6 / 140
第1章 転生編
第6話 誘拐
しおりを挟む「君も誘拐されたの?」
「そうだよ」
話しかけてきたこの子供は恐ろしく冷静だった。
俺と同じ歳くらいに見えるのにすごく落ち着いている。
俺は転生者だから大丈夫だけど、子供だったら普通泣くよ?
「君名前はなんて言うの?」
「ルイストリア・フール3しゃい」
「僕の名前はアート・レイン3しゃいだよ。よろしくね」
「よろしく」
「フールってことは、フール家の子供なの?」
「そうだよ。君もレイン家の子供なの?」
「うん」
レイン家というのは聞いたことがある。
俺の住んでいるリアムールの隣にあるアトールという村の領主だった気がする。
同じフォンテル王国だ。
ということはこの子も貴族の子供だから攫われた訳か。
「今はここから出る方法を考えよう」
「それなんだけどね、あそこの窓から出れる気がするの」
アートはそう言って部屋の右上の、僅かに光が差し込んでいる小さな窓を指さした。
確かにあれくらいの大きさなら俺たちでも通れそうだな。
俺たちを誘拐した奴らでも、さすがにあそこから逃げられると思わなかったか。
しかし、1つ問題がある。
「確かに出れそうだけど、高くて届かないよ」
そう、窓の位置は俺たちの背丈の3倍程ありとても届きそうにない。
しかし彼の目には迷いが無いように見える。
何か策があるのだろうか。
「それに関しては安心してよ。僕に考えがあるんだ。じゃじゃーん!」
アートはポケットから小さな瓶を取り出した。
手のひらサイズで中に緑色の光が入っている。
「これはね、お父さんの魔法が込められた魔道具だよ」
魔道具…確か職『魔道具生成 有能級』を持ってる人が作れる道具で、特殊な効果があるんだよね。
「どんな効果があるの?」
「この瓶を割るとね、風の精霊しゃんが上にぶわーってやってくれるの!」
なるほど。
つまり上向きの風域を生み出してくれるってことか。
風ということは、アートのお父さんは『風魔術師 屈強級』ということになるな。
この状況を予想していたのか?
だとしたらものすごく頭が切れる人なのだろう。
これを使えば上手く脱出することが出来るはずだ。
「準備はいい?いくよ!」
アートはそう言い瓶を床に叩きつけた。
パリンッ
瓶が割れる音が地下室に響き渡る。
それと同時に下からものすごい風が上がってくる。
「何をした!」
音を聞き付けた盗賊らしき人が扉を開けこちらに語りかける。
「早く行くよ!」
アートは俺の手を掴み風に乗る。
「わぁ!すごい!」
俺とアートの体がふわふわと浮かび上がる。
「待て!」
盗賊らしき人が手を伸ばすが、ギリギリのところで届かない。
「さようなら」
俺たちは盗賊らしき人に別れを告げ窓から脱出した。
大人の大きさであの窓を通れるはずもなく、俺たちは簡単に追っ手を巻くことが出来た。
「逃げるの簡単だったね」
「あんなすごい魔道具持ってるなんて大したもんだよ!」
「へへっ。あれ僕のお気に入りなんだ」
アートは褒められて嬉しいのか、自慢げに笑った。
「さて、ここからどうやって帰ろうか」
「周りの地形を見るに少し荒っぽく赤い砂があり、緑豊かな木も茂っている。
これらから考えるに、ここはフォンテル王国とライクリック王国の国境だと分かるね。
つまり、太陽の方向から考えて東、あっちの方向に進めば王都が見えるはずだよ」
アートは素早く状況を整理し、俺たちが向かうべき方向へ指さした。
この状況整理力、ほんとに3歳なのか?
もしかしてアートってアインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチに並ぶ天才と呼ばれる人なのか!?
俺は本物の天才を初めて見た気がした。
アートとなら無事に帰ることもできるかもしれない!
