悪役令嬢クリスティーナの冒険

神泉灯

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一章

68・ふんぬ!

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 クレア。
 本当の名はクリスティーナ・アーネスト。
 オルドレン王国王太子の婚約者の座を巡る争奪戦で敗れ、それどころか陥れられ、謂れのない罪を着せられ、竜の谷で処刑されそうになった侯爵令嬢。
 俺が彼女と出会ったのは、その竜の谷でだった。
 炎を纏った竜巻で走竜ランドラゴンと戦っている姿を見て駆け付けた俺は、彼女を助け、そして竜の谷を出るまで護衛することを見返りに、鏡水の剣シュピーゲルの所まで案内してもらった。
 そして剣を手に入れた後、事情を隠している彼女に、護衛をする代わりに他の剣の所在地まで案内して貰うことを承諾させた。
 かなり強引だったとは思うが、しかし彼女は責任感が強く、真剣に俺のために剣の所へ案内し続けてくれている。
 そんな彼女の事を好ましく思うのは、人間として自然だと思う。
 だが、同時に疑問も出る。
 彼女はなぜ、剣の事を知っているのだろうか?
 所在地だけではなく、手に入れるための手順や方法まで、なぜか知っている。
 そう、彼女は始めから知っている。
 彼女はこれから起こる未来の事をある程度 知っている。
 もしかすると、合成魔法も成功すると確信があったのではないだろうか。
 そして彼女は その理由を隠している。
 隠しごとが下手な性格なのは、彼女 自身 自覚があるのか、下手な嘘などで誤魔化さずに、言えないと明言している。
 だが、なぜ彼女は知っているのか。
 ドゥナト王国王太子スファルは、彼女が神託を受けた聖女で、理由があって神託を受けたことも聖女であることも隠していると思っているようだが、しかし彼女自身が神託を受けた聖女ではないと断言している。
 嘘の吐けない彼女の事だから、その言葉は真実だろう。
 聖堂騎士テンプルナイトのセルジオとキャサリンは、そのことについて考えるつもりはないようだ。
 剣を求める旅を始める時、天使であるカスティエルは彼女に質問するなと忠告してきた。
 竜の谷で出会う女性は、求める剣まで導いてくれる。
 だが、彼女を詮索してはいけない。
 彼女は秘密にしておきたいから。
 そして、その秘密を暴きたてれば、彼女の導きは得られなくなるとも。
 どういうことなんだ?
 彼女が剣の元まで案内してくれるのは確かだ。
 知識と現実に相違があると彼女は言っていたが、俺自身の見解ではあの程度は許容範囲だ。
 たいしたことではない。
 そして今回、食事の席でのこと。
 生まれ変わり。
 輪廻転生。
 前世。
 そういった言葉がカスティエルの口から出たことから、彼女が前世の記憶を持っているのではないかと推察できる。
 しかし、その記憶は前世のものであり、つまり過去の知識だ。
 これから起こる未来の知識を持っている説明にはなっていない。
 彼女の知識の源泉はいったい何だ?
 婚約破棄され、無実の罪で処刑されかけた、侯爵令嬢。
 それは彼女の本質ではない。
 彼女はいったい何者なのだろう?
 なぜ俺は彼女の事が気になるのだろう?


