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番外編
月と獣の舞踏会6(マクシミリアン視点)
「……フィリップ王子。妻は気分が優れないようなので、遠慮しては頂けませんか?」
私はフィリップ王子を睨みつけると、にべもない口調で言った。
これは、本当だ。現に私に寄り添ったビアンカの体は瘧にでもかかったかのように激しく震えている。
下種共の好奇の視線に晒され、ルドルフ王子には過去のことを無遠慮に詮索され、挙句の果てには過去の亡霊との対面だ。
……しかもその過去の亡霊が、妻と話をさせろだと?
ビアンカにどれだけ負担をかけたいんだ、この男は。
私が仕組んだとはいえ、婚約者だった妻をなんの躊躇もなく切り捨て国外追放としたのはこいつ自身だ。
今更妻と、なんの話をするつもりだ。
「マクシミリアン。どうしても、ダメか?」
フィリップ王子はその豪奢な美貌を苦しそうに歪ませ、懇願するように言う。
私とフィリップ王子とのやり取りを周囲の人々が好奇心剥き出しで見ているのが腹立たしい。
子爵家ごときが他国の王太子の懇願に頑として首を縦に振らないのだ。いい見世物だろう。
その中にはルドルフ王子も含まれており、チャーリー陛下はハラハラとした様子でこちらを眺めている。
私達はお前らを楽しませるために存在しているわけではない……陛下は動機はともかく心底心配してくれているようだが。
「ねぇ、マクシミリアン。フィリップ様にチャンスをくれないかなぁ?」
ノエル・ダウストリアがにこにことその茶色の瞳を細め、楽しそうに笑いながら口を挟んだ。
「黙れ、ノエル・ダウストリア。私は『強引』にこの場を去ってもいいんだ。お前ごときが私を止められないのは知っているだろう? いっそお前らに二度と会わないために、今晩でこの国から去り遠くの国へ行くのもいいな」
「マクシミリアン! それは止めてくれないか!!」
ノエルが苛立った顔を見せる前に、私の言葉に悲鳴のような声を上げ反応したのはチャーリー陛下だった。
その陛下の様子を見てルドルフ王子や、舞踏会に参加している面々は目を丸くしている。
「マクシミリアン、侯爵位でも公爵位でもやるからこの国を離れるのだけは勘弁してくれ……! 君程の魔法師を失うのは困るんだ!」
陛下の言葉に周囲から大きなざわめきが起こった。
それもそうだろう。侯爵位や公爵位は、現在賜っている子爵位と違い気軽に与えていいものではない。
「……陛下。こんな場で迂闊なことはおっしゃらないでください」
焦った様子でこちらに駆けつけた陛下をやんわりと窘めると、陛下はしゅんとした顔でこちらを見つめた。
いい年齢の……というより最早老齢の身分ある男がそんな捨てられた子犬のような目をするんじゃない。
「……ふふっ」
横のビアンカが、小さく笑い声を上げた。
妻を見ると彼女は肩から力が抜けたようで、表情を緩ませていた。私の腕を掴んでいる手の震えも収まっているようだ。
陛下のご様子はビアンカの心を何故か和ませたらしい。
妻は私が制止するより早く前に進み出ると、毅然とした態度でフィリップ王子の目の前に立った。
「フィリップ王子、少しだけなら平気ですわ。マクシミリアンも……それでいいかしら?」
「よくない。私は、君を連れてこの場から去りたい」
「マクシミリアン、我儘は言わないで?」
「……嫌だ。帰る」
私の態度に妻は困ったように微笑みながらこちらへ歩み寄り、私を少し屈ませて背伸びをしてから頬に軽く口付けをした。
「拗ねないで、マクシミリアン。えっと。次の休日は子供達が父様とのご旅行でいないでしょう? その間、ずっと仲良くしましょう? す……少しなら、色々恥ずかしいことも、頑張るから」
妻は頬を染めながら私にしか聞こえない声で囁いた。
なんて魅力的な提案なんだ。最初から『ずっと仲良く』はするつもりではあったが、ビアンカ自身から言われると趣きが違う。
それに恥ずかしいこと……? 何をしてくれるのだろう。
期待する目を向けるとビアンカは恥ずかしそうに私から目を逸らした。
この場でずっとごちゃごちゃとやっているよりも、王子と会話を少しだけさせてこの会場からとっとと離れた方がビアンカが衆目に晒される時間は少なくなりそうだ。
