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26・炎の男

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 今回 取材したのは、初老の紳士からだった。
 彼は以前、ブラインド レディの両親に仕えていた執事だった。
 その経歴から、名前は便宜上 バトラーとしておく。
「私は、旦那様と奥様が笑い男に殺されてから、お嬢さまとは別に、独自に調査しておりました。
 そして、笑い男が関わっている可能性のある事件を知ったのです」


 三人の家族が、古いが ちょっとした屋敷に引っ越してきた。
 母親と子供が二人。
 母のタマイは、夫を交通事故で亡くし、悲しみに暮れていた。
 しかし、いつまでも悲しんではいられないと、新しい家に引っ越し、家族三人で心機一転、やり直そうと言うことになった。
 子供二人を寝かしつけ、タマイは、まだ整理し終えていない、荷物の荷ほどきをしていると、娘が現れた。
「どうしたの? もう寝ないと」
「お母さん、押し入れになにかいる」
 娘はまだ七歳。
 年頃の女の子は空想力があり、何もないところにお化けがいると思ったりする。
「わかったわ。見てあげる」
 タマイは寝室に行き、押し入れを開けた。
 中は何もいない。
「ほらね、なにもいないでしょう。大丈夫だから」
「うん」
「さあ、おやすみなさい」
「お母さん、押し入れが開かないようにして」
「わかったわ」
 タマイは押し入れに、箒をかけて開かないようにした。
「これで安心。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
 そして娘はベッドに入り、タマイは改めて荷ほどきを再開した。
 すると、地下室からなにか音がした。
 見に行ってみると、トトト……となにかが走る音。
 明らかにネズミだ。
 暗くて姿は見えないが、音からして間違いない。
 やはり この館は古い。
 業者を呼んで、一度 徹底的に駆除して貰わないと。
 ふと、地下室の端のテーブルに、アルバムが置いてあるのを見つけた。
 タマイはそれを手にして一階に戻り、中を見てみる。
 三人家族の写真が貼ってあった。
 両親に囲まれた、十歳くらいの笑顔の女の子の写真。
 三人とも幸せそうだった。
 タマイも思わず笑顔になった。


 その頃、娘のほうでは、押し入れにかけてあった箒が、誰も触っていないのに、外れた。
 娘はその音で起き上がり、押し入れに眼を向ける。
 押入の戸が独りでに開き、そこから炎を纏った男が現れた。
 娘は悲鳴を上げた。


「お久しぶりです、お嬢さま」
 ブラインド レディの館に、バトラーが訪れた。
「久し振りね」
 ブラインド レディも懐かしそうだった。
「本日 伺ったのは 他でもありません。お嬢さまが昔 住んでおられた館についてです。
 あの館で事件が起きました」
「話を聞くわ」


 バトラーの話では、以前、ブラインド レディの家族が住んでいた館に、三人家族が引っ越してきた。
 タマイの一家だ。
 それまで十年以上 誰も住まなかったが、買い手が付いたとのこと。
 それが警察騒ぎを起こしたと。
 七歳の娘が、幽霊が火事を起こそうとしていると、消防車を呼んだのだ。
 だが、火事は起きておらず、しかも娘が言うには幽霊の仕業。
 幼い少女が、夢と現実の区別が付かなくなり、混乱して消防署に連絡したのだと、そう処理された。
「しかし お嬢さま。お嬢さまのお母さまの死因もまた、焼死。笑い男に焼き殺されております。
 お嬢さまが住んでいた家で、炎に関する事件。
 これは果たして偶然でしょうか?」
「確かに 調査する必要があるわね」
「今回は、私めも お供させていただきます」
「お願いするわ」


 館の前に訪れたブラインド レディたち。
 まずは、引っ越してきたばかりの住人の話を聞いてみることから始める。
 訪問した理由は、以前 住んでいた者だと話して、懐かしくて訪れたと説明する段取りだった。
 とりあえず、チャイムを鳴らすと、すぐにタマイが現れた。
 そしてブラインド レディを見ると、思わず声を上げた。
「あなた、この館に住んでいた女の子ね」


 タマイは三人を館に上げた。
「この二人が、私の娘と息子よ。七歳と二歳なの」
「こんにちは、キレイなお姉さん」
 娘が辿々しく挨拶する。
 息子は、ぴょんぴょん跳びはねながら、母に催促する。
「ジュース、ジュース」
「はいはい」
 冷蔵庫から、ジュースを出して渡した。
「この子、すっかりフルーツジュースに夢中になっちゃって」
「そういう年頃なのね」


 少し落ち着いて、タマイはブラインド レディに、地下室で発見したアルバムを渡した。
「一目でわかったわ。ここに写っている女の子が、大人になったんだって」
 メイドがアルバムを開いて、説明する。
「旦那様と奥様に挟まれた お嬢さまが写っています。
 幸せそうな笑顔ですよ」
 ブラインド レディは写真をそっと撫でる。
 だが、ブラインド レディは笑顔にはならなかった。
 ブラインド レディは笑わない。


 アルバムをしまうと、タマイに家のことを聞く。
「この館の住み心地はどうかしら?」
「あなたは思い出があるでしょうけれど、やっぱり古いから、修繕する必要があるわね。
 業者に連絡して、庭の大規模な伐採 手入れや、害虫 害獣駆除もしなくては。
 でも、それさえ済めば、きっとビンテージのように、古くて味わいのある住まいになるわ」
 タマイは前向きだった。
 その時、娘がタマイの裾を引っ張った。
「お姉さんが住んでたときも、幽霊はいたって聞いてみて」
「あれはただの悪い夢よ」
「でも、占い師の人も、ここは悪いことが起きるって言ってたよ」
「あの人は、ただのインチキ霊能力者。真に受けちゃダメよ」
 ブラインド レディは聞く。
「占い師というのは?」
「ああ、ここに住む時、やって来たんですよ。霊能力者を自称する占い師が。
 この館は災いが起こるって」
「その占い師の名前は?」
「ミサガって言っていたわ」
 バトラーの眉が微かに動いた。


 ブラインド レディたちは館を跡にした。


 タマイ家を訪問した後、ブラインド レディは近所の喫茶店に入り、話し合う。
 メイドは首を捻る。
「どうにも はっきりしませんね。
 能力者が関わっているかどうかわかりませんし、しかし何も無いと断ずるには、不安要素が多すぎます」
 バトラーが口を挟む。
「ミサガという占い師について、耳にしたことがあります。
 旦那様が生前、仕事で意見を伺っていたものの一人だと。旦那様は風水などを少しは気にされておられましたから」
「話を聞きに行ってみましょう」
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