【R18】悪役令嬢は元執事から逃げられない

夕日(夕日凪)

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番外編

護衛騎士たちから見た一家の話(キアラ視点)

「リーネ、私たちしばらくセルバンデス子爵の私室の護衛だってさ」
「間違いじゃないよね、キアラ。『あの』セルバンデス子爵の護衛だなんて」

 私とリーネはそう言って顔を見合わせた。
 私たちは王室騎士団に所属する女騎士で、日々王宮を訪れる高貴な女性方の警護が主な仕事である。その他の任務に駆り出されることはあまりないのだけれど……
 陛下直々に『セルバンデス子爵一家』が滞在している間の私室の護衛という、異例中の異例の仕事が割り振られたのだ。

 セルバンデス子爵は、貴族の間で近頃『噂』になっている人物である。

 セルバンデス子爵は王室騎士が警備に駆り出されるような、『要人』『貴人』と言うには身分が低い。しかし彼が、陛下の異常なくらいの寵愛を受けているのは周知のことだ。
 陛下は子爵が『王宮に部屋が欲しい』と言えば二つ返事で了承するし、近頃は『マクシミリアンは侯爵位をあげたら、国を出て行かないかなぁ』が口癖である。
 彼は相当優れた魔法師だそうで、陛下いわく『彼が居ないともう国は回らない』らしい。なので子爵のご機嫌取りに必死なのだ。
 ……とは言え、そんなにほいほいと侯爵位をあげないで欲しいとは思うのだが。他の貴族に示しがつかないではないか。
 そんな陛下の寵愛っぷりだけでも、噂になるには足ることなのだけれど……

「相当な美男らしいね。見るのがちょっと楽しみだねぇ」

 リーネがふふふ、と含み笑いを漏らしながらそんなことを言う。
 そう……セルバンデス子爵が『噂』になっている理由はまだある。それは彼の飛び抜けて美しい容貌が原因だ。私もリーネも直接見たことはないのだが、山のように噂は聞いた。

 ――セルバンデス子爵は、夜の闇のように静謐な美しさを持っている。
 ――彼に見つめられただけで、心を射抜かれるそうだ。
 ――子爵を夜会で見た女性が何人も倒れたらしいぞ。

 私もリーネも既婚だが、美男を目で愛でる行為は夫とは別腹だとリーネは言う。
 リーネほど浮ついた気持ちではないが、そんな大げさな噂を纏った子爵のことは私も正直気にはなる。

「今回の護衛対象は、セルバンデス子爵の奥方とお子様もなんだろう? あまり軽率に子爵を眺めたりするんじゃないぞ。失礼だ」

 リーネを戒めがてら、私も自分の気を引き締めた。彼は護衛対象なのだ。興味本位に接していいわけがない。

「キアラはお堅いなぁ」

 そう言うとリーネは唇を尖らせた。
 護衛対象を眺め倒そうとする方がおかしいんだ、リーネ。

「奥方様も、どんな人か気になるよね。先日の舞踏会に珍しく来てたって話だけど、私もキアラもあの舞踏会の警備担当じゃなかったもんね」
「ああ……あの噂の奥方か」

 セルバンデス子爵家の奥方様もまた『噂』の人だ。
 子爵はこの国に来てもう長いが、公式の場に奥方を連れて来たのはたったの二回だ。なので先日の舞踏会までは夫婦不仲説も囁かれていたのだけれど……

「美しい方らしいな、信じられないくらいに」

 結局はセルバンデス子爵が美しい妻を世間から隠していた、という顛末だったらしい。

「そんな美しいご夫婦が現実に居るんだね。しばらく目の保養ができそう」

 リーネが楽しそうに声を立てて笑う。王室騎士の私たちがそんな様を見せては、王室の権威に傷がつく。私は彼女の脇腹を少し強めに小突いた。

「さて、護衛に向かうぞ」
「あいあいー!」

 二人で連れ立ち、セルバンデス子爵の私室へ向かう。『子爵』が王宮に構えるには立派すぎる部屋の扉を声をかけてから軽く叩くと、入室を許可する低い声が返ってきた。
 そして扉を開けると……

 銀色の髪と湖面の色の瞳をした美女が、長椅子に腰を掛けて優美に微笑んでいるのが見えた。次に美女そっくりの女児と際立って顔立ちが整った黒髪の男児が、こちらを興味津々という様子で見上げているのが視界に入る。
 皆、一様に人間離れした美しさだ。
 これがセルバンデス夫人と、子供たちか……!

 ……圧倒的美に溢れすぎていないか、この空間は。眩しくて目眩がしそうだ。
 そんなことを思っていると、部屋の奥から一人の青年がこちらに向かって歩いてきた。

 ……おいおい、眩しいのがまた増えたぞ。

「貴女方が陛下から派遣された護衛ですか。手間をかけて非常に申し訳ない」

 その青年は短く簡素な口調で、けれど礼儀を含ませながらそう言った。美しい褐色の肌。烏の濡羽色の黒髪。神が刻んだように整った精悍な面差し。セルバンデス子爵は……想像していた以上の美青年だった。

「ひぇ」

 隣のリーネが小さく悲鳴のような声を上げる。
 ……気持ちはわかるぞ。私もそんな声を上げそうになったからな。
 事実は小説より奇なり、だ。
 美しい一家を目にして、私はそれを強く思った。

 本日の任務を終えた私とリーネが、他の女騎士たちに質問攻めにされたのは言うまでもない。
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