断じて、妻の提案に釣られたわけではない。
「……十分だけ、それ以上は認めない。妻には髪の先にでも触れることは許さない。私も、もちろん同席する」
「分かった。感謝する。チャーリー陛下、どこか部屋をお借りしても?」
横柄な私の言葉にも、フィリップ王子は嫌な顔をせず冷静な態度だった。
昔ならすでに激高しているところだろう……彼も、大人になったのかもしれない。
「侍従に案内させよう。きちんと人払いもするから遠慮なく使ってくれ」
陛下はどこか疲れた顔でそう言うと、侍従に手早く指示を出した。
「陛下、フィリップ王子とのお話が終わりましたら私達は退散致しますので」
「わかった。……この国からの退散は止めてくれよ」
陛下、上目遣いでツンツンと服の裾を引っ張るのは止めて下さい。どこの乙女ですか貴方は。
「それは、展開次第です」
「……マクシミリアン……! 侯爵位! いや、公爵位は欲しくないか!?」
そんな孫の気を引くためにプレゼントをするようなノリで高位貴族の仲間入りをさせないで欲しい。
……ビアンカの身を守るために公爵位を貰っておくのは良い手だとは思うのだが……。
「一長一短ございますし。即答はできませんね」
「……父上はどうしてそんなにマクシミリアンにご執心なんだ……」
ルドルフ王子の呆然とした声が聞こえたが知らないふりをしながら、侍従に案内をされ私達が人気のない廊下を歩いていると……。
「ね、僕も同席していいかな? フィリップ王子」
悪戯っぽく笑いながら……しかし王子とノエルに対して怒りを含んだ目を向けるアルフォンス様が柱の陰から姿を現した。
アルフォンス様はビアンカが晒し者のようになっていたのを、歯がゆく思いながらも立場的に出て行くこともできず静観していたのだろう。
「アルフォンス様……!」
流石にこの場では『お兄様』とは言わずビアンカはアルフォンス様に駆け寄りその手を握った。
するとアルフォンス様は優しくビアンカを抱きしめ、安心させるように笑う。
「あーあ、なんか手強いのが出てきちゃったね。どうする、フィリップ様」
「どうもこうも……同席させるしかないだろう」
ノエルの言葉に、フィリップ王子は仕方なさそうに肩を竦めた。
私はフィリップ王子を睨みつけると、にべもない口調で言った。
これは、本当だ。現に私に寄り添ったビアンカの体は瘧にでもかかったかのように激しく震えている。
下種共の好奇の視線に晒され、ルドルフ王子には過去のことを無遠慮に詮索され、挙句の果てには過去の亡霊との対面だ。
……しかもその過去の亡霊が、妻と話をさせろだと?
ビアンカにどれだけ負担をかけたいんだ、この男は。
私が仕組んだとはいえ、婚約者だった妻をなんの躊躇もなく切り捨て国外追放としたのはこいつ自身だ。
今更妻と、なんの話をするつもりだ。
「マクシミリアン。どうしても、ダメか?」
フィリップ王子はその豪奢な美貌を苦しそうに歪ませ、懇願するように言う。
私とフィリップ王子とのやり取りを周囲の人々が好奇心剥き出しで見ているのが腹立たしい。
子爵家ごときが他国の王太子の懇願に頑として首を縦に振らないのだ。いい見世物だろう。
その中にはルドルフ王子も含まれており、チャーリー陛下はハラハラとした様子でこちらを眺めている。
私達はお前らを楽しませるために存在しているわけではない……陛下は動機はともかく心底心配してくれているようだが。
「ねぇ、マクシミリアン。フィリップ様にチャンスをくれないかなぁ?」
ノエル・ダウストリアがにこにことその茶色の瞳を細め、楽しそうに笑いながら口を挟んだ。
「黙れ、ノエル・ダウストリア。私は『強引』にこの場を去ってもいいんだ。お前ごときが私を止められないのは知っているだろう? いっそお前らに二度と会わないために、今晩でこの国から去り遠くの国へ行くのもいいな」
「マクシミリアン! それは止めてくれないか!!」
ノエルが苛立った顔を見せる前に、私の言葉に悲鳴のような声を上げ反応したのはチャーリー陛下だった。
その陛下の様子を見てルドルフ王子や、舞踏会に参加している面々は目を丸くしている。
「マクシミリアン、侯爵位でも公爵位でもやるからこの国を離れるのだけは勘弁してくれ……! 君程の魔法師を失うのは困るんだ!」
