13 / 33
ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ベンティンク
腐った悪徳王家と腐った貴族達
しおりを挟む
この日、ヴィルヘルミナは憂鬱だった。
(ベンティンク家と彼らの派閥の貴族との晩餐会……正直行きたくないけれど、王太子妃という立場だから行かざるを得ないのよね……)
ヴィルヘルミナは心の中でため息をつく。侍女サスキアがいるので表立ってため息はつけないのである。
「王太子妃殿下、そろそろお着替えの時間でございます。ドレスのご用意も出来ておりますわ」
サスキアは妖艶で心を読ませないような笑みである。
「ええ、ありがとう、サスキア」
ヴィルヘルミナも心を読ませまいと、品の良い笑みを浮かべる。
(サスキアがベンティンク家派閥なのか、それとも仕方なく王宮侍女をやっているのかは分からない。迂闊に顔には出せないわ)
ヴィルヘルミナは流行にとらわれない上品なドレスを身にまとい、気を引き締めた。
「王太子妃殿下、緊張なさっておられるのですか?」
「え?」
サスキアにそう問われ、ヴィルヘルミナはきょとんとした。
「少し王太子妃殿下のお体が硬くなっておられたので、もしかしたらと思ったのでございます」
妖艶な笑みを浮かべるサスキア。
「いいえ、サスキア。緊張しているわけではないわ。大丈夫よ、ありがとう」
ヴィルヘルミナは心を悟らせないよう、品の良い笑みを浮かべた。
(表情には絶対に出さないようにしていたけれど……それ以外にも注意しないといけないのね。それにしても、サスキアは……何者なの?)
ヴィルヘルミナはサスキアへの警戒を強めた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
目の前に並ぶ贅の限りを尽くした豪華な食事。欲望丸出しの下卑た笑みを浮かべているベンティンク家の者達や貴族達。
(苦しむ民達の血税がふんだんに使われた料理……)
ヴィルヘルミナは反吐が出そうになっていた。しかし、それを悟られてはいけない。ヴィルヘルミナは常に気を張っている状態だ。
「国王陛下、我が領地にいる武器職人が新しい武器を開発したのですが、ご覧になります?」
「ほう、新たな武器か。では一週間後、持って来てもらおうか。例え値が張ろうが平民達から巻き上げればいい。奴らは税を搾り取る為の道具なのだから。それにウォーンリー王国に攻め入る準備も必要だ」
国王アーレントは下品な笑みで豪華な食事を口にしている。
「まあ、アーレント様。税を搾り取る為の道具だなんて素晴らしい表現ですわね。彼らは謂わば私達の所有物。どのように扱っても良いのですわ」
ホホホと笑う王妃フィロメナ。派手でゴテゴテした扇子を仰いでいる。
「ならば民達の税をまた上げてブレヒチェにドレスとアクセサリーを贈ろう」
王太子ヨドークスは隣に座る愛妾ブレヒチェの手を握る。
「まあ、ヨドークス様、嬉しいですわ。貴方のお陰で私は世界一の幸せ者です」
キャッとブレヒチェは喜ぶ。派手でゴテゴテしたドレスをまとう彼女。ヴィルヘルミナにとってはそれがより下品に見えた。
(民達のことを税を搾り取る為の道具だなんて……。それに、民達は戦争を望んでいないわ)
血管を逆流してくるような怒りを覚えるヴィルヘルミナ。しかし、表情には出さなかった。
「しかし国王陛下、我々に不満を持つ下々の民達はどう対処しましょうか?」
一人の貴族がそう問う。するとアーレントが声を出して下品に笑う。
「そんなもの、反逆者として処刑すれば良いのだ。ちっぽけな民草の命が消えようが、この世界は変わるまい」
「なるほど、流石は国王陛下ですな!」
下卑た笑い声に包まれる。
(平民を人とも思わないなんて……ベンティンク家派閥は腐り切っているわね)
ヴィルヘルミナはテーブルクロスの下で、拳を強く握り締めた。
「そうそう、王太子妃殿下、ご結婚なさってもう一年になりますが、お世継ぎはまだお生まれにならないのですか?」
突然貴族から話を振られたヴィルヘルミナ。しかし、慌てることはなかった。淑女教育の賜物である。
