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22 本当の心
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「ライナー卿こちらだ! ここから地上に出られるぞ!」
オーティスとライナーは二人でそれぞれウィノラとエデルを抱えながら必死に足を動かした。二人共動いていないという事には触れないようにして。
薄暗い階段を駆け上がり、光が指す場所に出た時、外には煙が充満していた。辿り着いた場所は王宮の端にある塔の中で、そこはライナーの良く知る場所だった。
「ウィノラ! しっかりしろ、ウィノラ!」
「エデル、目を冷ましてくれ」
ミモザの木の下に寝かされた二人の顔面は蒼白て、ライナーとオーティスは言葉を失っていた。ウィノラが生きていると分かるのは、エデルを包む光が消えていないからだった。
「この光は?」
「ウィノラのフェッチだ。きっとエデルを守ろうとしているんだ。でもウィノラは……」
ウィノラの周囲には光がない。それが何を意味しているのか、言葉にしなくても分かる。ライナーはウィノラの身体が冷たくなっていくのよりも早く自分の心臓が止まってしまいそうだった。霞む視界を擦りながらウィノラの首にそっと触れ、そして力の入っていない身体を抱き締めた。
「ウィノラ、頼むから生きてくれ! 頼むから……」
首筋にくすぐったさを感じ、不意に強く抱き締めていた身体を少しだけ離した時だった。ウィノラの睫毛が揺れ、薄く開かれた瞳にライナーはオーティスと目を合わせた。
「ウィノラ! 良かった! 動かなくていいからもう大丈夫だ!」
「エデル?!」
声が聞こえてとっさに見た方向には、薄く目を開いたエデルが映っていた。
「私達なんで……」
ウィノラはゆっくり起き上がりながら恐る恐る喉を触ると、服は濡れているが剣で斬られた傷は跡形もなくなっていた。それはエデルも一緒で、首筋に切り傷は見当たらなかった。
「私達てっきり……」
口に出そうとした瞬間、切っ先で斬られた感覚が蘇りゾッとしてしまう。しかしそんな感覚も忘れる程にライナーが強く抱き締めてきた。
「思い出さなくていい。今はもう何も思い出すな」
「ウィノラ平気か? エデルの傷を治してくれたんだろう?」
オーティスがエデルを抱きながら心配そうな視線を向けてくるが、軽い目眩がするくらいで特に不調はないように思えた。
「私は大丈夫です。でもそれじゃあ私の事は誰が治してくれたの?」
「自分でやったんじゃないのか?」
「無理です。フェッチはエデルのそばにいたし、そんな余裕なんてなかったのに」
「俺はただウィノラを抱き締めていただけだしな」
その瞬間、しばらくの沈黙が流れた。
「……もしや、ライナー卿はウィノラから“祝福”を受けたからじゃないだろうか」
「祝福? なんの事だ?」
「魔女には“真の統治者”が現れ世界を救うという言い伝えが残っているんです。きっとその待ち望まれていた統治者とはきっとライナー様の事ですよ」
「俺が?!」
「すみません、私が無意識にライナー様を選んでしまったようです。エデルの意識はフェッチで繋がっていましたし、きっと二人から祝福された事になってしまったのかもしれません」
「さっぱり意味は分からない」
すぐ近くで何かが崩れる音がする。そして風に乗り焦げた臭いもしていた。
「行って。あなたなら止められる」
「エデル? 話して大丈夫なのか?!」
「フェッチがそう言っています。魔女達はあなたを待ち望んでいる。あなただけがこの争いを止められると」
エデルの側にあった薄金色の光が除々に小さくなっていく。そういうとエデルはくったりと倒れ、眠りに落ちてしまったようだった。
「ライナー様どうか魔女達の進行を止めて下さい!」
「でも君達をここに残す訳には……」
「私がそばにいます。それにもう二人は大丈夫ですよ」
青白い顔をしているがウィノラは自分で半身を支えていたし、エデルは眠ってしまっていたがそれでも規則的な寝息になっていた。ライナーはそれを見てその場を走り出し、ふと足を止めた。
