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番外編
月と獣と新しい命2
「そんな短期間で!? 無茶ですよぉ、マクシミリアンさん~!」
私が勤めている魔法機関の同僚であるベルナデッタが、涙目になり懇願するようにこちらを見つめた。ベルナデッタはまだ年若いながらも、優秀な魔法師だ。そしてこの職場に二名しかいない光魔法の使い手でもある。
甘い蜂蜜色の髪、青い澄んだ瞳。そして整った顔立ちのベルナデッタは職場での男性人気が高い。
だが、彼女は既婚者だ。
それを聞いて落ち込んだ同僚も多かった。失恋が原因で休暇の申請を出したヤツも、数人いたくらいだ。この職場は男所帯で出会いも少ない。だから期待した連中が多かったのだろう。愛しいビアンカがいる私にとって彼女の見目など、どうでもいいのだが。
ベルナデッタはこの魔法機関内では能力が突出している。
私は彼女の能力を内心買ってはいるが、それは極力表に出さないようにしていた。
――勘が告げているのだ。持ち上げるとこの娘は調子に乗ると。
「ふだん私に無茶をやらせているのは貴女たちでしょうに。別に嫌ならやらなくてもいいんですよ。その代わり私はここをお暇して別の機関に助力を願います」
私は冗談半分……ではないことをベルナデッタに告げた。
他に助力を仰いで開発に勤しむ。この様子だと、そちらの方がいいかもしれない。
「そんなぁ! それじゃあここが回りませんってぇ!」
ベルナデッタが悲鳴のような声を上げる。それと同時に、話に聞き耳を立てていたのだろう同僚からも同じような声が上がった。
「知りませんよ。こんな職場よりも私は妻が大事です」
吐き捨てるように言ってみせると、ブーイング半分、納得半分という空気が周囲に漂う。私にとっては遺憾なことであったが、近頃妻を周囲に見せる機会が増えた。妻の容貌を知っている者たちは、それを想像して納得したのだろう。
「あの、母体に安全な出産を介助する道具を開発している期間。僕とベルナデッタはどう仕事をすればいいんでしょう?」
もう一人の光魔法の使い手であるヨハネスがおそるおそるという様子で、手を上げて発言をする。ヨハネスは二十代後半の男で、私とも年齢が近い。ダークブラウンの髪は顔の真ん中までかかり、その肌はいつも蒼白だ。一見して明るいという男には見えず、実際明るくもない。
出産の介助をする道具の開発に携わってもらうのは、光魔法と闇魔法の使い手と決めている。治癒を司る光魔法、精神的な作用を司る闇魔法。これくらいしか、出産関係での使い勝手がないというのが正確なところだが。闇魔法は私で間に合うので、残るはベルナデッタとヨハネスの二人の言質のみだ。
ここで了承が得られない場合は、私は明日にでも家族を連れて別の国に行こうと決めた。グズグズしている暇はないのだ。
「ベルナデッタとヨハネスの仕事はすべて私が受け持ちます。今まで押しつけられていた他の者の仕事は、知ったことではありません」
私の言葉を聞いた周囲からは悲鳴が上がった。しかしギロリと睨めつけると、それは一気に静かになる。
「……いつもの状態が、異常なのです。私に仕事を任せきっていたツケでしょうが。誰か今まで『分業にしよう』なんてことを言った者はいましたか?」
怒りを滲ませながら私が言うと、周囲は一気に静まり返った。
それもそうだろう。この職場は――私がいないと、もう回らない。
私はそもそも、親切な性質ではない。だからこそ流れてくる仕事を、今までなにも言わずに処理していた。私だけに処理が集中すると……後々こいつらが困ることになるだろうと承知だったのにも関わらずだ。親切であれば分業を提案し、後に困らないようにしたのだろうが。そんな手間をかける職場への愛着が私にはなかった。そしてそういう提案をする者が他にもいなかったのだ。
その上、毎日定時に帰りたかったのでこの国の魔法師の技術では使いこなせない術式を使い、作業を超高速化させた。
結果。私が一日にこなすのは常人の十倍以上の仕事量となっている。
その私が抜けてしまうと――この魔法機関は一気に瓦解するだろう。
私にしか理解できていない案件も多々あるしな。
「マクシミリアン、そういじめるなよ」
ダスティンが人の良さげな笑みを浮かべながら、ひらりと手を振る。
私は彼の言葉に、軽く鼻を鳴らすことで返答をした。
「あーそうだなぁ。王宮に相談をして、警備配置やらの魔法師を十人ほど手配してもらうのはどうだ? 猫の手くらいにはなるだろう。陛下もマクシミリアンが望んでいると聞けば、即座に許可してくれるだろうし。予算も余裕で下りるだろ」
顎に軽く手を当てながらダスティンはさらに思案する。
「それと市井からも臨時職員を募ろうか。そこに回すのは簡単な業務だけ。それだけでも少しは負担が減る。その上でベルナデッタとヨハネスの仕事は除外。マクシミリアンの依頼だけに集中してもらう。マクシミリアンにぜんぶの仕事をストップされると困るから……今までの三分の一、くらいはどうにかなんないかな」
対案も出さずにブーイングだけ飛ばす連中よりも、ダスティンは数百倍マシな男だ。
私はダスティンの提案に無言でうなずいた。
すると周囲の空気が一気にゆるみ、安堵のため息がその場を支配した。
私が勤めている魔法機関の同僚であるベルナデッタが、涙目になり懇願するようにこちらを見つめた。ベルナデッタはまだ年若いながらも、優秀な魔法師だ。そしてこの職場に二名しかいない光魔法の使い手でもある。
甘い蜂蜜色の髪、青い澄んだ瞳。そして整った顔立ちのベルナデッタは職場での男性人気が高い。
だが、彼女は既婚者だ。
それを聞いて落ち込んだ同僚も多かった。失恋が原因で休暇の申請を出したヤツも、数人いたくらいだ。この職場は男所帯で出会いも少ない。だから期待した連中が多かったのだろう。愛しいビアンカがいる私にとって彼女の見目など、どうでもいいのだが。
ベルナデッタはこの魔法機関内では能力が突出している。
私は彼女の能力を内心買ってはいるが、それは極力表に出さないようにしていた。
――勘が告げているのだ。持ち上げるとこの娘は調子に乗ると。
「ふだん私に無茶をやらせているのは貴女たちでしょうに。別に嫌ならやらなくてもいいんですよ。その代わり私はここをお暇して別の機関に助力を願います」
私は冗談半分……ではないことをベルナデッタに告げた。
他に助力を仰いで開発に勤しむ。この様子だと、そちらの方がいいかもしれない。
「そんなぁ! それじゃあここが回りませんってぇ!」
ベルナデッタが悲鳴のような声を上げる。それと同時に、話に聞き耳を立てていたのだろう同僚からも同じような声が上がった。
「知りませんよ。こんな職場よりも私は妻が大事です」
吐き捨てるように言ってみせると、ブーイング半分、納得半分という空気が周囲に漂う。私にとっては遺憾なことであったが、近頃妻を周囲に見せる機会が増えた。妻の容貌を知っている者たちは、それを想像して納得したのだろう。
「あの、母体に安全な出産を介助する道具を開発している期間。僕とベルナデッタはどう仕事をすればいいんでしょう?」
もう一人の光魔法の使い手であるヨハネスがおそるおそるという様子で、手を上げて発言をする。ヨハネスは二十代後半の男で、私とも年齢が近い。ダークブラウンの髪は顔の真ん中までかかり、その肌はいつも蒼白だ。一見して明るいという男には見えず、実際明るくもない。
出産の介助をする道具の開発に携わってもらうのは、光魔法と闇魔法の使い手と決めている。治癒を司る光魔法、精神的な作用を司る闇魔法。これくらいしか、出産関係での使い勝手がないというのが正確なところだが。闇魔法は私で間に合うので、残るはベルナデッタとヨハネスの二人の言質のみだ。
ここで了承が得られない場合は、私は明日にでも家族を連れて別の国に行こうと決めた。グズグズしている暇はないのだ。
「ベルナデッタとヨハネスの仕事はすべて私が受け持ちます。今まで押しつけられていた他の者の仕事は、知ったことではありません」
私の言葉を聞いた周囲からは悲鳴が上がった。しかしギロリと睨めつけると、それは一気に静かになる。
「……いつもの状態が、異常なのです。私に仕事を任せきっていたツケでしょうが。誰か今まで『分業にしよう』なんてことを言った者はいましたか?」
怒りを滲ませながら私が言うと、周囲は一気に静まり返った。
それもそうだろう。この職場は――私がいないと、もう回らない。
私はそもそも、親切な性質ではない。だからこそ流れてくる仕事を、今までなにも言わずに処理していた。私だけに処理が集中すると……後々こいつらが困ることになるだろうと承知だったのにも関わらずだ。親切であれば分業を提案し、後に困らないようにしたのだろうが。そんな手間をかける職場への愛着が私にはなかった。そしてそういう提案をする者が他にもいなかったのだ。
その上、毎日定時に帰りたかったのでこの国の魔法師の技術では使いこなせない術式を使い、作業を超高速化させた。
結果。私が一日にこなすのは常人の十倍以上の仕事量となっている。
その私が抜けてしまうと――この魔法機関は一気に瓦解するだろう。
私にしか理解できていない案件も多々あるしな。
「マクシミリアン、そういじめるなよ」
ダスティンが人の良さげな笑みを浮かべながら、ひらりと手を振る。
私は彼の言葉に、軽く鼻を鳴らすことで返答をした。
「あーそうだなぁ。王宮に相談をして、警備配置やらの魔法師を十人ほど手配してもらうのはどうだ? 猫の手くらいにはなるだろう。陛下もマクシミリアンが望んでいると聞けば、即座に許可してくれるだろうし。予算も余裕で下りるだろ」
顎に軽く手を当てながらダスティンはさらに思案する。
「それと市井からも臨時職員を募ろうか。そこに回すのは簡単な業務だけ。それだけでも少しは負担が減る。その上でベルナデッタとヨハネスの仕事は除外。マクシミリアンの依頼だけに集中してもらう。マクシミリアンにぜんぶの仕事をストップされると困るから……今までの三分の一、くらいはどうにかなんないかな」
対案も出さずにブーイングだけ飛ばす連中よりも、ダスティンは数百倍マシな男だ。
私はダスティンの提案に無言でうなずいた。
すると周囲の空気が一気にゆるみ、安堵のため息がその場を支配した。
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