君と僕の響奏曲

宝月 蓮

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番外編 高校時代の青春間奏曲(※時系列はバラバラです)

その楽器を選んだ理由・後編

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③Tb二年 朝比奈風雅、Perc二年 昼岡徹 、Euph二年 晩沢蓮斗の場合

 部活が終わった後、音楽室は帰る準備をする部員や、楽しそうに談笑している部員で賑わっている。

 そんな中風雅は少しだけ気になる部分の自主練をしていた。
 トロンボーンが目立つ部分なので、なるべく完璧にしたいところである。
 風雅は楽譜に集中してトロンボーンを吹いていると、スライドが何かにぶつかった。
「風雅、いてえよ」
「悪い、蓮斗。譜面に集中し過ぎてた」
 痛そうに顔をしかめるのは、風雅の前の席に座るユーフォニアムの蓮斗。
 蓮斗も残って自主練をしているようだ。
 風雅のトロンボーンのスライドは蓮斗の背中を攻撃していた。

 トロンボーンあるある、前の席のユーフォニアム担当者の背中にスライドでダイレクトアタック。先輩の背中を攻撃してしまった場合の焦り具合は半端ない。

「譜面だけじゃなく周りも見ろよ」
「ごめん、悪かったって」
 呆れたようにため息をつく蓮斗に、苦笑しながら謝る風雅。

「あれ? 風雅も蓮斗も自主練か?」
 そこへ、明るい声が響く。
 パーカッションの徹だ。
 徹はもう帰る準備を終えていた。
「まあな。徹は自主練しないのか?」
「今日はちょっと英語の課題残っててヤバいから」
 風雅が聞くと、徹は心底面倒だと言いたげな表情で答えた。
 勉強が嫌いな徹にとって課題はやりたくないのだろう。
「ちゃんとやっとかないとまた赤点取るぞ」
「じゃあ蓮斗先生教えてくれよー」
ちけえよ。離れろ馬鹿」
 徹は蓮斗に縋るが、蓮斗は呆れるだけだった。
「はいはい、離れますよーだ。あ、風雅スキあり!」
 徹は蓮斗から離れたかと思いきや、風雅のトロンボーンからするりとスライドを抜き取った。
 練習していたのでスライドロックを外していたのだ。
「おい徹、俺のスライド返せ!」
 トロンボーンのスライド泥棒現る。
「徹、楽器は大切に扱え」
 蓮斗は再度ため息をついた。

 風雅は徹からスライドを取り戻し、再びトロンボーンを吹き始める。
「そういやさ、何で風雅と蓮斗は今の楽器選んだんだ?」
「何だよいきなり」
 徹にそう聞かれ、風雅は演奏を中断した。
 前に座る蓮斗は徹の方を振り向く。
「いや、気になってさ」
 明るくハハッと笑っている徹。
「それにさ、俺ユーフォなんて高校で吹奏楽部に入る前は知らなかったからさ」

 徹は中学時代バスケットボール部だったらしい。パーカッションを始めたのは高校からだ。
 それでも徹のドラムのリズムはあまり崩れないので、元々才能があったのだと風雅は感じていた。

「まあ、中学の吹奏楽部でユーフォの人数が足りてなかったからだな。何となく楽器に触れたいって思ったけど、俺は特にこだわりなかったし、初心者でも音が出しやすいって言われたから」
 蓮斗は中学時代を思い出しながら答えた。
「へえ、ユーフォって簡単なんだ」
 徹は目を丸くした。
「まあ音を出すだけならな。技術は色々と練習しないと身に付かないぞ」
 蓮斗はフッと笑った。
「で、風雅は?」
 徹は風雅に話を振った。
「俺は姉ちゃんが吹奏楽部でトロンボーンやってたから。楽器もチューナーもメトも姉ちゃんのがあったし。それに、スライド動かして演奏するの、何か格好良いって思ったから」
 風雅は歳の離れた姉が二人おり、下の姉の影響だった。
 風雅が中学入学の時には下の姉が既に高校卒業し、吹奏楽部も引退していたのだ。
 元々幼い頃から姉のトロンボーンに触らせてもらったこともあり、吹奏楽部で本格的にやってみようと思った風雅だった。
 現在風雅が部活で使っているトロンボーンは姉のお下がりである。要するに自分の楽器だ。
 ちなみに、音宮高校吹奏楽部で学校の楽器を借りず自分の楽器を持っているのはクラリネットの響とフルートの奏と他数名いる。

