【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

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番外編

月と獣の蜜月10

 目が覚めると、マクシミリアンの腕の中で。ぎゅうぎゅうと強く抱きしめられながら、顔中に、首筋にとキスをされている最中だった。
 ……旦那様は朝からなにをしているのかしら。

「マクシミリアン?」
「……ビアンカ、おはようございます」

 わたくしが起きたことに気づいて気まずそうな顔になる旦那様の唇に、そっと唇を合わせると頬を赤く染めて安堵したように微笑まれる。

「寝ている妻に悪戯をしていらっしゃったの?」

 もう一度キスをしながら彼に訊ねると、彼は悪戯を咎められた子供のようなバツの悪そうな顔になった。端正なお顔でそんな表情をされると、母性本能を刺激されてしまうじゃない。

「ビアンカの寝顔があまりに可愛いかったので……つい」

 マクシミリアンがあまりに可愛いことを言うので、胸がぎゅうっと締めつけられてしまう。

「そんなことを言う貴方の方が可愛いわ!」

 抱きしめてその逞しい胸にぐりぐりと頭を押しつけてから、互いに裸であることにわたくしはようやく気づいた。……昨日は行為のあと疲れてそのまま寝てしまったのね。
 体に残る情事の残滓を確認し、こんな爽やかな朝の空気にこの惨状は似合わないわね、と内心一人ごちてしまう。

「お風呂に入りましょう? マクシミリアン」

 わたくしの体にまた唇を這わせ始めた彼の黒髪をくしゃりと両手で乱しながらそう言うと、不服そうな顔で上目遣いで見つめられた。
 ……もしかしなくても、この人朝からまたする気だったのかしら。
 少し硬くなった彼の物が、その。当たってますものね。

「もう一回してから、お風呂に入りませんか?」

 蕩けそうな笑顔を浮かべられ、甘えるように言われて一瞬許してしまいたい気持ちになったけれど……。

「貴方……一回じゃ済まないし。その後お風呂でもするって言いだすでしょう? 全部付き合っていたら、わたくしの体力が持たなくなるから嫌よ」

 昔はいちいち流されていたけれど、今はちゃんとお断りできるのだ。……甘える彼が素敵すぎて、一瞬ぐらりときてしまったけれど。お断り、できるんだから!
 マクシミリアンの無尽蔵の体力に付き合っていてはわたくしの身が持たない。もうすぐ三十になろうというのに、この人の体力はいつ落ちるのかしら。
 ……一生落ちない予感もするわね。恐ろしいわ。

「……ビアンカ」
「甘えてもダメ。待てができる旦那様が好きよ」

 そう言いながら綺麗な額に数度キスをして宥めると、不承不承という様子だけれどマクシミリアンも納得してくれたのでわたくしはほっとした。
 裸で寝台から下りようとすると名残惜しそうな旦那様は背中に何度もキスをしてくる。もう、この人は。
 昨日散々したばかりでしょう? と思うのだけど。……嬉しいことに彼はわたくしにまだまだ飽きないらしい。
 マクシミリアンはなんといっても女性を選び放題の美青年なのだ。最近は年齢を重ね表情に深みが出てきたというか……彼はここ数年でさらに素敵になっている気がする。
 外に出て彼に寄って来る女性をけん制できないわたくしとしては、こうやって彼が際限なく愛を注いでくれることには素直に安堵してしまう。

「――んっ……」

 背筋を舌でなぞられ思わず声を漏らすと、背後でマクシミリアンが嬉しそうに笑う気配がした。そしてそのしなやかな腕で腰を絡め取られてしまう。

「……待て、はできないのかしら?」
「こんなに美味しそうなものを目の前にして、待てができる犬はいません。ビアンカ……貴女を食べさせてください」

 ――本当に、この旦那様は!

 結局もう一回、もう一回とせがまれて寝台から下りたのはお昼を過ぎた頃。それからお風呂に入ってまた二回……と旦那様の欲望には際限がなく。

 解放してもらえた頃にはもう夕方が近く、わたくしのご機嫌は急転直下となってしまったのだった。

「……マクシミリアン」
「な、なんでしょう……ビアンカ」

 寝台にぐったりと転がって睨みつけると、彼は頬に冷や汗を垂らしながら誤魔化すような笑みを浮かべた。

「わたくし何度も断ったわよね? ご飯も食べずにこもりっきりで、もうすぐ夕方なんて酷すぎるわ!」

 昨日から繋がりすぎて腰は痛いし下半身もじわじわと疼いて感覚が鈍い。お腹もとても空いている。
 ……今日はゆっくり彼と過ごしたかったのに。求められるのは嬉しいけれど、限度というものがある。

「……マクシミリアンの馬鹿。待てができない犬は嫌いよ」

 そう呟いて枕に顔を埋めると、涙がじわりと湧いてきた。
 朝はゆっくり過ごして。お昼は庭で花の手入れをしながら話をして。そのあとはマクシミリアンが望むのなら、つ……繋がりあって。わたくしの思い描いていたそんな休日は、獣のようにひたすら繋がりあうだけで終わろうとしている。

「もっとお話をしながら過ごしたかったのに! マクシミリアンはわたくしの体にしか興味が無いの?」
「ビアンカ……! そんなわけないじゃないですか!」

 しゃくりを上げるわたくしの背中をマクシミリアンの大きな手が優しく撫でた。

「夜はオペラを観に行きませんか? 実はチケットを用意していて……」

 慌てた口調でマクシミリアンが言う。ずいぶん急なお誘いだけれど、内緒にして驚かせようとしていたのかしら。
 ……オペラ……すごく行きたいわ。劇場になんてもう何年も行っていない。けれどわたくしの体力はもう尽きかけているの。

「……誰かさんのせいでもうヘトヘトなの。もっと元気な時にお誘いして欲しかったわ」

 ついつい口調が棘のあるものになってしまう。背中を撫でる彼の手がびくりと震え、離れていった。

「……ビアンカ。今日の残りの時間と、明日は貴女の望む休日に必ずしますから。その、許してもらえませんか……?」

 顔を上げてチラリと彼の方を見ると、震える声から想像はついていたけれど泣きそうな顔になっている。
 ……可愛いお顔ね、もう。

「……お腹が空いたから、軽食を用意して。そして食事の後はドレスを選ぶのに付き合って。……オペラに連れて行ってくれるんでしょう?」
「は、はい! ビアンカ今すぐ!」

 わざとツンとしながらそう言うと、彼は慌てて部屋を出て行く。

「待てができない犬でも、可愛いものは可愛いのよね」

 その背中を見ながらわたくしは一人そう呟いた。
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