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番外編
月と獣の蜜月13
高い天井、豪奢なシャンデリア、二階席へと続くのだろう大きな階段。ロビーで思い思いに過ごすドレスアップをした人々。劇場の華やかな光景はわたくしの心を自然と跳ね上げた。
「ああ、楽しみだわ! マクシミリアン」
ぎゅっと腕にしがみつきながら彼に微笑みかけると愛おしげな視線が返ってくる。そして額に数度軽いキスをされた。
「……貴女に喜んでもらえて、本当によかった」
心底安堵したような声音で彼が囁く。背伸びをするとマクシミリアンが察して屈んでくれたので、その頬に何度かキスをすると蕩けるような微笑みを向けられた。
「ふふ。今日の演目はなにかしら」
「今日はですね……」
馬車ではすっかり寝入ってしまい演目のことを聞いていなかったのだ。マクシミリアンが長い指で優しく頬を撫でながら演目の説明をしてくれる。それは波乱がありつつも甘い結末に終わる有名な恋愛劇で、こちらの好みに合わせて彼が選んでくれたのだとわかるものだった。
「ハッピーエンドに終わる恋愛劇なんて、最高ね!」
嬉しくてにこにことしてしまうわたくしに彼はなぜか苦い顔を向けた。
「ビアンカ、あまり微笑まないでください。その眩しい笑顔で衆目を集めている自覚はおありですか?」
「もう! そんな事実はないわよ! ……舞踏会の時みたいに誰かに笑ったらお仕置き、なんて言わないわよね?」
先日のようなお仕置きは恥ずかしいから嫌だわ。わたくしに特殊な性癖はないのだ。たぶん、ないのだ。
それにしても……。
「……懲りない人ね」
思わずそんな呟きが漏れてしまう。先ほどわたくしを怒らせたことを反省したんじゃなかったの? またその……閨の関係のことでケンカをするのはわたくし嫌なのだけど!
「そ、そんなつもりで言ったわけでは! 私は本当に貴女が心配で……」
「本当に?」
「ビアンカ……!」
疑いの目で射抜くように見つめると、焦った様子の彼に旋毛に何度もキスをされる。
「お仕置きなんてしませんから! ちゃんと反省しているので信じてください!」
旋毛の次は頬に、鼻にと顔中にキスの雨が降ってきた。
……衆目を集めているのってわたくしじゃなくて貴方が可愛いからなんじゃないかなぁ。そんな素敵なお顔で甘く蕩けそうな表情をしたり、しゅんとした愛らしい顔をしたりするんだもの。貴方こそどれだけの女性の目が集まっていると思っているの!
「日頃の行いが悪すぎるのよ、マクシミリアンは」
「う……」
綺麗なお肌の頬を少し抓ると悲しそうな瞳をこちらに向けられ眉を下げられた。
「でも、日頃の行いが悪い懲りない旦那様も大好きよ。マクシミリアンはずるいの。貴方とても可愛いんだもの」
「ビアンカ!」
マクシミリアンの表情はこちらのご機嫌次第でコロコロと変わる。さっきまではしょんぼりしていたのに、今は心底嬉しそうな表情を浮かべキラキラと輝く瞳でこちらを見つめている。犬なら尻尾をちぎれそうなくらいに振っているのだろう。そんなに可愛い様子を見せられると、なにをされても許すの一択しかわたくしには結局は存在しないのだ。
……マクシミリアンも大概わたくしのことが好きだと思うのだけど、わたくしも旦那様を溺愛しているのでこればかりは仕方ないわね。
彼が愛おしくなり甘えてしまおうと胸に頬をすり寄せると、強い力で抱き込まれてしまった。
「愛しています、ビアンカ」
「知ってるわ。わたくしもよ」
……幸せだなぁ、なんて彼の体を抱きしめ返しながら思う。体を合わせるのも好きだけれど、こうやって他愛ない時間を過ごすのもやっぱり好きだ。バランスの問題よね。どちらに偏りすぎてもきっと不安になってしまうのだろう。
マクシミリアンを見上げると端正な美貌がわたくしのためだけに微笑んでいる。いいのかな、こんなに幸せで。幸せすぎて苦しいくらいよ。
離れるのが寂しいけれどここは劇場のロビーだ。名残惜しさを感じながらわたくしは彼から体を離した。
「開演まで少し間がありますし軽食でも食べますか。オペラは長いですしね」
「そうね、そうしましょう!」
彼の言葉にわたくしは勢いよく頷いた。オペラは数時間上演時間があるものね。
ロビーにはビュッフェスタイルで軽食が食べられるスペースが設けてある。マクシミリアンに作ってもらったリゾットを食べて家を出たけれど、今日はかなりの体力を使った上にそれしか食べていないのだ。軽食のことを想像するだけでわたくしのお腹はきゅるると鳴った。