「ウィノラ、もしかして君は第四皇女なのか? もしそうなら……そうでなくても戻ったら話したい事があるんだ」
頷いてしまえば全てが変わる。それでも真っ直ぐな薄金色の瞳に嘘を付く事は出来なかった。頷くとライナーは少しだけ寂しそうな顔をして走って行った。
ウィノラの元に小さくなった薄金色の光が近づいてくる。そして周囲をフワフワと飛ぶと、やがて空に消えていった。
「ウィノラ、もしかして力が……」
ウィノラは涙で滲む目を擦りながら、空に向かって手を伸ばした。
「ありがとうレン。ありがとうね」
「ガリオン、これは何事なの!」
王の間には皇妃と側妃、そして後宮の者達が一同に集められていた。外で鳴り響いていた地鳴りは途絶え、先程とは打って変わって静けさに満ちている。荒い息のまま、ガリオンは血の付いた剣を仕舞わずに王の間の中心に入るとその入口を兵達が固めた。
「ウィリアム! 連れて来い」
入り口から入って来たのはエミル王国の王妃セリアだった。手を後ろに縛られたセリアは特に表情を変える事なくガリオンの元に連れて行かれると、皇妃の前に差し出された。
「こんな事をしてただで済むと思っているの? 一国の王妃にする仕打ちじゃないわよ! 娘を今すぐに解放なさい!」
「この者は大国を裏切った敵国の王妃だ。まだ首が繋がっているだけでも感謝してほしいくらいだな。だが、場合によっては助けてやってもいい」
「何が目的なの」
「第三皇女ローデリカの殺害を認めるか?」
すると皇妃は驚いたようにガリオンを睨み付けた。
「そんな事する訳ないじゃない」
「では、直接手を下さなくても指示をしていたと認めるか?」
「ありえないわ。言いがかりは止めて頂戴」
「それなら今ここでこいつの首を切り落とすまでだな。あんたの娘だ、あんたに返してやるからよくそこで見ておけ!」
「そんな勝手が許される訳ないじゃない! なんの為の帝国法か分かっている? 勝手に他国の王族を裁く事は出来ないのよ!」
「母上、陛下はお亡くなりになられました」
兵士の中からフックス公爵と共に現れたリーヴィスは、兵士と共に血塗れの遺体を抱えていた。
「損傷が激しいのでお手は触れないで下さい」
リーヴィスはそっと床に亡骸を置くとあちこちで悲鳴が上がり、皇妃は青褪めた顔で固まっていた。
「今はフックス公爵が皇帝の名代を務める事となった。しかし皇妃の罪状は今ここで明らかにしたい」
「フックス公爵! ガリオンが私にありもしない罪を着せようとしているのよ。なんとかして頂戴!」
その時、皇妃の肩を第一側妃が思い切り引いた。
「何をするの! その手を離しなさい!」
しかし第一側妃の手は弱まる事はなく、むしろ強く食い込んだ。
「ガリオン殿下が話した事は本当なの? あなたがローデリカを殺したの?」
「だったら証拠を出しなさい!」
「証拠はミモザの花です、皇妃様」
ガリオンの側に立っていたウィリアムは、ぽつりと話し始めた。
「ローデリカ様が殺された日、ローデリカ様はミモザの花の香りを纏っていました。そして捕らえた暗殺者は、闇に紛れても分かるようにミモザの香りをする者を殺せと依頼されていたと、口を割りました。当時はそれだけでは犯人に辿り着きませんでした。暗殺者達はすぐに自害してしまいましたから。でもこの者の証言により犯人が絞れたのです」
「だからどうして私が犯人になるのよ!」
「ローデリカ様がミモザの木が生えている塔へ行くように誘導しましたね?」
「それも残念ながら証拠がないわね」
「証拠ならあります。あの日、ローデリカ様と共に塔へ向かったのは私だからです。ローデリカ様ご本人から聞き及んでおります。その後ローデリカ様は塔の下でミモザの香りを纏い、暗殺者達に殺されました」
「全て証拠のない陰謀だわ! 今すぐにセリアを離しなさい!」
「確かにここに提示出来る明確な証拠はございません。ですが、あの日私が見た物は全て真実です」
ガリオンはウィリアムの肩に触れるとフックス公爵を見た。フックス公爵の頷きと共にガリオンの手が上がった。
「皇妃とセリア王妃を捕らえよ! 皇妃には皇族暗殺の疑い、そしてエミル王国セリア王妃には帝国とエミル王国に戦争を招くに至った幾つもの罪状の疑いがある!」
