【R18】うさぎのオメガは銀狼のアルファの腕の中

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
5 / 59

誇り高き狼と花屋のうさぎ5

しおりを挟む
「ニルス様、申し訳ありません」

 僕はニルス様に歩み寄るとぺこぺこと頭を下げた。ニルス様はリオネル様の従僕だけど、きっと貴族だ。そしてアルファに違いない。

「この人のわがままには慣れてるんで、お気にせず」

 そう言うとニルス様はへらりと、しかし少し疲れたように笑った。

「ニルス、無駄口を叩くな」
「ひど!」

 ……僕が話しかけたせいでニルス様が怒られてしまった。なんだか申し訳なくなって僕は口をつぐむと、花を運ぶことに集中した。しかし歩いているうちに少しずつ、歩幅が大きいお二人から遅れてしまう。

「私が持とう」

 するとそれに気づいたリオネル様が立ち止まり、手を伸ばして……花ではなく僕を抱え上げた。絶世の美貌が急に目の前に近づき、僕は思わず仰け反ってしまう。花を大量に抱えているのに僕まで抱えるなんて、リオネル様は見た目によらず力持ちだ。

「……えっと。リオネル様?」

 混乱で思考が渦を巻く。どうして僕はリオネル様に抱えられているんだろうか。

「こう持つのが、一番手っ取り早い」

 リオネル様は無表情でそう言うと、長い足を動かした。たしかにそうかもしれないけれど。なにかが絶対におかしい! 助けを求めるようにニルス様を見ると、諦めろというように首を振られた。

 ニルス様の反応を見るに……リオネル様のこういう奇行は、日常茶飯事なことなのだろうか。

 そうなら僕も少しずつ慣れないといけないのかな……なかなか難しそうだと思うけれど。
 大きく窓が取られ天井には絵画が描かれている豪奢な廊下はとても長い。誰かにこんな姿を見られたらと僕はビクビクしていたのだけれど、リオネル様が前に言っていた通り、宿舎の皆様は訓練に出ているようで騎士様とはまったく出会わなかった。
 そして廊下の終わりには大きく重厚な扉が鎮座していた。

「ここが私の執務室だ」

 リオネル様が言うのと同時に、ニルス様が花を片手にまとめて開けづらそうにしながら扉を開ける。するとそこには僕の店の敷地の十倍以上はあろうかという広さの、シックな家具が並べられた部屋が広がっていた。渋い色合いの重みを感じさせる家具たちは、無口で無表情なリオネル様になんだか似ている。そんな部屋の隅には大量の花瓶が置いてあった。

「花瓶は用意している。花を部屋に飾ってはもらえないか」
「は、はい!」

 僕はピン! と耳を立てると花瓶へと向かった。花はものすごい量がある。活けてしまうのにどれくらいの時間がかかるのだろう。

「ニルス。馬車に残っている鉢植えと花束を宿舎に飾るように、使用人たちに言ってくれ。そしてお前もそれを手伝うように」
「へいへい。まったく、ウサギちゃんと二人に……」
「ニルス!」
「へい!」

 ニルス様はなにかを言いかけていたようだったけれど。リオネル様が低く威嚇するように言うと、慌てたように執務室を出て行った。広い執務室でリオネル様と二人きりになってしまい、僕の心には緊張が走る。身分の高いお方との接し方なんて僕は知らないのだ。

「あの、リオネル様。お水を汲めるところはありますか?」
「水場は遠いからな。これを使ってくれ」

 そう言いながらリオネル様が取り出したのは、いくつものビー玉のような球体だった。これはおそらく魔法で圧縮した水である。騎士様たちが長旅でも水を携帯できるように開発されたそんなものがあると、噂で聞いたことがあった。
 リオネル様は花瓶の上でそれをくしゃりを握り潰す。すると手のひらから大量の水が湧き出すように溢れて花瓶に流れ込んだ。

「魔力を少し流しながら握り潰すと、水に戻る。できるか?」
「は、はい。それくらいであれば……」

 うさぎ族は魔力が少ない種族だけれど、それくらいだったらできる。

「急がず、のんびりと飾ってくれればいい。今日は店じまいで時間はあるのだろう? 私は少し仕事をするよ」

 そう言うとリオネル様は僕の頭をひと撫でしてから、大量の書類が積み上がった机に向かう。そして書類の量を見て少し眉間に皺を寄せてから、お仕事をはじめたのだった。
 たしかに今日は店じまいだ。リオネル様が花を全部買い占めてしまったのだから。
 お言葉に甘えてのんびり作業するか。
 花を活けながら僕は執務中のリオネル様を盗み見た。窓から差す光に照らされて、絶世の美貌には濃い陰影ができており、長い睫毛は静かに伏せられている。綺麗な形の唇に、ふと添えられる美しい形の手。髪をかき上げる指の動き。そんな小さな所作がすべてにおいて神々しい。こんな綺麗な人と同じ空間にいるなんて、夢みたいだ。先ほどまではその膝に乗せられたり、抱き上げられたりしていたのだけれど。
 このままだとリオネル様をずっと見つめてしまいそうだったので僕は気合いを入れなおして、手の中の球体をくしゃりと潰し花瓶に水を注いだ。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

愛を知らない少年たちの番物語。

あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。 *触れ合いシーンは★マークをつけます。

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

オメガな王子は孕みたい。

紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。 ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。 王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。

処理中です...