【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

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番外編

月と獣の蜜月7

 マクシミリアンと馬の背に揺られながら屋敷へと帰る。
 空を見上げるともうすっかり夕暮れでどこまでも広がる空が美しい紅に染まり、薄っすらと白い黄昏月も浮かんでいた。
 背後にマクシミリアンの体温を感じながらピクニックのことを思い返しているうちに、屋敷の姿が遠くに見えてきた。
 屋敷の門を抜け馬を厩に止めて玄関へ向かうとメイドたちが出迎えてくれる。

「旦那様、奥様、お帰りなさいませ。お嬢様と坊ちゃまがいないお屋敷は静かでさみしゅうございますわねぇ」

 二人いるメイドのうちの年嵩の女性……イリアが、柔和な笑みを浮かべて言いながらわたくしとマクシミリアンの上着を脱がせていく。
 メイドたちにローラとユールはとても懐いていて、いつも後ろをくっついて回っているので普段と比べるとかなり静かだっただろう。

「夕食の準備はすぐにできますが、先にお湯の準備をした方がいいですかねぇ」

 屋外で過ごしたわたくしたちは土と埃にまみれている。その様子を見ながらイリアが片頬に手を当てながら言った。

「先にお湯の準備を。その後に夕食にしよう」

 マクシミリアンがタイを解きながら言うと、彼女たちは一礼して素早く準備に向かう。

「一緒に入りましょうね、ビアンカ」

 彼はこちらに目線を向け、悪戯っぽく笑いながら言った。
 ……そう言うと思ったわ。今さら恥ずかしいということはないのだけど、彼とお風呂に入ると余計なことまでされてしまいがちだからなぁ……。

「お夕食もあるのだし、早めに上がるわよ?」
「わかっていますよビアンカ」

 マクシミリアンは楽しそうに旋毛にキスをしわたくしの手を引く。本当にわかってるのかな……。
 ――その後。
 案の定『汚れを落とす』という名目でお風呂でマクシミリアンに散々色々なところを触られてしまい、夕食はかなり遅い時間になってしまった。マクシミリアンの『わかっています』は本当に信用ならない。
 ダイニングへ急ぎ足で彼と向かうと、わたくしたちがお風呂から上がる時間を予想していたかのようなピッタリのタイミングで温かな食事が用意された。……うちのメイドたちは慣れたものというか、とても恥ずかしいわね。

「もう、マクシミリアンのせいでご飯が遅くなってしまったわ」

 マクシミリアンを横目で睨むと、ぎゅっと抱きしめられて頬にキスをされる。

「お風呂でのビアンカも、とても可愛かったです」
「……もう!」

 不満げな顔をするわたくしを軽々と抱え上げて、彼は椅子へと座った。

「マクシミリアン……?」
「可愛い妻を甘やかさせてください、ビアンカ」

 そう言いながらマクシミリアンは片手でわたくしの背中を支えつつテーブルに乗せられたお肉をもう片手で器用に切り分け、そのひと切れをこちらの口へと運ぶ。
 ……お膝抱っこで、あーんされながらご飯を食べろと……そういうことね。
 マクシミリアンと二人きりだった頃はよくこういう風にご飯を食べさせてもらっていたけれど。わたくしもう二十四歳なのよ!?

「……わたくし大人で子供も二人いるのよ、マクシミリアン」
「そうですね。貴女は大人で子供がいるのにも関わらず、甘やかしたくなるくらいに可愛らしいままですよね。大好きですよ、ビアンカ」
「むぅ……」

 彼が引いてくれる気配がないので仕方なしに口を開けると、楽しそうにお肉を口に入れられる。
 牛肉が濃いめのソースで味付けしてあってとても美味しい。美味しいけれど喉が渇くなぁ、なんて思っていたらワインをそっと口元へと運ばれ口にすると蕩けるような笑みを浮かべられた。

「ああ……本当に早く隠居したいですね。こうやって貴女のお世話を朝から晩まで全て私の手で行えたら幸せでしょうに」
「……人としてダメになるから、わたくしは遠慮したいわ」
「心置きなくダメになってください、ビアンカ。私がいないと生きられない貴女と共に生きるのは、とても楽しいでしょうね」

 そう言いながら彼はソースがついたわたくしの口元をナプキンで拭い、次に野菜を口へと放り込む。それを嚥下して彼の顔を見つめると、きょとりと首を傾げられた。
 褐色の頬にさらりと艶のある黒髪がかかり、黒曜石の瞳がわたくしだけを見つめている。……いつ見てもうちの旦那様は綺麗だなぁ。
 その頬に触れて優しく撫でるとマクシミリアンは喉でも鳴らしそうな心地よさげな表情になった。

「わたくしも貴方を支えたいわ。貴方のお世話になるばかりなんて嫌よ」
「……ビアンカ」

 彼はわたくしの顔を凝視し……幸せそうに微笑むと唇に何度も口付けをしてきた。ご飯を食べている最中なのに!

「好きですよ、今夜も沢山愛し合いましょうね」

 彼はそう言いながらぎゅうぎゅうとわたくしを抱きしめ上機嫌だ。
 も……もう! メイドたちもいるのに!! そう思いながら二人のメイドの方に目をやると、彼女たちはいつものことと言わんばかりに平然とした顔をしていた。
 ……いつも本当に、ごめんなさいね。
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