「魔女こそがこの世界の神なの! 隠す事は罪だわ! 真実を公表しなさい! 魔女は世界の統治者なのよ!」
騒ぎ立てながら連行されていく姿を見送りながら、第三側妃のリナはフックス公爵の元に近づいていった。
「私も捕らえてください、公爵様」
「何故です?」
「私は子らを捨てました。娘の事は二度も……。一度目は産まれた時に捨て、二度目は殺されるかもと分かっていながら二人の子を差し出しました」
「それは帝国が裁く罪ではなく、エデル殿下と……第四皇女様に謝罪をしてはいかがですか」
ぱっと上げたリナの目には涙が溢れていた。そして首を振り被った。
「合わせる顔がありません」
「謝罪する前に逃げてはなりません。最も、それに関しては私も偉そうな事は言えませんがね」
「フックス公爵にこの場は任せた。市街に行くぞ、ウィリアム」
ガリオンは大股で王の間を出ていく。ウィリアムはちらりとリナを見てから後を追った。
「皇帝陛下のご入場!」
崩れたのは王宮の一部で、特に老朽の酷かった古い建物が崩壊した。帝都の建物も派手壊れた部分もあり、復旧には時間がかかりそうだったが、その代わり新しい皇帝の誕生に人々に大きな安堵をもたらす結果となった。
前皇帝陛下の死因は建物崩壊による事故死とされた。
「ガリオン皇帝陛下万歳! ガリオン様! 皇帝陛下!」
エントランスに姿を現した新皇帝に激しい祝福の声が上がる。瓦礫と新しい建物が融合する帝都の不思議な光景を見下ろしながら、ガリオンは大きな手を振り上げた。大歓声の中、後ろにはフックス公爵が立っていた。
「隠居させると思ったか?」
大観衆の声援の中、ガリオンは意地悪そうにちらりと後ろを見た。
「お前の息子も姿を消しちまったし、一人だけ楽になる事は許さない」
「そんな事は致しません。その時が来るまで僭越ながら陛下をお支え致します」
「ライナーを一刻も早く見つけ出せ。此度の活躍は評価してやってもいい。だが! 全ては戻って来てからだ」
「ありがたきお言葉にございます。我が私兵団も不肖の息子の行方を追っておりますが、なにゆえ共の一人も付けずに消えてしまった為、もうしばらくの猶予を頂きたく存じます」
フックス公爵は頭を下げると、止む事のない大歓声が上がるバルコニーから離れて行った。
オーティスとライナーは二人でそれぞれウィノラとエデルを抱えながら必死に足を動かした。二人共動いていないという事には触れないようにして。
薄暗い階段を駆け上がり、光が指す場所に出た時、外には煙が充満していた。辿り着いた場所は王宮の端にある塔の中で、そこはライナーの良く知る場所だった。
「ウィノラ! しっかりしろ、ウィノラ!」
「エデル、目を冷ましてくれ」
ミモザの木の下に寝かされた二人の顔面は蒼白て、ライナーとオーティスは言葉を失っていた。ウィノラが生きていると分かるのは、エデルを包む光が消えていないからだった。
「この光は?」
「ウィノラのフェッチだ。きっとエデルを守ろうとしているんだ。でもウィノラは……」
ウィノラの周囲には光がない。それが何を意味しているのか、言葉にしなくても分かる。ライナーはウィノラの身体が冷たくなっていくのよりも早く自分の心臓が止まってしまいそうだった。霞む視界を擦りながらウィノラの首にそっと触れ、そして力の入っていない身体を抱き締めた。
「ウィノラ、頼むから生きてくれ! 頼むから……」
首筋にくすぐったさを感じ、不意に強く抱き締めていた身体を少しだけ離した時だった。ウィノラの睫毛が揺れ、薄く開かれた瞳にライナーはオーティスと目を合わせた。
「ウィノラ! 良かった! 動かなくていいからもう大丈夫だ!」
「エデル?!」
声が聞こえてとっさに見た方向には、薄く目を開いたエデルが映っていた。
「私達なんで……」
ウィノラはゆっくり起き上がりながら恐る恐る喉を触ると、服は濡れているが剣で斬られた傷は跡形もなくなっていた。それはエデルも一緒で、首筋に切り傷は見当たらなかった。
「私達てっきり……」
口に出そうとした瞬間、切っ先で斬られた感覚が蘇りゾッとしてしまう。しかしそんな感覚も忘れる程にライナーが強く抱き締めてきた。
「思い出さなくていい。今はもう何も思い出すな」
