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66・アパート

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「み……水……」
 青年の求めに、メイドがキッチンへ走って、ミネラルウォーターを取ってきた。
 青年は一口飲むと咳き込む。
「ゴホッ……ゴホッ……」
「慌てないで。ゆっくり」
 青年は落ち着いてきた。
「酷いものだった。意識はあった。でも、自由に体を動かせなかった。意識はあるのに、自分の体が思いどおりにならないのが、こんなにも地獄だったなんて」
 プレイボーイが容体を診ている。
「酷いな。肉体の限界を超えて酷使されている。すぐにフェイスハンドを呼ばないと」


 青年は我々に伝える。
「サンリバーハイツ。そこに、あなたたちが探している 二人を連れて行った。千葉にあるアパートだ。
 でも、あのイガラシという男は、いずれ伝えるつもりだった。わざと教えて、あなたたちを誘き出すつもりだったんだ。
 これは 罠なんだ」
 私は一度 メイドに目をやると、青年に伝える。
「それでも 助けに行く」
「気をつけて……」


 プレイボーイは請け負う。
「この青年のことは俺に任せろ。とにかく、おまえさんたちは お嬢さまを助けるための準備に取りかかってくれ」
 我々はそうすることにした。


 街に向かう前に、戦いの準備をする。
 プレイボーイからもらった対異能力の機器にテーザーガンなど。
「これはどうする?」
 私は南部ゼロ式を手にメイドに聞く。
「一応 持っていったほうがいいと思います」
「そうだな。念の為に持っていこう。だが、弾は後 三発しか残っていない。使わずにすめば良いが」


 我々は千葉のサンリバーハイツの付近に到着した。
「受信機がマイクロチップを感知した。どうやら 青年の情報に間違いはなかったようだな」
「でも、見てください。アパートには 人が住んでいるようです」
 アパートの住人がゴミ出しをしている姿があった。
「やはり罠か。私たちは向こうの顔を知らない。普通の人間に紛れてしまえば、区別がつかなくなる。
 だが、向こうは こちらの顔を知っている。中に入るだけで危険だ」
 メイドは ふと何かを思いついたようだった。
「そうだ。火災警報器を鳴らしましょう。火事が起きたと騒げば、住民は避難します」
「良い考えだ」
 我々はさっそく実行することにした。
 アパートの入り口付近にあった火災警報器のボタンを押す。
 けたたましく警報が鳴りはじめ、住民はなにごとかと部屋から出て、避難を始めた。
 五分後、消防車と救急車が到着した。
 私たちは、申し訳ないと思いながらも、二人の消防隊員を気絶させ、消防服を奪った。
 それに着替え、私たちはアパートの中に侵入する。
「子どもの頃、消防隊員に憧れていた」
「夢が叶いましたね」
「あまり嬉しくない」
 探知器が、執事のマイクロチップの正確な位置を表示した。
 この部屋だ。
 私たちはアイコンタクトすると、チャイムを鳴らす。
「どうされました?」
 中から返事がきた。
「消防です。火事が発生しました。至急避難してください」
 ドアの鍵が外れる音がした。
 我々は その機を逃さず 中に押し入った。
 二人の男女がいた。
 二人は両手を翳して何かの力場を発生させている。
 だが、メイドが異能力を無効化する機器を使用し、その力場を消去する。
「なんだ!?」
「力が消えたの!?」
 動揺する二人に、私はテーザーガンを撃った。
 数万ボルトの電圧で、二人は気絶する。
「よし、彼女たちを探そう」
 我々は奥の部屋に入ると、そこにはガムテープで拘束され、床に転がされた、ブラインド レディと執事の姿があった。
 二人とも気を失っているようだ。
「お嬢さま、しっかりなさってください」
 メイドがガムテープを剥がそうとするのを、私は止めた。
「待て、すぐに外すな。危険だ」
「危険? なにがですか?」
「能力者が取り憑いている可能性がある。イガラシの時と同じだ。確認してからでないと」
 私は異能力を無効化する機器を二人に使用した。
 イガラシの時のような専門の機器ではないが、なにかの反応はするはず。
 だが 反応はない。
「よし、大丈夫だ。能力者は中に入っていない」
 私とメイドは ガムテープを剥がしていった。
 そして 最初に ブラインド レディが目を覚ました。
「貴方たちね。杖がないから、周りがわからないわ」
 メイドが請け負う。
「大丈夫です。わたくしがここにおります」
 ブラインド レディのほうは、怪我はないようだ。
 しかし、執事のほうは、足の骨が折れているようだ。
 命に別状はないだろうが、歩くことができない。
 担いでいくしかないだろう。
「よし。出入り口は、消防と救急隊員、野次馬も集まっている。窓から逃げよう」
 私たちは、力を合わせて、執事を運び、路地裏を進んで行った。


 その時、横から一人の男が私にタックルしてきた。
 物凄い衝撃で、私は壁に叩きつけられる。
 そして その男は、メイドの首を羽交い締めにした。
「動くな、お嬢さま。それに三流記者もだ。動けばこいつの首をへし折る。もっとも動かなくても こいつは殺すがな」
 男は腕に力を込め始めた。
「ぐぐ……」
 苦しそうな呻き声を上げるメイド。
 私は決意した。
 仕方ない。
 私は南部ゼロ式を向け発砲した。
 男の額に命中する。
「てめぇ、残り少ない弾を躊躇わずに……」
 頭部に小さな放電を起こし、男は死亡した。
 解放されたメイドは、咳き込む。
「ゴホッ、ゴホッ。あ、ありがとうございます」
「礼は後だ。早く立ち去ろう」
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