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番外編
月と獣の舞踏会11(マクシミリアン視点)
ビアンカに無理をさせてしまった翌日。
寝込んでしまった妻の枕元に椅子を寄せ、私は看病をしていた。
子供達はメイドと遊びにきたアルフォンス様がみてくれている。ユール……そしてローラは特に嬉しそうだった。男親としては複雑な心境である。
本当にローラを嫁に取られないだろうな……!? いや、アルフォンス様なら身分もあり大事にしてくれるお方なので不足は全くないのだが。だからといって割り切れる問題ではないのだ。
今日は仕事を休むと早馬で伝えるとふだんは渋る上司から二つ返事で承諾の旨が返ってきた。それは舞踏会での陛下の態度を知ったからだろう。
昨夜の舞踏会を経て、私は陛下の大変なお気に入りという周りの認識におそらくなってしまったのだ。
そうでなくとも周囲が使えないせいで平素人よりも仕事をこなしているのだ。ビアンカが苦しんでいる時に休みが取れないのであれば、それこそこの国になんていなくていい。……今彼女が苦しんでいる原因は私なのだが。
眠っているビアンカの額を撫でる。
彼女はあどけない表情で眠り込んでいた。昨夜は無茶をさせてしまったからな……そう思い申し訳ない気持ちになる。
大事にしたいと思っているのにどうにも彼女を貪ることを止められない。
「……ビアンカ」
起こさないように小声で妻の名前を呼んでみる。私の、大切な愛しい人の名前を。
「マクシミリアン……?」
ビアンカの銀色の睫毛が震え、薄っすらと目が開くと湖面の色の瞳が私を捕らえた。
「ああ……申し訳ありません。起こしてしまいましたね」
「ふふ、いいの。お仕事は?」
「休みました。ビアンカより大事な仕事なんてないので」
「まぁ! マクシミリアンったら」
ビアンカは私の言葉を聞いて可憐な花のような笑顔を見せた。思ったよりも妻が元気そうで内心安堵の息をつく。
「なにかして欲しいことはありますか?」
そう訊ねると彼女は少し考える顔をした。ビアンカの体調不良の原因である私は神妙にしながら彼女の返事を待つ。
「やらしい意味じゃなくて、一緒に寝てマクシミリアン。一人じゃ寂しくて」
ビアンカははにかみながらそう言った。添い寝をご所望とはなんて可愛らしい……好きだ。
「わかりました、ビアンカ」
私は返事をすると靴を脱ぎそそくさと妻の寝台に上がった。上掛けをめくり彼女の隣に滑り込むとふわりとビアンカの香りに包まれ、よこしまな気持ちが湧いてくるのを軽く頭を振って振り払う。
そっと引き寄せ抱きしめるとビアンカは嬉しそうにして胸にすり寄ってきた。
「マクシミリアン、温かいわね」
そう言って彼女はふにゃりと愛らしい笑みを見せる。
「ビアンカも……温かいです」
互いに体温を感じながら抱きしめ合っていると、幸福感で蕩けそうになってしまう。この幸せな時間を彼女とこの先も過ごすためにも、私は彼女に出来る限りのことをしなければならない。
昨夜の舞踏会のことを思い返す。
昨日はあんなことになってしまったが、ビアンカはおそらく社交の場が好きだ。その証拠にどうしても参加しなければならない時に私が一人で社交に出向くと、いつもむくれた顔でお見送りをされた。
愛する人を籠の鳥にするのは……そろそろ止めるべきなのだろうか。
楽しそうに準備をする舞踏会前の彼女の顔を思い出し私は罪悪感を覚えた。
しかし彼女を衆目に晒したくない気持ちは強く、昨夜のようなこともまた起きかねない。だが王命と言われてしまえば何度も断ることは難しいしな……。
……生活を一から作るのは大変だが、別の国に行くのは本当にありかもしれないな。
「マクシミリアン。皺が寄ってるわ」
ビアンカが私の眉間を指で優しくほぐした。考え事をしていたせいか難しい顔になっていたようだ。
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべじゃれるようなキスをしてくる。これに手を出せないなんて……拷問か。
「ビアンカ、止めてください。食べてしまいたくなります」
「……はぁい」
私がそう言うと彼女は不満げにキスをするのを止めた。
「また王命で社交の場に呼ばれたら、どうしましょうかね」
思わず口から、そんな呟きが漏れてしまった。
何にしてもどうすれば安全に彼女を社交の場に出せるのかを考えなければ。公爵位を陛下に頂けば、表向きだけでも彼女を守れるだろうか。
「昨夜のようなことになるのは困るわね。……社交に行きたい理由はあるけど……」
妻はそこで言葉を区切って少し恥ずかしそうな顔をした。
怪訝な顔でビアンカを見つめると、彼女は仕方なさそうに口を開く。
「貴方の妻なのよって、他の女性をけん制したいの。社交の場に旦那様だけ出て妻が一切出ないなんて夫婦不仲を疑われても仕方ないわ。……そんなの、貴方に近づく女性に……隙を与えてしまうじゃない」
そういうと彼女は私の胸にぐりぐりと顔を押しつけた。
確かに私に近づく女性は……少なくはない。けれどそんなこと些末なことだと正直思っていた。私は、ビアンカにしか興味がないのだから。
「それにね、たまには綺麗にしてるわたくしを……マクシミリアンに見て欲しいのよ」
ビアンカの顔は、すっかり真っ赤になっている。
「貴女にしか、私は興味がありませんよ?」
「……わかってるわ。わたくしが焼きもち焼きなだけなの!」
「それに貴女はいつでも綺麗です」
「……もう!!」
彼女が愛おしい。まさか私が一人で社交に赴く時に彼女が不服げだったのは、焼きもちからだったなんて。
しかも綺麗な自分を見て欲しい、だなんて。健気にもほどがあるだろう!