「ウィノラ平気か? エデルの傷を治してくれたんだろう?」
オーティスがエデルを抱きながら心配そうな視線を向けてくるが、軽い目眩がするくらいで特に不調はないように思えた。
「私は大丈夫です。でもそれじゃあ私の事は誰が治してくれたの?」
「自分でやったんじゃないのか?」
「無理です。フェッチはエデルのそばにいたし、そんな余裕なんてなかったのに」
「俺はただウィノラを抱き締めていただけだしな」
その瞬間、しばらくの沈黙が流れた。
「……もしや、ライナー卿はウィノラから“祝福”を受けたからじゃないだろうか」
「祝福? なんの事だ?」
「魔女には“真の統治者”が現れ世界を救うという言い伝えが残っているんです。きっとその待ち望まれていた統治者とはきっとライナー様の事ですよ」
「俺が?!」
「すみません、私が無意識にライナー様を選んでしまったようです。エデルの意識はフェッチで繋がっていましたし、きっと二人から祝福された事になってしまったのかもしれません」
「さっぱり意味は分からない」
すぐ近くで何かが崩れる音がする。そして風に乗り焦げた臭いもしていた。
「行って。あなたなら止められる」
「エデル? 話して大丈夫なのか?!」
「フェッチがそう言っています。魔女達はあなたを待ち望んでいる。あなただけがこの争いを止められると」
エデルの側にあった薄金色の光が除々に小さくなっていく。そういうとエデルはくったりと倒れ、眠りに落ちてしまったようだった。
「ライナー様どうか魔女達の進行を止めて下さい!」
「でも君達をここに残す訳には……」
「私がそばにいます。それにもう二人は大丈夫ですよ」
青白い顔をしているがウィノラは自分で半身を支えていたし、エデルは眠ってしまっていたがそれでも規則的な寝息になっていた。ライナーはそれを見てその場を走り出し、ふと足を止めた。
「ウィノラ、もしかして君は第四皇女なのか? もしそうなら……そうでなくても戻ったら話したい事があるんだ」
頷いてしまえば全てが変わる。それでも真っ直ぐな薄金色の瞳に嘘を付く事は出来なかった。頷くとライナーは少しだけ寂しそうな顔をして走って行った。
ウィノラの元に小さくなった薄金色の光が近づいてくる。そして周囲をフワフワと飛ぶと、やがて空に消えていった。
「ウィノラ、もしかして力が……」
ウィノラは涙で滲む目を擦りながら、空に向かって手を伸ばした。
「ありがとうレン。ありがとうね」
「ガリオン、これは何事なの!」
王の間には皇妃と側妃、そして後宮の者達が一同に集められていた。外で鳴り響いていた地鳴りは途絶え、先程とは打って変わって静けさに満ちている。荒い息のまま、ガリオンは血の付いた剣を仕舞わずに王の間の中心に入るとその入口を兵達が固めた。
「ウィリアム! 連れて来い」
入り口から入って来たのはエミル王国の王妃セリアだった。手を後ろに縛られたセリアは特に表情を変える事なくガリオンの元に連れて行かれると、皇妃の前に差し出された。
「こんな事をしてただで済むと思っているの? 一国の王妃にする仕打ちじゃないわよ! 娘を今すぐに解放なさい!」
「この者は大国を裏切った敵国の王妃だ。まだ首が繋がっているだけでも感謝してほしいくらいだな。だが、場合によっては助けてやってもいい」
「何が目的なの」
「第三皇女ローデリカの殺害を認めるか?」
すると皇妃は驚いたようにガリオンを睨み付けた。
「そんな事する訳ないじゃない」
「では、直接手を下さなくても指示をしていたと認めるか?」
「ありえないわ。言いがかりは止めて頂戴」
「それなら今ここでこいつの首を切り落とすまでだな。あんたの娘だ、あんたに返してやるからよくそこで見ておけ!」
「そんな勝手が許される訳ないじゃない! なんの為の帝国法か分かっている? 勝手に他国の王族を裁く事は出来ないのよ!」
「母上、陛下はお亡くなりになられました」
兵士の中からフックス公爵と共に現れたリーヴィスは、兵士と共に血塗れの遺体を抱えていた。
「損傷が激しいのでお手は触れないで下さい」
リーヴィスはそっと床に亡骸を置くとあちこちで悲鳴が上がり、皇妃は青褪めた顔で固まっていた。