「ええ、それはおいおいと」
「侯爵、こんな魅力のない女と閨を共にしたいと思うか?」
ヴィルヘルミナの答えはヨドークスに遮られた。卑俗な笑みである。
「まあそれは……好みの問題もありますか」
侯爵はヨドークスとヴィルヘルミナを見て苦笑する。
「女として魅力があるのはブレヒチェだ。世継ぎならブレヒチェとの間に生まれた子供を引き取るさ。国王陛下、王妃殿下、それで問題ないですよね?」
下品に笑いながらヨドークスはアーレントとフィロメナに問いかける。
「ああ、問題ない。高貴な血筋も重要ではあるが、必要なのは忠誠心だ。エフモント公爵家よりもブレヒチェの生家フーイス男爵家や嫁ぎ先のリンデン侯爵家の忠誠心の方が高いからな。エフモント公爵家ももっと見習って欲しいところだ」
尊大な態度のアーレント。
「好きにしなさい、ヨドークス。確かに、ブレヒチェの方が愛らしくて好きよ。可愛げのないヴィルヘルミナには仕事だけやらせておけば良いわ」
フィロメナはヨドークスとブレヒチェに甘ったるい笑みを向け、ヴィルヘルミナには冷たい視線を向けた。
「ヴィルヘルミナ、お前からもエフモント公爵家へ呼びかけろ。もっと我々に協力しろと」
「その通りよヴィルヘルミナ。貴女は仕事くらいしか取り柄がないのだから」
アーレントとフィロメナからそんな言葉を掛けられた。
「善処いたします」
ヴィルヘルミナは呆れ返っていたが、上品な笑みを浮かべた。
(ヨドークスとの夜伽なんてこちらから願い下げよ。それに……)
ヴィルヘルミナの脳裏にマレインの姿が思い浮かぶ。
(私が愛する男性はただ一人……マレインお義兄様だけよ。こんな晩餐会なんか早く終わって欲しいわ。今はこんなことを思ってはいけないと分かっているけれど……早くマレインお義兄様に会いたい……。たとえこの気持ちが私の一方通行だったとしても……)
優しく、いつもヴィルヘルミナに寄り添ってくれるマレイン。自分を信じて味方でいてくれる頼もしさ。ヴィルヘルミナの中で、マレインへの想いがどんどん大きくなっていた。
今回の晩餐会はベンティンク家の者達と招待された者達しか参加出来ない。護衛騎士などの付き添いは許されていなかった。
(でも、今はまだ駄目よ。マレインお義兄様に気持ちを伝えるのは、今ではないわ。革命を起こしてベンティンク家や、ベンティンク家派閥の腐った方々を始末してからよ)
ヴィルヘルミナは自分の気持ちを今はひたすら堪えるのであった。
(エフモント公爵家の家族や、私の実の両親……ヘルブラント国王陛下とエレオノーラ王妃殿下の為にも、絶対にベンティンク家からドレンダレン王国を取り戻さないと!)
ヴィルヘルミナはタンザナイトの目をただ未来へと真っ直ぐ向けていた。
(ベンティンク家と彼らの派閥の貴族との晩餐会……正直行きたくないけれど、王太子妃という立場だから行かざるを得ないのよね……)
ヴィルヘルミナは心の中でため息をつく。侍女サスキアがいるので表立ってため息はつけないのである。
「王太子妃殿下、そろそろお着替えの時間でございます。ドレスのご用意も出来ておりますわ」
サスキアは妖艶で心を読ませないような笑みである。
「ええ、ありがとう、サスキア」
ヴィルヘルミナも心を読ませまいと、品の良い笑みを浮かべる。
(サスキアがベンティンク家派閥なのか、それとも仕方なく王宮侍女をやっているのかは分からない。迂闊に顔には出せないわ)
ヴィルヘルミナは流行にとらわれない上品なドレスを身にまとい、気を引き締めた。
「王太子妃殿下、緊張なさっておられるのですか?」
「え?」
サスキアにそう問われ、ヴィルヘルミナはきょとんとした。
「少し王太子妃殿下のお体が硬くなっておられたので、もしかしたらと思ったのでございます」
妖艶な笑みを浮かべるサスキア。
「いいえ、サスキア。緊張しているわけではないわ。大丈夫よ、ありがとう」
ヴィルヘルミナは心を悟らせないよう、品の良い笑みを浮かべた。
(表情には絶対に出さないようにしていたけれど……それ以外にも注意しないといけないのね。それにしても、サスキアは……何者なの?)
