返り咲きのヴィルヘルミナ

宝月 蓮

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ヴィルヘルミナ・ノーラ・ファン・ナッサウ

重なり合う想い

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 マレインが目を覚ましたことをテイメン、ペトロネラ、ラルスの三人に伝えたヴィルヘルミナ。すると三人は勢い良くマレインの部屋へやって来て泣いて喜んでいた。

「ミーナにも父上にも母上にも兄上にもかなり心配かけたみたいだね」
 マレインは申し訳なさそうに苦笑した。
「ですが、マレインお義兄にい様がこうして目を覚まされて元気そうな姿を見たら安心しますわ」
 ヴィルヘルミナはふふっと微笑む。

 ヴィルヘルミナとマレインはエフモント公爵城の庭園をゆっくりと歩いていた。

「それにしても、僕は一ヶ月も寝たままだったのか……。また体を鍛え直さないと」
 マレインは細くなった自分の腕を見て苦笑した。
 騎士らしいがっしりとした体格は、一ヶ月寝込んだことにより細くなっていたのだ。
「リハビリには付き合いますわ」
 ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を優しく細めた。
「ありがとう、ミーナ」
 マレインはクスッと笑う。
「この一ヶ月、色々なことがありましたのよ」
 ヴィルヘルミナは微笑みながら、マレインが倒れた後のことを話し始めた。

 ベンティンク家やその派閥の貴族達を全員処刑したこと。その際、ブレヒチェがヨドークスの子を妊娠していたこと。そしてベンティンク家の血を残したら再び混乱が起こる可能性があるので、ブレヒチェに子供を産ませずに処刑したこと。その後の革命の後処理が大変だったことなど。

「そっか。色々あったんだね。ミーナはずっと休まずに頑張っていたわけか」
 マレインは優しげにクリソベリルの目を細めた。
「そうですわね。……色々と気を張っていましたわ」
 ヴィルヘルミナは苦笑する。
「それに、マレインお義兄様のことも心配でしたし」
 ヴィルヘルミナはその時のことを思い出し、少し悲しげにタンザナイトの目を細めた。
「心配かけてごめん」
 マレインは申し訳なさそうにクリソベリルの目を伏せた。
「いえ、お義兄様が悪いわけではありませんわ。それに、こうして目を覚ましてくださっただけで、わたくしは満足です」
 ヴィルヘルミナはマレインの手を握り、真っ直ぐ彼の目を見つめる。ヴィルヘルミナはマレインと一緒にいられることが嬉しくて仕方なかった。
「そう……か」
 マレインはほんのり頬を赤く染めて、ヴィルヘルミナから目を逸らした。
「その時、コーバスからもっと人を頼れと言われましたわ。わたくし、全てを一人で頑張ろうとしていたみたいですの。だからその時、一旦休んでコーバスに任せることにしましたわ」
 ヴィルヘルミナは穏やかに微笑む。憑き物が落ちたような、スッキリと何かを吹っ切れた笑みである。
「そっか。ミーナの側に、力になってくれる人が多いのはいいことだね。……僕としては少しだけ寂しいけれど」
 マレインは少しだけヴィルヘルミナから目を逸らした。
「寂しい……ですか?」
 ヴィルヘルミナは不思議そうに首を傾げる。
「まあ……ね。ミーナにとって頼れる人が増えれば増える程、僕に助けを求めて来ることが減るからさ」
 マレインは少し寂しげであった。
「だけど、ミーナが決めたことなら、僕はそれを信じて見守るよ」
 優しい表情のマレイン。

 ヴィルヘルミナの胸に、温かいものが溢れ出す。

(やっぱりマレインお義兄様は……わたくしのことを信じてくれる。昔からずっと……)
 ヴィルヘルミナは自身が国を変える為に王太子妃になると言った時のことを思い出した。

 ラルスには国を変える為とはいえ王太子妃になることを猛反対され監禁までされたが、マレインはヴィルヘルミナの決意を信じてついて来てくれた。また、ヴィルヘルミナの側にいてくれて、守ってくれた。

(わたくしは、マレインお義兄様を義兄あにとしてではなく、一人の男性として……)
 ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を真っ直ぐマレインに向ける。
「マレインお義兄様、聞いて欲しいことがございます」
「聞いて欲しいこと? 一体何だい?」
 マレインは不思議そうに首を傾げる。
わたくしは……」
 いざ自分の想いを伝えようとすると、緊張して声が震える。口の中が渇き、喉も渇いてきた。
 ヴィルヘルミナは深呼吸をし、唾を飲み込む。
 マレインは黙ってヴィルヘルミナの言葉を待ってくれている。
「前からわたくしは、マレインお義兄様のことを、義兄としてではなく……一人の男性として見ておりました。わたくしは、マレインお義兄様を……愛しているのです」
 ヴィルヘルミナは自分の想いを真っ直ぐマレインに伝えた。
「ミーナ……!」
 マレインはクリソベリルの目を大きく見開く。
「やっぱり迷惑でございますよね。マレインお義兄様にとってわたくし義妹いもうとなのだから」
 ヴィルヘルミナはマレインから目を逸らし、苦笑する。
 すると、ヴィルヘルミナはマレインから強く抱き締められた。
「マレインお義兄様!?」
 突然のことに、タンザナイトの目を大きく見開くヴィルヘルミナ。トクリと心臓が大きく跳ねた。
「そういうことは……男である僕の方から言いたかったな」
 ポツリとヴィルヘルミナの頭上から、甘く優しい声が降ってきた。抱き締める力が弱まり、ヴィルヘルミナは解放される。
「マレインお義兄様……?」
 ヴィルヘルミナはマレインの顔を見上げる。
 マレインの頬は真っ赤に染まっていた。クリソベリルの目は真っ直ぐ真剣にヴィルヘルミナに向けられ、熱を帯びている。
「ミーナの気持ち、迷惑なんかじゃないよ。むしろ、凄く嬉しい。……僕だって、ミーナのことを義妹ではなく女性として見ていたよ。ミーナ……僕は君を……心から愛している」
 真剣で優しいマレインの声。その言葉を聞いたヴィルヘルミナは、タンザナイトの目から一筋の涙を流す。
「マレインお義兄様が……わたくしのことを……! 嬉しい……嬉しいです!」
 悲しみの涙ではなく、喜びの涙である。
「ずっとわたくしの一方通行かと思っていましたわ」
「それは僕も同じだよ。この気持ちはきっとミーナを困らせるだろうなって思っていたからさ。……ミーナが王太子妃になるって決めた時、本当は胸が張り裂けそうだったよ。愛する女性が他の男の妻になるなんて考えたくもなかった。でもあの時は、ミーナの目的を知っていたから、信じて支えようって思ったんだ」
 マレインは優しくヴィルヘルミナの涙を拭う。
「それに、ミーナが純潔を失っていないどころか、口付けすらしていなかったから、かろうじて僕は暴れずに済んだよ」
 悪戯っぽく微笑むマレイン。
「もう、マレインお義兄様ったら」
 ヴィルヘルミナはクスッと可笑しそうに笑う。
 マレインは真剣な表情になる。
「ミーナ、君はこの先女王として即位する。だけど……」
 マレインはゆっくりと片膝をつく。
「ミーナ、もし許されるなら、ミーナが望むのなら、僕を君の伴侶にしてくれないか?」
 クリソベリルの目は、真っ直ぐヴィルヘルミナを見つめている。
「マレインお義兄様……」
 再びヴィルヘルミナのタンザナイトの目からは、歓喜の涙が溢れ出す。
「是非とも、わたくしの伴侶はマレインお義兄様がいいですわ」
 ヴィルヘルミナはマレインの手を取った。
 ゆっくりと立ち上がるマレイン。
「ありがとう、ミーナ。僕を受け入れてくれて」
 マレインはそっとヴィルヘルミナの涙を拭う。
「それとさ……」
 マレインは照れ臭そうに頭を掻く。
「そのマレインお義兄様って呼び方はやめないか? 何だか背徳感があるよ。普通にマレインって呼んでくれないか?」
 その言葉に、ヴィルヘルミナはクスッと笑う。
「ええ、そうしますわ。マレイン」
 ヴィルヘルミナはタンザナイトの目を嬉しそうに細めた。
「ミーナ……」
 マレインはヴィルヘルミナの頬にそっと手を置く。
 マレインがしようとしていることが分かったヴィルヘルミナはそっと目を閉じる。
 ゆっくりと二人の唇が重なった。
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