日の当たる場所にいたはずなんだ。
――自分がしたことに後悔はしてはいない。
けれど私が彼女を貶め汚し表舞台から引きずり下ろした男だという事実は、時折酷く心を締め付ける。
「いいえ、元は私が自分のエゴで貴方を手に入れようとしたのが原因なので。私のせいで肩身が狭い思いをさせてしまって申し訳ありません」
「それは違うの、マクシミリアン! わたくしが悪役れ……いや、その、あの頃のわたくしだと、どうやっても幸せになんてなれなかったの。マクシミリアンが、わたくしを幸せにしてくれたのよ」
そう言いながら妻は私の腕に腕を絡め、慰めからではなく本当に幸せそうな顔で笑った。
「……ありがとう、ビアンカ」
「こちらこそ幸せにしてくれてありがとう、マクシミリアン」
――ビアンカの存在は、私の救いで光だ。
いつの間にか舞踏会の会場前までたどり着いており、私は開いた大扉の前で深呼吸をした。
表向き私とビアンカの婚姻は『ただの平民』のビアンカを貴族の私が娶った、ということになっている。
『平民』上がりへの貴族の侮蔑と軽蔑の念は強く、『元侯爵家の娘』だとバレなくても彼女に向けられる視線は好奇を含むものになるだろう。
これだけ美しければなおさらだ。
彼女が不快な思いをしないように……私が必ず守らなければ。
この年齢までなぜか独身を貫いているアルフォンス様は、この舞踏会の注目の的となるだろう。
彼はリーベッヘ王国で権勢を誇るシュラット侯爵家の次期当主であり、その有能な仕事ぶりは父親に匹敵するとの世間からの評価を受けている。性格は極めて温厚で聡明。そして群を抜いた美貌を持つ。
これ程までに完璧な男がまだ誰とも婚姻を結んでいないのは奇跡に等しい。
今回の舞踏会で娘をけしかける親は数多だろう……いや、ご令嬢自身が親にけしかけられなくても猛然と狩りに行きそうだな。
「ふふ。両手に花ね」
アルフォンス様と私に手を取られ真ん中で笑うビアンカはとても楽しそうだ。
湖面の色の瞳をアルフォンス様に向け可憐にビアンカが笑うと、彼も愛おしいという気持ちが溢れんばかりの慈愛に満ちた微笑みを浮かべてビアンカを見つめる。
その光景は似合いの恋人同士のようで、胸の奥がチリチリと焦げつくのを感じた。
「天使のエスコートができるなんて光栄だね」
優しく囁きながらビアンカの額にアルフォンス様がキスをする情景は一枚の絵画のように美しく、私は思わず見惚れてしまった。
……アルフォンス様とビアンカが実の兄妹で、本当によかった。
彼が養子だ従兄だといったビアンカと婚姻できる関係であったならば、私は彼に何をしていたか分からない。
周囲の視線も艶麗な姿の二人に容赦なく突き刺さっている。
ビアンカ一人でも人目を引きすぎる美しさなのに、同じように美しいアルフォンス様までセットになってしまったらどうやってもビアンカを隠しようがないな……。
「ビアンカ。私の事も忘れないでくださいね?」
妻があまりにアルフォンス様と楽しそうに過ごすので気を引きたくてそう言うと、彼女は木漏れ日のような優しい笑みを浮かべた。
「大事な旦那様の事を、忘れるわけないでしょう?」
ビアンカはそう言いながら私の手を強く握る。
その手の優しいぬくもりがとても愛おしかった。
人波の一部になり、私達は会場へと向かった。
(昔のビアンカを覚えている者に出会わなければいいな。男爵令嬢の殺害未遂、なんて事件はもう風化しているだろうしビアンカの顔を覚えている者も9年経った今数少ないだろうが……。シュラット侯爵家のご令嬢が国外追放になったこと自体は今でもあちらの社交界では語り草かもしれない。今更、被害者の元恋人と加害者が婚姻していることを知られ面白おかしく吹聴されても困る)
――フィリップ王子とノエル・ダウストリアにはビアンカとの婚姻を知られているが、ああ見えて誰彼に噂を振りまく連中ではないので大丈夫だろう。
…………そんなことをしていたら、殺してやる。
妻を横目で見ると彼女は楽しそうに笑ったかと思うと、時折私の言いつけのことを思い出しハッとして渋い顔をしてみたりしている。
その様子がとても可愛らしくて、私の口元は思わず緩んでしまう。
ビアンカの笑顔を、曇らせるようなことはあってはならない……私は改めて自分自身にそう誓った。
「寂しいけれど僕はこの辺りで別行動をさせてもらうよ。明日、屋敷に寄っても?」
「ええ、もちろんです。ローラも喜びます」
アルフォンス様はビアンカの手を離し、名残惜しそうにその頬をなでると人混みにすっと紛れていった。
シュラット侯爵家のご令息といつまでも行動を共にしているとビアンカの素性を勘付かれる可能性が高くなってしまう。彼はそう思い離れて行ったのだろう。
「……ごめんなさいね、マクシミリアン。わたくしの昔の行いのせいで貴方やお兄様に気遣いをさせてしまっているわ」
私とアルフォンス様のやり取りを見て、ビアンカが悲しそうに目を伏せた。
違う、ビアンカ。自らのエゴで君が罪を犯すように仕向けた私が悪いんだ。
私がそんなことをしなければビアンカは今頃、日の当たる場所にいたはずなんだ。
――自分がしたことに後悔はしてはいない。
けれど私が彼女を貶め汚し表舞台から引きずり下ろした男だという事実は、時折酷く心を締め付ける。
「いいえ、元は私が自分のエゴで貴方を手に入れようとしたのが原因なので。私のせいで肩身が狭い思いをさせてしまって申し訳ありません」
「それは違うの、マクシミリアン! わたくしが悪役れ……いや、その、あの頃のわたくしだと、どうやっても幸せになんてなれなかったの。マクシミリアンが、わたくしを幸せにしてくれたのよ」
そう言いながら妻は私の腕に腕を絡め、慰めからではなく本当に幸せそうな顔で笑った。
「……ありがとう、ビアンカ」
「こちらこそ幸せにしてくれてありがとう、マクシミリアン」
――ビアンカの存在は、私の救いで光だ。
いつの間にか舞踏会の会場前までたどり着いており、私は開いた大扉の前で深呼吸をした。
表向き私とビアンカの婚姻は『ただの平民』のビアンカを貴族の私が娶った、ということになっている。
『平民』上がりへの貴族の侮蔑と軽蔑の念は強く、『元侯爵家の娘』だとバレなくても彼女に向けられる視線は好奇を含むものになるだろう。
これだけ美しければなおさらだ。
彼女が不快な思いをしないように……私が必ず守らなければ。
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…