大好きな妹を守る為に腹黒ヤンデレ辺境伯令息と手を組まざるを得なくなりました

宝月 蓮

文字の大きさ
10 / 20

それぞれの交流

しおりを挟む
 ユリウスから紹介されたオズヴァルトという辺境伯令息。彼はマルグリットより二つ年上の十六歳である。マルグリットはユリウスの友人というだけでオズヴァルトを警戒していたが……。
「なるほど、マルグリット嬢はそうやって妹君を守っているのか」
「左様でございますわ。可愛いティアナを守る為なら、両親と兄などちっとも怖くありませんわ」
 ティアナを守る様子を聞き感心するオズヴァルトに対し、すっかり心を許していた。そしてどことなく得意気な表情である。
「君は私に対しては失礼な態度なのにオズヴァルトには礼儀正しいんだね」
 呆れたように笑うユリウス。
「当たり前よ。ノルトマルク卿は貴方みたいにおかしな性格ではないもの」
 マルグリットはわざとらしくため息をつく。
「ユリウスにここまで言うご令嬢がいるとはな」
 オズヴァルトはハハっと面白そうに笑っている。
 ティアナはそんなやり取りを見てクスクスと笑う。その可憐な笑みに、マルグリットとユリウスは表情を緩めるのである。
「そうだ、ティアナ嬢、今ランツベルク城の庭園で丁度秋薔薇が見頃なんだ。一緒に見に行かないかい? 私と二人で」
 ユリウスは優しく紳士的な笑みでティアナに言い寄る。
「秋薔薇、見てみたいです。でも、お姉様達はどうなさるのです?」
 ムーンストーンの目を輝かせるが、マルグリットのことも気になるティアナ。
「君の姉君はオズヴァルトと色々話してもらうから問題ないよ」
「ちょっと待ちなさい。何勝手にティアナと二人きりになろうとしているのよ」
 当然のことながら止めに入るマルグリット。
「良いじゃないか。ティアナ嬢と私、君とオズヴァルト。丁度二人ずつだ」
「全然良くないわよ」
 マルグリットはターコイズの目を吊り上げてユリウスに反論する。
「まあまあ、マルグリット嬢。ユリウスなら大丈夫だ。君の妹君が嫌がることは絶対にしないぞ」
 オズヴァルトがユリウスの援護射撃をした。マルグリットは若干悔しそうに口籠る。確かにオズヴァルトの言っていることは正しいのだ。ユリウスはティアナに対して並々ならぬ独占欲を持っているが、決してティアナの嫌がることはしない。ティアナのことを心底大切に想っているのである。
「……ノルトマルク卿がそう仰るのなら」
 ついにマルグリットは折れたのであった。






♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





「そんなに妹君のことが心配か?」
 マルグリットはオズヴァルトからそう聞かれた。
 あの後、ユリウスはすぐにティアナを連れて庭園へ行ってしまったのである。
 マルグリットはオズヴァルトと共にランツベルク城内にある噴水付近のベンチに座っていた。
「当たり前でございます。あの男のティアナに対する独占欲は恐ろしいものですわ」
 マルグリットは呆れ顔でため息をつく。
「俺もユリウスがあんな風になるとは思わなかった。あいつ、君の妹君に出会う前は何というか、もっと冷めた奴だったぞ」
 オズヴァルトは面白そうに笑う。
「冷めた奴……何というか、想像がつきませんわ。私が知っているあの男は、いつもティアナしか見ておりませんし、ティアナのことばかり考えているので」
 マルグリットは意外そうにターコイズの目を丸くする。
「マルグリット嬢、俺にもユリウスと同じような砕けた態度で構わないぞ」
「ですが、ノルトマルク卿は辺境伯家の方ですし」
「ユリウスも辺境伯家の令息だぞ」
 オズヴァルトは面白そうにアメジストの目を細める。
「あの男は……私の可愛いティアナを狙うから……」
「そうか」
 オズヴァルトはハハっと面白そうに笑う。
「だが、俺はあまり畏まった態度を取られるのは苦手なのかもしれない。呼び方もノルトマルク卿ではなく普通にオズヴァルトで構わないぞ」
「そう……。だったらオズヴァルト様と呼ぶわね。正直、私も堅苦しいのは苦手なのかもしれないわ」
 マルグリットはクスッと笑った。肩の力が抜けているように見える。
「マルグリット嬢にはそれが似合う。で、話を戻すが、ユリウスは君の妹君に出会ってから変わったんだ。生き甲斐を見つけたような感じになった。まあ俺もまさかあいつの独占欲が強いとは思わなかったがな。君の妹君と結ばれたいが為に色々動いているみたいだし」
 後半、オズヴァルトは苦笑した。
「男爵家と辺境伯家よ。あの男は身分差も何とかする術はあるって言っていたけれど、何を企んでいるつもりなのかしら? それにファルケンハウゼン家は……」
 マルグリットは生家が人身売買を行なっていることを思い出し、表情を曇らせる。
「実は俺もファルケンハウゼン男爵家の人身売買についてはユリウスから聞いている。マルグリット嬢が内部から証拠を集めていることも」
 オズヴァルトは真剣な表情になる。
「そう……。結局、このままだとティアナも私も処罰対象になる可能性がある。それに、ティアナはお父様やお母様やお兄様から虐げられているばかり。私じゃティアナを完全に守れない……」
 マルグリットは悔しそうに表情を歪めた。
「マルグリット嬢は妹君を本当に大切に思っているんだな」
「ええ。……私のことはどうなってもいいから、ティアナだけでもファルケンハウゼン家あの家から逃したいわ。もし私が成人デビュタントを迎えていたら、ティアナを託せる相手を自分で探せたのに……」
 表情は悔しそうに歪んでいるが、マルグリットのターコイズの目はどこまでも真っ直ぐであった。
 そんなマルグリットを見たオズヴァルトは、アメジストの目を優しく細め、フッと口角を上げる。
「自分よりも大切に思える相手がいるのは……良いな」
 その声色は、どこまでも優しかった。





♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔





 ランツベルク城の広い庭園には、色とりどりの薔薇が咲き誇っている。
「わあ……綺麗……」
 ティアナは表情を綻ばせ、そっとピンクの薔薇に触れる。ムーンストーンの目はキラキラと輝いていた。
「そう言ってもらえて光栄だよ」
 ユリウスは甘く優しい表情だ。
「ユリウス様は……何故なぜこんなにわたくし達に良くしてくださるのでございますか?」
 少し申し訳なさそうな表情のティアナ。ムーンストーンの目には、憂いの色が見えた。
「私がそうしたいと思ったからだよ。ティアナ嬢、私は君のことが……」
 ユリウスはそこで言いとどまる。
(いや、私の気持ちを伝えるのはまだ時期尚早だ。今のティアナ嬢にそれを伝えても、困らせるだけだろう。でも……)
 ユリウスはティアナの憂いを帯びた表情を見て、胸がギュッと切なくなると同時にドロドロとした独占欲も湧き上がる。
(ティアナ嬢のその表情も魅力的だ……。私のことを思ってそんな風になっているのなら、嬉しいな。君が私を愛し、私で笑い、私で泣いてくれるのなら……。でも……やっぱり私は君の笑顔が見たい)
「……ユリウス様?」
 ティアナは黙ったユリウスを不安そうに見つめる。
 ユリウスはハッとする。
「ティアナ嬢、君は何も気にしなくて良い。申し訳なく思う必要もないよ。ただ私がそうしたくてやっていることだから」
 ユリウスのアンバーの目は、真剣で、どこまでも優しく、真っ直ぐティアナを見つめている。
「ユリウス様……」
 ティアナの心臓が、ほんの少しだけ跳ねる。頬もほんのり赤く染まっている。
「ありがとうございます」
 ティアナはほんのり表情を綻ばせた。ムーンストーンの目からは憂いが消えている。
「多分、ファルケンハウゼン家で何かが起こっているのですよね? お姉様はファルケンハウゼン家の屋敷で何かを探していますし、ユリウス様とも何か難しそうなお話をなさっているのは知っています」
「ティアナ嬢、それは」
「良いのです。知りたいという気持ちはございますが、わたくしに言ってくださらないのにはきっと理由がございますのよね。だから……お姉様やユリウス様を信じようと思います」
 ティアナのムーンストーンの目は、真っ直ぐ澄み渡っていた。
「マルグリットお姉様は、ファルケンハウゼン家の家族の中で唯一わたくしに優しくしてくださります。それに、ユリウス様も……」
 ティアナはムーンストーンの目を嬉しそうに細めた。控えめに微笑むティアナ。天使のようである。
「ティアナ嬢……」
 ユリウスの中で、ティアナへの想いが溢れ出す。
(やはり私はこの手でティアナ嬢を幸せにしたい。彼女の憂いや不安は私が全て取り除く。私がティアナを守りたい。彼女の姉君には負けたくない)
 それは優しく美しいだけではなく、ドロドロとした感情も入り混じっていた。
(私は君に一生を捧げるよ。だからティアナ嬢……君の一生を私に頂戴。……なんて言ったら、君は怖がってしまうだろうね。だけど……たとえティアナ嬢が私を恐れたとしても離す気はないさ。まあ、君を怖がらせないように頑張るよ)
 ユリウスはドロドロとした欲望を隠し、優しく微笑むのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

