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65・協力者

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 ……続き。


 私は、電話の声の主がイガラシだとわかった瞬間、スマホを地面に叩きつけ、足で踏み潰した。
 GPS機能で場所を特定されることを恐れたのだ。
 メイドが驚いて尋ねる。
「どうされました?」
「まずい。彼女たちがやつらに捕まった。逃げるぞ」
「捕まったって、お嬢さまたちがですか。それに、逃げる? お嬢さまが捕まったのなら、助けに行かなければ」
「彼女たちの場所がわからない。敵が何人なのかも。今は逃げるのが先決だ」
 私は急いで荷物をまとめ、ホテルをチェックアウトした。
 そして 夜の街路をミニクーパーで行く当てもなく走る。
「彼女たちを助ける策を考えなくてはならないが、このままでは自分たちもやられる。
 なにか方法は無いか?」
 メイドがしばらく考えて、
「助けてくれる人を知っています。その人のところへ行きましょう」


 メイドが伝えた住所のところへ行くと、一人の六十代の男が迎えてくれた。
「よお、久し振りだな」
 歳は取っているが、なかなかのハンサムで、若い頃はさぞかし モテたことだろうと思わせる。
 彼は、ブラインド レディの仲間たちからは、プレイボーイと呼ばれているそうだ。
 そのあだ名だけで、普段どんな生活をしているのか想像できる。
 私は思わず苦笑する。
 彼の家の中には、様々な器具であふれかえっていた。
「これらは一体 何だ?」
「対能力者用の兵器の数々だ。俺が造った。
 例えばこれ。このトランシーバーを改造した装置は、異能力を打ち消す効果がある。異能力への妨害波を出すんだ。と いっても 一時的なものだがな。それでも能力者との戦いで役に立つ。
 お嬢さまを助けるときに 必要になるだろう。持っていくと良い」
 私は他の物を手にする。
「これも能力者と戦う兵器なのか?」
「おい、それに触るな。それは普通の人間にとっても危険だ」
 私は手を引っ込めた。
 ふと見ると、壁に猟銃がかけてあった。
「それも能力者用なのか?」
「それは普通の猟銃。趣味で自然の動物を狩っている。能力者狩りだけじゃないってことだ。
 あと美しい女性も狩っているぜ。
 俺のあだ名は伊達じゃない。能力者も大自然の生き物も、そして美しい女性たちも、みんな俺の獲物さ」


「まあ、雑談はこれくらいにして、本題に入ろう」
 プレイボーイは改まった。
「いいか、能力者が起こす事件は、今までは月に一件から三件程度だった。
 だが、今年に入ってからは 十件 以上 起きている。いきなり発生頻度が上がった。
 そして、その中心がお嬢さま。嵐の中心というわけだ。
 笑い男の企みがなんなのか、それは まだ 突き止めることはできていないが、笑い男 本人は お嬢さまを殺すつもりはない。
 お嬢さまは無事のはずだ。少なくとも 命だけは。助けるチャンスはある」
「だが、場所がわからない。場所を特定する方法はないのか?」
「だいぶ 以前、執事のヤツが俺のところに来て、ちょっとした 頼み事をしてきた。
 自分の体に、発信器のような物を埋め込んで欲しいとさ。万が一の時、自分の居場所を特定できるように。
 そこで俺は、フェイスハンドと協力して、マイクロチップをあいつの体内に埋め込んだ。
 体内電気で作動する物で、死なない限り動き続ける。だが、探知範囲はかなり弱くて、三キロ以内に入らないと探知できないのが弱点でな。
 ある程度 場所を絞り込むことさえできれば、見付けられるんだが」


