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花屋のうさぎと友人の恋人1
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ニルス様の馬車で送っていただき、僕は花屋へと帰り着いた。
リオネル様が睨みをきかせたおかげか、店先には久しぶりに綺麗なままだ。最近は出かけて帰宅すると荒らされていることが多かったので、その光景に僕はほっと胸を撫で下ろす。とはいえ、明日はどうなっているかわからないけれど。
店に入るとふわりと花の香りが漂う。その嗅ぎ慣れた芳香を背にしながら、僕は住居部分へと向かった。
どこかぼんやりとした心地で台所に行き、お湯を沸かしお茶の準備をする。なんだかひどく、喉が乾いていたのだ。子供のように泣いてしまったからかもしれない。
「リオネル様に……恥ずかしいところを見せちゃったな」
ときめいたり、浮かれたり、恥ずかしくなったり、悲しくなったり、泣きわめいたり。恋というのは、心がこんなにも忙しいものなのだとはじめて知った。
温かなお茶を手にして、長椅子に腰を下ろす。お茶をすすった後に、ゆっくりと息を吐き出す。しばらくそうしていると少し気持ちが落ち着いた……のだけれど。
朝ここでリオネル様と過ごしたのだとふと思い出し、また落ち着かない心地になってしまった。
ぽふんと長椅子に横になり、すんと匂いを嗅いでみる。だけど当然ながら、リオネル様の香りは残っていない。
「……次に会った時。リオネル様はどんなお話をするつもりなんだろう」
自分に都合のいい妄想と、現実的な想像と。その二つが胸の内でせめぎ合う。
身を起こし、時々首輪越しに噛まれた首筋に触れながら、温くなったお茶をすすっていると……
「レイラ君、いるかな?」
ノックの音と共に、そんな声をかけられた。どこかで聞いた声だと思いながら、「はい」と返事をして玄関へと向かう。扉を開けると、そこにいたのはロランの恋人のリーディさんだった。茶色の髪と茶色の目をした少し気弱げな美青年は、眉を下げてなんだか落ち着かなげに耳や尻尾を動かしている。
「リーディさん、お久しぶりです。なにか御用ですか?」
声をかけつつも、僕は内心首をかしげる。
ロランと僕は親しいけれど、リーディさんとは数回しか顔を合わせたことがない。そんな彼がなぜうちに……
「ロランが来なかったかな。お使いに行ったまま、何時間も帰ってこなくて」
「そうなんですか? 僕もさっき、お出かけから帰ったばかりで。今日はロランとは会っていないですね」
「そうなのか。心配だ……」
リーディさんはそう言うと、その場をうろうろと歩き回る。
ふだんならば『きっと立ち話が長くなってるんですよ』なんて軽く言えるのだろうけれど。最近はオメガの誘拐が横行しているのだ。だからそんな気休めなんて、軽くは言えない。
リーディさんの落ち着きのない様子も、その誘拐を心配しているからなのだろう。
「その……君はハルミニア卿とお知り合いなんだよね?」
「は、はい」
どういう関係なのかいまいちわからないながらも……『お知り合い』ではある。
「君から、ハルミニア卿にロランを探すようにとりなしてもらえないだろうか。成人が数時間いないだけなんて、街の警備兵に言っても取り合ってもらえないだろうから……」
リーディさんはそう言うと、救いを求めるように僕を見た。
心配しすぎだかもしれないけれど、万が一ということもある。リオネル様にお願いまでしたのに、誰かと夢中で立ち話をしていました……なんてこともあり得るけれど。
笑い話で済むのなら、それが一番だよね。
「わかりました、リーディさん。リオネル様に会いに行きましょう」
リオネル様は先ほどの店から、もう騎士宿舎に戻っているだろう。宿舎に向かえば会えるはず……だ。
「ありがとう、レイラ君!」
「いいえ。ロランのこと、僕も心配ですから」
