【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

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番外編

月と獣の蜜月1

「ローラ、ユール! じぃじと今日から旅行だねぇ!!」

 屋敷に来るなりわたくしたちへの挨拶もそこそこに、デレデレの父様が孫たちを二人まとめてぎゅうぎゅうと抱きしめた。
 そう。孫たちを独り占めしたい父様の提案で、父様と子供二人は三泊四日の旅行に行くのです。わたくしはまだ子供たちと旅行をしたことがないのに父様が先なんてずるいわ……。
 ――マクシミリアンが旅行なんて一生許してくれない気もするけれど。
 抱きしめられてユールは嬉しそうに父様の頬に頬を擦りつけているけれど、ローラはなにか不満そうな顔だ。

「アルはいらっしゃらないの? じぃじだけ?」

 父様のキスを躱しながらローラが不満をぶつける。すると父様は泣きそうな情けない表情になった。
 ……可哀想に、父様……。ああ、かっこいいお顔が台無しよ……。

「アルフォンスは領地で仕事があるから、じぃじだけなんだ。ローラはじぃじのことが嫌いかな?」
「じぃじは好きだけど、アルはもっと好きなのよ! だって私アルのお嫁さんになるんですもの!」

 そう言ってローラはふふん、と得意げな顔をする。わたくしの横にいるマクシミリアンが渋い顔をしているけれど、お兄様とローラは血が繋がっているから結婚は無理だし安心していいと思うのよ……?

「そうかーじゃあローラは将来シュラット侯爵家のお嫁さんになるんだなぁー。じゃあじぃじとも沢山会えるねぇ」

 父様がローラの頭を撫でながらデレデレと言う。父様まで、ローラとお兄様の血が繋がっていることをお忘れなのかしら……? 私欲のために伯父と姪が結婚ができるように法律を変えたりしないでね?

「父様。ローラとユールをお願いしますわね」
「ビアンカ、任せてくれ。可愛い孫たちはじぃじがちゃんと守るから」

 キリリ、とした表情で言うと父様は胸を張った。
 もちろん旅には父様だけじゃなくシュラット侯爵家の護衛やメイドが同行する。彼らがいれば何事もないとは思うけれど、子供たちと何日も離れることなんて今までなかったから……少しだけ心配になってしまう。
 わたくしはローラとユールの前にしゃがむと、二人の頭を優しく撫でた。

「おかーさま。ユールがいなくてさみしい?」

 マクシミリアンにそっくりなユールが、あどけない顔でそんなことを訊いてくるから……わたくしは思わず泣きそうになってしまう。

「寂しいわ。ローラとユールがいないなんて」

 ぎゅっと子供たちを抱きしめると、二人はきゃあきゃあと楽しげな声を上げた。

「お母様は寂しがりね。ローラはちゃんと帰ってくるから、いい子にして待っててね」

 ローラは小生意気にそう言うとわたくしの頬にキスをする。うう……うちの子ってば可愛いわ……。
 ローラがキスをするのを見て、ユールも見よう見まねでわたくしの頬にそのピンク色の唇をくっつけてきた。本当に可愛い……!

「そろそろ行くよ、ローラ、ユール」

 父様が二人を軽々と抱きあげ、馬車の方へと連れて行く。
 わたくしとマクシミリアンはまるで今生の別れのように瞳を潤ませながら、父様と子供たちが乗った馬車を見送った。
 馬車は遠ざかりたちまち豆粒のようになり、そして見えなくなる。
 隣に立つマクシミリアンの肩にもたれかかると彼が優しく頭を撫でてくれた。

「寂しいわ……マクシミリアン」
「私も寂しいです。ですが……二人っきりですね」

 マクシミリアンに甘やかな笑顔を向けられ、鼓動が早くなる。そ……そうね、久しぶりに何日もマクシミリアンと二人きりなのよね。マクシミリアンはこの旅行に合わせて、仕事もお休みしているし。
 ……大丈夫かしら。ずっとお部屋で、だったら体が持たないわ。

「ビアンカ、デートをしましょうか」

 マクシミリアンから飛び出した予想外の言葉にわたくしの目は丸くなった。わたくしを外に出すのを嫌がる……という言葉では生温いくらい厭っているマクシミリアンから、デートを提案してくれたの? 本当に?