陛下の言葉に周囲から大きなざわめきが起こった。
それもそうだろう。侯爵位や公爵位は、現在賜っている子爵位と違い気軽に与えていいものではない。
「……陛下。こんな場で迂闊なことはおっしゃらないでください」
焦った様子でこちらに駆けつけた陛下をやんわりと窘めると、陛下はしゅんとした顔でこちらを見つめた。
いい年齢の……というより最早老齢の身分ある男がそんな捨てられた子犬のような目をするんじゃない。
「……ふふっ」
横のビアンカが、小さく笑い声を上げた。
妻を見ると彼女は肩から力が抜けたようで、表情を緩ませていた。私の腕を掴んでいる手の震えも収まっているようだ。
陛下のご様子はビアンカの心を何故か和ませたらしい。
妻は私が制止するより早く前に進み出ると、毅然とした態度でフィリップ王子の目の前に立った。
「フィリップ王子、少しだけなら平気ですわ。マクシミリアンも……それでいいかしら?」
「よくない。私は、君を連れてこの場から去りたい」
「マクシミリアン、我儘は言わないで?」
「……嫌だ。帰る」
私の態度に妻は困ったように微笑みながらこちらへ歩み寄り、私を少し屈ませて背伸びをしてから頬に軽く口付けをした。
「拗ねないで、マクシミリアン。えっと。次の休日は子供達が父様とのご旅行でいないでしょう? その間、ずっと仲良くしましょう? す……少しなら、色々恥ずかしいことも、頑張るから」
妻は頬を染めながら私にしか聞こえない声で囁いた。
なんて魅力的な提案なんだ。最初から『ずっと仲良く』はするつもりではあったが、ビアンカ自身から言われると趣きが違う。
それに恥ずかしいこと……? 何をしてくれるのだろう。
期待する目を向けるとビアンカは恥ずかしそうに私から目を逸らした。
この場でずっとごちゃごちゃとやっているよりも、王子と会話を少しだけさせてこの会場からとっとと離れた方がビアンカが衆目に晒される時間は少なくなりそうだ。
断じて、妻の提案に釣られたわけではない。
「……十分だけ、それ以上は認めない。妻には髪の先にでも触れることは許さない。私も、もちろん同席する」
「分かった。感謝する。チャーリー陛下、どこか部屋をお借りしても?」
横柄な私の言葉にも、フィリップ王子は嫌な顔をせず冷静な態度だった。
昔ならすでに激高しているところだろう……彼も、大人になったのかもしれない。
「侍従に案内させよう。きちんと人払いもするから遠慮なく使ってくれ」
陛下はどこか疲れた顔でそう言うと、侍従に手早く指示を出した。
「陛下、フィリップ王子とのお話が終わりましたら私達は退散致しますので」
「わかった。……この国からの退散は止めてくれよ」
陛下、上目遣いでツンツンと服の裾を引っ張るのは止めて下さい。どこの乙女ですか貴方は。
「それは、展開次第です」
「……マクシミリアン……! 侯爵位! いや、公爵位は欲しくないか!?」
そんな孫の気を引くためにプレゼントをするようなノリで高位貴族の仲間入りをさせないで欲しい。
……ビアンカの身を守るために公爵位を貰っておくのは良い手だとは思うのだが……。
「一長一短ございますし。即答はできませんね」
「……父上はどうしてそんなにマクシミリアンにご執心なんだ……」
ルドルフ王子の呆然とした声が聞こえたが知らないふりをしながら、侍従に案内をされ私達が人気のない廊下を歩いていると……。
「ね、僕も同席していいかな? フィリップ王子」
悪戯っぽく笑いながら……しかし王子とノエルに対して怒りを含んだ目を向けるアルフォンス様が柱の陰から姿を現した。
アルフォンス様はビアンカが晒し者のようになっていたのを、歯がゆく思いながらも立場的に出て行くこともできず静観していたのだろう。
「アルフォンス様……!」
流石にこの場では『お兄様』とは言わずビアンカはアルフォンス様に駆け寄りその手を握った。
するとアルフォンス様は優しくビアンカを抱きしめ、安心させるように笑う。
「あーあ、なんか手強いのが出てきちゃったね。どうする、フィリップ様」
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