「風雅は姉ちゃんの影響か」
「そういう徹は何でパーカッション?」
 今度は風雅が徹に聞いてみた。
「いやあ、ペット(※トランペットの略)とかボーンも迷ったけど、やっぱドラムが一番楽しそうだったから。パーカス(※パーカッションのこと)ならドラム叩けるし」
 徹はドラムを叩く真似をした。
「てか俺英語の課題残ってるんだった! 帰るわ!」
 いきなり徹は思い出し、さっさと帰って行った。
 まるで嵐のようだと思う風雅である。
 蓮斗も同じことを思っていたのか、眼鏡を拭きながら「ようやく嵐が過ぎ去ったな」と呟いた。

 風雅は再び自主練を始める。
「なあ、風雅。今お前が練習してる部分、ユーフォと合わせてみないか?」
 蓮斗からそう提案された。
 確かにそれも悪くないと思った風雅は「おう」と頷く。
 部活終わりの音楽室に、トロンボーンとユーフォニアムの二重奏が響くのであった。





④Fg一年 浜須賀律、T.Sax一年 内海詩織の場合

 部活が終わりファゴットを片付けている最中、律は隣の席で自主練する詩織のテナーサックスの音が気になった。
「内海、今日ピッチ(※音程)悪くない?」
「うん。今日は個人練でもパー練(※パート練習の略)でも調子悪くて」
 詩織は不機嫌そうである。
「いつもピッチ悪いんじゃなくて?」
「浜須賀くんって本当性格悪い」
「内海には負けるよ」
 すると詩織はムッとした表情になり、軽く律の肩を叩いた。
「そんな時はいっそのこと休めば? もう部活終わってるんだし」
 律はファゴットを片付け終えた。
「でもこのままだと何か悔しいし」
 詩織は不機嫌なままテナーサックスを吹く。
 その音は荒れていた。
(そんな気持じゃ良い音出ないだろうけど)
 律は苦笑し、話題を変える。

「あのさ、内海、何で内海はテナーサックス選んだわけ?」
「何いきなり。そんなの、一目で気に入ったからに決まってるじゃん」
「アルトとかバリサク(※バリトンサックスの略)の選択肢はなかったんだ」
「何かテナーに一目惚れしたんだよね」
 詩織は初めてテナーサックスを見た時のことを思い出しているようで、表情が柔らかくなっていた。
 もう一度詩織がテナーサックスを吹くと、先程よりもピッチが合っているように感じた律。
(内海、調子戻って来たな)
 律はフッと表情を綻ばせた。

「浜須賀くんはどうなの? 何でファゴット? 私ばかり聞かれるのは何か不公平」
 今度は詩織からの質問だ。
「見たことない楽器だったから」
 律は一言そう答えた。
「何それ?」
 詩織は怪訝そうな表情になる。
「いや、金管のペット、ボーン、ホルン、チューバ、木管のサックス、クラ、フルート、それからパーカッションは中学になるまでに一度は見たことあるし聞いたことあるじゃん。ユーフォも中学の時吹奏楽部見学に行った時に初めて知ったけど、金管だしチューバに似てるからさ。でもファゴットは本当に今まで見たことなかった。だから余計に興味を惹かれた」
 律は中学生の時を思い出し、懐かしくなった。

 初めて見る楽器だったからこそ、どんな音がするのか全然想像出来ず、逆にそれが面白いとすら思ったのだ。

「変なの」
 詩織はクスッと笑った。
 テナーサックスの音に納得がいったのか、片付けを開始している。
「変で結構。テナー、もう吹かなくて良いんだ」
「うん。ようやく納得いく音が出たから」
 そう答える詩織は楽しそうだった。
「それは良かった。じゃ、お先に」
 律は安心し、先に帰るのであった。
 隣の席の詩織の調子が悪いとどうも落ち着かない律だったのだ。
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