深夜の自転車

salmon mama

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「ありがとうございましたー。」

 店員の力のない声が背中を押す。片道を戻る。横断歩道は青だった。赤であって欲しかった。あの通りは、"あっち側"につうじてしまっているような気がするのだ。気がするだけだが。何をびびっているのだろう。自転車が一台止まっていただけなのに。スタスタと進んでいく。自動車の音が遠ざかっていく。入れ替わりに、街灯の青白い光が視界に入ってくる。あっという間に私の足音以外聞こえなくなる。夜の山道に一人取り残されたような、真っ暗な海の上にボートで一人取り残されたような気分だ。

 トントントントン、トントントントン

 足音が響く。もう少しでアパートが見えてくる。

 トントントントン、トントントントン

 アパートが見えてきた。自転車は相変わらず止まっているみたいだ。

 トントントントン、トントントントン

 長い髪の女が乗っている。反射的に目を逸らす。ああ、見てしまった。背筋をピンと伸ばし両手でハンドルを握っていた。止まっている自転車に。前後にも何か乗っていたようだった。もう見てはいけない。心拍が胸を破りそうだ。引き返してもいけない。反応してはいけない。反応したらそこでもう終わりな気がする。歩調も変えてはいけない。気づいていないフリをするのだ。

 トントントントン、トントントントン

 進む。心臓の音が外に漏れ出ていないだろうか。私は何も知らない。何も見ていない。自転車の隣を抜け、アパートの敷地内へ。顔がこちらを向いていたような気がする。でも何も見ていない。扉の前で鍵を取り出し、鍵穴に挿す。

 カチャッ

 鍵穴にいれ、回す。慎重になってもいけない。なぜなら私は、気づいていないのだから。ドアノブに手を伸ばす。

 スチャッ

 ああ....音がした。鍵の音ではない。反射的に目が向いた.....。さっきの女が立っている。自転車の前に。赤ん坊を後ろと前に抱き抱えながら。見てしまった....。目があった。深海魚みたいに大きな目だった。底の見えない真っ暗な穴に突き落とされたような感覚。

 スチャッ

 再び。歩く音だ。見ていなくてもわかる。こちらへ向かっている。扉を開けて部屋に逃げ込む。すぐに鍵を閉める。ドカドカと奥の部屋へ逃げ込み、布団を被る.............。
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