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鳩ごっこ
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ああ今日も、、
たかしは思った。最近情緒不安定なのです。今朝だって、起きたら枕元に鳩の生首がいくつも並んでおりました。寝るときはなかったのに。
ああ、またやってしまったか。
たかしは困ってしまいました。いつものようにあらかじめ準備していたカメラを再生し、寝ている時の自分の様子をチェックします。再生ボタンを押します。
ウィーン、ビデオが動き出しました。
夜12時に就寝。夜3時、起床。ベットから降り、紙粘土を取り出します。そして、鳩の生首を作り始めました。鳩図鑑を見ながら作っています。絵の具で紙粘土に色をつけ、パーツごとに分け、最後に組み立てるのです。一個、10分ほどで完成してしまいます。一心不乱に一時間ほど作り続け、既に5個ほど完成しました。
美しい。そう思ったのでしょう。私は立ち上がり、部屋を出、母の寝室に向かっています。
「お母さん、お母さん、鳩の首ができたよ。ちょっときてよ。」
どうやら母を呼んでいるようです。落ち着いていますが、切羽詰まった空気を感じさせる声です。カメラは部屋の中しか映していないので声が聞こえるだけなのですが。画面にはタンス、ベッド、その周囲に並べられた鳩の生首が写っています。
「なあにたかし、お母さん眠いのに、もう。仕方がないわねえ。」
ガラガラガラ
母が寝室から出る音です。
ガラガラガラ
私の部屋に入ってきました。のっそのっそ。母も意識がはっきりしてるのかどうなのかよくわかりません。夢遊病の中年女性のようです。
「ああ、鳩ね。クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!」
薄暗い部屋の中、不意に母は両手をくの字に曲げ、パタパタパタパタ、鳩の物真似をしました。
「うん!!鳩だよ!!クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!」
私はその様子を見て感動し、目を輝かせています。幼稚園児のようにドンドンドンドン足をバタつかせ今にも床を蹴破りそうな勢いでドンドンドンドンと、飛び跳ねています。
「クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
その様子はまるで鳩人間に取り憑かれたような、そんな様子でした。
「クルル!!クルッポゥーッ!!ク!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
母も加速していきます。
「クルル!!クルッポゥーッ!!ク!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
それはまるで何かを呼ぶための儀式のようでした。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
「クルーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
ん、母の体だけが浮かんでいきます。薄暗い部屋の中、母の体だけが不自然に浮かんでいきます。ビデオの中で浮かんでゆく母。パジャマがひらひら揺れてます。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
浮かび続けます。もう頭は天井にくっつきそうです。足はもう私の肩くらいの高さ。それでも母の腕は止まりません。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
バリバリバリバリッ
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
ドガーーーーンッ
母は屋根を突き破り、どこかへ飛んでいきました。このビデオが、母を捕らえた最後のビデオになったのでありました。
完
たかしは思った。最近情緒不安定なのです。今朝だって、起きたら枕元に鳩の生首がいくつも並んでおりました。寝るときはなかったのに。
ああ、またやってしまったか。
たかしは困ってしまいました。いつものようにあらかじめ準備していたカメラを再生し、寝ている時の自分の様子をチェックします。再生ボタンを押します。
ウィーン、ビデオが動き出しました。
夜12時に就寝。夜3時、起床。ベットから降り、紙粘土を取り出します。そして、鳩の生首を作り始めました。鳩図鑑を見ながら作っています。絵の具で紙粘土に色をつけ、パーツごとに分け、最後に組み立てるのです。一個、10分ほどで完成してしまいます。一心不乱に一時間ほど作り続け、既に5個ほど完成しました。
美しい。そう思ったのでしょう。私は立ち上がり、部屋を出、母の寝室に向かっています。
「お母さん、お母さん、鳩の首ができたよ。ちょっときてよ。」
どうやら母を呼んでいるようです。落ち着いていますが、切羽詰まった空気を感じさせる声です。カメラは部屋の中しか映していないので声が聞こえるだけなのですが。画面にはタンス、ベッド、その周囲に並べられた鳩の生首が写っています。
「なあにたかし、お母さん眠いのに、もう。仕方がないわねえ。」
ガラガラガラ
母が寝室から出る音です。
ガラガラガラ
私の部屋に入ってきました。のっそのっそ。母も意識がはっきりしてるのかどうなのかよくわかりません。夢遊病の中年女性のようです。
「ああ、鳩ね。クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!」
薄暗い部屋の中、不意に母は両手をくの字に曲げ、パタパタパタパタ、鳩の物真似をしました。
「うん!!鳩だよ!!クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ、クルッポゥーッ!!」
私はその様子を見て感動し、目を輝かせています。幼稚園児のようにドンドンドンドン足をバタつかせ今にも床を蹴破りそうな勢いでドンドンドンドンと、飛び跳ねています。
「クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
その様子はまるで鳩人間に取り憑かれたような、そんな様子でした。
「クルル!!クルッポゥーッ!!ク!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
母も加速していきます。
「クルル!!クルッポゥーッ!!ク!!クルッポゥーッ!!クルッポクルッポゥーッ!!クル!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
それはまるで何かを呼ぶための儀式のようでした。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
「クルーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
ん、母の体だけが浮かんでいきます。薄暗い部屋の中、母の体だけが不自然に浮かんでいきます。ビデオの中で浮かんでゆく母。パジャマがひらひら揺れてます。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
浮かび続けます。もう頭は天井にくっつきそうです。足はもう私の肩くらいの高さ。それでも母の腕は止まりません。
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
バリバリバリバリッ
「クルー!!クルッポゥーッ!!クルッポゥーックルッポゥーッ!!クルクルクルクルクルッポゥーッ!!クルッポゥーッ!!」
パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ
ドガーーーーンッ
母は屋根を突き破り、どこかへ飛んでいきました。このビデオが、母を捕らえた最後のビデオになったのでありました。
完
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