「可愛いです、ビアンカ。抱いてもいいですか?」
「もう……ダメよ。今日はお兄様もいらっしゃるんだから!」
アルフォンス様がいなければ、抱いてもよかったのか。
昨夜、彼女を抱きつぶしたのに性懲りもなくそんなことを思ってしまう。
「……アルフォンス様にはローラとユールを連れて遊びに行ってもらいましょうか? 今は街でどんな催しがあってましたっけ……」
「マクシミリアン! ダメ!!」
頬を膨らませて睨みつけてくるビアンカが、可愛く思えて仕方ない。
抱きしめてキスの雨を降らせると彼女も楽しそうに笑った。
「……焼きもちを焼くわたくしは、嫌いかしら?」
「貴女のものなんて可愛いものです。もっと妬いてください」
妻の唇をふさぎ、その流れでナイトドレスを脱がそうとすると……ぴしゃり、と彼女に手を叩かれた。
ちなみにビアンカが心配していた夫婦不仲説は以前は流れていたらしいが、彼女が舞踏会に顔を出したことで『私が誰にも見せたくないくらいに、美しすぎる妻を溺愛している』という噂に変わっていた。
寝込んでしまった妻の枕元に椅子を寄せ、私は看病をしていた。
子供達はメイドと遊びにきたアルフォンス様がみてくれている。ユール……そしてローラは特に嬉しそうだった。男親としては複雑な心境である。
本当にローラを嫁に取られないだろうな……!? いや、アルフォンス様なら身分もあり大事にしてくれるお方なので不足は全くないのだが。だからといって割り切れる問題ではないのだ。
今日は仕事を休むと早馬で伝えるとふだんは渋る上司から二つ返事で承諾の旨が返ってきた。それは舞踏会での陛下の態度を知ったからだろう。
昨夜の舞踏会を経て、私は陛下の大変なお気に入りという周りの認識におそらくなってしまったのだ。
そうでなくとも周囲が使えないせいで平素人よりも仕事をこなしているのだ。ビアンカが苦しんでいる時に休みが取れないのであれば、それこそこの国になんていなくていい。……今彼女が苦しんでいる原因は私なのだが。
眠っているビアンカの額を撫でる。
彼女はあどけない表情で眠り込んでいた。昨夜は無茶をさせてしまったからな……そう思い申し訳ない気持ちになる。
大事にしたいと思っているのにどうにも彼女を貪ることを止められない。
「……ビアンカ」
起こさないように小声で妻の名前を呼んでみる。私の、大切な愛しい人の名前を。
「マクシミリアン……?」
ビアンカの銀色の睫毛が震え、薄っすらと目が開くと湖面の色の瞳が私を捕らえた。
「ああ……申し訳ありません。起こしてしまいましたね」
「ふふ、いいの。お仕事は?」
「休みました。ビアンカより大事な仕事なんてないので」
「まぁ! マクシミリアンったら」
ビアンカは私の言葉を聞いて可憐な花のような笑顔を見せた。思ったよりも妻が元気そうで内心安堵の息をつく。
「なにかして欲しいことはありますか?」
そう訊ねると彼女は少し考える顔をした。ビアンカの体調不良の原因である私は神妙にしながら彼女の返事を待つ。
「やらしい意味じゃなくて、一緒に寝てマクシミリアン。一人じゃ寂しくて」
ビアンカははにかみながらそう言った。添い寝をご所望とはなんて可愛らしい……好きだ。
「わかりました、ビアンカ」
私は返事をすると靴を脱ぎそそくさと妻の寝台に上がった。上掛けをめくり彼女の隣に滑り込むとふわりとビアンカの香りに包まれ、よこしまな気持ちが湧いてくるのを軽く頭を振って振り払う。
そっと引き寄せ抱きしめるとビアンカは嬉しそうにして胸にすり寄ってきた。
「マクシミリアン、温かいわね」
そう言って彼女はふにゃりと愛らしい笑みを見せる。
「ビアンカも……温かいです」
互いに体温を感じながら抱きしめ合っていると、幸福感で蕩けそうになってしまう。この幸せな時間を彼女とこの先も過ごすためにも、私は彼女に出来る限りのことをしなければならない。