「いいの? デートしてくれるの?」
「先日の舞踏会で色々ありましたし。ビアンカには気分転換が必要でしょう?」

 そう言って彼は優しく頬を撫で、そっと額にキスをしてくれた。嬉しい……マクシミリアンとデートだわ!
 別に普段デートをしていないわけじゃないの。毎月決まった日に、ちゃんと一緒にお出かけはしている。
 だけどこういうイレギュラーな形でのデートは滅多にないから、わたくしのテンションは自然に上がってしまう。

「ふふ、どこに行こうかしら! マクシミリアン!」
「二人で馬に乗ってピクニックにでも行きますか。すぐにお弁当を作りますから」

 マクシミリアンの言葉にわたくしはぶんぶんと首を大きく振って頷いた。
 二人きりで生活していた頃、マクシミリアンはご飯を毎食作ってくれていた。その理由は……『わたくしに他人が作るものを食べさせたくない』という独占欲からくるちょっと怖い動機からだったけれど。
 さすがに子供が生まれてからはメイドにご飯を任せるようになったから、マクシミリアンの手料理を食べるのは久しぶりだ。
 彼の作るご飯はとても美味しいので、楽しみで思わず頬が弛んでしまう。

「マクシミリアンのご飯を食べるのは久しぶりね。楽しみだわ」
「まるで新婚の頃に戻ったみたいですね」

 マクシミリアンは軽々とわたくしを抱きあげ、屋敷へと踵を返した。

「マクシミリアン! どうして抱っこするの!?」
「貴女と二人きりで浮かれているんです」

 そう言って彼は本当に楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると、ときめきで胸が苦しくなってしまう。うちの旦那様は本当に可愛くて素敵だ。
 マクシミリアンへ恋する気持ちは薄れることなんてなくて、一緒に過ごす年数が長くなれば長くなるほど想いは深くなっている気がする。これから先、この気持ちはどこまで大きくなってしまうんだろう。
 彼はふわりとわたくしをソファーに降ろすと、額に軽くキスをして台所へと向かっていった。
 わたくしは料理をするのがとても苦手なので座してここで待つのみだ。前にお手伝いをしようとしたら、大惨事になってしまったものね。
 大きく伸びをして屋敷の中を見渡す。子供たちが居ない屋敷は、とても静かで落ち着かない……そんなことを思いながら、ソファーにころりと横になる。
 子供たちが出かけてまだ一時間も経っていないのに。今から寂しがっていたらあと数日なんて耐えられないわね。
 はふり、と吐いたため息は屋敷の静寂の中に溶けて消えた。

「ビアンカ、ビアンカ。起きてください」

 ゆらゆらと体を揺さぶられ、わたくしの意識は覚醒した。……いつの間にか、眠っていたみたい。
 目を開けるとマクシミリアンの綺麗な顔がそこにあって思わずふにゃりと笑ってしまう。
 そんなわたくしの頬をマクシミリアンの指がさらりと数度撫でて、音を立てて軽くキスをされた。

「ごめんなさい。寝ていたのね、わたくし……」
「……疲れているのでしたら、出かけるのは明日でも」
「いいえ! デートしたいわ!!」

 彼の言葉にわたくしは勢いよく身を起こした。せっかくマクシミリアンがお弁当を作ってくれたのだもの! 今日ぜひ行きたいわ。

「では、行きましょうか」

 マクシミリアンから差し出された手にそっと手を重ねる。まるでお姫様にするようなエスコートをされながら、わたくしは屋敷の外へ足を運んだ。
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