と、思ったのも束の間。
すぐにその期待は壊された。
「ね、ねぇ、あれはなに。魔物…?」
俺たちの前に、人でもない魔物でもない得体の知れない何かが現れた。
「あの頭はコボルト、でもあの手足はウルフ、しかし体は人間…」
そう、俺たちの前に現れたのはコボルトの頭を持ちウルフの手足、そして人間の体をした怪物だったのだ。
なんだこの怪物は!?
こんなの知らないし見たこともない!
「ルイスあれは怪物だ!魔物でもなんでもない。早く逃げないと!」
アートは俺の手を掴みすぐに逃げる。
しかし、ウルフの手足を持つ怪物はウルフと同じ速度で走ってくる。
俺たちでは到底逃げきれない。
「ガゥッ!」
気がつけば、得体の知れない何かは俺の後ろにいた。
そして、ウルフの爪が俺を引き裂こうとする。
「ルイス避けて!」
一か八かだ!
俺は毎晩読み漁っている剣術の避け方の本を思い出す。
確か、身体をこう捻ってダメージを最小限に…
シュッ
ウルフの爪が俺の肩をかすらせる。
「うっ!」
まじか、肩をえぐられた!
痛い、痛すぎる!
だが、避けなければ心臓を貫いていただろう。
毎晩訓練していて良かった!
俺の左肩からは血が垂れ流れている。
俺はもうまともに走るのは難しい。
アートに助けを呼んできてもらうのが最善だろう。
しかし、間に合う確率は低いだろうな…
「ルイス!」
「アート!逃げるんだ!」
「でも、怪我が!」
「頭のいい君なら分かるだろ!
俺はもう逃げきれない。助けを呼んでくるんだ!」
「ルイス…絶対生きて会おうね!」
アートは涙を拭いながら走っていった。
俺はもう助からないって分かってるだろうに。
また生きて会おう…か。
そう言われたら少し頑張るしかないな。
「グルゥゥゥ」
俺と怪物が対峙する。
さて、これからどうしたものか。
15
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
追放された荷物持ち、スキル【アイテムボックス・無限】で辺境スローライフを始めます
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーで「荷物持ち」として蔑まれ、全ての責任を押し付けられて追放された青年レオ。彼が持つスキル【アイテムボックス】は、誰もが「ゴミスキル」と笑うものだった。
しかし、そのスキルには「容量無限」「時間停止」「解析・分解」「合成・創造」というとんでもない力が秘められていたのだ。
全てを失い、流れ着いた辺境の村。そこで彼は、自分を犠牲にする生き方をやめ、自らの力で幸せなスローライフを掴み取ることを決意する。
超高品質なポーション、快適な家具、美味しい料理、果ては巨大な井戸や城壁まで!?
万能すぎる生産スキルで、心優しい仲間たちと共に寂れた村を豊かに発展させていく。
一方、彼を追放した勇者パーティーは、荷物持ちを失ったことで急速に崩壊していく。
「今からでもレオを連れ戻すべきだ!」
――もう遅い。彼はもう、君たちのための便利な道具じゃない。
これは、不遇だった青年が最高の仲間たちと出会い、世界一の生産職として成り上がり、幸せなスローライフを手に入れる物語。そして、傲慢な勇者たちが自業自得の末路を辿る、痛快な「ざまぁ」ストーリー!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
【死に役転生】悪役貴族の冤罪処刑エンドは嫌なので、ストーリーが始まる前に鍛えまくったら、やりすぎたようです。
いな@
ファンタジー
【第一章完結】映画の撮影中に死んだのか、開始五分で処刑されるキャラに転生してしまったけど死にたくなんてないし、原作主人公のメインヒロインになる幼馴染みも可愛いから渡したくないと冤罪を着せられる前に死亡フラグをへし折ることにします。
そこで転生特典スキルの『超越者』のお陰で色んなトラブルと悪名の原因となっていた問題を解決していくことになります。
【第二章】
原作の開始である学園への入学式当日、原作主人公との出会いから始まります。
原作とは違う流れに戸惑いながらも、大切な仲間たち(増えます)と共に沢山の困難に立ち向かい、解決していきます。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる