君と僕の響奏曲

宝月 蓮

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第三楽章 その思いはappassionato

文化祭一日目・前編

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 奏と詩織のトラブルもあったが、その後の吹奏楽部は平和だった。
 そして、いよいよ文化祭当日。
 午前中の吹奏楽部のステージは無事に成功し、響は少しだけ肩の荷が降りた。
 
 響が執事&メイド喫茶をやっている二年四組の教室に戻ると、先に戻って燕尾服に着替えた風雅がクラスメイトの女子達に囲まれていた。
「朝比奈くん、写真撮ろうよ」
「あ、狡い狡い、風雅くん、私も!」
「おう、じゃあ全員で撮ろっか」
 容姿と身長に恵まれている風雅はヘラヘラ笑いながらクラスの女子達と写真を撮っていた。
(よくやるわ)
 響はその様子に苦笑した。そのまま荷物を置いて、簡易的に作られたバックヤードに行く響。衣装の燕尾服に着替えようとした。しかし、何と響の燕尾服が見つからないのだ。
(嘘だろ!? ちゃんと持ってきたはず!)
 焦った響は一旦バックヤードから出る。
「お、響、戻って来てたのか。ちょっと来てくれよ」
 相変わらず女子に囲まれている風雅に声をかけられた。
「風雅、今それどころじゃなくて。俺の燕尾服が」
「小日向くんの燕尾服ならあの子が着てるよ」
「え?」
 一人の女子生徒の言葉に響の目は点になる。
 
 彼女が示した先には響と同じ二年四組の女子生徒がいた。
 その女子生徒は響が持って来た燕尾服を着て、他の女子達に囲まれていたのだ。
 ショートカットで響と同じくらいの背丈、おまけに中性的な顔立ち。燕尾服が非常に良く似合っていた。
 
「何で?」
 響は燕尾服を忘れていなかったことにホッとしつつ、どうして彼女が燕尾服を着ているのか疑問に思った。
「今、朝比奈くんとその話してたんだよね」
「そうそう。小日向くん、小柄で童顔だから似合うと思って」
 女子生徒達がワクワクしながら響に目を向ける。
「確かに、響なら似合うはずだ」
 ニヤニヤと笑う風雅。
 何となく嫌な予感がした響である。
「一人くらい、男女逆の衣装でも面白いって思ってさ。小日向くんにはメイド服着てもらいたいの。着てくれるよね?」
 疑問系ではあるが、ほぼ強制であることは間違いない。
「マジかよ……」
 響は死んだ魚のような目になった。
 こういうことに関する女子のパワーには敵わない響だった。





♪♪♪♪♪♪♪♪






「お帰りなさいませ、ご主人様」
「お帰りなさいませ、お嬢様」
 いよいよ二年四組の執事&メイド喫茶に客が入り始め、文化祭らしい空気になってきた。
 男性客には「お帰りなさいませ、ご主人様」、女性客には「お帰りなさいませ、お嬢様」挨拶をして対応している。
 
「響、お前中々似合うぞ。クラスの女子達も可愛いって言ってただろ」
 風雅はメイド服に着替えさせられた響を見て面白そうに笑っている。
 響は若干不貞腐れていた。
 女子達から化粧まで施されそうになったが、それは全力で拒否した響。そのおかげで何とかメイド服を着るだけで許してもらえた。
「男が可愛いって言われてもさ……。それに、かなちゃんも来るのに……」
「奏ちゃんもきっとお前のこと可愛いって思ってくれるからさ」
「……好きな子にはカッコいいって言ってもらえた方が嬉しい」
「まあその男心は分かるけどさ。でもさ、俺らが小学生の時に流行ったドラマでも、『可愛い』は最強、『可愛い』の前では全面降伏って言ってたし」
「でもさあ……」
 響は不貞腐れながらため息をついた。
「おい、響、奏ちゃん来店だ。彩歌ちゃんもいるぞ」
 ニヤリと入り口を見て笑う風雅。
「え!? もう!?」
 響は嬉しさ反面、現在の服装のせいで素早くバックヤードに隠れようとする。
「いや待て響、隠れようとするなって」
「風雅、頼むから離せ」
 隠れようとする響だったが風雅に引っ張られて必死に抵抗している。
「せっかくだし奏ちゃんにも見てもらおうぜ」
「恥ずかしいって」
 響は悪あがきを続ける。
(せめて燕尾服姿だったら……!)
 響は風雅に無理矢理奏の前に連れて行かれたので、長身である彼の後ろに隠れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
 風雅はやって来た奏と彩歌に対し、にこやかに対応する。
「朝比奈先輩、こんにちは」
「うざいんだけど。それと毎週水曜に図書室来んな」
 風雅に軽く会釈する奏。一方彩歌はいつも通りの不機嫌そうな対応である。
「まあまあそう言わずにさ」
 風雅は彩歌の態度にすっかり慣れていた。
「それと、お前もそろそろ前出ろよ」
「ちょ、やめろって」
 
 風雅の後ろに隠れていた響だが、ついに奏達の前に引っ張り出されてしまう。
 
「……お帰りなさいませ……お嬢様……」
 響は俯いている。
「響先輩……!? どうしてメイド服を……!?」
 奏は目を見開いた。
「……本当は俺も燕尾服着る予定だったけど、クラスの女子達の悪ノリで交換させられた」
 響は苦笑しながら答えた。
「そうだったんですね。でも……響先輩、可愛いです」
 奏はクスッと笑った。
「良かったな、響。可愛いだってさ」
 風雅はニヤニヤと響を小突く。
「……ありがとう、かなちゃん」
 お礼を言ってみるものの、響の心は非常に複雑だった。
「中途半端」
 一方彩歌は響のメイド服姿を見てそう呟く。
「こういうのって女子顔負けな感じで本気でやるか、ゴリラみたいな野郎が着てネタに振り切るかの二択でしょ。あんたのは中途半端」
 彩歌は鼻で笑った。
「だってさ、響。彩歌ちゃんは辛辣だ」
「いや、好きで着たわけじゃないから」
 響は苦笑するしかなかった。
「響先輩、せっかくだし写真撮って良いですか? 両親と祖父母に今日の文化祭の様子写真で見せてって言われているんです。明日の一般祭にも来るんですけどね」
 奏はスマートフォンを取り出す。

 この日は校内祭で、一般客はおらず生徒だけの文化祭である。

「待って、かなちゃんとこのおじさんとおばさんに俺のこの姿見せるの!?」
 ギョッとする響。
「良いじゃん。じゃあ四人で撮ろっか」
 風雅とスマートフォンを取り出し、近くにいたクラスメイトに写真を撮ってもらうよう呼び止めた。
「待って、奏とのツーショットなら良いけど、何でこいつらも入るの?」
 彩歌は不機嫌そうだったが、結局四人で写真を撮ることになった。
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