マクシミリアンは長椅子にわたくしを座らせて『私が持ってきますので。ビアンカはここでいい子に待っていてくださいね』と言って頬に軽くキスをしてから、ビュッフェのある方へと行ってしまった。
……公共の場で一人きりになるのなんて久しぶりね。普段はマクシミリアンがべったりだからそんな隙なんてないもの。今日はわたくしが疲れているから気を使ってくれたんだろうな。
「ん~っ……」
軽く伸びをしてから周囲を見回す。するとこちらを見ていたらしい数人の男性から視線を逸らされた。……こんなところで伸びなんてはしたなかったかしら。
先日舞踏会には出たもののあれ以外の社交には何年も出ていないし、気が抜けてしまっていてよくないわね。マクシミリアンの妻として恥ずかしくないように、きちんとした立ち居振る舞いをしないと。
わたくしは背筋をピンと伸ばして長椅子に座り直し旦那様のお帰りを待つ姿勢を整えた。
「あれ、セルバンデス夫人?」
背後から声をかけられ振り返ると、そこには舞踏会で出会ったマクシミリアンの同僚……ハムリー伯爵と十歳くらいの少女が立っていた。藍色の髪と緑色の瞳が二人ともお揃いだ。顔立ちも似ているし年の差を考えるときっと妹さんなのだろう。整ったお顔のご兄妹は一対のお人形のようだ。
「ハムリー伯爵! お久しぶり……でもないですわね。舞踏会でお会いしたばかりですもの」
そう言って立ち上がり彼に微笑みかけると少し照れたように微笑み返された。
「今日はマクシミリアンと?」
「ええ! でも今、彼は席を外していますの」
男性とお話するとマクシミリアンに叱られそうね、なんて考えも一瞬過ぎったけれど夫の同僚に不躾な態度を取るのは妻失格だ。
それに社交をわたくしがしないことによって、ローラにお友達を作る機会が少ないから……。この愛らしい妹さんがローラのお友達になってくれないかな、なんてことも思う。
マクシミリアンの許可が得られたらうちのお茶に誘ってもいいかしら。
「お兄様、とても綺麗な人ね! 私にも紹介して?」
「ベロニカ、はしゃぐんじゃない!」
ハムリー伯爵は楽しそうにはしゃぐ妹さんを少し困ったように窘めた。妹さんはベロニカ嬢というらしい。明るく利発そうな子だ。
「……ビアンカ。ダスティンとなにを話しているんです?」
――その場の空気がひやり、と凍りついた気がした。
声の方を向くと不機嫌そうな顔の旦那様が、軽食とシャンパンを銀のお盆に乗せたものを持って立っている。……不可抗力よ、マクシミリアン……!
「ああ、楽しみだわ! マクシミリアン」
ぎゅっと腕にしがみつきながら彼に微笑みかけると愛おしげな視線が返ってくる。そして額に数度軽いキスをされた。
「……貴女に喜んでもらえて、本当によかった」
心底安堵したような声音で彼が囁く。背伸びをするとマクシミリアンが察して屈んでくれたので、その頬に何度かキスをすると蕩けるような微笑みを向けられた。
「ふふ。今日の演目はなにかしら」
「今日はですね……」
馬車ではすっかり寝入ってしまい演目のことを聞いていなかったのだ。マクシミリアンが長い指で優しく頬を撫でながら演目の説明をしてくれる。それは波乱がありつつも甘い結末に終わる有名な恋愛劇で、こちらの好みに合わせて彼が選んでくれたのだとわかるものだった。
「ハッピーエンドに終わる恋愛劇なんて、最高ね!」
嬉しくてにこにことしてしまうわたくしに彼はなぜか苦い顔を向けた。
「ビアンカ、あまり微笑まないでください。その眩しい笑顔で衆目を集めている自覚はおありですか?」
「もう! そんな事実はないわよ! ……舞踏会の時みたいに誰かに笑ったらお仕置き、なんて言わないわよね?」
先日のようなお仕置きは恥ずかしいから嫌だわ。わたくしに特殊な性癖はないのだ。たぶん、ないのだ。
それにしても……。
「……懲りない人ね」
思わずそんな呟きが漏れてしまう。先ほどわたくしを怒らせたことを反省したんじゃなかったの? またその……閨の関係のことでケンカをするのはわたくし嫌なのだけど!
「そ、そんなつもりで言ったわけでは! 私は本当に貴女が心配で……」
「本当に?」
「ビアンカ……!」
疑いの目で射抜くように見つめると、焦った様子の彼に旋毛に何度もキスをされる。
「お仕置きなんてしませんから! ちゃんと反省しているので信じてください!」
旋毛の次は頬に、鼻にと顔中にキスの雨が降ってきた。
……衆目を集めているのってわたくしじゃなくて貴方が可愛いからなんじゃないかなぁ。そんな素敵なお顔で甘く蕩けそうな表情をしたり、しゅんとした愛らしい顔をしたりするんだもの。貴方こそどれだけの女性の目が集まっていると思っているの!