表情を輝かせるリーディさんに、僕は笑ってみせた。
その茶色の瞳の奥に宿る『罪悪感』には、まったく気づかないままで。
リオネル様が睨みをきかせたおかげか、店先には久しぶりに綺麗なままだ。最近は出かけて帰宅すると荒らされていることが多かったので、その光景に僕はほっと胸を撫で下ろす。とはいえ、明日はどうなっているかわからないけれど。
店に入るとふわりと花の香りが漂う。その嗅ぎ慣れた芳香を背にしながら、僕は住居部分へと向かった。
どこかぼんやりとした心地で台所に行き、お湯を沸かしお茶の準備をする。なんだかひどく、喉が乾いていたのだ。子供のように泣いてしまったからかもしれない。
「リオネル様に……恥ずかしいところを見せちゃったな」
ときめいたり、浮かれたり、恥ずかしくなったり、悲しくなったり、泣きわめいたり。恋というのは、心がこんなにも忙しいものなのだとはじめて知った。
温かなお茶を手にして、長椅子に腰を下ろす。お茶をすすった後に、ゆっくりと息を吐き出す。しばらくそうしていると少し気持ちが落ち着いた……のだけれど。
朝ここでリオネル様と過ごしたのだとふと思い出し、また落ち着かない心地になってしまった。
ぽふんと長椅子に横になり、すんと匂いを嗅いでみる。だけど当然ながら、リオネル様の香りは残っていない。
「……次に会った時。リオネル様はどんなお話をするつもりなんだろう」
自分に都合のいい妄想と、現実的な想像と。その二つが胸の内でせめぎ合う。
身を起こし、時々首輪越しに噛まれた首筋に触れながら、温くなったお茶をすすっていると……
「レイラ君、いるかな?」
ノックの音と共に、そんな声をかけられた。どこかで聞いた声だと思いながら、「はい」と返事をして玄関へと向かう。扉を開けると、そこにいたのはロランの恋人のリーディさんだった。茶色の髪と茶色の目をした少し気弱げな美青年は、眉を下げてなんだか落ち着かなげに耳や尻尾を動かしている。
「リーディさん、お久しぶりです。なにか御用ですか?」
声をかけつつも、僕は内心首をかしげる。
ロランと僕は親しいけれど、リーディさんとは数回しか顔を合わせたことがない。そんな彼がなぜうちに……
「ロランが来なかったかな。お使いに行ったまま、何時間も帰ってこなくて」
「そうなんですか? 僕もさっき、お出かけから帰ったばかりで。今日はロランとは会っていないですね」
「そうなのか。心配だ……」
リーディさんはそう言うと、その場をうろうろと歩き回る。
ふだんならば『きっと立ち話が長くなってるんですよ』なんて軽く言えるのだろうけれど。最近はオメガの誘拐が横行しているのだ。だからそんな気休めなんて、軽くは言えない。
リーディさんの落ち着きのない様子も、その誘拐を心配しているからなのだろう。
「その……君はハルミニア卿とお知り合いなんだよね?」
「は、はい」
どういう関係なのかいまいちわからないながらも……『お知り合い』ではある。
「君から、ハルミニア卿にロランを探すようにとりなしてもらえないだろうか。成人が数時間いないだけなんて、街の警備兵に言っても取り合ってもらえないだろうから……」
リーディさんはそう言うと、救いを求めるように僕を見た。
心配しすぎだかもしれないけれど、万が一ということもある。リオネル様にお願いまでしたのに、誰かと夢中で立ち話をしていました……なんてこともあり得るけれど。
笑い話で済むのなら、それが一番だよね。
「わかりました、リーディさん。リオネル様に会いに行きましょう」
リオネル様は先ほどの店から、もう騎士宿舎に戻っているだろう。宿舎に向かえば会えるはず……だ。
「ありがとう、レイラ君!」
「いいえ。ロランのこと、僕も心配ですから」
表情を輝かせるリーディさんに、僕は笑ってみせた。
その茶色の瞳の奥に宿る『罪悪感』には、まったく気づかないままで。
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