「今はフックス公爵が皇帝の名代を務める事となった。しかし皇妃の罪状は今ここで明らかにしたい」
「フックス公爵! ガリオンが私にありもしない罪を着せようとしているのよ。なんとかして頂戴!」
その時、皇妃の肩を第一側妃が思い切り引いた。
「何をするの! その手を離しなさい!」
しかし第一側妃の手は弱まる事はなく、むしろ強く食い込んだ。
「ガリオン殿下が話した事は本当なの? あなたがローデリカを殺したの?」
「だったら証拠を出しなさい!」
「証拠はミモザの花です、皇妃様」
ガリオンの側に立っていたウィリアムは、ぽつりと話し始めた。
「ローデリカ様が殺された日、ローデリカ様はミモザの花の香りを纏っていました。そして捕らえた暗殺者は、闇に紛れても分かるようにミモザの香りをする者を殺せと依頼されていたと、口を割りました。当時はそれだけでは犯人に辿り着きませんでした。暗殺者達はすぐに自害してしまいましたから。でもこの者の証言により犯人が絞れたのです」
「だからどうして私が犯人になるのよ!」
「ローデリカ様がミモザの木が生えている塔へ行くように誘導しましたね?」
「それも残念ながら証拠がないわね」
「証拠ならあります。あの日、ローデリカ様と共に塔へ向かったのは私だからです。ローデリカ様ご本人から聞き及んでおります。その後ローデリカ様は塔の下でミモザの香りを纏い、暗殺者達に殺されました」
「全て証拠のない陰謀だわ! 今すぐにセリアを離しなさい!」
「確かにここに提示出来る明確な証拠はございません。ですが、あの日私が見た物は全て真実です」
ガリオンはウィリアムの肩に触れるとフックス公爵を見た。フックス公爵の頷きと共にガリオンの手が上がった。
「皇妃とセリア王妃を捕らえよ! 皇妃には皇族暗殺の疑い、そしてエミル王国セリア王妃には帝国とエミル王国に戦争を招くに至った幾つもの罪状の疑いがある!」
「魔女こそがこの世界の神なの! 隠す事は罪だわ! 真実を公表しなさい! 魔女は世界の統治者なのよ!」
騒ぎ立てながら連行されていく姿を見送りながら、第三側妃のリナはフックス公爵の元に近づいていった。
「私も捕らえてください、公爵様」
「何故です?」
「私は子らを捨てました。娘の事は二度も……。一度目は産まれた時に捨て、二度目は殺されるかもと分かっていながら二人の子を差し出しました」
「それは帝国が裁く罪ではなく、エデル殿下と……第四皇女様に謝罪をしてはいかがですか」
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「合わせる顔がありません」
「謝罪する前に逃げてはなりません。最も、それに関しては私も偉そうな事は言えませんがね」
「フックス公爵にこの場は任せた。市街に行くぞ、ウィリアム」
ガリオンは大股で王の間を出ていく。ウィリアムはちらりとリナを見てから後を追った。
「皇帝陛下のご入場!」
崩れたのは王宮の一部で、特に老朽の酷かった古い建物が崩壊した。帝都の建物も派手壊れた部分もあり、復旧には時間がかかりそうだったが、その代わり新しい皇帝の誕生に人々に大きな安堵をもたらす結果となった。
前皇帝陛下の死因は建物崩壊による事故死とされた。
「ガリオン皇帝陛下万歳! ガリオン様! 皇帝陛下!」
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「隠居させると思ったか?」
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「お前の息子も姿を消しちまったし、一人だけ楽になる事は許さない」
「そんな事は致しません。その時が来るまで僭越ながら陛下をお支え致します」
「ライナーを一刻も早く見つけ出せ。此度の活躍は評価してやってもいい。だが! 全ては戻って来てからだ」
「ありがたきお言葉にございます。我が私兵団も不肖の息子の行方を追っておりますが、なにゆえ共の一人も付けずに消えてしまった為、もうしばらくの猶予を頂きたく存じます」
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