「日頃の行いが悪すぎるのよ、マクシミリアンは」
「う……」
綺麗なお肌の頬を少し抓ると悲しそうな瞳をこちらに向けられ眉を下げられた。
「でも、日頃の行いが悪い懲りない旦那様も大好きよ。マクシミリアンはずるいの。貴方とても可愛いんだもの」
「ビアンカ!」
マクシミリアンの表情はこちらのご機嫌次第でコロコロと変わる。さっきまではしょんぼりしていたのに、今は心底嬉しそうな表情を浮かべキラキラと輝く瞳でこちらを見つめている。犬なら尻尾をちぎれそうなくらいに振っているのだろう。そんなに可愛い様子を見せられると、なにをされても許すの一択しかわたくしには結局は存在しないのだ。
……マクシミリアンも大概わたくしのことが好きだと思うのだけど、わたくしも旦那様を溺愛しているのでこればかりは仕方ないわね。
彼が愛おしくなり甘えてしまおうと胸に頬をすり寄せると、強い力で抱き込まれてしまった。
「愛しています、ビアンカ」
「知ってるわ。わたくしもよ」
……幸せだなぁ、なんて彼の体を抱きしめ返しながら思う。体を合わせるのも好きだけれど、こうやって他愛ない時間を過ごすのもやっぱり好きだ。バランスの問題よね。どちらに偏りすぎてもきっと不安になってしまうのだろう。
マクシミリアンを見上げると端正な美貌がわたくしのためだけに微笑んでいる。いいのかな、こんなに幸せで。幸せすぎて苦しいくらいよ。
離れるのが寂しいけれどここは劇場のロビーだ。名残惜しさを感じながらわたくしは彼から体を離した。
「開演まで少し間がありますし軽食でも食べますか。オペラは長いですしね」
「そうね、そうしましょう!」
彼の言葉にわたくしは勢いよく頷いた。オペラは数時間上演時間があるものね。
ロビーにはビュッフェスタイルで軽食が食べられるスペースが設けてある。マクシミリアンに作ってもらったリゾットを食べて家を出たけれど、今日はかなりの体力を使った上にそれしか食べていないのだ。軽食のことを想像するだけでわたくしのお腹はきゅるると鳴った。
マクシミリアンは長椅子にわたくしを座らせて『私が持ってきますので。ビアンカはここでいい子に待っていてくださいね』と言って頬に軽くキスをしてから、ビュッフェのある方へと行ってしまった。
……公共の場で一人きりになるのなんて久しぶりね。普段はマクシミリアンがべったりだからそんな隙なんてないもの。今日はわたくしが疲れているから気を使ってくれたんだろうな。
「ん~っ……」
軽く伸びをしてから周囲を見回す。するとこちらを見ていたらしい数人の男性から視線を逸らされた。……こんなところで伸びなんてはしたなかったかしら。
先日舞踏会には出たもののあれ以外の社交には何年も出ていないし、気が抜けてしまっていてよくないわね。マクシミリアンの妻として恥ずかしくないように、きちんとした立ち居振る舞いをしないと。
わたくしは背筋をピンと伸ばして長椅子に座り直し旦那様のお帰りを待つ姿勢を整えた。
「あれ、セルバンデス夫人?」
背後から声をかけられ振り返ると、そこには舞踏会で出会ったマクシミリアンの同僚……ハムリー伯爵と十歳くらいの少女が立っていた。藍色の髪と緑色の瞳が二人ともお揃いだ。顔立ちも似ているし年の差を考えるときっと妹さんなのだろう。整ったお顔のご兄妹は一対のお人形のようだ。
「ハムリー伯爵! お久しぶり……でもないですわね。舞踏会でお会いしたばかりですもの」
そう言って立ち上がり彼に微笑みかけると少し照れたように微笑み返された。
「今日はマクシミリアンと?」
「ええ! でも今、彼は席を外していますの」
男性とお話するとマクシミリアンに叱られそうね、なんて考えも一瞬過ぎったけれど夫の同僚に不躾な態度を取るのは妻失格だ。
それに社交をわたくしがしないことによって、ローラにお友達を作る機会が少ないから……。この愛らしい妹さんがローラのお友達になってくれないかな、なんてことも思う。
マクシミリアンの許可が得られたらうちのお茶に誘ってもいいかしら。
「お兄様、とても綺麗な人ね! 私にも紹介して?」
「ベロニカ、はしゃぐんじゃない!」
ハムリー伯爵は楽しそうにはしゃぐ妹さんを少し困ったように窘めた。妹さんはベロニカ嬢というらしい。明るく利発そうな子だ。
「……ビアンカ。ダスティンとなにを話しているんです?」
――その場の空気がひやり、と凍りついた気がした。
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