ヴィルヘルミナはサスキアへの警戒を強めた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
目の前に並ぶ贅の限りを尽くした豪華な食事。欲望丸出しの下卑た笑みを浮かべているベンティンク家の者達や貴族達。
(苦しむ民達の血税がふんだんに使われた料理……)
ヴィルヘルミナは反吐が出そうになっていた。しかし、それを悟られてはいけない。ヴィルヘルミナは常に気を張っている状態だ。
「国王陛下、我が領地にいる武器職人が新しい武器を開発したのですが、ご覧になります?」
「ほう、新たな武器か。では一週間後、持って来てもらおうか。例え値が張ろうが平民達から巻き上げればいい。奴らは税を搾り取る為の道具なのだから。それにウォーンリー王国に攻め入る準備も必要だ」
国王アーレントは下品な笑みで豪華な食事を口にしている。
「まあ、アーレント様。税を搾り取る為の道具だなんて素晴らしい表現ですわね。彼らは謂わば私達の所有物。どのように扱っても良いのですわ」
ホホホと笑う王妃フィロメナ。派手でゴテゴテした扇子を仰いでいる。
「ならば民達の税をまた上げてブレヒチェにドレスとアクセサリーを贈ろう」
王太子ヨドークスは隣に座る愛妾ブレヒチェの手を握る。
「まあ、ヨドークス様、嬉しいですわ。貴方のお陰で私は世界一の幸せ者です」
キャッとブレヒチェは喜ぶ。派手でゴテゴテしたドレスをまとう彼女。ヴィルヘルミナにとってはそれがより下品に見えた。
(民達のことを税を搾り取る為の道具だなんて……。それに、民達は戦争を望んでいないわ)
血管を逆流してくるような怒りを覚えるヴィルヘルミナ。しかし、表情には出さなかった。
「しかし国王陛下、我々に不満を持つ下々の民達はどう対処しましょうか?」
一人の貴族がそう問う。するとアーレントが声を出して下品に笑う。
「そんなもの、反逆者として処刑すれば良いのだ。ちっぽけな民草の命が消えようが、この世界は変わるまい」
「なるほど、流石は国王陛下ですな!」
下卑た笑い声に包まれる。
(平民を人とも思わないなんて……ベンティンク家派閥は腐り切っているわね)
ヴィルヘルミナはテーブルクロスの下で、拳を強く握り締めた。
「そうそう、王太子妃殿下、ご結婚なさってもう一年になりますが、お世継ぎはまだお生まれにならないのですか?」
突然貴族から話を振られたヴィルヘルミナ。しかし、慌てることはなかった。淑女教育の賜物である。
「ええ、それはおいおいと」
「侯爵、こんな魅力のない女と閨を共にしたいと思うか?」
ヴィルヘルミナの答えはヨドークスに遮られた。卑俗な笑みである。
「まあそれは……好みの問題もありますか」
侯爵はヨドークスとヴィルヘルミナを見て苦笑する。
「女として魅力があるのはブレヒチェだ。世継ぎならブレヒチェとの間に生まれた子供を引き取るさ。国王陛下、王妃殿下、それで問題ないですよね?」
下品に笑いながらヨドークスはアーレントとフィロメナに問いかける。
「ああ、問題ない。高貴な血筋も重要ではあるが、必要なのは忠誠心だ。エフモント公爵家よりもブレヒチェの生家フーイス男爵家や嫁ぎ先のリンデン侯爵家の忠誠心の方が高いからな。エフモント公爵家ももっと見習って欲しいところだ」
尊大な態度のアーレント。
「好きにしなさい、ヨドークス。確かに、ブレヒチェの方が愛らしくて好きよ。可愛げのないヴィルヘルミナには仕事だけやらせておけば良いわ」
フィロメナはヨドークスとブレヒチェに甘ったるい笑みを向け、ヴィルヘルミナには冷たい視線を向けた。
「ヴィルヘルミナ、お前からもエフモント公爵家へ呼びかけろ。もっと我々に協力しろと」
「その通りよヴィルヘルミナ。貴女は仕事くらいしか取り柄がないのだから」
アーレントとフィロメナからそんな言葉を掛けられた。
「善処いたします」
ヴィルヘルミナは呆れ返っていたが、上品な笑みを浮かべた。
(ヨドークスとの夜伽なんてこちらから願い下げよ。それに……)
ヴィルヘルミナの脳裏にマレインの姿が思い浮かぶ。
(私が愛する男性はただ一人……マレインお義兄様だけよ。こんな晩餐会なんか早く終わって欲しいわ。今はこんなことを思ってはいけないと分かっているけれど……早くマレインお義兄様に会いたい……。たとえこの気持ちが私の一方通行だったとしても……)
優しく、いつもヴィルヘルミナに寄り添ってくれるマレイン。自分を信じて味方でいてくれる頼もしさ。ヴィルヘルミナの中で、マレインへの想いがどんどん大きくなっていた。
今回の晩餐会はベンティンク家の者達と招待された者達しか参加出来ない。護衛騎士などの付き添いは許されていなかった。
(でも、今はまだ駄目よ。マレインお義兄様に気持ちを伝えるのは、今ではないわ。革命を起こしてベンティンク家や、ベンティンク家派閥の腐った方々を始末してからよ)
ヴィルヘルミナは自分の気持ちを今はひたすら堪えるのであった。
(エフモント公爵家の家族や、私の実の両親……ヘルブラント国王陛下とエレオノーラ王妃殿下の為にも、絶対にベンティンク家からドレンダレン王国を取り戻さないと!)
ヴィルヘルミナはタンザナイトの目をただ未来へと真っ直ぐ向けていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~
sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。
ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。
そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる