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そして天使は自ら檻の中へ
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ストロガノフ伯爵家帝都の屋敷のユーリの私室にて。
アリョーナは眠っているユーリの手を握る。
ゲラーシーからの暴行による傷などの治療を行い、後は安静にするように指示があったのだ。
ユーリはまだ目を覚ましていない。
(ユーリお義兄様……)
アリョーナをただひたすら守ろうとしてくれていたユーリ。それを知ったアリョーナは、ユーリに監禁された事実があってもユーリから離れる選択はしなかった。
しばらくすると、ユーリのムーンストーンの目がぼんやりと開く。
「アリョーナ……?」
細く力のない声である。
「ユーリお義兄様……!」
アリョーナはユーリが目を覚ましたことに対して心底安心した。
「良かったですわ……!」
アリョーナのアクアマリンの目には、涙が溜まっていた。
ユーリは黙ってアリョーナの涙を拭う。
アリョーナはユーリの負担にならないようそっとユーリに抱きしめ、そしてユーリに顔を埋めた。
ユーリはゆっくりと何が起こったのか思い出す。
「アリョーナ……どうして……どうして君は僕を助けてくれたの? 僕がいなくなった方が、アリョーナは自由になれるのに……。アリョーナは僕が怖いだろう?」
自嘲気味の声のユーリ。
アリョーナはゆっくりと顔を上げる。
「そんなの、私がユーリお義兄様を愛しているからに決まっています」
アリョーナのアクアマリンの目は、どこまでも強く真っ直ぐだった。
「アリョーナ……!」
ユーリは驚いたようにムーンストーンの目を見開いている。
「……確かに、監禁された時はユーリお義兄様のことが怖かったです。でも、それ以上にユーリお義兄様のことが放っておけませんでした。それに……ユーリお義兄様がご両親を亡くしてからレポフスキー公爵家でどんな扱いを受けていたのか、ストロガノフ伯爵家に来てからお父様とお母様に酷い目に遭わされていたことも聞きました」
「……そっか。フロルが話したんだね?」
力なく、諦めたように笑うユーリに対し、首を縦に振るアリョーナ。
「私がお母様の不貞により生まれたことも、その……お父様がお母様似の女性に……無体を働いていたことも、私がお父様と血の繋がりがないことが発覚したら、お父様が私に何をしようとするかも……全て知りました」
「……全て知ってしまったのか」
ユーリはアリョーナから目を逸らし、ため息をついた。
「ユーリお義兄様、私を守ろうとして色々と行動してくださりありがとうございます。でも、私……ユーリお義兄様が思っているよりも強いですよ。私は、この先もユーリお義兄様と一緒にいたいのです。お義兄様のことを、支えたい」
アリョーナはふわりと微笑む。
それは天使のようであり、それでいて力強さもあった。
「アリョーナ……君は……穢れを知ってもなお美しい天使なんだね……」
ユーリはゆっくりと起き上がり、アリョーナを優しく抱きしめた。
ムーンストーンの目には、光が戻っていた。
「アリョーナ、君を監禁してしまって……今まで君の笑顔と自由を奪ってしまって本当にすまない。僕はただ、アリョーナを愛してるだけなんだ。アリョーナをこの手で守りたかった」
アリョーナを抱きしめるユーリの手は震えている。
「ユーリお義兄様のその気持ちは、本当に嬉しいです。でも、私もユーリお義兄様を守りたいと思いました。お義兄様の全てを受け止めたいとも思っております」
アリョーナはそっとユーリの唇にキスをした。
「アリョーナ……!」
ユーリはアリョーナを抱きしめる力を強めた。
「アリョーナ、ありがとう。愛してるよ。僕と君は、ずっと一緒だ」
「はい」
アリョーナは頷き、ユーリの大きな体に身を委ねた。
色々あったが、アリョーナの居場所はユーリの隣なのである。
こうして、アリョーナは自らユーリという檻の中に入って行くのであった。
アリョーナは眠っているユーリの手を握る。
ゲラーシーからの暴行による傷などの治療を行い、後は安静にするように指示があったのだ。
ユーリはまだ目を覚ましていない。
(ユーリお義兄様……)
アリョーナをただひたすら守ろうとしてくれていたユーリ。それを知ったアリョーナは、ユーリに監禁された事実があってもユーリから離れる選択はしなかった。
しばらくすると、ユーリのムーンストーンの目がぼんやりと開く。
「アリョーナ……?」
細く力のない声である。
「ユーリお義兄様……!」
アリョーナはユーリが目を覚ましたことに対して心底安心した。
「良かったですわ……!」
アリョーナのアクアマリンの目には、涙が溜まっていた。
ユーリは黙ってアリョーナの涙を拭う。
アリョーナはユーリの負担にならないようそっとユーリに抱きしめ、そしてユーリに顔を埋めた。
ユーリはゆっくりと何が起こったのか思い出す。
「アリョーナ……どうして……どうして君は僕を助けてくれたの? 僕がいなくなった方が、アリョーナは自由になれるのに……。アリョーナは僕が怖いだろう?」
自嘲気味の声のユーリ。
アリョーナはゆっくりと顔を上げる。
「そんなの、私がユーリお義兄様を愛しているからに決まっています」
アリョーナのアクアマリンの目は、どこまでも強く真っ直ぐだった。
「アリョーナ……!」
ユーリは驚いたようにムーンストーンの目を見開いている。
「……確かに、監禁された時はユーリお義兄様のことが怖かったです。でも、それ以上にユーリお義兄様のことが放っておけませんでした。それに……ユーリお義兄様がご両親を亡くしてからレポフスキー公爵家でどんな扱いを受けていたのか、ストロガノフ伯爵家に来てからお父様とお母様に酷い目に遭わされていたことも聞きました」
「……そっか。フロルが話したんだね?」
力なく、諦めたように笑うユーリに対し、首を縦に振るアリョーナ。
「私がお母様の不貞により生まれたことも、その……お父様がお母様似の女性に……無体を働いていたことも、私がお父様と血の繋がりがないことが発覚したら、お父様が私に何をしようとするかも……全て知りました」
「……全て知ってしまったのか」
ユーリはアリョーナから目を逸らし、ため息をついた。
「ユーリお義兄様、私を守ろうとして色々と行動してくださりありがとうございます。でも、私……ユーリお義兄様が思っているよりも強いですよ。私は、この先もユーリお義兄様と一緒にいたいのです。お義兄様のことを、支えたい」
アリョーナはふわりと微笑む。
それは天使のようであり、それでいて力強さもあった。
「アリョーナ……君は……穢れを知ってもなお美しい天使なんだね……」
ユーリはゆっくりと起き上がり、アリョーナを優しく抱きしめた。
ムーンストーンの目には、光が戻っていた。
「アリョーナ、君を監禁してしまって……今まで君の笑顔と自由を奪ってしまって本当にすまない。僕はただ、アリョーナを愛してるだけなんだ。アリョーナをこの手で守りたかった」
アリョーナを抱きしめるユーリの手は震えている。
「ユーリお義兄様のその気持ちは、本当に嬉しいです。でも、私もユーリお義兄様を守りたいと思いました。お義兄様の全てを受け止めたいとも思っております」
アリョーナはそっとユーリの唇にキスをした。
「アリョーナ……!」
ユーリはアリョーナを抱きしめる力を強めた。
「アリョーナ、ありがとう。愛してるよ。僕と君は、ずっと一緒だ」
「はい」
アリョーナは頷き、ユーリの大きな体に身を委ねた。
色々あったが、アリョーナの居場所はユーリの隣なのである。
こうして、アリョーナは自らユーリという檻の中に入って行くのであった。
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