【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
69 / 71
番外編

月と獣と新しい命7

 ユールを手洗いに連れて行き、脱走しようとしていたローラの首根っこをひっ捕まえ。部屋の警護をしている女騎士二人に子供たちの世話と見張りを押し付けてから、私は作業へと戻った。
 私室を用意して頂く時に『部屋に警護は必要だが、ビアンカを男に見せたくないな』と独り言をつぶやいたら、陛下が速やかに手練れの女騎士を二人手配してくれたのだ。陛下もたまには役に立つな。
 こういう騎士たちの使い方は想定していなかったが、ちょこまかと動き回る子供たちを見てくれるのは正直助かる。
 ローラとユールは廊下に出て女騎士たちにちょっかいを出しては、ケタケタと笑いながら部屋に戻ってを繰り返している。女騎士の一人は子持ちで子供の扱いには手慣れており、ユールを肩車してから部屋に戻すと茶目っ気のある笑みを見せて持ち場に戻って行った。
 もう一人の女騎士はちょっかいを出すのに飽きたローラに、「男の人を落とすのってどうすればいいのかしら」という趣旨の相談をされているようだ。

 ……ローラが想定している相手は、アルフォンス様だろう。

 男親としてはなんとも複雑な気分だ。アルフォンス様に幼女趣味なんてものがなくて良かったな。
 ふと視線を感じてそちらに目を向けると、ビアンカがじっとこちらを見つめていた。
 その瞳はなぜか、強い好奇心で輝いている。少し居心地の悪い気持ちになりながら、私は手元の書類へと目を落とす。ビアンカに構いたいのは山々なのだが、やらなければならないことが山積みなのだ。

 ……しかしビアンカの視線は、まだ私に向けられたまま動かない。

「えーっと……ビアンカ?」
「なに? マクシミリアン」

 視線の圧に耐えられず声をかけると、なんだか弾んだ声音で返事をされる。
 妻がなぜそんなに楽しそうにしているのか理解できず、私は首を傾げた。私の姿などふだんから見慣れているだろうに。

「私を見て、なにか楽しいのですか?」

 そう訊ねるとビアンカはきょとりとした顔をしたあとに、愛らしく破顔する。そして私の方へ、歩み寄って来た。

「あのね、マクシミリアン。その推し……じゃなくて、旦那様のお仕事をされている様子ってはじめて見るでしょう?」

 それはそうかもしれないな。家へは仕事を持ち帰らないようにしているので、仕事中の私を見せる機会などそうそうない。しかしそれがビアンカのこの表情にどう関わっているのかが、私には理解できないのだ。

 ……そしてビアンカが時々口にする、推しとはなんなのだろう。

 ビアンカはたまに私に理解できないことを言う。そのことについて訊ねると、いつも大慌てで誤魔化されてしまうのだ。
 問い詰めたい気持ちもあるのだが、妻に嫌われたくない私としてはあまり強気には出られない。問い詰めて『マクシミリアンなんて嫌い』なんて言われた日には、寝込んでしまう。確実に。
 ……私はビアンカに、それだけ夢中なのだ。
 情けないくらいに、私は彼女に惚れ込んでいる。そしてこの気持ちは一生続くのだろう。

「お仕事をしている真剣な表情のマクシミリアンって……素敵だから」

 ビアンカはそう言うとうっとりとした表情でこちらを見つめた。彼女の口から出た言葉に、私はぽかんとしてしまう。そんな私を見て、ビアンカは少し慌てたような表情になった。

「いえ、もちろんいつも素敵なのよ。だけどわたくしと居る時のマクシミリアンは、いつも笑顔でしょう? 真剣な表情でお仕事をしている貴方も、素敵だなぁって」

 白い頬を赤らめ、ビアンカは恥ずかしそうにそんなことを言う。
 私はというと……ビアンカのあまりの愛らしさに、顔を両手で覆って机に突っ伏してしまった。
 なんなんだ……うちの妻が可愛すぎる。

「貴方は私をどうしたいんですか。妊娠中で触れられないのにそんな可愛いことを! 拷問ですか!」
「子供たちの前でなにを言うのよ、マクシミリアン!」

 ビアンカは顔を真っ赤にしてそう言うが、子供たちは私たち夫婦など見ていない。
 ローラの恋愛相談は女騎士が少し引くほどに熱を帯びており、ユールはマイペースに本を読みはじめている。
 私がそれを指摘すると、ビアンカは「もう」と小さくつぶやいた。
感想 66

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…