 そこに、犬の吼える声が聞こえてきた。
 私は呟く。
「来たな」
 プレイボーイは壁に飾ってあった猟銃を手にする。
「お前たちも 渡した武器を使え」
 我々は玄関で待ち構えていると、玄関のドアが勢い良く開いた。
 そこに立っていたのは、もちろん イガラシ。
「こんなところに隠れてたんだ。でも すぐにばれたけどね」
「お嬢さまに何をしたの!?」
 メイドが改造トランシーバーを使おうとして、しかし その前に、念力で壁に縫い付けられて動きを封じられた。
「ぐぐぅ……」
 メイドは苦しそうな呻き声を上げる。
 そして イガラシは、私とプレイボーイに眼を向けた。
「まったく、笑い男がご執心のお嬢さまだから、どれだけのものかと思っていたけど、まさか あんな単純な手で誤魔化そうとするなんて。
 偽物の銃とすり替える。そして本物はお前たちが持っていると。
 笑い男じゃなくでも 笑えるね」
 少しずつ近づいてくるイガラシ。
「それで、次はどんな手を使うつもりなんだ? お姉さんを助けるために、どんな方法を考えていたんだ?」
 私は答える。
「お前を待っていた。待ち伏せをしていたんだ」
「なに?」
 その時、部屋に取り付けられた電気ショック装置を、プレイボーイが作動させた。
 放電が発生し、高電圧の電気ショックが、イガラシを打ち据える。
「アギャギャギャギャ!!」


 イガラシは気絶した。


 気絶したイガラシを椅子に縛りつけ、異能力を封じる装置を使用して、異能力を使えなくした。
 プレイボーイはイガラシの頬を軽く三回叩く。
「おい、起きろ」
「うう……」
 イガラシは目を覚ます。
 とたんに メイドがイガラシの胸倉を掴み、問い詰める。
「お嬢さまは どこなの!?」
 イガラシは薄ら笑いを浮かべて とぼけた。
「さあね、今頃 仲間が殺したんじゃないか」
「このっ!」
 メイドが殴りつけようとしたのを、プレイボーイが止めた。
「おい、落ち着け。拷問は効果がない。今 気づいたことがあった。ちょっと、こっちへ」
 プレイボーイはメイドと私を部屋の隅に呼ぶと、小声で話す。
「どうやら あの体は本体じゃない。確か人形使いパペットマスターとかいう能力者がいただろう。そいつの異能力を使っているんだ。
 やつは あの体に取り憑いているだけだ」
「じゃあ、あの体の持ち主は?」
 私が問うと、プレイボーイは肯定する。
「なんの罪もない一般人の青年だ。傷つけるわけにはいかない」
 同時に私は気づいた。
「ならば、その異能力を解除できれば、元々の青年が知っているのではないか?」
「その可能性は高いな。その方法は一応ある。準備が必要だが」
「わかった、すぐに取りかかろう」


 我々は、異能力解除のための準備を始めた。
 それを見ていたイガラシは、なにかを察したのか、明らかに焦りを見せ始めた。
「何をしてもムダだ。お姉さんは死んだ。執事も俺が殺した。もう手遅れだ。南部ゼロ式さえ渡してくれれば、お前たちには何もしないと約束してやる」
 メイドは断言する。
「嘘を吐いています。お嬢さまたちは死んでいません。それに、私たちを見逃すつもりもない」
 準備は整った。
 イガラシの体に電極のような物を取り付け、後は装置のスイッチを押すだけ。
 イガラシは、うわべの取り繕った余裕を捨て去り、命乞いをし始めた。
「待て、待ってくれ。今 異能力を解除したら、俺は死んでしまう。俺は事故で植物人間だったんだ。他人に取り憑いてでしか動けない。今 無理やり解除されたらショック死する」
 私はその命乞いに、冷淡に答えた。
「自業自得だ」
 私はスイッチを入れた。
 バチバチと電気が流れる音がして、イガラシは動かなくなった。


 しばらくして、青年が目を覚ました。
「ありが、とう……やっと、元に……戻れ……た……」
「やった。拘束を外すぞ」
 拘束具を外し、青年を毛布で包んで、ベッドに運んだ。
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