メイド令嬢は毎日磨いていた石像(救国の英雄)に求婚されていますが、粗大ゴミの回収は明日です

有沢楓花
恋愛
エセル・エヴァット男爵令嬢は、二つの意味で名が知られている。 ひとつめは、金遣いの荒い実家から追い出された可哀想な令嬢として。ふたつめは、何でも綺麗にしてしまう凄腕メイドとして。 高給を求めるエセルの次の職場は、郊外にある老伯爵の汚屋敷。 モノに溢れる家の終活を手伝って欲しいとの依頼だが――彼の偉大な魔法使いのご先祖様が残した、屋敷のガラクタは一筋縄ではいかないものばかり。 高価な絵画は勝手に話し出し、鎧はくすぐったがって身よじるし……ご先祖様の石像は、エセルに求婚までしてくるのだ。 「毎日磨いてくれてありがとう。結婚してほしい」 「石像と結婚できません。それに伯爵は、あなたを魔法資源局の粗大ゴミに申し込み済みです」 そんな時、エセルを後妻に貰いにきた、という男たちが現れて連れ去ろうとし……。 ――かつての救国の英雄は、埃まみれでひとりぼっちなのでした。 この作品は他サイトにも掲載しています。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

白い結婚のはずが、騎士様の独占欲が強すぎます! すれ違いから始まる溺愛逆転劇

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された令嬢リオナは、家の体面を守るため、幼なじみであり王国騎士でもあるカイルと「白い結婚」をすることになった。 お互い干渉しない、心も体も自由な結婚生活――そのはずだった。 ……少なくとも、リオナはそう信じていた。 ところが結婚後、カイルの様子がおかしい。 距離を取るどころか、妙に優しくて、時に甘くて、そしてなぜか他の男性が近づくと怒る。 「お前は俺の妻だ。離れようなんて、思うなよ」 どうしてそんな顔をするのか、どうしてそんなに真剣に見つめてくるのか。 “白い結婚”のはずなのに、リオナの胸は日に日にざわついていく。 すれ違い、誤解、嫉妬。 そして社交界で起きた陰謀事件をきっかけに、カイルはとうとう本心を隠せなくなる。 「……ずっと好きだった。諦めるつもりなんてない」 そんなはずじゃなかったのに。 曖昧にしていたのは、むしろリオナのほうだった。 白い結婚から始まる、幼なじみ騎士の不器用で激しい独占欲。 鈍感な令嬢リオナが少しずつ自分の気持ちに気づいていく、溺愛逆転ラブストーリー。 「ゆっくりでいい。お前の歩幅に合わせる」 「……はい。私も、カイルと歩きたいです」 二人は“白い結婚”の先に、本当の夫婦を選んでいく――。 -

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます

さくら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。 生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。 「君の草は、人を救う力を持っている」 そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。 不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。 華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、 薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。 町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...