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三章・いきなりですが冒険編

怪しすぎる

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 国を出発した わたしたちは、先ず女神の神殿のある島へ向かった。
 女神の神殿には、聖女の力を行使することができる、聖女の杖があるという。
 聖女の力は聖女の杖がなくては使えないのだと、ロリ女神に聖女に選ばれた時に教わったのだが、
「なんで そんな面倒くさいことにしたんですか? 杖がなくても力が使えた方が簡単で便利じゃないですか」
「聖女の力は使用法によっては危険なのだ。だからリミッターとして杖がなくては使えないようにした。
 いいか、注意しろ。聖女の力は、単体では意味を成さん。そして使い方を誤ると、味方を傷つけることになる」
「どういう意味ですか?」
「その説明は、聖女の杖を入手した後に教える。まずは女神の神殿へ向かえ」


 と いうわけで、わたしたちは王国軍艦で島へ向かった。
 島までの案内は、勇者の童貞オタク兄貴がした。
 魔王討伐の時、一度 来たことがあるそうだ。
 しかし聖女の杖は、聖女にしか手に入れることができないため、勇者である童貞オタク兄貴には手に入れられなかったとか。
 その童貞オタク兄貴は道案内で得意気。
「拙者は頼りになるでござろう、マイシスター。デュフフフ」
 童貞オタク兄貴は気持ち悪かった。
「気持ち悪いから、私から五メートルは離れててくれる」
 すると中隊長さんが爽やかな笑顔で、
「気持ち悪いって、船酔いかい? ハーブティーを入れようか? 船酔いを和らげる効果があるんだ」
 イケメンの中隊長さんに、わたしは我ながら素敵な笑顔で答えた。
「中隊長さん、お願いします」
「フォオオオ! マイシスター!」
 童貞オタク兄貴がなんか泣いてたけど無視した。


 軍艦は、国の海軍の兵士さんたちが運航している。
 そして大臣たちの代表同行者として、宰相さんが聖女の杖を手に入れるのを見届けることになっていた。
「いやー、聖女さまと少しの間とは言え、共に旅ができるとは、光栄の至りですじゃ。イヒヒヒ」
 宰相さんは歳を召した小柄な老人で、貪欲そうないやらしい目つきの、あからさまなまでに怪しすぎる、見るからに敵側のスパイとか、敵に寝返ってるとか、敵が本物の宰相さんとすり替わったとか、そんな感じの人だと思った。
 そして わたしは それを そのまま口にした。
「宰相さんって、見るからに敵側のスパイとか、敵に寝返ってるとか、敵が本物の宰相さんとすり替わっているとか、とにかく怪しすぎて敵側に利用されてるって誤解されそうですね」
 宰相さんのいやらしい笑みが思いっきり引きつった。
「そ、そんなわけがないですじゃ。自分でも善人の面構えとはとは言えませぬが、さすがにそんなすぐにバレるようなことはいたしませぬぞ」
「そうですよね。敵が そんな すぐにバレるようなことをするわけないですよね。ごめんなさい、宰相さん。わたしとしたことが、そんな バカって言うか アホって言うか、わかりやすいを通り越して頭の悪いことを敵がするなんて思ってしまいました。テヘッ」
「そ、そうですじゃ。ハ、ハハハ……
 ちょ、ちょっと、わしは席を外しますじゃ」
 宰相さんはそう言って船内に入っていった。
 そして、
「ドグサレ女がー!!」
 という叫びと、ドガッと壁を蹴り飛ばす音が聞こえた。
 宰相さん、やっぱり見た目で苦労してるんだなって思った。


 悪友はあきれた顔で、
「あんた、わざと言ってる?」
「ああ、うん。自分でも思ったことを そのまま口にしちゃったなーって、反省したけどさ」
「って 言うか、いくら何でも あの怪しすぎる宰相さんじゃ わかりやすすぎて、敵だって利用する気にならないわよ」
「ホント そうよね。まさか敵が、ホントに宰相さんを利用するとは思わなかったし」
「は?」


 島に上陸した わたしたちは、なんの問題もなく女神の神殿に入り、その祭壇に祭られてあった聖女の杖をあっさり入手した。
 本当になんのトラブルもなく入手したので、みんな呆気にとられたくらいだった。
「あっさり手に入ったわね」
「あっさり手に入ったでござるな」
「あっさり手に入ったな」
「あっさり手に入りましたですね」
 聖女の杖は何の変哲もない普通の杖で、説明に困るくらいだった。
 問題なのは、神殿を出たところで宰相さんが正体を現したこと。
「イーヒッヒッヒッ!
 わしは大魔王軍将軍の一人! 妖術師軍団の妖術将軍じゃ!
 妖術で変身して本物の宰相と入れ替わっておったのよ!
 本物の宰相は王国の地下牢に閉じ込めておいた! 運が良ければ まだ生きてるだろうて!
 聖女どもよ! ここで貴様らを始末し 聖女の杖を大魔王様に献上すれば わしの株も上がるというもの!
 貴様らを始末した後、わしはこのまま宰相として王国を内側から混乱させ、大魔王様の世界支配を進めさせて貰う。
 王どもになんと言い訳するつもりかじゃと?
 心配するな。王どもには聖女は大魔王軍の待ち伏せにあい、全滅したと報告しておく。わしは王に報告するために生き延びたとでも言っておけば良いのじゃ。
 イーヒッヒッヒッ!」


 悪友はお茶を一口含むと感想を言った。
「展開にひねりがないわね」
「いや、わたしに言われても」


 ひねりのない展開はその後どうなる?!
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