「はい、これ」
 私たちがメドゥーサのいる宿場町跡に向かう前、カスティエルさまは一枚の羊皮紙を渡してきた。
「小型船の所有権利書だよ。プラグスタ島に向かうには船が必要だろう。だから港に用意しておいたんだ」
 小型船だが、魔力を推進の動力源とし、帆船などよりも早く進むそうだ。
 ただし、動力源となる魔力の供給者しだい。
 力尽きれば船は停まる。
 しかし、ラーズさまの魔力なら問題ない。
 世界一周だってできそうだ。
「良いのですか? 魔力を動力源にする船なんて、とてもお高いでしょう」
「構わないよ。自由に使うと良い」
「ありがとうございます」
 しかしこれを今、渡してきたということは……
「あの、お兄さんは一緒に来てくれないのですか?」
 天使という立場からして、人を石に変える怪物を退治しに行く私たちに、同行するのではないかと思い込んでしまっていた。
「うん。せっかく会ったばかりで残念だけど、君たちとはここで一旦お別れだ。でも大丈夫。また会うことになるから」
 変人だけど、美味しいご飯ご馳走してくれたし、ちょっと好きになりかけてたんだけど、しかたないか。
 人には事情があるだろうし。
 いや、人じゃなくて天使だけど。
 それにしても、ご馳走して貰っただけで人に好意を持つなんて、我ながらなんて単純なんだろう。
「わかりました、お兄さん。お世話になりました」
 私は淑女の礼を取ってお別れの挨拶をした。
 ラーズさまたちもそれぞれお別れを言う。
 不意にカスティエルさまは笑顔を消し、真剣な顔になった。
「メドゥーサも強敵だけど、問題はその後だ。君たちはプラグスタ島で、難問に取り組まなくてはならなくなる。覚悟しておくことだね」


 今は使われていない都への街道を私たちは進む。
 街道が使われなくなった理由は、当然メドゥーサが原因だ。
 この道の宿場町に、人間を石に変える怪物が住み着いて、それを避けるために新しい道が造られた。
 カナワ神国は、最初は単純に危険を排除すれば良いのだと考え、メドゥーサ討伐隊を送った。
 だけど、百名から成るメドゥーサ討伐隊は、全員 石になった。
 そしてカナワ神国は新たな道を作ることにした。
 それから時は経ち、魔王バルザックが封印され、勇者シュナイダーの尽力によって冒険者組合が創られた。
 カナワ神国は冒険者組合にメドゥーサ討伐の依頼を出した。
 多くの者が依頼を受け討伐に向かったが、五百年以上メドゥーサを倒すことに成功した者はいない。
 それに伴い、メドゥーサ討伐依頼達成料は増え続けている。
 冒険者組合で依頼を受けてきたが、その依頼達成料は 三年は贅沢に遊んで暮らせる額だった。
 カナワ神国へ向かう船に乗るための料金で、前の二件の依頼達成料も半分になってしまったことだし、ここは必ず手に入れたい。
「と、言うわけで、お金のためにも絶対に首を手に入れましょう!」
 ふんぬ!
 私が気合を入れると、スファルさまがラーズさまに小声で、
「お嬢さん、なんだか金に執着し始めたな」
「しかたないだろう。以前は侯爵令嬢で豊かな生活をしていたのに、今はその日暮らしの冒険者だ。しかも無実の罪で逃亡中。本当はもっと穏やかで良い暮らしをしたいはずだ。なるべく早く旅を終わらせて、彼女を楽な生活にしてあげよう」
「でも、仕事はどうするんだ? 働かざる者食うべからずっていうだろ」
「旅が終わる前に考えておくさ。そうだ、君の所で侍女をさせるのはどうだ? 侯爵令嬢だっただけあって礼儀作法はたぶん問題ないだろう。それに料理も結構美味い。淑女たる者、料理ぐらいできなければと、勉強をしていたそうだ」
「そこは普通、自分の所で雇おうって考えるだろ。っていうか、おまえはお嬢さんを他の男の所にやっていいのか」
「俺は国ではかなり疎まれているんだ。知っているだろう」
「じゃあ、俺の国にみんな一緒に客人待遇で来るか? 一応、俺、王太子だから、その辺の融通はきかせられるぞ」
「それもいいな」
「なんの話をしているのですか?」
 私は二人に聞く。
 小声だからよく聞こえなかったけど、私の事みたいだった。
「いや、なんでもない」
「そうそう、なんでもないって」
「そうですか?」
 なんだろう?
 ま、いっか。
「いやー、それにしても冒険者って良い仕事ですよね。魔物退治でスカッとして、人に感謝されて、お金まで貰えて。一生続けたいですよ。ね、みなさん」
 スファルさまとラーズさまがまた小声で、
「お嬢さん、無理してるな」
「ああ、彼女を無理に付き合わせて悪いことをしているとは思っている。俺は必ずこの恩に報いる」
 いったいなんなんだろう?
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