昨夜の舞踏会のことを思い返す。
昨日はあんなことになってしまったが、ビアンカはおそらく社交の場が好きだ。その証拠にどうしても参加しなければならない時に私が一人で社交に出向くと、いつもむくれた顔でお見送りをされた。
愛する人を籠の鳥にするのは……そろそろ止めるべきなのだろうか。
楽しそうに準備をする舞踏会前の彼女の顔を思い出し私は罪悪感を覚えた。
しかし彼女を衆目に晒したくない気持ちは強く、昨夜のようなこともまた起きかねない。だが王命と言われてしまえば何度も断ることは難しいしな……。
……生活を一から作るのは大変だが、別の国に行くのは本当にありかもしれないな。
「マクシミリアン。皺が寄ってるわ」
ビアンカが私の眉間を指で優しくほぐした。考え事をしていたせいか難しい顔になっていたようだ。
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべじゃれるようなキスをしてくる。これに手を出せないなんて……拷問か。
「ビアンカ、止めてください。食べてしまいたくなります」
「……はぁい」
私がそう言うと彼女は不満げにキスをするのを止めた。
「また王命で社交の場に呼ばれたら、どうしましょうかね」
思わず口から、そんな呟きが漏れてしまった。
何にしてもどうすれば安全に彼女を社交の場に出せるのかを考えなければ。公爵位を陛下に頂けば、表向きだけでも彼女を守れるだろうか。
「昨夜のようなことになるのは困るわね。……社交に行きたい理由はあるけど……」
妻はそこで言葉を区切って少し恥ずかしそうな顔をした。
怪訝な顔でビアンカを見つめると、彼女は仕方なさそうに口を開く。
「貴方の妻なのよって、他の女性をけん制したいの。社交の場に旦那様だけ出て妻が一切出ないなんて夫婦不仲を疑われても仕方ないわ。……そんなの、貴方に近づく女性に……隙を与えてしまうじゃない」
そういうと彼女は私の胸にぐりぐりと顔を押しつけた。
確かに私に近づく女性は……少なくはない。けれどそんなこと些末なことだと正直思っていた。私は、ビアンカにしか興味がないのだから。
「それにね、たまには綺麗にしてるわたくしを……マクシミリアンに見て欲しいのよ」
ビアンカの顔は、すっかり真っ赤になっている。
「貴女にしか、私は興味がありませんよ?」
「……わかってるわ。わたくしが焼きもち焼きなだけなの!」
「それに貴女はいつでも綺麗です」
「……もう!!」
彼女が愛おしい。まさか私が一人で社交に赴く時に彼女が不服げだったのは、焼きもちからだったなんて。
しかも綺麗な自分を見て欲しい、だなんて。健気にもほどがあるだろう!
「可愛いです、ビアンカ。抱いてもいいですか?」
「もう……ダメよ。今日はお兄様もいらっしゃるんだから!」
アルフォンス様がいなければ、抱いてもよかったのか。
昨夜、彼女を抱きつぶしたのに性懲りもなくそんなことを思ってしまう。
「……アルフォンス様にはローラとユールを連れて遊びに行ってもらいましょうか? 今は街でどんな催しがあってましたっけ……」
「マクシミリアン! ダメ!!」
頬を膨らませて睨みつけてくるビアンカが、可愛く思えて仕方ない。
抱きしめてキスの雨を降らせると彼女も楽しそうに笑った。
「……焼きもちを焼くわたくしは、嫌いかしら?」
「貴女のものなんて可愛いものです。もっと妬いてください」
妻の唇をふさぎ、その流れでナイトドレスを脱がそうとすると……ぴしゃり、と彼女に手を叩かれた。
ちなみにビアンカが心配していた夫婦不仲説は以前は流れていたらしいが、彼女が舞踏会に顔を出したことで『私が誰にも見せたくないくらいに、美しすぎる妻を溺愛している』という噂に変わっていた。
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