あなたの瞳に映る花火 〜異世界恋愛短編集〜

宝月 蓮

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悪意による病弱

病弱な妹

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 二歳下の妹、デボラが病弱と言われるようになったのはここ最近だったようだと、姉のエリアーヌは考えていた。

「あ、お姉様のネックレス、とても素敵だわ。私も欲しい」
 上目遣いでねだるような表情のデボラ。
 父譲りのダークブロンドの髪は、ふわふわとしている。そして母譲りのエメラルドのような緑の目は、まん丸としており庇護欲をそそる小動物のような愛らしさがある。
 両親はそんなデボラを大層可愛がっている。

 一方姉のエリアーヌはというと、比較的地味な栗毛色の真っ直ぐ伸びた髪に、ラピスラズリのような青い眼。美形ではあるが地味である。
 エリアーヌは口うるさかった祖母に髪色と目の色だけでなく顔までも似ていると言うことで、両親から冷遇されて現在、十八歳になるまで育って来た。

「エリアーヌ、お前は姉なんだから、デボラにそのネックレスをあげなさい」
「そうよ、エリアーヌ。デボラは病弱なの。貴女みたいに健康ではないのだから、ネックレスくらいあげなさい」
 当たり前のようにネックレスをデボラに譲るよう、両親はエリアーヌを睨んでいた。
 ロートレック子爵家はエリアーヌの生家だが、家族は誰も味方をしてくれない。
 エリアーヌはこの状況にもう慣れたもので、表情を変えずネックレスをデボラに渡す。
 すると、デボラは嬉しそうに満面の笑みになるのだ。
「ありがとう、お姉様。このネックレス、やっぱりお姉様よりも私の方が似合うわ。次の夜会に着けて行こうかしら」
 ルンルンと上機嫌のデボラである。
(婚約者のステファン様からいただいたネックレスだったのに……)
 エリアーヌは表情には出さないが、内心ため息をついた。

 エリアーヌはロデーズ伯爵家次男ステファンと婚約している。
 ロートレック子爵家は姉のエリアーヌと妹のデボラしか子供がいないので、エリアーヌが婿を取りロートレック子爵家を継ぐ予定なのだ。
 エリアーヌと同い年のステファンは、アッシュブロンドの髪にラピスラズリのような青い目で甘い顔立ちだ。エリアーヌは一目見た時から彼に恋に落ちていたのだ。

(もしかしたら、ステファン様もデボラに取られてしまうのかしら……?)
 エリアーヌは不安になっていた。

「デボラ、体調は大丈夫なのか? 前回の夜会でも、体調が悪そうだとヴィルヌーヴ侯爵家のご長女レオンティーヌ様が心配してくれていただろう」
「あの令嬢の鑑と言われているレオンティーヌ様が心配してくださるなんて、本当にお優しい方ね。それにデボラ、ヴィルヌーヴ侯爵家の方と付き合いがあるのは名誉なことなのよ。流石はデボラだわ。エリアーヌとは大違い」
「本当だな。エリアーヌはレオンティーヌ様からお声がけがないんだもんな」
 両親はデボラを上げてエリアーヌを下げ、下品に笑っている。
「お姉様も私みたいに病弱ならみんなから可愛がってもらえたんじゃないの? 病弱じゃないお姉様、可哀想」
 デボラは悪意たっぷりの笑みをエリアーヌに向ける。
 もう慣れたことなので、エリアーヌにとってそんなことはどうでも良かった。
 それよりも、気になることがある。
(デボラが病弱……ね。どうしてそう言われるようになったのかしら?)
 デボラは至って健康体である。
 しかし、ここ最近ではデボラが病弱だと言われているのだ。
 ここカノーム公国で力を持つヴィルヌーヴ侯爵家の長女で、令嬢の鑑とも言われるレオンティーヌまでデボラのことを病弱だと言ってとても心配しているようである。
(まあどうせ、デボラが注目を集めたいだけのことでしょう。昔からあの子は自分が一番目立ちたい、可愛さを讃えて欲しいというタイプだったのだから。レオンティーヌ様を騙して恥ずかしいと思わないのかしら?)
 エリアーヌはチラリとデボラを一瞥し、そのまま自室に戻るのであった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





「それでエリアーヌのネックレスは妹のデボラ嬢に渡ってしまったわけか」
 エリアーヌの婚約者、ステファンは困ったように苦笑した。
「申し訳ございません、ステファン様」
「いや、エリアーヌが謝ることじゃないよ」
 夜会にて、エリアーヌはステファンとバルコニーで話していた。

 夜風がステファンのアッシュブロンドの髪を撫でる。
 月の光により、アッシュブロンドの髪は更に輝いているように見えた。
 エリアーヌは思わずステファンに見惚れてしまう。

「それにしても、デボラ嬢が病弱……ね。どこからそんな話が出たんだろうか?」
「不思議ですよね」
 エリアーヌは少し呆れながらため息をついた。

 会場にいるデボラは、令嬢や令息達に囲まれて楽しそうに話している。
 そこへ、艶やかに波打つようなブロンドの髪にジェードのような緑の目の、遠目から見ても華やかな美人だと分かるような令嬢がデボラに近付く。
 彼女がレオンティーヌである。
 エリアーヌ達がいるバルコニーからは何を話しているのかあまり聞こえない。しかしどうやらレオンティーヌはデボラを心配してくれているようだった。

「とにかく、エリアーヌにこれ以上被害が及ばないように僕としても何とかしたいところだよ」
 ステファンはエリアーヌに甘い笑みを向ける。
 その笑みに、エリアーヌは表情を綻ばせた。
「ありがとうございます、ステファン様」
 エリアーヌとステファンの関係は良好。
 デボラにステファンを奪われることはないだろうと思いたいエリアーヌであった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 数日後、ロートレック子爵邸にて。
「嫌よ嫌よ。私もステファン様とお話ししたい。お姉様ばかり狡いわ」
 デボラがそう駄々をこねて、エリアーヌは辟易としてしまう。

 現在、ロートレック子爵邸にステファンが来ているのだ。
 ステファンも困ったような表情である。

「エリアーヌ、デボラにステファンくんと話をさせてあげなさい」
「そうよ、エリアーヌ。病弱なデボラが可哀想だわ。健康な貴女は我慢しなさい」
 両親は全く使い物にならない。
 しかしここで逆らえば食事を抜かれたり体罰が与えられてしまう。
 エリアーヌは両親の言う通りにするしかないのであった。

「じゃあステファン様、私の部屋に行きましょう。ステファン様とお話したいことがたくさんあるの」
「……ああ、そうかい」
 満面の笑みのデボラに、戸惑うステファン。
 デボラにステファンを奪われないか心配になるエリアーヌだった。
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