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アルファたちの密談1(リオネル視点)
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「泣かせたりして……。リオネル様は一体なにしたんですか。いや、むしろなにをしたいんですか」
レイラを見送り料理店の個室に戻ったとたん、ニルスに悪態と深いため息を同時につかれた。
……なにを言うんだ。ニルスが邪魔しなければ、今頃私はレイラに気持ちを伝えて……伝えて。上手くいっていたのだろうか。
怖気づいて、レイラは逃げてしまったのでは? 求められたあの時に、細い首筋を噛んだ方がよかったのだろうか。しかしレイラは、雰囲気に流されただけで――
「……この童貞。またぐるぐる考えてるんでしょう。気持ちを伝えるのを、先延ばしにしてるからいけないんですよ」
ニルスは呆れたように言うと、また大きなため息をついた。
童貞のなにが悪いのだ。大事な人としか私は抱き合うつもりはない。世間でそれがマイナスの評価を受けていることの方が不思議だ。
「誰彼かまわず気持ちを伝え、種を撒き散らしているお前より何倍もいい」
「どれも真剣な付き合いだし、種を撒き散らしてなんていませんよ! 俺はちゃんと避妊してですね……」
「緊急の話があるのではなかったのか?」
じろりと睨めつけると、ニルスはぐっと言葉に詰まる。そして不服そうな顔をした。
個室の前は遅れてやって来た二名の騎士が守り、他の者は近づけないようになっている。なんとも仰々しいことになってしまい料理店の者や客は困惑していたが、緊急だということで納得してもらった。
「オメガの誘拐事件の件なのですけど。尻尾の先っちょを掴めたので、早く報告した方がいいと思いまして」
「本当か?」
「ええ。先日摘発した、違法な媚薬を売っている店があったじゃないですか。そこから……オメガのフェロモンが混じった香水が見つかりまして」
「オメガの……?」
オメガのフェロモンが抽出できる、なんて話は聞いたことがない。しかしそれが実際にできており、香水に混じっているらしい。その用途を想像すると……眉間に深い皺が寄った。
「それは、始末が悪いな」
「本当ですよ。そんなものを油断してる時に嗅がされた日には、どうなることか」
「だから貴族が……この誘拐に噛んでいるのか」
アルファの貴族と『婚姻』という繋がりを持ちたい家は多い。そんな家の者が、アルファと二人きりになれるような状況でその香水をつけていれば……。想像しただけで、ぞっとする。
「アルファと既成事実を作れる香水なんて、バカみたいな価格で売れるでしょうね。さすがに発情しているオメガそのものの匂いとは比較になりませんけど。ふつうの媚薬と比べたら、勝算はかなり高いでしょう。ベータでもアルファを誘えてしまう」
ニルスは嫌悪感剥き出しの表情で、吐き捨てるように言った。
「これを売っていた店主は仕入れ先のことを吐いたか?」
「それが……間に何人も噛ませてるみたいで。店主が取引したのは、なにも知らない末端でした」
「こうして出回っているということは『被害者』はすでにいるはずだ。そこからも犯人を追おう」
「たしかに、そっちの方が早いかもしれませんね。近頃不自然な形で結ばれた貴族家同士、もしくは貴族家と商家の婚姻がないか探してみましょう」
ニルスは外にいた騎士を呼んで指示を伝える。そんなニルスを横目に見ながら、私は息を小さく吐いた。
――フェロモンを抽出するために、オメガを攫っていたのか。
……どんな方法で、というのはあまり想像したくないな。それが『安全』な方法なら、もっと早くにこの忌まわしい香水の製法は世に出ていただろう。
非人道的な……命を失うような方法である可能性が高い。
早く解決しないとな。……レイラの身が心配だ。
あの小さなうさぎの香りを纏う、別の者に惑わされる。そんな想像をして、私は嫌悪に体を震わせた。
レイラを見送り料理店の個室に戻ったとたん、ニルスに悪態と深いため息を同時につかれた。
……なにを言うんだ。ニルスが邪魔しなければ、今頃私はレイラに気持ちを伝えて……伝えて。上手くいっていたのだろうか。
怖気づいて、レイラは逃げてしまったのでは? 求められたあの時に、細い首筋を噛んだ方がよかったのだろうか。しかしレイラは、雰囲気に流されただけで――
「……この童貞。またぐるぐる考えてるんでしょう。気持ちを伝えるのを、先延ばしにしてるからいけないんですよ」
ニルスは呆れたように言うと、また大きなため息をついた。
童貞のなにが悪いのだ。大事な人としか私は抱き合うつもりはない。世間でそれがマイナスの評価を受けていることの方が不思議だ。
「誰彼かまわず気持ちを伝え、種を撒き散らしているお前より何倍もいい」
「どれも真剣な付き合いだし、種を撒き散らしてなんていませんよ! 俺はちゃんと避妊してですね……」
「緊急の話があるのではなかったのか?」
じろりと睨めつけると、ニルスはぐっと言葉に詰まる。そして不服そうな顔をした。
個室の前は遅れてやって来た二名の騎士が守り、他の者は近づけないようになっている。なんとも仰々しいことになってしまい料理店の者や客は困惑していたが、緊急だということで納得してもらった。
「オメガの誘拐事件の件なのですけど。尻尾の先っちょを掴めたので、早く報告した方がいいと思いまして」
「本当か?」
「ええ。先日摘発した、違法な媚薬を売っている店があったじゃないですか。そこから……オメガのフェロモンが混じった香水が見つかりまして」
「オメガの……?」
オメガのフェロモンが抽出できる、なんて話は聞いたことがない。しかしそれが実際にできており、香水に混じっているらしい。その用途を想像すると……眉間に深い皺が寄った。
「それは、始末が悪いな」
「本当ですよ。そんなものを油断してる時に嗅がされた日には、どうなることか」
「だから貴族が……この誘拐に噛んでいるのか」
アルファの貴族と『婚姻』という繋がりを持ちたい家は多い。そんな家の者が、アルファと二人きりになれるような状況でその香水をつけていれば……。想像しただけで、ぞっとする。
「アルファと既成事実を作れる香水なんて、バカみたいな価格で売れるでしょうね。さすがに発情しているオメガそのものの匂いとは比較になりませんけど。ふつうの媚薬と比べたら、勝算はかなり高いでしょう。ベータでもアルファを誘えてしまう」
ニルスは嫌悪感剥き出しの表情で、吐き捨てるように言った。
「これを売っていた店主は仕入れ先のことを吐いたか?」
「それが……間に何人も噛ませてるみたいで。店主が取引したのは、なにも知らない末端でした」
「こうして出回っているということは『被害者』はすでにいるはずだ。そこからも犯人を追おう」
「たしかに、そっちの方が早いかもしれませんね。近頃不自然な形で結ばれた貴族家同士、もしくは貴族家と商家の婚姻がないか探してみましょう」
ニルスは外にいた騎士を呼んで指示を伝える。そんなニルスを横目に見ながら、私は息を小さく吐いた。
――フェロモンを抽出するために、オメガを攫っていたのか。
……どんな方法で、というのはあまり想像したくないな。それが『安全』な方法なら、もっと早くにこの忌まわしい香水の製法は世に出ていただろう。
非人道的な……命を失うような方法である可能性が高い。
早く解決しないとな。……レイラの身が心配だ。
あの小さなうさぎの香りを纏う、別の者に惑わされる。そんな想像をして、私は嫌悪に体を震わせた。
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