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花屋のうさぎと銀狼のデート1
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市場に行った時にも思ったけれど、リオネル様とのお出かけは非常に目立つものだ。常に人目に晒され、時には後を付けられる。後を付けてくる輩は、リオネル様のひと睨みで逃げてはいくけれど……。一人逃げたら二人増えと本当にきりがない。
リオネル様と入った人気の菓子店の窓に貼り付いたまるで恐怖絵画のような人々を見ながら、僕は小さく息を吐いた。
「……大変ですね」
「ん? なにがだ?」
リオネル様はお菓子のショーウインドウから視線を外して僕に向ける。
僕はどう言っていいのか少し考えた後に、口を開いた。
「いつも、その。人に囲まれていらして」
「ああ。子供の頃からだから、慣れてしまったな」
「子供の頃から……」
「見ているだけなら害がないので、まだいいのだが。幼い頃に『私が貴方の運命です』なんてよくわからないことを言う輩に攫われそうになった時には、さすがに参った」
リオネル様は過去のことを思い出しているのか、眉間に深い皺を寄せながらため息をついた。
なんというか、凄絶だ。年端も行かぬ子供に『運命だ』と迫る……だけではなく攫おうとまでするなんて。美しい存在というのは、それだけ人を狂わせてしまうのだろうか。
僕は平民のオメガな上に、他の獣人と比べると身体能力に劣るうさぎ族だ。だから社会的弱者ゆえの憂き目に遭うこともしばしばあった。リオネル様のようなアルファは、そんな『属性』から生じる問題とは無縁なのだろうと勝手に思っていたけれど……
貴族でも、狼でも、アルファでも。問題を抱えることは当然あるのだ。
そんなことにも思い至らずに生きてきたことが、恥ずかしいと思ってしまう。
視線を感じて顔を上げると、リオネル様が少し不安げな表情で僕を見つめていた。
「……レイラは、私といるのはつらいだろうか?」
小さく紡がれたその言葉は、リオネル様のものとは思えないくらいに弱々しい。
『リオネル様が大変だろうな』と思うだけで、『つらい』ということはない。『落ち着かない』とか、『また嫌がらせなんかをされたら嫌だなぁ』とか。そんな気持ちはあるけれど。
僕は頭を振ってから、彼に笑ってみせた。
「つらくないです」
「……そうか」
リオネル様は嬉しそうに笑うと、尻尾をばふばふと振る。
そんなリオネル様を見ていると、僕はなんだか照れ臭くなってしまった。
「リオネル様、興味を惹かれるお菓子は見つかりましたか?」
つい話を逸らすように話題を振ってしまう。実際に、気になってもいたし。
僕とリオネル様の会話に、モモンガの店主や客たちが耳をそばだてている。……リオネル様の一言で、この店のしばらくの売上はだいぶ変わるのだろう。
「ああ。この白いうさぎのクッキーが気になる」
リオネル様が指したのは、簡素なクッキーにアイシングが施されたものだ。もっと派手で美味しそうなものもあるんだけどな。僕がそう思い、首を傾げていると……
「……レイラに似て、とても可愛いらしい」
思わず赤面するようなことを、リオネル様が言った。
なるほど……うさぎフェチがこういうところでも出るものなのですね。
「こっちにも、うさぎのお菓子はありますよ」
「これは茶毛なのだな」
「茶だとダメなのですか?」
「白がいい」
……さすがうさぎフェチ。こだわりがすごいな。
リオネル様の言葉を店主が急いでメモし、厨房に指示を出している。すると茶毛のうさぎは厨房へと引き上げられてしまった。もしかしなくても、茶毛のうさぎを白にコーティングするのだろうか。
リオネル様が僕に触れたがるのも、僕が『白いうさぎ』だからなのだろうか。だけどロランは、リオネル様がうさぎ族を囲っているなんて話は聞かないと言っていたし……
「レイラ?」
声をかけられ、思考から引き戻される。僕はリオネル様ににこりと笑ってみせた。
「あの、そうですね。この白いうさぎのクッキーを買っていきましょう」
「そうだな、そうしよう」
「良ければ、この狼の形のものも」
目についた狼のクッキーを指す。凛々しくて、だけどどこか愛らしいクッキーだ。それは少しリオネル様に似ていると、僕は思ってしまった。
白いうさぎと狼のクッキーが、包装紙の中でぴたりと寄り添う。それを見て僕は、思わず頬を緩めた。
リオネル様と入った人気の菓子店の窓に貼り付いたまるで恐怖絵画のような人々を見ながら、僕は小さく息を吐いた。
「……大変ですね」
「ん? なにがだ?」
リオネル様はお菓子のショーウインドウから視線を外して僕に向ける。
僕はどう言っていいのか少し考えた後に、口を開いた。
「いつも、その。人に囲まれていらして」
「ああ。子供の頃からだから、慣れてしまったな」
「子供の頃から……」
「見ているだけなら害がないので、まだいいのだが。幼い頃に『私が貴方の運命です』なんてよくわからないことを言う輩に攫われそうになった時には、さすがに参った」
リオネル様は過去のことを思い出しているのか、眉間に深い皺を寄せながらため息をついた。
なんというか、凄絶だ。年端も行かぬ子供に『運命だ』と迫る……だけではなく攫おうとまでするなんて。美しい存在というのは、それだけ人を狂わせてしまうのだろうか。
僕は平民のオメガな上に、他の獣人と比べると身体能力に劣るうさぎ族だ。だから社会的弱者ゆえの憂き目に遭うこともしばしばあった。リオネル様のようなアルファは、そんな『属性』から生じる問題とは無縁なのだろうと勝手に思っていたけれど……
貴族でも、狼でも、アルファでも。問題を抱えることは当然あるのだ。
そんなことにも思い至らずに生きてきたことが、恥ずかしいと思ってしまう。
視線を感じて顔を上げると、リオネル様が少し不安げな表情で僕を見つめていた。
「……レイラは、私といるのはつらいだろうか?」
小さく紡がれたその言葉は、リオネル様のものとは思えないくらいに弱々しい。
『リオネル様が大変だろうな』と思うだけで、『つらい』ということはない。『落ち着かない』とか、『また嫌がらせなんかをされたら嫌だなぁ』とか。そんな気持ちはあるけれど。
僕は頭を振ってから、彼に笑ってみせた。
「つらくないです」
「……そうか」
リオネル様は嬉しそうに笑うと、尻尾をばふばふと振る。
そんなリオネル様を見ていると、僕はなんだか照れ臭くなってしまった。
「リオネル様、興味を惹かれるお菓子は見つかりましたか?」
つい話を逸らすように話題を振ってしまう。実際に、気になってもいたし。
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「ああ。この白いうさぎのクッキーが気になる」
リオネル様が指したのは、簡素なクッキーにアイシングが施されたものだ。もっと派手で美味しそうなものもあるんだけどな。僕がそう思い、首を傾げていると……
「……レイラに似て、とても可愛いらしい」
思わず赤面するようなことを、リオネル様が言った。
なるほど……うさぎフェチがこういうところでも出るものなのですね。
「こっちにも、うさぎのお菓子はありますよ」
「これは茶毛なのだな」
「茶だとダメなのですか?」
「白がいい」
……さすがうさぎフェチ。こだわりがすごいな。
リオネル様の言葉を店主が急いでメモし、厨房に指示を出している。すると茶毛のうさぎは厨房へと引き上げられてしまった。もしかしなくても、茶毛のうさぎを白にコーティングするのだろうか。
リオネル様が僕に触れたがるのも、僕が『白いうさぎ』だからなのだろうか。だけどロランは、リオネル様がうさぎ族を囲っているなんて話は聞かないと言っていたし……
「レイラ?」
声をかけられ、思考から引き戻される。僕はリオネル様ににこりと笑ってみせた。
「あの、そうですね。この白いうさぎのクッキーを買っていきましょう」
「そうだな、そうしよう」
「良ければ、この狼の形のものも」
目についた狼のクッキーを指す。凛々しくて、だけどどこか愛らしいクッキーだ。それは少しリオネル様に似ていると、僕は思ってしまった。
白いうさぎと狼のクッキーが、包装紙の中でぴたりと寄り添う。それを見て僕は、思わず頬を緩めた。
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