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花屋のうさぎと赤狼の出会い5
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――きっと、僕も殺される。
そう思うのに……抱きしめる腕がなぜだか僕に『縋っている』ように感じられて、振り払うことにためらいを感じてしまう。
すんと鼻で息をするとまるで人殺しとは思えない、清廉な香りが鼻腔をくすぐる。恐る恐る見上げれば、赤狼は風が静かな日の海のように穏やかな……けれど風次第ではその面差しをがらりと変えそうな、そんな危うさを感じさせる笑みを浮かべていた。
「――さ、お茶でも淹れよう」
先ほどまでの話の流れはすべて無視して、シエル様はそう言った。
腰を抱えるようにしてどこかへ連れて行かれようとして、僕は焦りながら口を開く。
「ま、待ってください! リーディさんと、ロラン……えっと、リーディさんの番のオメガは無事なんですか?」
「君が大人しくしていれば、二人とも無事なままにしておくよ。……犬族のアルファの方は、すでに骨の一本や二本は折れているかもしれないけれどね」
リーディさんは、殴られた上に取り押さえられていた。その時に怪我を負ったかもしれない……というところか。
ロランの方は、どんな状況なのだろう。『無事なままにしておく』という言葉を鵜呑みにしてもいいのかな。
そもそも……どうして僕をおびき寄せるような真似をしたのだろう。
考えれば考えるほど、不安ばかりが募っていく。
だけど……
リオネル様ならきっと、オメガ誘拐の犯人を突き止めて助けに来てくれるはずだ。
――それまで、なんとか生き延びないと。
リオネル様のことを考えただけで、心にぴしりとまっすぐな芯が通ったような気がする。
僕のやることはできるだけ『引き伸ばし』をして、ロランとリーディさんと一緒に無事に帰ることだ。
内心で決意を新たにしながら赤狼に導かれて歩いていると、鼻にふわりと香りが纏わりつく。
淫靡で……甘い香りだ。それは一種のものが発している香りではないようで、何種類かの香りが入り混じった複雑な匂いを醸している。
「香りが……しますね」
「ああ、気づいたのかい。この屋敷では香水を作っていてね」
「……香水を?」
「いい香りだろう?」
たしかに、いい香りだけれど……
僕はなぜか、その言葉に素直に頷くことができなかった。
そんな僕を見て、シエル様は楽しそうに笑う。
「アルファを惹きつける、特別な香水だ。僕は耐性があるから平気だけれど、耐性のない者は大変なことになるかもしれないね」
――オメガの誘拐。
――アルファを惹きつける特殊な香水。
嫌な想像が脳裏を巡る。想像ではなく真実を知りたい。だけど、知るのが怖い。
それはきっと……僕にとって喜ばしい真実ではないだろうから。
「さ、どうぞ」
奥まった一室へと案内され、ふかふかとした座面のソファに座らされた。
僕が座るのと同時に容姿端麗なベータの従僕がやって来て、音をほとんど立てずにお茶を用意してから去って行く。『香水』とやらの影響を受けないから、ベータの使用人を使っているのだろうな。
出されたお茶には口をつけずに、正面に座った威風堂々たる赤狼を見つめる。
――リオネル様に見つけてもらうまでの、我慢比べのはじまりだ。
そう思うのに……抱きしめる腕がなぜだか僕に『縋っている』ように感じられて、振り払うことにためらいを感じてしまう。
すんと鼻で息をするとまるで人殺しとは思えない、清廉な香りが鼻腔をくすぐる。恐る恐る見上げれば、赤狼は風が静かな日の海のように穏やかな……けれど風次第ではその面差しをがらりと変えそうな、そんな危うさを感じさせる笑みを浮かべていた。
「――さ、お茶でも淹れよう」
先ほどまでの話の流れはすべて無視して、シエル様はそう言った。
腰を抱えるようにしてどこかへ連れて行かれようとして、僕は焦りながら口を開く。
「ま、待ってください! リーディさんと、ロラン……えっと、リーディさんの番のオメガは無事なんですか?」
「君が大人しくしていれば、二人とも無事なままにしておくよ。……犬族のアルファの方は、すでに骨の一本や二本は折れているかもしれないけれどね」
リーディさんは、殴られた上に取り押さえられていた。その時に怪我を負ったかもしれない……というところか。
ロランの方は、どんな状況なのだろう。『無事なままにしておく』という言葉を鵜呑みにしてもいいのかな。
そもそも……どうして僕をおびき寄せるような真似をしたのだろう。
考えれば考えるほど、不安ばかりが募っていく。
だけど……
リオネル様ならきっと、オメガ誘拐の犯人を突き止めて助けに来てくれるはずだ。
――それまで、なんとか生き延びないと。
リオネル様のことを考えただけで、心にぴしりとまっすぐな芯が通ったような気がする。
僕のやることはできるだけ『引き伸ばし』をして、ロランとリーディさんと一緒に無事に帰ることだ。
内心で決意を新たにしながら赤狼に導かれて歩いていると、鼻にふわりと香りが纏わりつく。
淫靡で……甘い香りだ。それは一種のものが発している香りではないようで、何種類かの香りが入り混じった複雑な匂いを醸している。
「香りが……しますね」
「ああ、気づいたのかい。この屋敷では香水を作っていてね」
「……香水を?」
「いい香りだろう?」
たしかに、いい香りだけれど……
僕はなぜか、その言葉に素直に頷くことができなかった。
そんな僕を見て、シエル様は楽しそうに笑う。
「アルファを惹きつける、特別な香水だ。僕は耐性があるから平気だけれど、耐性のない者は大変なことになるかもしれないね」
――オメガの誘拐。
――アルファを惹きつける特殊な香水。
嫌な想像が脳裏を巡る。想像ではなく真実を知りたい。だけど、知るのが怖い。
それはきっと……僕にとって喜ばしい真実ではないだろうから。
「さ、どうぞ」
奥まった一室へと案内され、ふかふかとした座面のソファに座らされた。
僕が座るのと同時に容姿端麗なベータの従僕がやって来て、音をほとんど立てずにお茶を用意してから去って行く。『香水』とやらの影響を受けないから、ベータの使用人を使っているのだろうな。
出されたお茶には口をつけずに、正面に座った威風堂々たる赤狼を見つめる。
――リオネル様に見つけてもらうまでの、我慢比べのはじまりだ。
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